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チルノ(レス)1 ─────────────────────────────────────────────────────────── 95 :名前が無い程度の能力:2008/03 /24(月) 00 23 06 ID k0xVGO7s0 風呂上がりに腰に手を当ててコーヒー牛乳を一気飲みする妹紅 少し頬に赤みがさした顔でイチゴ牛乳を飲む幽々子さま 紙パックの飲むヨーグルトをちゅーちゅー飲む諏訪子さま 96 :名前が無い程度の能力:2008/03 /24(月) 00 51 12 ID kkFj0tbY0 その隣でラムネを一気飲みしてげっほっごっほしてるチルノ 97 :名前が無い程度の能力:2008/03 /24(月) 01 38 47 ID uykUU8tA0 ビー玉を取ろうとして瓶に指を突っ込んだら、指が嵌って抜けなくなるチルノ。 98 :名前が無い程度の能力:2008/03 /24(月) 01 55 41 ID fLjILT1o0 そのまま着替えもまだなのに「○○~、とってぇ……」と半泣きでやって来るチルノ 14スレ目 95-98 ─────────────────────────────────────────────────────────── 今日はエイプリルフール ○○なんてきらいだー!って言ってきたけど 俺はチルノのこと好きだよと返されて えっ○○はあたいのこと好き?あれでも今日は嘘ついてもいい日だし、あれ?あれ? って混乱してしまいには泣き出してしまうチルノというネタが チルノかわいいよチルノ 14スレ目 299 ─────────────────────────────────────────────────────────── チルノにオプションみたいに付きまとわれて生活したい。 これから暑くなるし、涼しい思いができそうだ。 冬になったらもっとぴったりくっつけば逆にあったかいしな。 ……チルノあったかいよな? 15スレ目 391 ─────────────────────────────────────────────────────────── 大ちゃんあたりに 「たまには背伸びして、大人のアプローチをしてみたらどうかな?」 って言われて、ストレートに受け取った結果爪先立ちで背伸びしてついてくるチルノと、 倒れそうになるところで手を繋いで支えてやる○○ というのを妄想した。 15スレ目 853 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「ねぇー○○、けっこんてどういういみ?」 「知らないのか?」 「ねぇーってば。どういういみー?」 「むぅ、俺にもよくわからんが好きな人同士が愛を誓い合うことじゃないか?」 「それじゃ、あたいと○○はけっこんできるってことね!」 「ちょ、ちょっと待てチルノ。思考が短絡的すぎr」 「さっそく大ちゃんのところにおしえにいこーっと!」 「ま、待てー!早まるなチルノー!」 15スレ目 860 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「うわぁっ!何だこれ!」 何だも何もチルノの凍らせた蛙だよな…なんだってこんな所にこんな量が…。 「あっおはよー!これぜんぶあたいがやったんだよ!」 現在進行中か…てか、言わずとも分かるってーの。 「えーとだな…何でウチの玄関先が蛙祭りになってんだ?」 「氷のしゅぎょーの成果を見せてやろうとおもったのよ! どう?さいきょーでしょ!」 「わかった、最強だからもとの所に帰してあげなさい。」 ここで溶けるなんてもってのほかだしな。 「え……その…きれいじゃなかった?」 うぐぅ 「綺麗だとも。ただし日本人には趣ってものがあってだな… 今度寺子屋の先生に聞きなさい。」 「よろこぶとおもったんだけど…めいわくだったかな…」 「ばか。その気持ちだけでうれしいよ。 おまえが側にいてくれたらもっとうれしい。」 「ばっ!ばか!ばーかば-か!ばかって言った方がばかなんだもん!」 あれ、どこ行くんだ。蛙持ってけよ…やれやれ。 16スレ目 166 ─────────────────────────────────────────────────────────── チルノ「○○、ちょっとこっち来なさいよ(クイクイ」 ○○「な、なんだ?まず用件を言え(ジリジリ」 チルノ「いいから、早く♪」 ○○ 「(あの怪しい笑顔はヤバイ。チルノだけに悪寒が・・!)」 ○○「(ここは逃げるが得策だな・・よし!走るぜ!)」 !! ○○ 「ぐ、動けねえ・足が凍り付いてる・・いつの間に・・!」 チルノ「ふっふーん あたいから逃げようたってそうはいかないもんね」 ○○「何でこんな時だけ頭が働くんだお前はあああああ」 チルノ「さあ、かんねんしてあたいに抱かれなさい!(ジリジリ」 ○○「どうでもいいが言葉考えて言ってくr・・うわあああああ!」 16スレ目 359 ─────────────────────────────────────────────────────────── う~~~~カエルカエル 今 蝦蟇の池を目指して全力疾走している僕は 人里に住むごく一般的な男の子 強いて違うところをあげるとすれば 妖精に興味があるってとこかナ―― 名前は○○ そんなわけでチルノが凍らせた蛙を お堀に帰しに来たのだ ふと見ると 端にチルノが座っていた ウホッ!いいチルノ… ハッ そう思っていると突然その妖精は 僕の見ている目の前で蛙を凍らせ始めたのだ…! 「おーいチルノ。ストップストップ。」 「あ…ぅ。ど、どうしたのよこんな所に。」 「蛙を帰しに来たんだよ。それよりさっきはどうしたんだ? 急に飛んで行っちまってさ。」 チルノの横に座る。涼しさが心地いい。 「しゅ、しゅぎょーだもん。計測は力なりっていうでしょ?」 「言わないぞ…。」 16スレ目 477(16スレ目 166に続けて) ─────────────────────────────────────────────────────────── 「それでね! お店の中で紅白と××が……こう、抱き合ってたのよ!」 「へえ……あの博麗の巫女がねえ」 湖のほとり。 いつものように釣りをしていたら何やら頬を上気させたチルノが飛んできた。 どうも人里を覗きにいったら衝撃的なシーンを目撃したらしい。 身振り手振りをまじえて大興奮でその様子を伝えてくれた。 「……あんな紅白初めて見たー……」 「まあ、霊夢も年頃の女の子だからな。そういう相手がいてもおかしくないさ」 「そういうって、わたしと○○みたいな?」 「…………まあ、そうかな」 なんでこいつはこう物怖じせず恥ずかしい台詞を吐けるんだ。 おてんば恋娘の名は伊達じゃないってことか。 照れくさいのでチルノから水面に視線を移す。どうにも今日はあたりが来ない。 「じゃあ……ん。」 背後でチルノが身じろぎした音。 見なくてもわかる。両手を広げてこっちを向いてるに決まっている。 「………」 「……ん!」 いや、誰かに見られて噂とかされると恥ずかしいし。 釣りの最中だから。あああたりがなかなかこないなあ。 「………」 「………」 「………」 「……うっ、ぐすっ……」 !? え、もしかして泣いてる!? そ、そんなに抱きしめてもらいたかったのか!? 「ち、チルのわぁっ!?」 「ひっかかったーー!!」 振り向いた瞬間飛びつかれた。 やられた。変な知恵つけたなこいつ。 「えへへ、○○~」 抱きついたまま幸せそうに笑うチルノ。 「ああもう、しょうがないな」 「えへへ」 今回は俺の負けらしい。抱きつくチルノを俺からも抱きしめてやる。 竿からはとうにエサは無くなっていた。 「そういえば帰り道に竹林の兎と××がね?」 「ちょwwwwww」 人目につく場所で子供の教育に悪いことするなー!? 16スレ目 481 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「……あー、チルノ君や」 「何、○○。あたいは忙しいんだから」 「何ですかこのタオルの感触は。タオルだけにしてはむちゃくちゃ重いんですが……」 「だいじょーぶだいじょーぶ。気のせいじゃないけどたぶん気のせいだから」 「だったら何でお前の声が俺の頭の上から(シュゥッ)っちゃぁ~っ!?」 「あ、ダメだよ○○。今あたいに触ったら凍傷どころか一瞬で壊死起こすから」 「な、何やってるんだお前は!?」 「何って……○○の上で氷枕ごっこ」 「……頭の上に載せるのは氷嚢だ」 「あ、そ、それよ。氷嚢ごっこ。……あたい、加減知らないからさ。下手に抱きついて冷やしたら○○、凍死するでしょ。だから……」 「……チルノ……とりあえずこれだけは言わせてくれ。息苦しいぞ馬鹿野郎」 「馬鹿っていうな。……じゃあどうやって○○の頭を冷やせば……」 「そんなもん決まってるだろ。……膝枕だ。それだったら氷枕になるだろが」 「あ。そっか……」 ※自分的チルノは子供サイズです。 16スレ目 586 ─────────────────────────────────────────────────────────── 大幅にカットした前半のあらすじ 「俺」はチルノにいつもどおり連れ回されていた。 暑い中を頑張って歩いて山の中(下?)の地底湖っぽい所にやって来たよ。 探検して疲れたよ。 あらすじ終了 前半のラストから ~ そんな彼女が黙っているのだ。日光の声すら聴こえてきそうである。 苔むした背の岩に体をあずけ、チルノの頭を肩で受け止めた。 空いた手で撫でてやると幸せそうに微笑んだ。 生意気の欠片もないその笑顔に少しだけ戸惑った。 ~ こんな二人がこんな所でこんなことをしていれば、こんなことになるのも、まあ当然と言えば当然である。 もしも千里の瞳を持っていれば、人と妖精が重なるのを見ることができたかもしれない。 チルノはその小さな体躯を懸命に伸ばして俺の顔に両手を添えた。 華奢な二本の腕を皮切りに俺は行動を始める。 一歩を踏み出し、手に力を込めて。段々と彼女の体にも力が入ってくるのが感じられる。何だかくすぐったかった。 チルノもチルノなりに誘導をしている。 俺もそれに応えて――ただしゆっくりと、焦らずに――進んでいった……。 ~ 「なあ……まだかな」 「ん……まだ……少し……」 チルノの体は依然として緊張が支配している。 声も若干震えているようだった。 「あ……もう……」 明らかなゴーサイン。 俺は待ってましたとばかりに、それを、叩きつけた。 ああ――。 その一点から割れてゆく。 外気を知らない締まった赤が晒される。 外気を知らなかった透き通った紅が飛散する。 手ごたえは確かなもので……しかし完全ではなかった。 俺は再び振り上げ――「あっ」チルノが声を漏らした――強く、深く、下ろした。 ~ 岩の影と水面には二人の音が響いている。 達成感の中で俺は赤く濡れた果実を貪り続ける。 そのたびに生物としての欲望が満たされてゆく。 後に続くようにチルノも口に含むことをした。 「うわ……あ」 いつもどおり、好奇心の彼女だった。 拙いながらも汁を舐めとるように、舌を、口を、必死に動かしている。 さすがに可哀想な気がしたので種は飲まないように言った。 放っておけば飲み込みかねない勢いだった。 それはそれで可愛らしい姿である気もするが、背徳感が勝るようだ。 だからチルノ、そんな「もったいない」とでも言いたげな表情をしないでくれ。 不快なだけだぞ。きっと。 ~ 帰り道、チルノの満足そうな顔が嬉しかった。 またスイカ割りしような。 16スレ目 897-899 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「おーいチルノー、いないのかー まったくあいつの行動パターンはいつになっても読めんね ・・・ん、短冊?早くね? しかし妖精も七夕に願掛けするもんなのかな、どれ」 よろこびますように チルノ 「・・・・・・何これ・・・なんだこれ?」 17スレ目 216 ─────────────────────────────────────────────────────────── ○「暑い、なんとかしてくれ」 チ「じゃあ、あたいを抱けばいいよ」 ○「・・お前はもうちょっと言葉を勉強してくれ」 ぎゅー 17スレ目 733 ─────────────────────────────────────────────────────────── 暑さのあまりチルノの頭がおかしくなった話。 「ねぇ○○!キスしようよキス!」 「あ~・・・?」 なんだこいつこのクソ暑い時に・・・ いや、待てよ、むしろチルノは冷たいし、 がっついたりしない分良いか・・・ 「よしわかった、やろうぜ」 ちゅー ってうお、唇冷た。 ・・・ん? ん、ん? 唇くっついて取れない? 「んふふー・・・」 うおい待てお前は舌を入れるなやめろ冷たい、 というか腕を頭の後ろに回すな逃げられない。 っていうかおいまてあたま、ぼーっと かゆ、うま 17スレ目 741 ─────────────────────────────────────────────────────────── 今日家帰ったらチルノがビール瓶抱えたまま冷蔵庫の中で寝てたから 「そこはお前の寝床じゃないぞ」って叱ってやった。 そしたら「かえってくるまでにビールひやしてあげたんだよっ!」と逆に怒られた。 「ごめん、そうとは知らずに・・ありがとな」って返したら チルノが、へへっ・・と照れながら「ビール注いであげる」って言ってくれたから コップ持って注いでもらおうとするが・・中身が出てこない。 「あれ?あれ?・・ごめん・・凍っちゃってる・・」 そんな彼女をみて愛おしくなり、つい抱きしめてしまった。 「お前で酔えるからビールなんかいらない」と言ったら 「いみがわからないけど、ビール注ぐより満足ならあたいはこっちがいい」 と言ってくれた所で目が覚めた。 17スレ目 995 ─────────────────────────────────────────────────────────── ○○は一大決心をし湖上の氷精に愛の告白をしたと思ったらいつの間にか俺は湖上の氷精の弟分になっていた。 何を言っているのかわからねーと思うが俺も何が起こったのかわからなかった。 境界だとか運命だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。 もっとかわいらしいバカの片鱗を味わったぜ。 18スレ目 125 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「ねぇチルノ。なんでこんな俺と一緒にいてくれるの?」 「…変なこと言っても笑わない?」 「もちろん」 「あのね。あんたといるとここがあったかくなるの。それが心地いいの」 「…氷の妖精のくせにあったかいのが好きなんてバカみたいでしょ?」 「そんなことない。ありがとう」 「はぁ?なんでそこでお礼いうのさ」 「さぁね。おばかなチルノには分からないよ。ははっ」 「むぅ…あ!今笑ったな!約束やぶりめ…凍らせてやる!」 「いやちょっとま…あひゃー」 19スレ目 124 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「ねぇ○○、人間と恋に落ちた妖精は人間になれるってホント?」 「さあ? どこで聞いたんだそれ」 ○○に寄りかかりながらチルノはそんなことを言い出した。 「うーん、忘れた」 「おいおい……でもあり得ない話ではないんじゃないか? 人魚姫も一応人間になったし。あ、でもあれは悲哀話だっけ」 「でも、もし人間になったら○○はあたいと結婚してくれる?」 「ああ、いいぞ」 「ホント!? やったー!」 ○○の正面に回り込むとチルノはギュッと抱きしめると幸せそうに微笑んだ…… あれからしばらく経ったある日のこと。 寝ている○○の部屋に誰かが入ってきた。 ぐっすり眠っていることを確認した人影はゆっくりと顔を近づけると――ポカリと頭を叩かれた。 「こら、13歳にもなってお父さんにキスしようとしないの」 「むー、いいじゃない。減るものじゃないし」 「それでもダメ」 枕元で騒がれたため○○は目を覚ましてしまった。 「あ、ゴメン。まだ寝てていいよ」 「いや、もう朝飯でしょ。起きるよ」 眠い目を擦りながら○○は朝の挨拶をした。 「おはよう、チルノ」 そう呼ばれたチルノの姿は20代後半のような容姿でかつての無邪気な氷精の雰囲気をどこかに残している。 「お父さん聞いてよー。お母さんあたいがキスしようとすると止めるんだよー」 「当然でしょ。○○はあたしのものなんだから。誰にも渡す気はないの」 そう言って○○にキスをしたチルノはあのころと変わらない笑顔だった。 19スレ目 273 ─────────────────────────────────────────────────────────── ちょいちょい ○○「ん、なんだチルノ、今、レス書いてて忙し……ってどうした? アイスなんか咥えて……」 チルノ「ん」 ○○「ん?」 チルノ「んー!」 ○○「ああ、わかったわかった、こっちから食べればいいのか?」 チルノ「(コクコク)」 むぐむぐ……むぐむぐ…… ○○「なぁ、チルノ……」 チルノ「…………」 ○○「棒が邪魔でこれ以上進めないんだが……」 チルノ「……………………」 おわれ 20スレ目 817 ─────────────────────────────────────────────────────────── ○○「う~~・・・」 チルノ「○○、大丈夫?」 ○○「多分風邪・・・」 チルノ「頭冷やそっか?」 ○○「チルノの場合洒落にならないからやめて・・・」 チルノ「む~ん・・・あ、風邪って移すと治るんでしょ? アタイが移されてあげるよ!」 ○○「はは・・・でも馬鹿は風邪引かないって」 チルノ「アタイは馬鹿じゃない!」 ○○「ごめんごめん・・・」 チルノ「いいもん、勝手にもらうから」 ○○「もらうって・・・どうやって・・・」 チルノ「一緒に寝る!」 ○○「・・・いやいや、それは駄目でしょ、いろんな意味で」 チルノ「・・・アタイは・・・○○の風邪治そうと思って・・・」 ○○「うっ・・・涙目になるなって・・・はぁ、わかったよ・・・ほら、おいで」 チルノ「えへへ・・・お邪魔しま~す」 永琳「どうしてこんなになるまで放置したの!(作者の頭的な意味でも)」 20スレ目 857 ─────────────────────────────────────────────────────────── いたずら氷精チルノの様子がおかしい。 チルノ「うー!またしっぱいだー!」 ○○「あはは・・ご飯なら僕が作るから」 チルノ「だめなの!!!」 ○○「でも・・」 チルノ「あたいはげんそーきょーさいきょーなんだから!!」 チルノが料理を始めたのだ チルノ「むー難しい・・さいきょーのあたいでも出来ないことが・・あってたまるかー!!」 ○○「頼むから食料使い切らないでくれよ」 チルノ「あぁー!!そうだった・・よーし今度こそ・・」 何のために? チルノ「あたい・・・げんそーきょーさいきょうの「よめ」になるの!!!」 22スレ目 686 ─────────────────────────────────────────────────────────── チ「○○なんて大ッ嫌い!」 突然やってきたチルノが、突然そう叫び、突然飛び去っていった……。 ○「え……な、なんで? 昨日も普通に遊んでたし、なにか気に障る事でもしたっけ? あ、もしかして、昨日、アイスの食べすぎはお腹によくないぞ!って怒った事か? いや、ひょっとして一昨日、大ちゃんを優先して肩車したことか? ……いやいや……その前の日の……ぶつぶつ……」 大「ちょっとチルノちゃん! なんで○○さんにあんな事言ったの!?」 チ「ふふーん、今日はエイプ……ール?なんとかって日だから、嘘ついてもいいんだぜ! って、白黒が言ってたのよ!」 大「チルノちゃん……エイプリルフールは明日よ」 チ「え、嘘!? うわー! ○○、ごめんなさいーーーーー!!」 大「大嫌いが嘘ってことは、大好きってこと……か。 ……ふぅ、困ったなぁ……」 23スレ目 761 ─────────────────────────────────────────────────────────── チルノが俺の眼鏡をかけてみたいと言うから貸してやった すると度数にびっくりしたのか目をパチクリさせながらふらつく。 しかし姿勢を取り直すと 腰に手を当て「どう?カッコイイでしょ」 誇らしげに中指でメガネをくいっと持ち上げるが、メガネが大きすぎて下がってしまう どうやら自分は眼鏡属性に目覚めたようだ という夢を見たんだ(^p^) 24スレ目 551 ─────────────────────────────────────────────────────────── ちるの が さするの 「(さっきから腹が痛い・・ヘンなもんでも当たったかなあ)」 「どうしたの?さっきから元気ないよー?」 「ああチルノか、どうやら腹を壊したようだ・・」 「ぽんぽんいたいの?あたいがさすってあげようか?」 「ああ、頼m・・いや待てやっぱイイ! (そのひんやりとした手で腹をさすられたら絶対ヤバイ・・)」 「えー?どーしてー?」 「あのなチルノ、こういう場合は腹を暖めないと駄目なんだ。お前の手だとな・・」 「じゃあちょっとおなかだしてみて」 「いいけど・・(俺の腹に顔を近づけて何をする気だ・・)」 「はぁ~~~!」 「うわっ!!おまっ!んなことしても一緒一緒!冷風!冷風だから!」 「えー?」 「と、とりあえずトイレ行く・・(クーラーの風を腹に当てた気分だ・・)」 「ふー、すっきりした。いやあ最初からこうしとけばよかったな」 「じゃあもういいの?」「ん、何がだ?」 「さわってもいいの?」「いやもう治まったし・・」 「・・・・そう・・。」 「・・・・・」 「・・・・・」 「・・わかったわかった好きにさすれ、だからそんな顔するなって」 「やったー!じゃあ、さわさわ べたべた はぐはぐ」 「くっつきすぎ・・あとトイレから戻ったばかりだぞ俺。いいのか?」 「きにしない~」 「気にしろよそこは」 それから、俺が腹を押さえるのを見る度に、また壊したの!?と心配するように ・・いや、心配じゃねえなこれは。 どうやら俺が腹痛中の時は冷たくされてる気がするんだってよ。 いやいや、冷たいのはあんただから! 24スレ目 758 ─────────────────────────────────────────────────────────── 遊びに来ていたチルノが寝てしまった。 氷精が寝冷えするのかわからないが、ともかくタオルケットぐらいかけておいてやろうとしたら、 服の裾を掴まれて離してくれない。 仕方ないので、添い寝してやることにする。 うっかりするとこっちが寝冷えしそうな気もするが、構うまい。 25スレ目 206 ─────────────────────────────────────────────────────────── あたい、昔はこの季節が嫌いだった。 だって、体は溶けちゃうし、レティとも遊べなくなっちゃう。春とか秋ならまだ遊べるんだよ! でも、最近はこの季節が大好きになった。 だって、○○があたいのことぎゅーってしてくれるから。 春とか秋にもぎゅーってしてくれるけど、やっぱりこの季節が一番ね! 早く、もっともっと暑くならないかな♪ 25スレ目 632 ─────────────────────────────────────────────────────────── ○○「僕たち馬鹿には考え付かない、そこに痺れる!」 氷精「あたいはバカじゃないっ!!」 ○○「ほう・・では3×3は?」 氷精「⑨!!」 ○○「ちょ、正解だけど余計なのが・・・○いらないって」 氷精「あたいはいるの!これだとおそろいだもん/////」 ○○「え?・・・あ~・・なるほど///」 ⑨が・・・考えた・・だと!? ○と9で○が二つ、いちおう揃ってるかなと 嬉し恥かしお二人さんでした。 25スレ目 733 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「○○、あたいと一緒にゲームやろう!」 いそいそと膝に乗って、背中を預けてくるチルノ。 嬉しそうなのはいいが、この姿勢で、しかも二人でババヌキは無理がある。 仕方ないから、そのまま抱きしめて倒れこむことにする。 そろそろ気候も涼しくなってきたが、なに、かまうもんか。 25スレ目 839 ─────────────────────────────────────────────────────────── 氷砂糖が好きだ、という○○の言葉を聞いて、 「○○の好きな氷砂糖作ろうと思って、水に砂糖混ぜて凍らせてるんだけど…… なんでか氷しかできないんだ。ごめんね○○、あたいがんばって氷砂糖作るからね」 一生懸命なチルノと、チルノを膝に乗せて頭をなでる○○が思い浮かんだ。 29スレ目 839 ─────────────────────────────────────────────────────────── チルノ「〇〇ー、すごい技ができちゃった」 〇〇「また前みたいに[空中でカキ氷を作る程度の能力]とかじゃないのか?」 チルノ「うう……今度はすごいんだから! なんとあたいの氷でよろいを作っちゃうんだから!」 〇〇「ほう、見せてもらおうか。もしも本当に凄かったら⑨扱いを撤回してもいいぞ」 チルノ「ちょっとまってね。じゅもんがあって、わけが分からないうえにすっごく面倒くさいの」 〇〇「いいぞ。わからない字があったら読んでやろうか?」 チルノ「うん、お願いー」 〇〇「はいはい、えーと…… フランスのパリってよォ……英語ではパリスっていうんだがみんなはフランス語どおりパリって発音して呼ぶ (中略)イタリア語で呼べ!イタリア語で!チクショォー ムカつくんだよコケにしやがって!ボケがッ!!」 チルノ「そうそう!……で、もう一回言ってくんない?」 〇〇「……いや、もういい。何がしたいかよくわかったし、こんな事でマジギレするチルノ見たくない」 チルノ「えー! せっかくのあたいのけいかくがー!」 〇〇「計画って?」 チルノ「大きめのスーツをつくって、〇〇と二人で入りたかったの!」 〇〇「それはスーツというより、かまくらじゃないか?」 チルノ「……そ、そうともいうわね!」 〇〇「そうとしか言わん」 29スレ目 996 ─────────────────────────────────────────────────────────── チルノ「○○!あたいとしょうぶよ!」 ○○「え?俺弾幕うてな…うわっ!?」 チルノに圧し掛かられる○○ チルノ「なにいってんのよ、弾幕なんてつかわないわよ、にくたいとにくたいのあつい勝負よ!」 ○○「誰がそんな事教えやがったんだあああああ!!」 ○○(冷たいし、なんか顔が近いしがっちり押さえ込まれてるし!どうする、俺!) 30スレ目 58 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「あたい、この戦争が終わったら○○に風呂坊主するんだ……」 そんなこと言ってると帰ってこれなくなるぞ……ふろぼーず?なんだそりゃ 「あたいもわかんないけど。お風呂に出てくる妖怪かな?」 あー、まあともかく元気に遊んでおいで。お風呂、いや、水風呂の用意ぐらいしておくから 「やった!○○も一緒に入る?」 ……考えとくよ 30スレ目 238 ─────────────────────────────────────────────────────────── チルノ「○○っ! あたいの婿に来なさい!」 ○○「えっ!? あ、ああ。それじゃあ不束者ですが宜しくお願いします」 チルノ「べ、別に今更そんな風にあらたまったりしなくてもいいよ」 ○○「そうだな! 確かにこれはらしくないな……」 ○○「で、僕の新姓は何になるんだ?」 チルノ「えっ?」 30スレ目 357 ─────────────────────────────────────────────────────────── チルノ「あんたは、髪の長い娘が好き」 ○○「うん」 チルノ「あんたは、頭のいい娘が好き」 ○○「うん」 チルノ「あんたは、年上の娘が好き」 ○○「うん チルノ「あんたは、背の高い娘が好き」 ○○「うん」 チルノ「あんたは、おとなしい娘が好き」 ○○「うん」 チルノ「じゃあなんで、あたいと付き合ってくれたのよ?」 ○○「うん」 チルノ「……聞いてる?」 ○○「うん」 チルノ「……ほんとに?」 ○○「うん」 チルノ「…………」 ○○「フィーッシュ! こいつはでっけえナマズだな。晩飯はこいつの煮付けと天ぷらで決まりだ! っと、そういえばチルノ、さっき何か言ってたか?」 チルノ「やっぱり聞いてなかったんじゃないのよっ!!」 30スレ目 796 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「よぉチルノ。今日も釣るぞー」 相変わらず湖の畔でカエルを追っかけまわしていたチルノに話しかけた。 「あ、○○か! おはよー!」 俺が声をかけると、元気に飛び回っていたチルノはこっちを振り向き、座って釣りの準備をしていた俺の横にまたちょこんと座った。 「しかし見てて面白いか? これ。俺としては話し相手が出来て嬉しいっちゃ嬉しいんだが」 黙々と作業する俺の横でチルノはその様子をジッと眺めていた。 喋らずにずっと眺めていたので竿に糸をつけながら俺が更に続ける。 「あ、もしかしてお前、俺の事が好きなの?」 冗談のつもりだった。 俺が釣りをしにここへ来たのがきっかけで、俺とチルノは殆ど毎日昼にはここであっていた。 チルノは俺の一番の話し相手だった。楽しい話を聞かせたり、わざとからかったり。だからこれも冗談で終わる、チルノだって「なに言ってるの」って笑い飛ばすだろう。そう考えていたのだが……。 「……! …………」 ジッと竿を見ていたチルノの体がビクッと震え、固まった。焦点は虚空を向いている。 予想外の反応に動揺した俺は、チルノの肩をつついた。 「お、おいチルノ……? 大丈夫か?」 しばらくツンツンと肩をつついたところで、ひんやりと冷たいはずのチルノの顔が段々と赤く染まっていき、ガクンと俯いてしまった。 「ち、チルノ!? どうした! 熱でもあるのか!?」 あまりの予想外さに俺は慌ててしまって状況を把握できずにいた。バックの中から救急箱を出し、一番近い医者の場所を思案していたところでようやくチルノが顔を上げた。 顔はまだ真っ赤になったままだった。その赤く染まった顔のまま、笑顔でチルノは途切れ途切れに言葉を紡いだ。 「あ、あたい……あんたの事好きだよ……。初めて会った時から……。あんたは……?」 俺の頭の中は興奮して完全にパニック状態になった。鼓動が高鳴る。頭の中がどんどん真っ白になっていく。そして。 「俺もだよ。」 気づいた時にはそう言っていた。チルノは嬉しそうに目を輝かせた後、すぐに俺に飛びついて来た。 「本当!? 本当に! やったー!」 向き合って座っている俺の腰に、手を回して抱きついているチルノ。俺はその水色の頭を優しく撫でた。 手も体もひんやりしている。でもさっき火照った体には丁度よかった。 いちゃいちゃしたい。 32スレ目 471 ─────────────────────────────────────────────────────────── 625 :名前が無い程度の能力:2011/12/12(月) 22 42 16 ID 7xK5y.eM0 ○○「チルノ(撫で撫で)」 ⑨「なぁに~?」 ○○「パパと呼んで」 ⑨「…れーげんなるひょーけんのぎしき…」 628 :名前が無い程度の能力:2011/12/13(火) 19 43 28 ID XPlqxAnA0 625 チルノ「もうすぐうまれるんだからしっかりしてよ。ね、『パパ』?」 チルノ「……っていうのを門番のおねーさんに借りた漫画で見たんだけど。 あたいにはよくわかんないや。ねえ○○、これどういう意味?」 32スレ目 625,627 ─────────────────────────────────────────────────────────── 636 :名前が無い程度の能力:2012/10/10(水) 22 29 21 ID RGzdXCMM0 「ねえねえ○○!あたい、今日はあの大ガマのやつを返り討ちにしてやったのよ!」 はいはい、チルノちゃんはすごいですねえ。 「とーぜんよ!だってあたいは最強なんだからね!」 はいはい、最強ですねえ。 「○○も、もし誰かにいじめられたりしたらすぐあたいに言いなさい!さいきょーチルノさまがすぐ助けに行ってあげるわ!」 はいはい。頼もしいですねえ。その時はお願いしますよ。 「どこにいても、どんなときでも、天狗より早く、すぐに駆けつけてあげるからね!」 はいはい。はやいはやい。 「だって○○は、あたいの……えと、こ、こ……し、親友だからね!」 …ああそう。親友、ね…。 「…あ、あれ?ど、どしたの○○…?な、なんか急に元気なくなった気がするわよ?」 別に、何ともしませんよ。 「う、うう…。…も、もしかしてあたい、なんかいけないこといったのかな…?」 チルノちゃんはなんにも悪くありませんよ。 「…そ、そうよね、あたいはてんさいなんだから、そんなミスはおかさないの、よ…?」 はいはい。チルノちゃんは天才ですからね。その通りですよ。だから私が元気ないのも気のせいです。 「…そ、そっかー!そうよね、あたいはてんさいだから大丈夫なのよね!」 はいはい、そうですとも。 (―――本当は「こいびと」と言ってほしかった…なんて。いえるわけないですしねえ。とりあえず、しばらくはこのままでいいでしょうか) 「(恥ずかしくてやめちゃったけど、やっぱり「こいびと」っていったほうがよかったのかなあ…うー)」 637 :名前が無い程度の能力:2012/10/11(木) 21 18 29 ID uwgwwM3Y0 チルノ「ってゆーわけでッ!○○を絶対こいびとにしてやるのよ!」 サニー「チルノ、恋人って何するかわかってる?」 チルノ「当たり前よ!まず誰も見てないとこで二人きりになるの」 スター「それで?」 チルノ「並んで座るの。それから二人でぴったり寄りそって…」 ルナ「それでそれで?(ガタッ)」 チルノ「なでなでしてもらう!」 スター「(ズコー)」 チルノ「あと、て、手をつなぐとか…///」 サニー「(だめだこの妖精早くなんとかしないと)」 続きを勝手に考えた。 近所のお兄さん的存在になつくチルノかわいい 33スレ目 636-637 ─────────────────────────────────────────────────────────── 妖精と大人っぽさと聞いて、成長したチルノを幻視した ○○「あ、蛙だ」 チルノ「かわいいわね」 ○○「昔は一目散に捕まえに行ってたのになー」 チルノ「あたいのこと?」 ○○「そいで捕まえる端から凍らせて遊んでたよな」 チルノ「そうそう、懐かしいわねー」 ○○「変わるもんだな」 チルノ「あたいだっていつまでも子どもじゃないわ」 ○○「いつの間にか最強だの天才だの言わなくなったしな」 チルノ「背伸びしてたのよ」 ○○「子どもってそうだよな」 チルノ「そうそう、背が伸びるのが待てなくって自分を大きく見せようとしてる」 ○○「待てなかったんだ?」 チルノ「あたいは嫌だったな。」 ○○「へー、そりゃどうして?」 チュッ ○○「……!」 チルノ「こういうことができないから。」 ○○「その、まさか、ずっと昔から俺のこと…」 チルノ「そ。さっさと気づけ、○○のニブチン!」 こう、おてんばな女の子が女っぽくなっていく赤毛のアン的なですね ぷにぽよ幼女がスレンダーなハイティーンに進化する的なですね 33スレ目 684 ─────────────────────────────────────────────────────────── (編者注:「風邪を引いて看病されるなら」という話) 705 チルノは最初一生懸命看病しようとして、熱くて溶けそうなの我慢しておかゆに湯たんぽまで 頑張って準備するんだけど、 いざ部屋に入るって時に自分が冷たすぎることに気が付いて しかも頑張って作ったおかゆも湯たんぽもとっくに自分の冷気でひえひえなことにも気づいてしまって 「あたい…役立たずだね…。こんなつめたいやつ、近くにいたらさむいもんね…。ごめんね…ごめんね…」 ってつぶやきながらずっと部屋の前でぽろぽろ涙をこぼして棒立ちするよ。 …風邪を引いた身には少々骨だけれど、氷嚢なんかで十分役に立てると教えてあげないと。 まったく、そんなこともわからないなんてチルノはお馬鹿さんだなあ。そばにいてくれるだけでもいいくらいなのに。 33スレ目 709 ─────────────────────────────────────────────────────────── むかし男ありけり。 顔かたち、はずれてよきにはあらねど、心立てのめづらかなること世人のかなふところなし。 花ほころぶ如月の頃、山に入りて日頃のごとく柴を集めぬ。 はたと気づけば、足あともなき雪野に遊ぶ女の子(めのこ)あり。 さだめて伝え聞く氷の精に侍らん、と思いけむ。 女の子詠むを、男、聞けり。 いかでかは 誰をも見ずや この山の 今我遊ぶ 雪のうなばら 女の子、いと悲しげに見えてらうたきかたちも陰を帯びぬ。 男、あはれに覚え、詠む。 値する 人をえ聞かじ 君が才 けふも覚えて 未だ来ずらむ 女の子、この歌に色をよくして、男をよく覚えけむ。男もにくからず思ゆ。 二人、山でめぐり会ふこと重なりぬ。互ひに互ひを恋ふやうになりてわずかばかりのころ、うぐいす鳴きぬ。 「わびし。君ともはや会ふことかなはじ。」女の子、涙さしぐむ。 「などか。」と男問へり。 「君も知るや、我は氷の精なり。ぬるみまされる月は力も弱まりぬ。 すでに春なり。とほく湖のへりに隠れて、冬を待つべし。」 女の子、心苦しくも言へり。 あくる日、女の子の姿見えじ。男、無常を悟り、花の下、詠めり。 秋桜 散る野のもとで また会はむ 今は恋しき 木枯らしの冬 ─── 昔、ある男がいた。 容貌はとくに優れていたわけではないが、気立てのよさでは他にかなう人がいなかった。 桜のつぼみもほころぶ旧暦の二月あたり、いつものように山で柴を集めていた。 ふと気づけば、足跡ひとつない雪原で一人の女の子が遊んでいた。 これは噂に聞く氷の精に違いない、と男は思った。 男は、女の子が歌を詠むのを聞いた。 どうして誰も現れないのでしょうか。今私が遊ぶ、この見渡す限りの雪野原に。 女の子はとても悲しそうな様子で、かわいらしい顔も暗く見える。 男は感じ入るところがあって歌を詠んであげた。 あなたの才能に及ぶ人がいないからですよ。実力を思い知ってかなわないと思うから、まだ誰も来ないのでしょう。 女の子はこの歌に機嫌をよくして、男に好意を持った。男も女の子に少なからず好意を持った。 それからというもの、二人は山で会うことが多くなった。お互いに恋心を持つようになった頃、うぐいすが鳴くようになった。 「ああ、かなしい。あなたともう会うこともできません。」女の子は涙をこぼした。 「どうして。」と男は尋ねた。 「あなたも知っているように私は氷の精です。あたたかくなる時期は力も弱くなってしまいます。 もう春です。遠い湖のあたりに隠れて、冬を待たなければいけません。」女の子は辛そうに言った。 翌日、女の子の姿はなかった。男は世の無常を感じて、桜の花の下で歌を詠んだ。 秋桜(コスモス)の散った後の野原でまた会いましょう。今はただ木枯らし吹く冬の訪れが待ち遠しいばかりです。 ここまで書いて、チルノとレティを混同していたと気付く。 チルノは夏でも全然だいじょうぶ。なんというかすまん。 33スレ目 782-783 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「たんごのせっく?」不思議そうにチルノが見る 「チルノは賢いな」 「えへへー」照れた笑いがかわいい。 「でも、男の子のイベントだけどどういう遊びをしたの?」 「新聞紙でかぶとや刀を作って・・・」 「あたいもやってみたいな、作れる?」 「手伝ってくれたら早く作れるよ」 2時間後 「おおー!なんかさいきょーになった気分!」 はしゃぐのはいいけど、ほかの人に殴りかかったり、迷惑をかけないようにね はい、指きり。 「ゆーびーきーりげんまん、ウーそついたらはーりせんぼんのーます!」 チルノははしゃいで家の外へ出た。 十数分後 帰ってきたチルノはたくさんの妖精を従えている 「この子達は?」 「チルノちゃんのそれかっこいいからあたしもほしい!」 その声を皮切りに「あたしも!」の連呼が響く。 「みんな手伝ってくれれば何とか作れるかも。君たちはこの硬い紙を拾ってきてね。」 分担作業で3時間くらいで終わらせた後、僕はチルノをはじめとしたみんなに 小さい折り紙の吹流しをつけた。 「これは?」 「吹流し。旗を作りたかったんだけど材料がないからこれでね。」 これはこれで気に入ったらしく、みんなはしゃいでいる。 そこでチルノが鬨の声を上げた 「みなのもの!しゅつじん!」 この光景は妖精武者行列として翌日新聞をにぎわせることとなる。 次の年からは妖精たちが餅を撒く光景も見られるようになったそうだ。 34スレ目 273 ─────────────────────────────────────────────────────────── (某有名ゲームの名シーンのパロディです) チルノ「バカでも…いいの?」 ○○「バカでも…いいさ」 (編者注:FFⅧ?) 34スレ目 710 ─────────────────────────────────────────────────────────── チルノ「あーお正月ももう終わりかぁ。」 ○○「なんだ、正月が終わって寂しいのか?」 チルノ「べっ!別に寂しかないわよ!ただ...後もう少ししたら、レティが...」 なるほどな、だから最近元気がなかった訳だ....。 ○○「 まぁそう落ち込むなって、別に永遠の別れってわけじゃないんだから。」 チルノ「それは、そうだけど....」 チルノ「周りはいつもアタイのことを馬鹿にするし、大ちゃんやルーミアだって気を使って...」 チルノ「レティだけなの、本気でアタイを慰めてくれるのは、だから、来年まっ...で」 おいおいまさか、泣き出そうとしてるのか、 あーやばいやばいこいつが泣き出すと、しばらく慰めるのが大変になる。 ○○「ほっほら、泣くな泣くな!レティだってきっとお前の泣いてるところを見たくないと思うぜ」 チルノ「...うん」 チルノ「あのさ、いつもアタイのことを励ましてくれてありがと、」 ○○「どした?お前が例をゆうなんて、明日は雪かな?」 すぐに怒って反抗してくるとか思ったが、いつもよりもチルノは静かだった チルノ「いつもそうやってアタイのことを、馬鹿にしてるところもあるけれど、アタイ、○○のことが好き!」 ○○「へーそうか、.....へっ!?、ええぇ!」 チルノ「そんなに驚かなくても、」 これはどえらいこっちゃ!明日は雪どころか、台風でも来るんじゃないか? ○○「どした!いきなり!」 チルノ「何よ!本当のことを言ったのに!なら、あんたはアタイのことをどう思ってるのよ」 いきなり告白されるとは思いもよらなかった、だがもう俺の次の言葉は決まっていた。 ○○「俺もお前のことが好きだか。」 チルノ「今年もよろしくね。」 ○○「ああ、よろしく。」 今年も忙しくなりそうだ。 34スレ目 757 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「え、この氷の塊が何かって?」 「……これは――この人はね、あたいの『未来のダンナさま』なの」 「竹林のお医者に手伝ってもらって、あたいの氷の中で寝てるの」 「あたいがもっと小さい姿だった頃、同じくらい小さい○○と会ってね」 「いつか○○のヨメになってやる、なんて言ってたら、○○はどんどん大きくなって」 「あたいだけちんちくりんのままなのが急に悲しくなって泣いてたら、 『ちゃんとチルノが大きくなるまで待っててやるから』って」 「色々……ほんとに色々あってね、ちゃんと人間のまま死ぬこともできるって言われたのに」 「こんなに長い間妖精の魔力に浸かりきってたら、目が覚めても人間じゃなくなっちゃう、って言われたのに」 「……ちょうどいい、って笑ったの。あたいもバカだバカだって言われたけど、○○もたいがいだと思うな」 「それから、あたいも頑張って大きくなったのよ。○○を起こしてあげないといけないし」 「うん。もうすぐ起きるから、そしたら紹介してあげるわ」 34スレ目 968 ─────────────────────────────────────────────────────────── チルノ「ウワァァァァァァァ!!」 ○○「で?」 チルノ「夏休みの宿題全くやってないことに気づいた…!」ガタガタ ○○「計画的にやらないから…」 チルノ「大ちゃんは『毎年見せてるから今年は駄目っ!』って」 ○○「むしろよく毎年見せてくれたな…」 チルノ「お願い○○ッ手伝ってよ!小学生の宿題なんて一瞬だろ!?」 ○○「えーやだー」 チルノ「お願いですなんでもしますから!!」 ○○「ん?今何でもって言った?」 チルノ「おう!」 ○○「なんでもってお前ができる『なんでも』なんてたかがしれてるだろ…」 チルノ「頼むよ!お願いっ!お願いっ!」 ○○「しょーがねーなー…ほぼ毎日うちで遊んでたのを理由にされちゃかなわんからな」 チルノ「うはwww」 大妖精(ふっふっふっ…チルノちゃんは今日宿題でてんてこまいのはず、今日は私が○○さん独り占めしちゃうもんね!!) 大妖精「こんにちはー」 ○○「おっ大ちゃん」 大妖精「遊びに来ました!」 ○○「ごめんねー今日はちょっと無理だわーチルノの宿題手伝ってるからさ」 大妖精「!?」 ○○「マンガ読むくらいだった大丈夫だけど」 大妖精(作戦が裏目に出た…) チルノ「ゲームするわ」 ○○「おい」 チルノ「一時間!一時間だけだから!」 ○○「駄目駄目」 チルノ「息抜きが必要だから!息抜きが必要だから!」 ○○「宿題どうなっても俺は責任とらないからな?」 チルノ「ウーッスwww」 ○○「あ、大ちゃんこれ、デビチルの復刻コミック入手したけど見る?」 大妖精「ボンボン最高www」 ○○「将来有望www」 三時間後 チルノ「やってしまったぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 ○○「だから言ったのに…」 チルノ「東方無双ハンターが面白すぎるのがいけないんだ!」 ○○「来月G将伝でるよな」 チルノ「やりにくるぞ!」 ○○「買えよwww」 チルノ「終わんない…終わんないよぉ…」 ○○「グチる前に手ぇ動かせや!!っと…そろそろ飯か…二人ともラーメンでいい?」 チルノ「うまかっちゃん!!」 大妖精「卵いれてくださいっ!」 チルノ「おわったぁー!!」 ○○「後は絵日記だけだな、流石にこれは手伝えないな。これは自分でかけよ」 チルノ「はぁーい」 チルノ「休憩」 ○○「お前ほんっとほとんど毎日うちにきてたなぁ」 チルノ「しょうがないだろゲームがあるんだから…」 ○○「たったそれだけの理由でwww」 チルノ「○○んちおちつくもん」 ○○「そのうち住み着いたりしねぇだろうな」 チルノ「その発想はなかった」 ○○「マジでやめろよ?」 チルノ「この日は○○に海に連れて行ってもらいましたっと…」カキカキ チルノ「えーっと後は何したっけ…」 チルノ「そうそう最後の日に○○に宿題手伝ってもらいましたっと…」カキカキ 慧音「ほほぉ…」 チルノ「オワタ」 35スレ目 116 ───────────────────────────────────────────────────────────
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妖夢11 うpろだ1170 「幽々子ー」 少し前までは静かだった白玉楼も、今では静かとは言わなくなってまいりました 「あら、何かしら○○」 というのも、 「ちょっと楽しい運動を教えてあげようと思ってだな」 この 「まず両手を胸にあててー」 ○○とかいう人間が 「で、ぽんぽんぽんで両手を上にー」 頻繁に来だしたからで 「こうかしら?」 というか、 「そうそう。んで、それにあわせてこういうんだ」 生者が何故こうも易々とおおおおお 「はい、「らんらんるー♪」」 「だあああああああああああああああああああ!」 思わず叫んでしまった 二人合わせてきょとんとしている 「どうしたのかしら妖夢ー?」 「どうしたー?妖夢ー」 「だからそこハモるな同じ仕草をするなっ」 顔を見合わせてどうしたのかしらとでも言いいそうな顔 「でーすーかーらー」 とのばして一端止め、今まで言わんとしたことを言う 「何で生者がふっつーに何の躊躇もなくここにこれるんですか!結界は!?そもそも入り口は上空にあるんですよ!?ただの人間のあなたがどうやってきてるんですか!」 ぜーはーぜーはー 「まぁまぁ落ち着いて落ち着いて。ほら、息を」 「吸ってー」 「ひっ」 「吸ってー」 「ひっ」 「はいてー」 「ふー」 「はいつなげてー」 「ひっひf・・・って何させるんですかあああああああ!!」 思わずぐーで殴った 「はっはっは、痛いなぁ妖夢」 まるでこたえてないのが何ともいえない 「で、そんなに知りたいのかな妖夢ちゃぁ~ん」 「気色悪い声出さないでくださいちゃん付けしないでください!・・・でも一応教えてください」 小馬鹿にされている気がするのは私の気のせいだろうか しかし気になることはしょうがない 「はっはっはー。知りたければ俺を捕まえてごらーん」 「は、はぁ・・・?」 いきなり何を言い出すのかこの人は 「ほーっほっほほー。捕まえてごらんなさーい♪」 「まてまてーあっはっはh・・・って!」 のせられてしまった というか、何で私が男役? 「胸の平たさh」 「皆まで言わせるかあああああああ!」 かきーんと打った 柄で 「あーっはっはっは、まったく妖夢は照れ屋さんだなぁ、球筋に出てるぜ」 彼方まで吹っ飛ばされながら何かのたまい、○○は星になりました 「めでたしめでたし」 「じゃないでしょうもう」 「ゆ、幽々子様!?」 まったくもう、とでも言いたげな顔でこっちを見てくる 「痴話喧嘩もいいけど、程々にしなさい。彼は人間なんだから加減しないとホントにここの住人になっちゃうわよ?」 「ち、痴話喧嘩とかじゃなくて・・・その!」 「あら、じゃあ夫婦漫才?」 「め、夫婦!?」 にんまぁ~と嫌らしい笑みを浮かべる幽々子様 「幽々子様ぁ~!」 「あらあら、うふふ♪」 まったく、いつまでも食えない方だこの人は 「はぁ、もう何でもいいです」 いつまでも否定してると話が終わりそうにないので適当に濁す 「それじゃあ、○○を探してくるから妖夢はここで待ってなさい」 「え、いえ、それは私g」 「待 っ て な さ い」 有無を言わさぬ態度に言葉が詰まる 一拍をおいて、幽々子様 「・・・彼とは少し二人で話がしたいの。あまり妖夢には聞かれたくないからここで待ってなさい」 「・・・私に、聞かれたくないこと?」 「あら、気になる?」 うふふ、とからかい顔 「心配しなくても色恋沙汰じゃないから安心しなさいな」 「だ、誰もそんな心配は・・・!」 「あらそう?だったらいいんだけれど・・・妖夢、奥手過ぎるのもあれよ?」 「ゆーゆーこーさーまー!」 「うふふ、じゃあちょっと行ってくるわね~」 ふわふわと一人庭に消えていった 本当に、食えない人だ 「あ、そうそう」 「うわぁ!・・・って脅かさないでくださいよ幽々子様」 「あらあらごめんなさい」 ケタケタと笑う 狙ってやったんじゃないかとすら思ってしまうが、この人の場合どっちなのかやはりわからない 「小一時間したらおにぎりでも持って来てちょうだいね」 じゃっと片手を上げて、こちらの返事も聞かずに言ってしまう やっぱり 「かなわないなぁ」 姿が消えた後に、一人呟くのだった 「あいたたた・・・」 妖夢に吹っ飛ばされた後、起き上がって細部を確認する そんな必要など無いのに、やってしまうのはやはりクセか 当然のように体には傷一つ無かった 「○○ー」 「・・・ん?」 「ああ、いたいた。結構とばされたわね」 ふわふわと幽々子 「ああ、幽々子か」 「一応聞くけど、大丈夫?」 「んー、相変わらず何故か痛覚だけはあるみたいだけど、外傷は無いし大丈夫だろ」 あっけらかんと宣う まぁ、実際そんなに気にしちゃいない 「ならいいけど・・・でも○○、あなたいくら霊だからといって、無茶したらホントに死んじゃうわよ?」 「一度死んでるのにまた死ぬってのもあるのかね・・・まぁ大丈夫だよ」 再三言われてきたんだ、それぐらいのことはわかっている よくわからないことに、俺は自分自身が死ぬ前、つまり生きていた頃の記憶がまったくないらしい ついでに霊のクセして実体持ってたりなんだりもしていたりよくわからない その辺を聞いたら、紫が人間と幽霊の境界を弄くったってなんじゃそりゃ とどのつまり、死んでるんだけど肉体持ったまま生活できて不老なんだとかなんとか その上肉体も肉体でやたら頑丈って何だこの超人 で、妖夢自身はそれを知らないんで俺のことは一般人だと思っているらしい 「ならいいんだけども・・・っとこの話はちょっと置いておいて」 わざわざジェスチャーまでしてのける 「・・・んー?」 「貴方、少し妖夢をいじめ過ぎよー?いくら好きだからって度が過ぎると怒っちゃうわよ、私」 怒っちゃうわよーとかいいつつぷくーっと頬をふくらませる いや、怖いというか、可愛いんですが幽々子さん 「んー、ほら、好きな娘ほどいじめたくなるっていう奴でして、やり過ぎですかね」 「私が妬いちゃうぐらいやりすぎよー。まったく、貴方もあの娘も素直じゃないんだからもう」 「いやー、自分はまだまだガキだからねぇ。好きな娘に面と向かって好きって言えるほど人間できちゃいないんですよ」 というか、恥ずかしいわ、いざ言おうとしたら頭の中が真っ白になっちゃうわ、あげくなんか変な事してるわ、うわー俺って何だ これが族に言うツンデレか!そうなのか!そーなのかー 「わかっててやってるとなると始末に負えないわねぇ・・・どうせ結末はわかりきってるんだし思い切って告白しちゃいなさいな。男は度胸!って言うでしょ?さぁさぁさぁ!Hurry!Hurry!Hurry!」 「いやいや幽々子、落ち着いて?って結末はわかりきってるってどういうことだ」 きょとん、と幽々子 「どういうことって言葉通りの意味だけど、そこまで教えないとだめなぐらいにぶちんで度胸無しなのかしら?」 あれあれ幽々子?なんか怖いですよ? さっきと違ってふざけてないというか、顔は笑ってるのに怖いというアレ しかし、流石にここまで言われてもわからないほど馬鹿ではない 「えーと、つまりあれか。え?何、相思相愛?」 その考えに思い至った瞬間、頬が急激に熱くなる 照れとかそんなの通り越して恥ずかしい 何も恥ずかしくないのに恥ずかしい なんだこれ・・・? 「あらあらー?お顔が真っ赤ですよー?」 「う、ううううううううるさい!」 途端からかい口調に戻り茶化してくる 必死に反論しようにもそんなもの出てくるわけもなく、しかもドモる 「ふぅ・・・これはあれね」 満足したのかクスクスと軽くしていた笑いも止め、こちらを真剣に見てくる 「・・・あれって何だよ」 「練習よっ!」 びしぃっっと人差し指を俺に向け、大まじめに言う ……練習? 「何をわけわからないって顔してるのかしら?」 やれやれ、とでも言いたげな顔だ 「練習って言ったら告白の練習に決まってるでしょうに」 当たり前じゃない、と幽々子 「・・・は?何でそんなのを練習しなきゃ・・・」 「だって貴方ってばいつまでたっても告白すらしようとしないし、妖夢をいじめてばっかりなんだもの。だったら練習少しでもして慣れておいた方がいいでしょ?」 「うーん・・・」 そういわれればそうな気もする 何より、幽々子の話に寄れば俺と妖夢は相思相愛らしい だったら告白あるのみだろう でも俺ってば肝心の場面じゃあーだから、確かに練習はしておいた方がいいのかもしれない 何より、この場面においてYes以外の選択肢が用意されていない気がする というかNo!とか答えたらどうなるかわからない 「・・・わかったよやるよ、やればいいんだろ」 「そうこなくっちゃ!さぁ、早速練習しましょう」 言うやいなや俺を急かしてくる 「そうね、屋敷の方に向かって思いっきり叫びましょうか」 「え?いやそれ妖夢に聞こえない?練習でもなんでも無くない?」 「流石にここからじゃ妖夢には聞こえないわよ。でも、妖夢がいる方向って言うぐらいの緊張ぐらいはあったほうがいいんじゃなくて?」 むぅ・・・言われてみれば確かにそうだ 「すーはー、すーはー」 深く深呼吸をし、俺は 言われたとおり小一時間後、私は手製のおにぎりを持って○○さんを吹っ飛ばした方へと歩く 幽々子様の分は多めに、私の分は少なめに、○○さんの分は・・・あの人も割とよく食べるので多めでいいだろう 割と、というか食べっぷりだけなら幽々子様にも負けていないのではないか 以前流れで食べ比べをした際、勢いだけならば寧ろ勝ってさえいた あれはあれで見物だったが、その後一日唸っていた○○さんを介抱していたこちらの身にもなって欲しい 何故か幽々子様からその日一日暇をいただいたので、楽ではあったのだが それにしても○○さんも○○さんだ 毎日のように白玉楼に来ては私をからかっていく 私なんかをからかって一体何が面白いのだろう 退屈はしていない 退屈はしていないが、最近○○さんが来ない時 何故かその時は酷く寂しさを感じる 来る前と同じ日を繰り返しているだけなのに 何故だろう 先ほど幽々子様にからかわれた際に言われた言葉 「夫婦・・・漫才」 妙に気恥ずかしい響きがする 「夫婦・・・か」 でも心地がいい 何なんだろうこれは・・・ もしかしたら私は○○さんが好きなんだろうか 「好き・・・」 声に出してみる 意識して、音にして初めてわかる 嗚呼、私はあの人のことが好きなんだ、と でも意識して思う あの人が私のことを好きなわけがない 私にあんな事をしてくる人が 寧ろ、何故私はあの人を好きになってしまったんだろう 嗚呼、ダメだこの気持ちは ズキリと傷む しまっておこう そうさ、あの人だってただの人間だ どうせ私よりも早く死んでしまう 早く忘れた方が身のため・・・ 「ふぅ・・・」 おにぎりを下に置き、ぱんっと両の手で頬を叩く ダメだダメだこんなのでは こんな迷いはあってはいけない さぁ、いつもの顔で、いつもの声で、いつもの調子で あの人がいなくなるまで続けていけばそれで・・・ 「・・・ー!」 「・・・ん?」 何かが聞こえる 「・・・○○さん?」 「・・・だー!」 何だろう、何かを叫んでいる 恐らく幽々子様と一緒にいるはずだが・・・ 私は、それとなく足を速めた 「ぜーはー!ぜーはー!」 あれからかれこれ十数分 俺はひたすら叫び続けていた あれか?二百由旬の庭で愛を叫ぶってか? 洒落にもならねぇ・・・ 「あら、○○。貴方の妖夢への愛はこんなものなの?」 「えーいなにくそっ!」 既に恥は掻き捨て 思いっきり息を吸い、思いっきり 叫ぶ 「妖夢ー!俺だー!結婚してくれー!」 ドサッ 「・・・へ?」 脇から聞こえた音に振り向く そこには赤面して茹で蛸のような妖夢が立っていた 「・・・は?」 状況を理解できない 「あれ・・・妖・・・夢?」 妖夢の名を声に出した途端、顔が一気に熱くなる ギギギギ、とさび付いたように動かない首をなんとか曲げ、幽々子を見る 「・・・謀ったな?」 ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべるは幽々子 「ふっふっふ。キミは良き友人であったが、キミのその奥手さがいけなかったのだよ!」 またもびしぃっっと人差し指を俺に向ける 赤い人ですか 「○・・・○・・・さん?」 「は・・・はい?」 びくり、と体が反応する そりゃそうだろう、今の今まで愛を叫んでいたその本人が目の前にいるんだから しかも思いも寄らぬところで聞かれてしまったし 「・・・今のも、いつものですか・・・?」 「・・・え?」 「・・・今のも・・・ひっく・・・いつもみたいに・・・私を・・・ひっく・・・からかっているんですか・・・?」 言いながら、妖夢は静かに泣いていた 「・・・」 言葉に詰まる いつも照れ隠しにとからかっていたツケがここで返ってきてしまった 言おうとしていた言葉もつまり、無言で返すことしかできない 嗚呼、本当に俺は奥手で、臆病で、ろくでなしだ でも ザッ、と一歩 目の前で好きな娘を泣かしたままで ゆっくりと一歩ずつ 平気でいられる俺じゃあ 妖夢へと近づく ーーー無い 「ひっく・・・○○・・・さん・・・?」 目の前まで行って、優しく抱きしめる 「ごめんな、妖夢。今まで散々からかって。全部照れ隠しだったんだ。お前が好きで好きでたまらなかった。いつだってこうしてやりたかったし、好きだって言いたかった。でも俺ってあんなだからさ、どうしても言い出せなかったんだ」 抱きしめていた手を解き、妖夢の目を見る 「好きだ、妖夢。これからもずっと一緒にいたい」 「私も・・・です。○○さん・・・」 そして、お互いの顔が近づき・・・ キスを・・・ じぃー・・・ 「「うわぁ!」」 「あらあらまぁまぁ仲良くハモっちゃって♪」 忘れていた この状況を作り出したとうの本人を 「ゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆ幽々子様!?いいいいいいいいつからそこに!?」 「いつからってずううううううううううううっっっっっっっっっっっと見てたわよ?」 長い溜めだなおい 「・・・ずっと?」 「ええ、ずっと」 「・・・全部?」 「ええ、一部始終。で、キスは?ほら、私の事は気にしないでいいからほらほら♪」 「は、はは・・・ははははは・・・はぁ」 言うや、弛緩したかのようにもたれかかってくる妖夢 「おわ!どうした妖夢?おい、妖夢ー?妖夢ー!?」 「あらあら、恥ずかしすぎて気絶しちゃったのかしら。初心だわねぇー」 ニヤニヤとまたあのいやらしい笑みを浮かべるのは当然幽々子 「あ、あんたって人はああああああああ!!!」 「あらー?私は貴方と妖夢をくっつけてあげたのよ?いわば・・・ほら、なんだっけ。恋のキューピッド?そんな私が感謝されこそすれ非難されるいわれなど無いわっ」 えっへんっとでも言うかのごとく胸を反らせていいのける ああ、畜生 「ほらー、私に何かい・う・こ・と・は?」 かなわねぇ・・・かなわねぇよ 「あーもう!ありがとうございま・し・た!今後とも宜しくお願いしやがりますねこの野郎!うわあああああん!」 言うや、妖夢を担いだまま屋敷へと走り去った 「あらあら、これからはもっと賑やかになりそうね」 楽しみだわ、と独りごちて、幽々子もゆっくりと屋敷へと戻っていった あ(と)がき ギャグ路線で行くはずが真面目に突っ走って暴走したらこうなりました すいません 設定?空気です ─────────────────────────────────────────────────────────── うpろだ1191 とある秋。○○は「涼しくなってきたかな~」とか「今日こそ言うぞ~」とか色々考えながら階段を上っていた。 向かうは秋だろうが夏だろうが冬だろうが無論春だろうが暖かい体温のある幽霊と半霊。その他愉快な霊が居る場所だ。 妖夢「幽々子さま。お出かけですか?」 幽々子「多分すぐ帰ってくると思うけどね。お庭のお掃除頼むわよ。」 妖夢「かしこまりました。」 妖夢「(…今日は○○さん来るかな…と…お掃除お掃除。)」 彼女は忙しい。特に秋。さらに言うと春や夏なんかも。でも冬も忙しい。 彼女は冥界の姫のおかげでほとんど1年中忙しい。でもそれが仕事だし、自分が居る間は精一杯その仕事をこなそうとしている。 広い庭をそこそこ掃き終えたと言ったところで○○は落ちた赤い葉を箒で掃いてるそんな忙しそうな彼女を見つけた ○○「お~い妖夢~。」 妖夢「あっ○○さん。2日ぶりです。」 ○○は最近週3ペースでここに通っている。2年くらい前から。たまに週7だったりするが基本は週3だ。階段がしんどいから。でも妖夢とゆゆ様には会いたいから。 昔○○は死にそうなところを幽々子に助けてもらい…とそんなことはどうでもいいがとにかく通うことが習慣化し始めてる。寧ろしている。図々しい事この上ない。 ○○「掃除ごくろうさま。今日ゆゆ様いる?」 妖夢「幽々子様ですか?今ちょっとお出かけ中ですが」 ○○「う~ん…まぁいいや。急ぐ用事でもないしな。」 妖夢「用事ですか?私に言って頂ければ幽々子様にお伝えしますが」 ○○「言っちゃっていいのかな?ゆゆ様にまず伝えたかったんだけどなぁ…」 妖夢「迷ったら言うべきですよ。迷って良いことは特に無いと思います」 彼女に斬れないものはあんまりない。そんな性格だ。 ○○「じゃあ言っちゃうわ。こんど妖夢を一日借りれるかなぁと。」 妖夢「えっ!?」 ○○「え? じゃなくて。あぁちょっと言葉が悪かったかな?」 妖夢「ど…どういうことですか! 私を一日借りるて!」 ○○「そのままだよ。ちょっとどこかに出かけたいなぁと。妖夢と。」 妖夢「え~っと……え~っと………幽々子様に聞かなければ…え~~……」 ○○「で、妖夢は大丈夫なの?ぶっちゃけゆゆ様が許してくれても妖夢が決定を下してくれなきゃ無理だろうし」 妖夢「え~~っと……」 ○○「迷っていいことは何もないんじゃなかったっけ?w」 妖夢「そうですが…まぁ私でよければついていきます。」 ○○「ありがとう。ゆゆ様にお世話になっててなんか買ってあげたいけど何買ったらいいかわかんなくてね。そこらへんは妖夢について来てもらった方がいいかな~と。」 妖夢「でも○○さん。幽々子様と結構一緒にいますよね?大体好きな物とかも分かるんじゃないですか?」 ○○「いや、まぁそうなんだけどねwでも、妖夢と一緒にどっかに行きたいんだよ。単純に。」 妖夢「…どういう…ことですか?」 ○○「ゆゆ様の好きな物は知ってるけど妖夢が好きな物はしらないんだぜ?そういうとこを買い物ついでにでも聞こうかなとw」 妖夢「私も…○○さんが好きな物知りたいです。」 ○○「…俺は、妖夢が好きだ。」 妖夢「そうですか…」 ○○「・・・」 妖夢「・・・」 しばらくの沈黙が続いた後彼女は重い口を開いた。 妖夢「○○さん…あなたは最低な人です…」 ○○「え?えぇえ!?」 彼女は目に涙を浮かべていた。明らかに我慢をしていた。 ○○「あ…ごめん! 突然…わるかった。きかなかっ」 そこで遮る様に彼女は言う。 妖夢「いえ!!!いえ…違うんです…」 ○○「え?」 妖夢「私は○○さんあなたのこと好きになってはいけないと思っていました…あなたは人間です。いくら好きになっても私の方が…長く。ずっと永く生きてしまう。」 ○○「…」 妖夢「それに耐え切れなかった…あなたが居ない世界なんて…でも…今は…そんなことを言われて…もっと…耐え切れない…」 ○○「妖夢…」 ○○は妖夢を抱きしめる。優しく。でも彼女との距離を埋めるようにしっかりと。彼女の悲しみ、苦しみが自分にも分けられるように。 そしてこれからの言葉をすべて聞き逃さないように。 妖夢「えっく…わた…しも…○○さんの…こと…が…好きです…私のほう…が…永く…生きます…が…」 彼女の目からは、熱い涙が溢れ出していた。 ○○「…俺もつらいんだよ。…ずっと。ずっと。妖夢。お前を愛せないから…。でも今お前を愛せるなら。 それならそのときに。そのときに目いっぱい愛す。それでも…お前からしたら短すぎる時間しか愛せないがいいか?」 妖夢「私は…そう思ってくれているだけで…十分です。ですが私にそれ以上望むことを許してくださるなら…」 彼女は目を瞑った。○○はそれを見て……そっと。触れるか触れないか。…触れたか。そんなキスをした。 幽々子「熱いわね。秋なのにwあと買い物でもなんでも行きなさいw週末行くことを許すわw」 「「…!!??」」 幽々子「あぁ気にしなくていいのよw幽霊は気づかれないものだから。私はお屋敷に戻ってるから越冬の準備をしなさいw越春させないようにねwあ~疲れたw」 幽々子はいつから観ていたのか。2人はそんな色々な考えを含め血の気が引いたあとに頬を赤くして笑った。お互いの顔を見つめ。 そして軽く。さっきよりは触れるか。くらいのキスを幽々子が背を向けてからした。 秋中口。これからは熱くなりそうだ。 ─────────────────────────────────────────────────────────── うpろだ1218 夏。俺の家。 この前の恨みをはらずべく妖夢に怖いDVDを見せつけ、恐怖の挙句俺のTシャツの中で一夜を過ごしてもらおうかと思う。 そんなことも露知らず日が沈みかけたころにゆゆ様にお泊りの許可を貰った妖夢が家に来た。 「お邪魔しま~す」 お泊りセットかな?ちょっと大きいカバンを両手で重そうに持っている。 「いらっしゃい。それ、持つよ」 そう言って、ひょいとカバンを持ち上げテレビのある部屋まで運ぶ。 そこには人5人は座れるようなでかいソファーがある。 そこで妖夢が怖がるようなビデオを見ようという作戦だ。俺は悪いやつかもしれん。 「で、今日もトランプをするんですか?私またあのポーカーってゲームがしたいです」 ・・・前彼女がこの家に来たとき(そのときはゆゆ様もいたが)「トランプやろうぜ!」といったのがきっかけで 「ポーカーなんかどうかしら?」と全幽霊の彼女が提案する。 妖夢はルールがわからないらしく、一通り説明し終えたあと、妖夢が「じゃあはじめましょうか!」と言った。 だがゲームはどうにも賭けるものが無きゃ盛り上がらない。 そう思ってなにをかけるか考えてる最中に 「何か賭けなきゃ面白くないわね・・・おやつなんてどうかしら?」の提案。 ゆゆ様がカードを配る。 俺がカードを受け取る。(スリーカードか。ボチボチだ。様子見様子見・・・) 妖夢が受け取る(これは○○さんの話だと4カードだったかな?1枚だけ変えよう・・・) …… (ゆゆ様のインチキの)おかげさまで家からおやつがなくなりました。ええ。 ゆゆ様が来てもいいように。と溜め込んだおやつがすべて。 「前回のポーカーのおかげで、家から賭けれるものは無くなったんでね。トランプはパス。」 「残念です。私は今日のためにまたおやつをたくさん持ってきたのに・・・」 またあんなことをやられたら溜まったものではない。 「だから今日はこんなものを見てみたいと思う。ジャン!」 ここで露になる4枚の、表紙からして恐ろしいDVD 「えっ!?」 妖夢の目が泳ぎ始める。表紙だけでもう怖くてたまらないようだ。ふふふ。作戦通り。 「へいへい。まぁ座りなすって」 俺はそういいながらP○2にDVDの1枚を入れる。 妖夢が恐る恐るソファーに座る。そして俺がドカッと座る ビクンッ! 妖夢が震える。まだ始まってもいないのに。俺におびえてどうする。 DVD「オドロオドロオドロ」 ・・・別段たいしたことはない。そう俺が思っていて、ふと横を見ると 布団を抱き枕のようにして目を細めながら見ている妖夢。 「妖夢それ熱く無いの?」 …… 聞こえていないようだ。 「妖夢さ~ん?」 「・・・」 「妖夢!」 「キャァッ!!!!」 「うおっ!?」 「驚かさないでくださいよ・・・」 「驚かせるなよ。」 別にそんな気は無かったが(いや、まぁ少しあった。)こっちが驚いてしまった。 「・・・怖いの?」 「そ・・・そんなことないですよ。あんな人の後ろに映っている影みたいな、恐ろしい顔みたいな・・・いや、怖くは無いですが・・・」 どうやら相当怖いらしい。 「・・・俺このDVD怖いから妖夢、手繋いでくれないか?」 妖夢の顔がすこしだけほころぶ。 そして安心するように妖夢がにゅにゅっと手を絡ませてくる。 ふふふ・・・Tシャツ作戦第一歩に近づいた。 「1枚目終わったみたいだな」 DVDを変えようとP○2に近づこうとすると妖夢もついてくる。 「俺はもう大丈夫だから手、繋いでなくていいよ」 「そ・・・そうですか。じゃあ私は大人しく座ってます・・・」 だがここでさらに目標に一歩近づいてみる。 「あ、ちょっとまって。2枚目も怖そうだから妖夢にまた近くに居てほしいなぁ。たとえば俺のひざの上とか」 お、顔の表情がまた変わった。 「そんなに怖いのならまた私と一緒に見てもいいですよ?」 「そうさせていただきます」 DVD「オドロオドロオドロ」 俺は膝の上に居る妖夢の頭を撫でながらDVDを見ていた。 ・・・だが妖夢の様子がどうにもおかしい。震えているようだ。 「妖夢。寒いの?」 「いえ・・・ちょっと・・・」 さらに一歩踏み出す 「寒いなら俺のTシャツから顔だけ出す形になって見ようよ。そうだ。それがいい」 「それのどこが「それがいい」なんですか・・・」 と、言いつつも妖夢はなかなか乗り気なようだ。 「まぁまぁ妖夢。そう言わずに」 Tシャツを前に伸ばす 「Tシャツが伸びますよ?」 「いやいや妖夢。これは元から大きいサイズだから問題ないんだよ」 買って良かった。P○2と4LのTシャツ。 「じゃあしょうがないですねぇ・・・」 ミッションクリア。 2枚目のDVDは既に終わっているようだ。 俺は妖夢に見えないように満面の笑みを浮かべる。 妖夢はミッションをクリアしてないのに、なぜか満開の笑みを浮かべている。 「なんか嬉しいことあった?」 「いえいえ・・・○○さんのTシャツの中の居心地が良すぎて。このまま眠っちゃいそうです」 「もうどうせだし寝ちゃうか。幸いここはソファーの上。でも俺、怖くて寝れないかも?」 「まだ怖くて寝れないならしょうがないですね。私を抱いたまま寝てもいいですよ?」 「じゃあそうします。ではおやすみ」 「もうしょうがない人ですねぇ」 …… 「ZZZ・・・」 「(もう寝たかな?・・・)」 チュッ 「(・・・えへへ)」 「ZZZzzz・・・!」 「!!??」 ムチュッ 「ZZZzzz」 「もう・・・」 仕返しも済んだ。寝覚めは良さそうだ。 ─────────────────────────────────────────────────────────── うpろだ1229 今日は七夕。 笹に吊るした願いがおそらく叶うであろう日だ。 ・・・ 「○○さんは何を書いたんですか?」 「俺はまぁ・・・こんなんでいいかな」 俺は(彦星と織姫が幸せになりますように)という願いを吊るした。 「あの話、悲しいですよね・・・1年に1回しかあえないなんて」 「まぁな。で、妖夢。お前は何を書いたんだ?」 「え!?・・・他人の願いは見ちゃだめなんですよ?特に私みたいな女性のは」 「俺のはどうなるんだよ」 「えへへ・・・」 頬を赤らめながら妖夢は願いを笹に吊るす。 少し気になったがまぁ見るなと言われた物を見るのもなんなのでそのまま屋敷に戻る。 ・・・ 俺と妖夢ははゆゆ様に夢への挨拶を交わし、二人の寛ぎタイムを満喫していた。 幸せな時間 「ちょっと外行って見てみましょうよ!」 「・・・?何を?」 「星ですよ!星!もぅ。しっかりしてくださいよ!」 「星?」 「だめだめですねー。○○さんは。今日は七夕。この時間。」 ここでやっと今日が七夕だと言うことに気がついた 「あぁ・・・もう七夕か。最近ドタバタしてて忘れてたわ。」 「うっかり物ですねぇ。○○さんは」 「願いを書いたのも妖夢がなんか張り切っちゃって、大分前に書いたし、そりゃ忘れてるわな」 願いを書いたのは6月上旬の話である。 「・・・そ、それはともかく、縁側で星を見ましょうよ」 「あいよ」 今日の妖夢は何故かテンションが高い トタトタと少し歩く妖夢の後に付いていくと、すぐに縁側につき、腰を下ろし二人で空を見上げる 「わぁーっ。綺麗ですねー」 「本当にな。アレなら彦星と織姫も幸せになれるだろうな」 「○○さんの願いはきっと叶ったでしょうね」 「だな。で、妖夢の願いは叶いそうか?」 「・・・」 「どうした?」 突然彼女の顔が少し暗くなった。 「あぁ・・・いえ。なんでもないです。それよりも星ですよ!星!本当に綺麗・・・」 なんだかよくわからないが少し妖夢が暗い。本気の冗談でも言ってやろう 「星も綺麗だけど、妖夢。お前のほうがずっとずっと綺麗だぜ!」 「えっ!?」 暗かった彼女の顔が明るくなった。そして絶好の機会だ。偽りの無い思いをぶつける。 「妖夢。好きだ。ぜ」 言ってやったぜ。 「○○さん」 ・・・あら?声のトーンが低い・・・ 「・・・なんだ?」 「ありがとうございます・・・」 泣いてる。妖夢が。 「私の、願い。叶いました。今」 「・・・なんて願いだったんだ?」 「(○○さんと、私が、幸せになれるように)って」 「妖夢・・・」 目を瞑っている彼女の、眼の下を流れてる幸せの涙を指でさっとふき取り、軽くキスをする。 「・・・七夕は本当に願いが叶うんですね」 涙が残る彼女は、それでも満面の笑みでそう言う 「俺は彦星ほどロマンチストじゃあないがな。でも毎日会いに来れる。1年に1回なんてケチなことは言わん」 「えへへ。本当ですね?」 「あぁ本当だ。これから来年彦星と織姫が会う日まで。ずっと。その次に2人が会うときまで。その次まで。その次まで。ずっと。会いに来る」 「約束ですよ?」 そういって俺の手を硬く握る いちゃいちゃしすぎてゆゆ様に永遠に別れさせられないよう、適度にいちゃいちゃしよう。 そう思い、一息吐いて妖夢の手を強く握り返した ─────────────────────────────────────────────────────────── うpろだ1234 今日は俺の誕生日。別段何かあるわけではないが、少しだけテンションが上がる。 白玉楼に向かい、暑くだれつつも階段を上り終えた直後に、お出迎えが。 「○○さん!誕生日おめでとうございます!」 「・・・え?」 可愛い妖夢はやはり俺の誕生日をしっかり覚えていてくれたらしい。 でも、そのまま返すのも味が無いので少しおちょくってみよう。 「・・・え?」 なにが?と言った感じで口をポカンと開けた妖夢も可愛い。 「妖夢、俺誕生日昨日なんだけど・・・」 ここで迫真の演技。俺は悲みの表情を浮かべる。フリをする。 「あ、あ、あ。すいません!人の誕生日を間違うなんて!」 こんなにあわてるとは思ってなかった。ちょっとだけ反省。可愛い妖夢がかわいそうなのでここでネタバレ。 「いや、ごめん。冗談。」 「え!?冗談!?」 「そうなんだな。本当は今日が俺の誕生日。有難う妖夢」 「冗談て・・・ひどいです」 心が痛くなる。軽々しく冗談は言うものじゃないな。 「でも今日が誕生日でよかったです・・・」 今日が誕生日でなく、何か不具合でもあるのだろうか。 「あの、私○○さんに内緒で、ケーキを買っておいたんです。誕生日プレゼントとして」 これは嬉驚きだ。プレゼントを期待してきたわけではないので、予想外だった。 「ありがと、妖夢。ちなみに、冗談じゃなかったらやばかったな。この季節」 暑い上に乳製品と来れば腐る。 「喜んでいただいて幸いです。・・・そうですねぇ。最近は暑いですからねぇ。」 腐るならばその前に食す。やられる前にやれ。だ。 「まぁそうとなればさっさと一緒に食べような。3人分買ってきてるんだよな?」 「はい。幽々子様の分に私の分。そして○○さんの分です」 ゆゆ様が居るから4人分くらいでも良かったかな~、なんて、思いながら妖夢と手を取り屋敷に向かう。 「掃除も終わって○○さんもつれてきました」 「あ、こんにちわ」 「あら、こんにちわ○○。今日はおいしいケーキが合ったんだけど、食べちゃったわ」 ・・・なんかちょっとだけ予想通り。 「幽々子様!あの3つ合ったものを全部食べちゃったんですか!?」 「2つだけ食べたんだけど・・・妖夢がひとつ食べると思って」 いや、ゆゆ様はまぁ正しい。俺が来るなんて考えても居なかっただろう。 「妖夢。俺は別にいらないわ。妖夢が食べていいよ。気持ちだけで十分だから」 気持ちだけでも本当に十分だ。 「いえいえ!○○さんのために買ってきたんですから、○○さんが食べてください」 「いやいや、あとひとつしかないんでしょ?じゃあ妖夢が食べていいよ。俺は遠慮する」 ・・・このままではラチがあかないとゆゆ様は思ったのか、こう提案した。 「じゃあ私が食べたら」 「それはダメです!」 妖夢が怒った。可愛い妖夢はどうしても俺に食わせたいらしい。 「冗談よ~冗談。じゃあ妖夢と○○。半分にしてでも食べたらどうかしら?」 あ、普通にそれがあったか。 「私はもうおなかいっぱいだから、部屋に戻って寛いでるわ。そのケーキおいしかったわよ」 そういい残しゆゆ様はふやふやと去っていった。 「じゃあ、妖夢。ちょっとなんかフォークとかもう一本持ってきて。切ってそれ渡すから」 「いえ、あの~・・・(あ~ん)ってしてもらえませんか?・・・」 そんな願いならお安い御用だ。 「じゃあ妖夢。あ~ん」 「あ~ん・・・ん?」 「ケーキうめえ」 妖夢の口に近づけてから俺の口に運んだ。 「まただました・・・」 ちょっと反省。 「妖夢。妖夢。あ~ん」 「あ~ん・・・あ、なんかこのケーキ、おいしいですけど凄い甘くないですか?」 「そうか?」 「いえいえ、甘いですよ。」 「そうかなぁ・・・俺らが勝ってるからよくわからん」 このセリフを言った直後妖夢がむせた。 「ゴホッ!ゴホッ!」 「ごめん妖夢!ほんの冗談だって!!!」 今日の妖夢は冗談に振り回されてる。いや、俺は冗談で言ったつもりは無かったんだが。冗談だが。本気だが。 むせてなみだ目になってる妖夢が言う。 「・・・こんなに甘いんですから、何も心配はいりませんね。これからも甘くありますように」 心配無用。現在進行、未来進行、過去進行だ。 「じゃあ、あ~ん」 こんなにもひとつのケーキが大きく感じた事は今までに無かったなぁ。 そんなことを思いながらケーキを噛み締める。 最初の一口より甘い気がした。 ─────────────────────────────────────────────────────────── うpろだ1422 「○○さ~ん」 「はいよ」 百玉楼の昼。普段なら妖夢が働いている時間。 俺は妖夢に呼ばれて寝室に行く。 寝込んでいる妖夢の元へ。 「ちょっと水換えてもらえますか?」 「お安い御用だよ。まだ全然?」 「そこそこです。ゴホッ」 珍しく妖夢が風邪を引いているのである。 朝起きた時の妖夢は顔色が悪く、熱を測った時には39度あった。 今は「そこそこ」らしい。 だが、顔が赤い。 タオル用の水を換えに台所に歩いて行く途中、心配そうなゆゆ様に声を掛けられる 「○○?妖夢は大丈夫?」 「いやー。結構まだ、酷そうでした」 「そうなの…じゃあ○○。今日は妖夢に付っきりで居てあげて」 今日の食事は大丈夫なのか?等の疑問が心を過ぎったが、はいとだけ、返事をした。 それなりに考えがあっての発言なんだと思う。いや、妖夢と僕が居なくて困るのは食事くらいなんだけど。 冷たい水を汲みなおし、妖夢の元へ行く。 部屋の前に立つと、咳の音が響く。辛そうだ。 妖夢の側まで行き、腰を下ろす 「大丈夫か?」 「大丈夫です。ゴホン」 上半身を起こし、喉に何かが詰まったような声で返事をする 「無理するな。ゆゆ様にも今日休めって言われたんだしさ」 しゅん。として、布団に体を預ける いつもの元気な妖夢が嘘のようだ 「さっきゆゆ様に妖夢を見ててって言われたんだよね。ほら、タオル換えるよ」 少し寂しそうな顔をしている妖夢のおでこからタオルを取る かなり温くなっている。熱があまり下がってないみたいだ。 「妖夢。熱測って」 寝巻きの襟元から体温計を入れる。 体温計を入れ、黙ったままの妖夢に話しかける 「あのさ、さっき「大丈夫です」って言っただろ?でも、傍目から見てもやばそうだし、妖夢自身も今日は無理だと分かってるよね?」 妖夢が心苦しそうに布団の中に顔を半分隠す 「あんまり無茶しないようにしてくれよ。ゆゆ様も心配するし、僕も心配する」 タオルを乗せる前に手で妖夢のおでこに手を添える。 かなり熱い。体温計を取り出して見てみると、39度ちょっとあった。 ため息をつき、絞ったタオルを妖夢のおでこに乗せ、頭を撫でてから言う 「僕も、勿論ゆゆ様も大切に思ってるんだよ。妖夢の事。だから、あんまり無茶しないでくれ。頼むから」 「…はい」 苦しそうな顔で妖夢が笑う 「こんな日ぐらい甘えてもいいんだぞ?さっきも言ったけど僕は今日、妖夢に付いててもいいらしいし。僕に出来ることなら何でもするよ」 少し悩んで恥ずかしそうに妖夢は言う 「あの、さっき頭撫でてもらったときに、少しだけ頭痛が引いた気がしたんです」 「なんだ。そんなことか」 そう言って妖夢の頭を撫でる 本当に少し安らぐようだ。顔の雰囲気どこか柔らかくなる。 「どうよ?」 「気持ちいいです…」 ゆっくりと髪をなぞると、妖夢は目を細める 空いてるほうの手の甲で頬を触るとまだまだ熱い 「妖夢が辛そうなのに、僕はこの程度の事しかできないなんてな。妖夢の風邪が僕に移ればいいのに」 その言葉を聞いた妖夢は目を少し開き、間をおいてこう言った 「さっき○○さんは私の事を大切にしてくれてると言いましたよね?」 俺は妖夢の頭を撫でながら頷く 「それは、私からも言えることなんです。○○さんも幽々子様も私の大切な人。そんな私の風邪を移してまで、治りたいとは思わないんです」 「…大切なんですよ。私にとって○○さんは」 ここで気づく。妖夢の目から少しだけ涙があふれている事に そっと涙を払って妖夢の横に横たわり、視線を合わせる 「…ごめん妖夢。何も考えないで言っちゃった。本当にごめん。そんな大切に思われてたなんて」 そう言って妖夢を布団の上から抱きしめ、背中をポンポンと叩く 「まだ頭撫でる?」 「いえ、もうそろそろ大丈夫です。不思議なことに頭痛は大分引きました」 よかった。いや、でも熱もあるだろうし、そこまでよくは無いんだろうな。等と思っているとまた妖夢に声を掛けられる 「あの、○○さん。少し寒いんですけど」 「布団、もう一枚持ってくる?」 「いえ、○○さんが布団の中に入って暖めてください」 赤い顔のまま、悪戯っ子の様な笑みを浮かべ布団の中へ誘われる。 僕は溜息をつくと、妖夢の布団の中にもぐりこみ、大切に抱きしめる 妖夢が胸に頭を埋める 「温かい…」 「楽になる?」 「えへ。楽になります」 心なしか自分の頬を妖夢の頬に当てると、少しだけ熱が下がっているような気がした 「○○さん。熱が引いても、たまにはこういう風に甘えて良いでしょうか?」 「大歓迎だよ。「たまに」なんてけち臭いことは言わずにね」 僕が言うと、妖夢は胸に埋めていた頭を出して、目を閉じた そんな妖夢に軽く口付けをすると幸せそうにそのまま眠りについた。 妖夢に抱きしめられているので、起きるまでは動けないようだ。 たまにはこんな日もいいだろう。寧ろ毎日でも。 ───────────────────────────────────────────────────────────
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紫21 Anniversary(Megalith 2012/04/20) カラン、と手桶の中の柄杓が音を鳴らす。 卸したてでまだ木目がよく分かる真新しい手桶。 だが、その中身は先ほどまたたく間にして透明な液体によって色濃くなっていた。 来た時よりも重くなった手桶を持ち上げ、空いている手で置いたままになっていた持ち物を拾い上げる。 片側に重量が加わった分だけ重心が傾きそうだったが、行き先までは大して距離があるわけではないので堪えることにした。 傾斜の緩やかな坂を一歩、また一歩と登っていく。 見晴らしの良いその場所は、決して華やかだとは言えない。 ただ、そこにあるのは積み上げられた石。 乱雑に積み上げられた有象無象なものではなく、意図的に形作られたものだ。 そんな石には、簡潔にこう書かれている。 "ここに眠る"と。 「久しぶりね」 今そこには彼女以外には誰も存在せず、ただそこにあるのは喋ることのない冷たい石だけ。 誰に対して問いかけたのかは、彼女以外には分からない。 果たしてその言葉に意味があったのか。それは彼女だけが知っている。 「……すまないわね、この前はあんまり時間がなくて」 そう告げて、いとおしいかのように綺麗で滑らかな場所を撫でる。 まるで、いとおしい人が目の前に居るかのように。 ゆっくりと、優しく。 「大丈夫よ、今日は何もないから」 そう言って辿り着いた時に置いたままになっていた手桶を手に取り、柄杓を使って水をかけ始めた。 土埃がついていたのか、少し明るくなったようにも見えた。 手桶の水がなくなり始めた頃、持ってきていたものを広げ始める。 紙にくるまれたそれは、花。 真紅に染まった、真っ赤な菊の花。 それをそっと、石の前に供えた。 「あなたに相応しい色でしょ?他にもいろいろな色はあったのだけれど」 「やっぱりあなたにはそれが一番似合うわ」 返す言葉はない。 ただ片方が一方的に喋るだけの会話。 しかし、彼女は嬉しそうだった。 返答の無い言葉のキャッチボールは続く。 「藍があなたの日記を見つけたわよ、勝手だけど見させてもらったわ」 「……随分恥ずかしいことを書いてくれたじゃない、見てる方が真っ赤になるくらいに」 「大体ねぇ、日記なのに私のことばかり書いてるっておかしいわよ」 「ほんと、馬鹿ねぇ」 そう話す彼女の言葉はどう考えても罵倒なのだが、その口調と表情は真逆のものだった。 どうしようもないと半ば諦めたかのように、でもそれは決して失望ではなく。 優しさと、愛情に溢れていたのは誰の目から見ても明らかなものだと断言できる。 「今日は天気が良かったので散歩していたら笑顔で日傘を持った女性に追いかけられた」 「なんとか帰ってきたけど紫に心配されてしまった、それもそうか」 「………あのねぇ、あのとき私がどれだけ心配したと思ってるの?」 「寝て起きてあなたを迎えに行ったら、血まみれでボロボロになっているなんて誰が想像するのよ」 「全くおかげでいい目覚ましにはなったけど。心臓が止まるかと思ったわ」 けれど、その表情は少しずつ変わっていく。 「………心臓なんてあるのかですって?あなた何度も私の鼓動を聞いていたでしょう」 「そんなことを忘れるなんて馬鹿ねぇ」 ポツリ、と一つ水滴が一つ大地へと落ちていく。 それは土に触れあったと同時に飛散し、シミとなっていった。 「全く……他にもあったわね」 「今日も人里へと向かうことにした、もうすぐ完成だ」 「しかしどうしたんだろうか、紫の機嫌が日に日に悪くなっていく」 「びっくりさせようとするのは分かるわ、確かにあなたの気持ちは嬉しかった」 「手作りの指輪、すごく綺麗だった」 「でもねぇ、流石に私のことを放置は酷くないかしら?一番堪えたわよ」 「平手一発で手を打ってあげたけど、やっぱり今思い出しても腹が立つわね」 「………ほんと、馬鹿ね」 その後もまだまだお喋りは続く。 過去を懐かしむように、ひとつひとつ噛みしめるかのように。 ………けれど。 ポツリ、ポツリと水滴が地に落ちるのは未だ止むことはない。 いや、むしろ先ほどよりもその勢いを増していた。 ついに堰き止めるものがなくなったかのように、それは大地に降り注いでいく。 「……ねぇ、なんとか言ってよ」 「いつもみたいに、うるせぇって返してよ」 「ずっとずっと聞いてないから、寂しいから」 「お願い、もう一度だけ聞かせて」 「―――――――――――あなた」 それ以上、彼女は何も喋ることは無かった。 未だ空は晴れているその日の下で、祈りをささげるかのように一人彼女はうずくまったまま。 そんな彼女の願いを裏切るかのごとく、冷たい石は何も返さない。 「うるせぇ」 それは、偶然。 風に乗って、そんな声が聞こえた気がして。 その声が正しかったのか間違っているのか、それは気にすることではない。 「――――――――――――――」 「……やっと、返してくれたわね」 「馬鹿」 彼女にとって、その言葉こそが最も待ち望んだことだから。 見上げた先には―――――――――――――――――――。 その瞳に映った景色は、彼女だけが知っている。 あれからどれだけの時が経ったのだろう、とそう考えることでさえも繰り返した回数は分からない。 いつもいつも変わらない日常、ただただ同じことを繰り返すだけの日々。 そんな反復運動を何も考えないで出来るようになった頃。 「そしてそれも今日が最後、か」 あの説教好きな閻魔様や、やたら気のいい死神ともこれでお別れになる。 今、右手に持っている紙を提出してしまえば。 貰った当初とでは大違いなほどに色褪せて、端がボロボロになったその紙には判子が押されている。 この判子を貰うために、どれだけの苦労と時間を重ねたかはもう分からない。 たった一つの判子を貰うことでさえ、地獄の方がマシかなと思えるほどに。 しかし、ようやく手に入れることが出来た。 "右の者を、以下の通りに転生することを許可する" 書き殴った攻撃的な彼の文字の下に圧倒的な存在感を放つそれを。 そこにでかでかと押された、貰ったばかりの判子を。 「閻魔様、お久しぶりです」 「あなたは……」 書類の整理が一段落着いたのか、休憩中のようだった。 ティーカップに注がれたオレンジの液体が未だ湯気を放つところからするに、まだ淹れたてなのだろう。 常識的に考えれば、休憩中に仕事を持ってくることにはあまりいい顔はしないだろう。 それが普通ならば、だが。 「……まさか、本当に有言実行するとは思っていませんでした」 「舐めて貰っちゃ困りますよ」 そう告げた彼女の顔は驚き一色であり、とても信じられないようなものを見ている表情だった。 まさしく今回のことは"絵にかいた餅を、本当に食べられるようにした"というくらいに無茶なもの。 道理を無茶で押し通す、という常識破りなことをしたのだからさぞ驚いたのだろう。 無理だと言い張っていた彼女の唖然とした顔を、今すぐにでも拝みたくなった。 それが、休憩中だと分かっていても彼女の元へやってきた理由。 「しかし、酔狂な方ですね」 「一途なんですよ」 彼からしてみれば、始めからそれしかなかったのだ。 それ以外は頭になかったから。 「さぞあなたに思われている方は幸せでしょうね、……ただ」 「分かりません、どうして彼女を好きになったのか」 「人であるあなたが、なぜ妖怪を好きになったのでしょう?」 狂気の沙汰と言われるかもしれない。 ………でも、それでもいいと。 たった一つの目的のためにここまでたどり着かせたのは、その信念なのだから。 「誰がどう言おうとどうでもいいんですよ」 「俺とって何が大切なのか?それで充分なんです」 「紫を愛している。それが何より大事なことですから」 ゴールは目の前…………いや。 ―――――――――――――スタートラインは目の前にまで来ている。 「さよなら、閻魔様。……行ってきます」 「…………はい、気をつけて」 そうして、彼は彼岸を後にする。 目指すは、愛する人のもとへ。 「……ねぇ、なんとか言ってよ」 「いつもみたいに、うるせぇって返してよ」 「ずっとずっと聞いてないから、寂しいから」 「お願い、もう一度だけ聞かせて」 「―――――――――――あなた」 どうやら彼女がお呼びらしい。 さあ。 今こそ二度目の産声を上げよう。 「うるせぇ」 そう言って彼女が顔を上げたあの時の光景は、彼だけが知っている。 特に考えないで書いたらこうなった。もっとイチャイチャさせるべきだったと反省。 生きる意味(Megalith 2012/04/24) ○月○日 今日、俺は幻想郷と言う場所に連れてこられた。 というのも、金髪の日傘を持った女性に会ったがゆえにそうなってしまったのである。 有無を言わさずいきなり空間が裂けて、気がついたら赤い無数の目の漂う場所にいた。 そして笑みを浮かべながら近づいてくる彼女、その光景を見た感想は。 「綺麗だ」 そう一言告げただけなのに、そのまま固まったかと思えば俺の脚元の空間が裂け、いつのまにか見知らぬ土地へと来ていたのだ。 よく分からないが、九本の尾を持つ狐の八雲藍という女性がいろいろと便宜を図ってくれたおかげで今日の寝床には困らなかった。 見たところは人に見えるが、どうも雰囲気が少し違っているように見える。 妖怪だと自らの正体を明かした辺り、やはり本当のことなのだろう。 しかしながら、俺をさらった張本人は俺の目の前に姿を現さない。 どうしたのだろうか。 藍さんは明日になれば分かる、と言っていた。 その言葉を信じて、今日はもう寝よう。 ○月●日 狐、こと藍さんに起床の時間だと告げられ、身支度をして居間へと向かう。 だが期待に反して、まだ彼女は起きていないようだ。 早く食えと藍さんに急かされたので、藍さんと一緒に食事を取ることにする。 そして食事中に、戸が開きだした。 寝巻で寝ぼけ眼のままで藍さんを呼ぼうとしたのか、その瞬間彼女と目があった。 やはり綺麗だなと感心していたら、なぜか急に戸を閉めてしまってドタドタとどこかへ行ってしまった。 結局、その日も彼女に出会うことは無かった。 なぜ俺がここに連れてこられたのか、その意味は未だ分からないままだ。 ○月△日 俺がここへきてから一週間後、ようやく彼女と会話することが出来た。 思えば随分長かったが、その間の待遇はかなり良かったから文句一つ無い。 さて、ようやく話が出来ると思っていたがその考えはどうも違ったらしい。 俯き加減で告げた第一声。 「あの時、綺麗って言っていたわね。私のこと?」 「そうだ」 今日の会話はこれまでである。 「今日はもういいわ」とか細い声で言われたかと思えば、彼女は姿を消していた。 本当に何なのだろうか。 ●月△日 初めて会話するのに一週間かかったのだから、次も一週間かかるのだろうかと思っていたら今度は違った。 一ヵ月。 まさかだった。 二度目に会うだけでここまでかかるとは考えていなかった。 しかしここの生活にも随分慣れたもので、藍さんと共にこの屋敷の家事を分担する程度にはなっている。 その家事の途中、いつものように料理の仕込みをしていたときに彼女とばったり遭遇した。 俺を見たかと思えば、一目散に逃げ出す彼女。 もう当たり前のようになっていたから、今回も逃げ出すのだろうとそう考えていた。 「ね、ねぇ。あなたのあの言葉に嘘偽りはないのよね?」 そう問いかけてくる彼女に振り返って告げた。 「何度聞かれても答えは同じ、……貴方は綺麗だ」 その先に居たのは、真っ赤な顔で微笑む一人の少女。 初対面の時とは大違いなその態度に、心揺らいだのは確かだ。 また彼女に会えるといい、そう思った。 ●月▽日 あの日以来、彼女……紫さんは俺から逃げることはしなくなった。 それでも未だ俺と顔は合わせてはくれないが、それでも進歩したものだと思う。 なぜ俺はここに連れてこられたのか、その意味を問おうとも考えたのだが。 答えを聞いてしまったら、なぜかもうここにはいられない気がして。 紫さんの笑顔がもう見られない気がして。 だから俺は、その疑問にそっと蓋をすることにした。 ●月◇日 藍さんと共に人里に降りた。 特に何か用があったわけではないのだが、その後に紫さんに全力で詰め寄られた。 何もないよと言うのだが、紫さんは信じてくれなかった。 一人で置いていかれたのが悲しかったのだろうか、今度一緒に行こうと誘うことにする。 ●月□日 紫さんを誘うことに成功したのだが、行き先は紫さんが決めたいと言うので一任した。 辿り着いた先は、見事な桜の散る場所だった。 その場所には紫さんの友人がいた。 とても俺に良くしてくれて、いい人だった。 ただ、紫さんの友人こと幽々子さんが俺を見て驚いていたのは何故だろう? ●月☆日 今日、俺は気がついた。 俺は紫さんが好きなんだ。 調子はどう?と気軽に問いかけてくる紫さんに。 美味しいわね、と俺の料理を褒めてくれる紫さんに。 じっ、とこちらを見つめている紫さんに。 月が綺麗ね、と横で微笑む紫さんに。 いつの間にか、俺は惹かれていた。 だから俺は決めた。 明日、その思いを告げよう。 ●月★日 紫さんを誘い出したその帰り道、小さな丘の上で夕焼けを眺めているところで告白した。 始めは何も反応がなくて辛かったが、紫さんの後ろの夕焼けに負けないくらいに顔を真っ赤にして答えてくれた。 「はい、私もあなたが好きです」 それを聞いて、俺も彼女に負けないくらいに真っ赤になっていたはずだ。 日が暮れるから帰ろうと、立ち上がって歩き出そうとした時。 手を繋いでくれたあの時の光景は、今でも目に焼き付いている。 今日は人生最良の日だった。 ああ、今日は眠れるだろうか? △月○日 昼食を済ませた後、縁側でのんびりしていたら紫が隣に座った。 そこまでならいつもと同じなのだが、今日は違った。 「最初はね、あなたを食べるつもりで攫ったの」 ……もう聞くまいと思っていたその答えを、紫の口から聞くこととなった。 「でもね、あの言葉がそれを押し留まらせたの」 「長い時を生きてきて、まさか一言だけでそこまで心乱されるなんて考えたこともなかった」 「でもそれと同時に、嬉しかった。……こんな気持ちは始めてよ」 そう言って、彼女の本音と共に"気持ち"を俺は受け取った。 あの後で死ぬほどからかわれたけど、悪い気はしなかった。 △月●日 朝起きたと同時に目に移り込んだのは紫の寝顔だった。 おかしい、俺は確かに寝る前に日記を書いてから一人で寝ていたはずだ。 紫を起こそうかと思ったが、その安らかな寝顔を見ていると起こすのが躊躇われた。 音を立てずに布団から出ようとするが、袖を引かれていることに気がついた。 ゆっくりと一本一本指を引き離そうと試みるが、人と妖怪の力では違いすぎるのか俺では無理だった。 仕方ないと諦めて、紫と一緒に寝ることにした。 たまにはこんな日もあってもいいだろう、そんな日だった。 ただ、起きたら日が暮れていたのは予想外だったが。 △月◇日 今日は天気が良かったので散歩していたら、笑顔で日傘を持った女性に追いかけられた。 なんとか帰ってきたけど紫に心配されてしまった、それもそうか。 寝起き対面でボロボロの血まみれになっているなんて誰も予想しないだろう。 怒りながらも手当してくれた紫には感謝だ、ありがとう。 でも最近物を落とすことが多くなってきた、年なのだろうか。 ◇月○日 最近変な夢をよく見る。 なんでだろう、俺が人を襲う夢だ。 でも起きて見ればなんてことなくて、いつも通り。 ただの夢だろうけど、どうしてあんなにも鮮明に俺は覚えているのだろう? ◇月◎日 夜にふと目が覚めると、俺は人里に居た。 辺りには倒れた人がいた。 大丈夫ですか、と肩を揺さぶるが反応は無い。 そしてもう一度気がつくと、俺はまたいつもの部屋に居た。 ……おかしい、何かがおかしい。 ◇月□日 思い出した、全部思い出した。 人を襲っていたのは俺だ。 それに、俺はもうとっくにこの世からいない。 ここに来る前に、戦争で命を落としている。 生きたいという願いがいつしか俺を亡霊とさせ。 そうして過ごすうちにその理由さえ忘れ。 ごく当たり前のように、人として生きていた。 ……人の活力を吸い続けることによって。 人だと思って生きてきたけれど、実はそうじゃなかった。 俺は、人ではなかった。 それにもう、体も少し透けてきている気がする。 あまり時間もないのだろう。 生きることを実感し始めたから、その願いが達成されていくごとに成仏へと向かっているのだ。 あと三日、それが俺に残された最後の時間。 終わらせよう、全部。 いい加減、この世から成仏してもいい頃のはずだ。 今を生きる人たちにとって、俺は邪魔でしかないから。 死者がいつまでも生者にとりつくわけにはいかない。 でも、最後くらいは紫にいいところを見せよう。 それで、成仏できるはずだから。 ◇月☆日 今日も人里へと向かうことにした、もうすぐ完成だ。 しかしどうしたんだろうか、紫の機嫌が日に日に悪くなっていく。 だけどそれも明日で終わり、紫がどんな顔をするかが楽しみだ。 ◇月★日 里から返ってきた直後、紫が待ち構えていた。 ちょうどいい、と先ほど完成したばかりの指輪を渡そうとしたのだが。 その異様な雰囲気にたじろいでしまった。 どうも人里に内緒で通い詰めていることに疑いを持っていたらしい。 ……例えば、寺子屋の先生に浮気したとか。 そんなことは無いとそれを証明するために指輪を手渡したのだけど、直後に一発平手を浴びてしまった。 予想していた紫の行動とは違っていたので驚いてしまい、かなり頬は痛かったがどうでもよくなっていた。 「私を悲しませた罰よ」 そう言って泣きながら彼女は、俺に抱きついてきた。 その涙は悲しみでもあったのだろうけど、多分嬉しさもあったと思いたい。 帰った後のことは、俺と紫だけの秘密にしておこう。 でも、これでもう思い残すことは何もない。 最後に俺の気持ちを伝えることが出来て、よかった。 本当に、よかった。 嘘だ。 俺は、まだ生きていたい。 成仏なんてしたくない。 消えたくない。 生きて、彼女と共に添い遂げたい。 願わくば、彼女と共に。 ずっと、隣で歩き続けたい。 神様がいるならどうか聞いてください、どうか。 どうか、もう一度彼女と――――――――――――――――――――――。 パチパチ、と枯れ葉が燃える音がする。 山のようにかき集めたその枯れ葉は、いつの間にかそのかさを減らしていた。 その前に佇むのは一人の男。 彼が、この集めた枯れ葉に火をつけた張本人だ。 右手に持っていた棒で、もう燃えることのなくなった枯れ葉の山を何かを探すようにかき回す。 すると、紙にくるまれた長くて太い何かを手元に引き寄せていく。 一つ、二つ、三つ、四つ。 合計八つの何かが彼の元に集結する。 分厚い手袋を何重にも嵌めたのち、それを持ち上げて。 二つに折った。 その物体の中身は、食欲をそそるような見事な色。 焼き加減ともに完璧であることを示す、確かな証拠だった。 「調子はどう?」 「ああ、上手く仕上がった」 どこからともなく現れた女性に対して、二つに折った片割れを手渡す。 湯気を放つそれを素手で掴むが、何の反応も示さないあたり彼女が尋常でないことを表していた。 そんなことはどうでもいいのか、それを包む紙と黒くなりかけた中身を包んでいるものを取っていく。 現れたのは、彼女のよく知る化け猫と同じ色をしている巨大な物。 「いい色じゃない、流石ね」 「ありがとう、そう言ってもらえて嬉しい」 召し上がれの言葉とともに、彼女は一口。 「美味しいわ」 「そいつはどうも」 彼の覚えている、大好きな彼女の笑顔がそこにあった。 それを見届けた後、四角形の分厚い何かを枯れ葉の中へ投下する。 発火性の高い液体を充分につけていたお陰か、小さな火種で充分に燃え盛った。 「……さよなら、亡霊さん」 その煙はどこまでも、どこまでも。 高く昇っていくようだった。 「紫」 「何かしら?」 「今、幸せか?」 「―――――――――――ええ、とっても」 「だって、あなたがいるんですもの」 一応前作の"Anniversary"の続きだったりしますが、別に読まなくても分かるようにしました。 というかそれが大変でした。 イチャイチャできたので満足。 Megalith 2012/05/07 ――女友達と3人で暮らしていて交替で夕飯を作っているのですが、どうしてもマンネリになってしまいます。 2人は麺料理が好きなので何かおいしい麺料理を教えてくださいm(__)m 八雲紫(24歳) 「コレ、お前だろ」 と、彼は私の目の前にあるメモ書きを差し出した。 何かと思い、その紙片に書かれた文字を読み―― 「おい、聞いてんのか?」 文字通り停止してしまった。私ともあろうものが、情けない。 しかし、ここ幻想郷でコレを知る事は出来ないはず。 「一体、どこでこれを……?」 「……お前、俺が前に頼んでやって貰ったこと、素で忘れてるだろ?」 はて、目の前のため息をつく男に私は何かしてやったことがあっただろうか。 時折、私の式神と仲良さそうにしている所に茶々を入れたりはしていたけど。 「隙間、電波、ラジオとテレビ。これで思い出したか?」 「あー……ああ!」 思い出した。 自家発電出来るようになったが電波が拾えないと苦悩していた彼の為に、 小さな隙間を開いてやったのだった。 テレビ等も使えるようになったといたく感謝されていた事は覚えているのだが―― 「……もしかして、全部見てた?」 「衝撃のあまり茶を吹き出して、それを拭き取る間以外は見てた」 「いーやーーーーー!」 まさか知人に、よりにもよって彼に見られていたとは。 羞恥のあまりにスキマへと逃げ出そうとするも、彼に腕を掴まれてそれも失敗に終わる。 「はーなーしーてー!知られてしまったからには、知られてしまったからにはあああ」 「馬鹿、待て、落ち着け、腕を振り回すな危ない」 空いていた方の腕をぐるぐると振り回すも、うまい具合に彼に絡め取られてしまった。 「別に何も馬鹿にする為にこれを見せたわけじゃない――まったく」 「……ぐす」 知らずの内に涙が出ていたようだが、両腕を掴まれてしまっていては、拭う事も出来ない。 私を捕まえている彼は再び、先程よりは大きめのため息を付くと私を開放し、涙をその手で拭った。 「わざわざ外界になど頼らずとも、俺に聞けばよかろうに」 「だって……」 あなたは、知らないから。 そう口から出かけた言葉を、無理矢理抑えこむ。 わざわざ外界のテレビ番組に投書をしてまで聞き出そうとした料理の情報、それは―― (あなたが、そういうの好きだって、言ってたから……こっそり、驚かせようと思って) だからこそ、紫は自身の立場などを無視してあのような事をしていたのだ。 それを本人に悟られたくはないし、悟られでもしたら恥ずかしくて合わせる顔もなくなってしまう。 「……それで」 「?」 「……何か、美味しい料理は、紹介してもらえたのか」 視線を私から外し、ぽつりと呟く彼の頬は僅かに赤い。不器用ながらにフォローをしてくれているようである。 そんな小さな事でも堪らなく嬉しく感じた紫は、彼の胸へと飛び込む事にした。 「うおっと」 「素敵な素敵なお料理を紹介してもらえたわ。 だから……今から貴方に、作ってあげるわね!」 いつだったかの料理番組に、八雲紫名義で投稿していた猛者がいたのを思い出し。 Megalith 2012/07/11 夢を見ている。 不思議なことだが、目の前で起きていることが夢だと知っている。 夢だと分かっていながらも、妙に現実味を帯びていると実感はしているのだけど、それでも夢だと疑うことは無い。 誰かの視点でそれを見ているだけ、というわけでもないし、この体が自分の意思以外で勝手に動いているということも無い。 ぐっと手の平を握れば、そこにあるのは自分の拳。 それを開けば五本指の自分のよく見た手の平がそこにある。 誰かじゃなくて、五体全てが自分の意思で動かせる。 「あら、もう来てたのね」 そう聞こえたその先から声に少しだけ顔を上げれば、日傘を持った金髪の女性が目の前にいる。 少女というよりは大人の女性と言った方が正しいのだろうか、見る限りではそうとしか思えない次第だ。 整えられたパーツと、それらが最適であろう位置についているその顔は、今まで見たことが無いくらいの美人だといえようか。 二十年程度しか生きていない若造ではあるけれど、見てきた限りの中では間違いなく一番だと自信を持って答えられる。 そんな美人さんが、いつも現れるのだ。 夢の中だけに。 「明日が早いから、いつもよりも早く寝ることにしたんだ」 「そうなの?残念ね」 期待していたのだろうか、少々残念そうな顔をする彼女。 ただ、その表情の真意を測りかねるのは俺には難しく、果たして彼女が何を考えてその発言をしたのかは分からない。 額面通りに受け取ればよいのかもしれないが、どうも彼女は本音というか本心を掴みにくい。 霧に巻かれたような、雲をつかむような、まるで手ごたえというものが無いのだ。 夢の中で手ごたえというのも可笑しな話ではあるが、ともかく彼女の言葉を鵜呑みには出来ない。 飄々としていて、どこか胡散臭い雰囲気を醸し出している。 そんな相手の言葉をそう簡単には信じるかといえば、答えるまでもないだろう。 「いつもより長くいられると思ったのに」 だけど言われて嬉しくないかと聞かれたならば、そんなこともないといえる。 美人にそう言われて何も思わないような人間でもないし、ましてや特殊な人間でもない。 むしろ嬉しい、いや誰しもがそう思うだろうと確信する。 ついニヤけそうになる顔も、それを正そうとポーカーフェイスを貫こうとしていることも、全部そのせいだから。 「………こっちにはこっちの事情があるんだよ、察してくれ」 そして、特に大事なことなのだが。 この夢の中では、どうやら俺の思い通りにはいかないらしい。 彼女と初対面の時は明晰夢かとも思ったのだが、俺の思い通りにはならなかったからか、どうも違うみたいだった。 むしろ、俺は呼ばれた側と言った方が正しいのだろうか。 彼女の夢の中に入り込んでいるとでも言えばいいか、他人の夢に介入しているのだ。 と、彼女に説明を受けたのだが、自分でも馬鹿だと認識している俺の頭ではその程度しか理解できなかった。 ………ともあれお互いに迷惑な話ではあるが、俺もどうにかできるならばそうしたい次第ではある。 けれども彼女は俺が入ってくることには抵抗が無いらしい、実に大らかだ。 「冗談よ、真面目に答えなくていいわ」 クスクスと笑う彼女を見て、美人には笑顔が似合うと感じたのだが、やはり掴みどころがよく分からないと思う。 いや、それ以前にどうして俺に対してこうも友好的な態度を取るのか。 前提条件が自分でも不思議で仕方無いのだけど、どうも彼女からは好かれているらしい。 それがどう好かれているのかが、よく分からないけれども。 「………あら、機嫌を損ねたかしら?」 「………そうじゃないって」 黙る俺を見てか、問いかける彼女に対して受け答えをする。 その裏にはこちらの機嫌を伺うような本心が見え隠れしているような気もしたが、多分幻影だろうと見なかったことにした。 あるいは俺の願望がそう映って見えたか、それはどちらでもいいだろう。 「あなたが今、何を考えているか当ててあげましょうか」 「私のことでしょう?」 「そんなの、二人しかいないんだから当たり前だろう」 それを聞いてか、少しだけ嬉しそうに見えた彼女の幻影を無視する。 ………本当によく分からない、どうしてそうも俺を気にかけるのか。 今に始まったことじゃないけれど、かといって数回会った程度の仲というわけでもない。 それなりには付き合いはあるつもりだけど、それでもやっぱり彼女を理解するには足りなかった。 いや、そもそもその程度では彼女を理解するのは無理なのだろう。 一体いつになったら彼女を理解できるようになるのか、その答えは多分未来の俺が知っている。 「そうね、"二人"きりだものね」 「………そうだな」 やたら"二人"の部分を強調して答えるが、多分幻聴だと思いたい。 俺をからかっているのだろうかとも思えてしまうが、生温かいような、こうなんとも言えない空気を感じるというか。 ふと彼女を見れば、何かに期待しているような、そんな視線を投げかけてくるものだから。 ひょっとしたら、なんてそう淡い期待を抱いてしまうのも当然なのかもしれない。 そう、ちょっとだけ顔が熱くなるのも仕方の無いことだ。 「あ、照れてるの?」 「うっせ」 顔を見られたくないから、彼女のいない方向へと顔を向けるけれど。 その向いたその先に、こちらの顔を覗く彼女の顔があった。 再び違う方向へと顔をそむけるが、それでもやっぱり彼女の顔があった。 どこをどう向いたところで、視界には彼女が映っていた。 逃げられはしないと最初から分かっていたとしても、それでもこの顔を見せるわけにはいかなかった。 だから何度も顔を逸らすけれど、やっぱり彼女からは逃げられなかった。 「逃げなくてもいいじゃない、可愛いのに」 「………あんまり嬉しくないな、その言葉」 男が女に可愛いと言われても、あまり素直には喜べない。 子供扱いされているのが悔しいというか、手の平で踊らされているという感覚に陥るからだろうか。 それがいいという奴もいるかもしれないが、俺はそういう部類の人間ではない。 こういうことを気軽に受け流せればいいのだけれど、まだまだ若い俺には難しかったみたいだ。 「難しいわね、男って」 「いや、思っているよりはずっと単純だろ」 ちょっと気がある素振りを見せれば、心が傾いたりするとか。 その場での据え膳に飛びつくような、単細胞というか条件反射的な行動を取るとか。 人それぞれではあるけれど、世の中にはそういう人間もたくさんいるのだ。 もちろんそうではない人も同じくらいいるとは思うが、男の俺から見たらそう難しくは無いとは思う。 意中の相手がいたとしたならば、彼女は間違いなくその相手を撃ち落とすだろうから。 変に難しく考える必要など、特にないとは思う。 「いいえ、とても難しいものだと思うわよ」 「一人の人間の心を御するなんて、簡単にできることじゃないと実感しているから」 「こうも難しいものだとは思わなかったわね、本当に難しいわ」 「珍しいな、弱音を吐くなんて」 「偶にはそういう時もあるのよ」 完璧超人とでも言えばいいか、そんな雰囲気漂う彼女にとってはとても珍しい光景だった。 多分、世界を動かすことでさえ造作もないであろう彼女に、そこまで言わせるほど難しいものなのか。 そうも彼女に対して難題として立ちはだかるそれは、彼女を弱気にさせるほどの難易度らしい。 人の心はそれほどまでに度し難いものか、気になるところである。 「あら、そろそろ時間かしら?」 「ん?………ああ、そうみたいだな」 ちょっとずつ視界の隅がぼやけ始め、絵の具で書かれた絵が水を吸ったかのようにぐにゃりと歪んでいく。 声が少しずつフェードアウトしていく中で、最後に彼女に向けて告げた一言は。 「また明日、紫」 「ええ、また明日」 別れの挨拶と、再会の約束。 消えゆく視界の中、笑いながら手を振る紫の姿が見えた気がした。 ジリリリリリ、といつもの音が耳に響き渡る。 それは何百回と聞き慣れた音で、何百回も繰り返された合図。 労働者としての鏡であり、常にそれを忘れることなく繰り返せるという実に称賛に値するものだ。 だが俺は、その働き者に対して恨みを込めるかのように、勢いよく右手を叩きつけた。 「………八時二分か」 俺が大学に通うために起床しなければならない、自分で決めた起床時間。 予定時刻より数分遅れたが、対して気になるほどの遅れではない。 体を反転させ、見上げれば何度見たことか分からない見慣れた天井がそこにある。 けれどふと目を瞑れば、目の前に紫がいる気がして。 "おかえり"と、そう言ってくれる気がして。 夢の中へ旅立とうとするけれど、それを振り切ってベッドから出て立ち上がる。 まだやらなくちゃいけないことがあるから、まだ眠るわけにはいかない。 今日も一日頑張ろう、そして帰ったら会いに行こう。 夢の中の彼女に。 洗面台に向かって寝起きの顔を見て、いつも変わらないと思いつつも顔を洗い。 すぐ傍にある透明なプラスチックの中にある歯磨き粉と歯ブラシを手にして歯を磨く。 磨き終えたらコップの水で口をゆすいで、あとは寝癖をその場で直す。 それが終われば寝巻を洗濯機へと叩き込み、準備しておいた今日の服に着替える。 買い置きしておいた菓子パンを口に無理やり詰め込み、掴み慣れたのバッグを手にすれば。 ほら、もう行かなくちゃいけないんだ。 夢じゃない世界はもう動き出しているから、俺も動き出すんだ。 「今日は晴れか………」 誰もいなくなった部屋を後にして、鍵をかけて扉を閉めれば。 あとは大学へと向かうだけ、いつもの日常が始まる。 電車に揺られ、駅に降りては歩き続け、大学に辿り着けば指定の講義室で授業を受ける。 昼になれば食堂で食事をして、また講義室で授業を受ける。 時間になれば大学から帰宅し、電車に揺られてここに戻ってくる。 夕食を取り、風呂に入り、適当に家事やらをしていればもういい時間だ。 そして灯りを消して、俺は夢の世界へと旅立つのだ。 その繰り返し、それだけの繰り返しだ。 月日が経てばいつかは俺も学生じゃなくなって働くようにはなるけれど、きっと同じルーチンを繰り返す日常がやってくるのだろう。 それをつまらないとは思うけれど、でも。 紫に会えれば、つまらない日常にも変化が起こるから。 つまらない日の当たらない俺の日常にも、光が差しこんで見えるから。 「いってらっしゃい」 誰もいない部屋へと響き渡るその声、その言葉はなかったはずなのに。 扉を閉めようとしたその時、どうしてかその声が聞こえた。 その声色を間違えるはずはない、もう何度聞いたのかも分からない、正体不明だからと怯える必要もない。 誰の声だったかなんて、もう考える必要もない。 だから、俺はもう一度扉を少しだけ開いて応えるのだ。 返す言葉はいらない、期待はしていない。 でもどうか届いて欲しいと願いを込めて、誰もいない部屋へと声を響かせる。 「いってきます」 行こう、今日が始まる。 七夕で何か書くつもりが気がついたらもう過ぎていたとは……… ら、来年こそは何か書くつもりです 保証はしませんが Megalith 2017/02/15 何処かの神社の縁側で 「…………はあぁ」 「『男が溜息を吐いていました。』」 「そこの語り部さんや」 「何よ、まだ一言しか喋ってないわよ」 「盛り上がる前に抑えたんだ」 「で? 真昼間から大きな声出して溜息ついて、黄昏時にはまだ早いんじゃない?」 「……昨日喧嘩したんだよ、紫と」 少しの間を挟み、やがて語り部は大笑いし始めた 「んだよ、そんなにおかしかったのか?」 「っくくく、……はぁ、まぁね。アンタ等、くっついて間もないのにいっつも口喧嘩してるじゃないの」 「あれは喧嘩っつうか……」 ただの意地の張り合いなんだけども 「今回はいつもの口喧嘩とは違うってこと?」 「まぁ……そうなるのか」 「……ふぅん、それで口数が少なかったのね……」 「ん? そうか?」 「やっぱりお似合いねー、喧嘩した後も同じことやってる辺り」 「つーとアイツも縁側で……」 「愚痴よ? アンタが来た瞬間にそそくさとスキマに消えちゃったけど」 どんだけ会いたくないんだ…… 「喧嘩の内容教えてくれたら力になるわよ? この万能巫女さんが」 「万能ねぇ。んー……内容は深刻っちゃ深刻でな」 「ほうほう」 「昨日、バレンタインデーのチョコ作ってるとこに出くわしたんだよ」 「ばれんたいんでえ……うん…うん…で?」 「お前分かってないだろ……要は人に感謝する日だ」 「日本は甘味を贈与するアレね、うん」 「何だその妙に偏った知識……」 「はいはい続き続き」 「んで、アイツがチョコ作ってたから『食いもんより着るもんがいいな』って言ったら」 「待って、読めたから。もういろいろ読めたから」 話を中断し、冷めた表情でこちらを見ている万能巫女 「今から私出掛けるから、アンタの側室連れてくるから」 話が見えない、ふりをしたい 「万能巫女さん、私は一体どうしたr」 「愚痴を聞かされる前に言っておくけど、自分たちで解決しなさい! 痴話喧嘩は妖怪も喰わないわ!」 「ア、アイツはどこにいらっしゃいますでしょうか」 剣幕に怯えながらおずおずと尋ねる 「……じゅう、きゅう、はち」 札を取り出し、幣を構え、虚空を見ながら数を数えはじめる剣幕巫女 ブォン 「霊夢……その、怖いわよ」 すげぇ、出てきた…… 「猶予は私が帰ってくるまで。それまでに解決しなかったら……潔く別れなさいな」 そう言い残すと鬼巫女は彼方へ颯爽と飛んで行った 「……」 「……」 二人して縁側に座り込み、冬の空を見ながら互いに黙り込む 「……」 「……」 去り際の言伝が口を重くするが、先に謝っておくことにする 「……悪かったよ、一生懸命作ってくれてるとこに水差して」 「……分かってくれたなら、許すわ」 「……」 「……」 三度無言、これじゃあ仲直りもままならない 「……」 「……」 少しだけ、ほんの少しだけ感じていたことを口に出す 「なぁ……俺、お前と付き合ってていいのかな……」 「……」 どう呼ぶべきか決めかねていたから、名前で呼んだことはあまり無かったなと思う 「合う度合う度互いに口喧嘩してさ、いっつも俺が負けてさ」 「……貴方が弱いのが悪いのよ」 今日は顔を合わせてくれない。いつもなら、見合っているのに 「何処か行こうって誘っても、無理難題を押し付けてくるし」 「……行きたい場所を言っているだけよ」 「用意してきた食べ物も、文句ばっかりで」 「……正直な感想を述べてるだけよ」 今日は淡々と返される。いつもなら、したり顔で話してくれるのに 「……そっか」 「……そうよ」 紫は変わらずそっぽを向いたままだ。どんな表情をしているのか分からない 「紫、お前本当は俺の事……」 『嫌いなのか?』そう言いかけた瞬間、紫がこちらを向いた 「……ばーか」 ぴん、と人差し指で額を弾かれる 「な、何だよ急に……」 「ニブチンの頭じゃあやっぱ分からない、か」 やや呆れた声で、真っ直ぐこちらを見ながら言う 「お前さぁ、人が真剣に話してる時にな……」 スッと目元に指が伸び、顔を寄せてくる 「なっ、何だよ急に」 「……貴方だけなの。私をありのままで見てくれるのは」 撫で下ろしながら、両の手で両の頬を包まれる 「貴方は私をいつも見ているでしょう?」 「んまぁ……か、彼女だしな」 「違うわ。『八雲紫』ではなく、私を見て話してくれる」 「そんなの皆一緒じゃないのか? 巫女さんにしろ、魔法使いにしろ親しげじゃねぇか」 「あの子たちが見ているのは、妖怪の賢者さんなのよ」 やはり紫との会話は難解だ……まったく意図が理解できない 「つまり、貴方は私にとって……特別な存在なのよ」 空を見上げ、彼女は俺に向けた独り言を始めた 「あのね……素直に甘えられないわけじゃないの」 「誰もが恐れるスキマ妖怪なのもあるけれど、その所為で距離を取られることも多くて」 「初めて会った時、貴方は不思議とそういう雰囲気を感じなかったの」 初対面の時は傘を持った不思議ちゃんってイメージだっけ 寝癖を馬鹿にされたことが癪に触って、本気で言い返した覚えがある 「貴方は私に対して自然に振る舞ってくれるから……つい意地悪したくなっちゃうの」 意地悪を好意的に捉えられず、今の軋みが発生してしまったのだろう 「そんな貴方が好きって言ってくれて、私が甘えちゃったら……今までの関係が崩れてしまうんじゃないかって」 「だから今まで通りに振る舞っていたのだけれど……裏目に出ちゃったみたいね。ごめんなさい」 語り終えたようで、ぺこりとこちらを向いて一礼 今までこういう話をしてくれなかったのは、彼女の不安もあるのだろう 「その……勝手に嫌ってるって思ってごめんな」 「私も、今まで愛想のない態度を取ったこと……反省するわ」 単なるすれ違いが大事に発展しなくてよかったと心底思う 「今までのお詫びじゃないけれど……はいこれ」 スキマから出てきた黒い箱に赤いリボンをかけたこれは…… 「そっか、昨日渡せるような空気じゃなかったもんな」 「貴方の為に作ったちょこれいと。……頑張ったんだから」 左手で少し染まった頬を掻きながら、もう片方の手でチョコを渡される 「紫、今日ちょこっと可愛いな」 「……褒めてもチョコはもう出ないわ」 良かった、嬉しかったのか耳が真っ赤だ 「真っ赤だぞ、耳」 「人の事言えないくらい顔真っ赤よ?」 じんわり熱を帯びているのは感じたが、相当顔に出ているらしい 指摘されたことで余計に恥ずかしいので、露骨に話題を変える 「るっせ、んでこれ食っていいか?」 「んーと……あ、仕上げたいからちょっと目を瞑っててくれない?」 「今仕上げって、これ完成品じゃないのか?」 「ゆかりんスペシャルトッピングは、世にも珍しい後乗せタイプなの」 何をされるか予想だに出来ないが、ひとまず従う 「どーぞ、言ったからには驚かせてくれよ?」 「もちろんよ。じゃあ遠慮なく……ん」 唇に感じた濡れていて、心地のいい柔らかい感触 「ん……ちゅっ」 「……ぅお……」 そして、腕を首に廻され抱きつかれたようだ 「ふふーん、スペシャルでしょ?」 近い。今までにないくらい、近い 「んちゅ……だいすきよ。だーいすき」 金色の艶やかな髪を撫でながら、言葉を返す 「……紫、愛してる」 「ん……私も愛しているわ。未来の旦那様?」 幾度目かのキスを交わそうとすると、ふわふわと暮れの彼方から影が飛んでくる 「……あーそう、やっぱ仲直りしちゃったかぁ」 空から降りてきて面白くなさそうに言う巫女 「来るなり失礼だなオイ」 「そおよ、仲直りしないわけないじゃない」 まぁ仲直りと言うか、再出発と言うか 「荒治療が効いたみたいで何より。はいはい出てった出てった」 しっしと手で縁側から追い払われる 「んじゃ帰るか、結局チョコ食べてないしな」 「えぇ。じゃあ霊夢、ばいばーい」 神社から遠ざかる際に巫女が一言 「……あれじゃあ威厳も賢者っぽさも無い、只の一人の女性じゃないの……」 そんな聖なる日の夕暮 お久しゅうMegalith かーなーりー久しぶりの書きものでありんす かわいい ゆかりん は いいぞ! 35スレ目 381 紫「夢でもし逢えたら すてきなことね あなたに逢えるまで 眠り続けたい」 『あっ…降りるバス停…』 『○○君…お、降りないと…蓮子との待ち合わせ遅れちゃう…』 ○○『…zzz…ムニャムニャ…』 『…』 《もう少しこのままでも…いいよね…?》 あなたに逢えるまで 眠り続けたい
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「……遅い」 一人ごちて、空を見上げると闇が陽光を閉ざしつつあった。 周囲を照らすものは、後ろから灯り背中を焼く屋台の光。 甚平を着て腕を組み、一つ欠伸してから空を見上げる。 雲間から覗く星々は地上の灯り何するものぞ、とでも言うように知らん顔をして煌々と輝いていた。 もうこうして半刻以上も経つが、待ち人が来たる様子は一向に見受けられない。 やれ普通はこう言うのは普通は男が遅れるものではないのかとか、やれ普通は男は待っても愚痴らないものだとか言う輩は居るのかもしれない。 一度全く待ちあわせしたのに姿を見せず、いい加減2時間経って探しに行こうとして腕を引かれてから俺の無意識を弄られていたことに気付いた。 しかも無意識を弄られていたのにも関わらず気付かなかった事に涙目になって怒られた。 非常に納得がいかないが、俺が今待ちあわせしている相手はそのような事をたやすく行う妖怪である。 ふー、と一つ息をついて軽く空を仰ぎ、宵の味がする風に身を任せる。 しかしまあ、珍しく、本当に珍しくこの麓の神社に人が来たものだ――そう思わざるを得ない程の人間と、人妖の数だった。 ある意味では普段の人里の延長とでも言うのだろうか、これだけの数が居ては巫女も守護者も管理が大変だろうに。 妖怪が人を食らう訳でもなければ、妖怪から人が逃げる訳でもないあたりはその辺のけじめはしっかりとしているのかもしれない。 「だーれだっ」 ふ、と目元が少し小さい手で覆われて、聞き覚えのある声が耳に触れる。 人様待たせておいて悪びれた様子もない彼女に対して多少の苦情を申し立てるべきかと溜息を付きながら返答する。 「こいし」 その手を開くように掴んで彼女の姉のようなジト目を向けてやれば。 「遅れちゃってごめんね?」 悪びれた様子の無い彼女の、彩りに満ち溢れた浴衣を着た姿。 一瞬だけ見惚れ、頭の中に抱いた綺麗だ、とか似合っている、とかありきたりな感情を否定して吹き飛ばすようにしながら呟く。 「ったく、遅れそうなら言って置けっての」 自分の頭をがりがりと掻く事しか出来ず視線を逸らすと、こいしが腕に身体を押しつけて来た。 「だーかーらー、ごめんって言ってるでしょ? もー」 笑いながら彼女はぐいぐいと腕を引いて行く。 大して宜しい縫製では無いこの甚平では何時袖がもげるか解ったものではなく、内心ハラハラしながら付き合って歩いて行く。 普段と違い、帽子を取ったこいしのウェーブが掛かった髪がゆらゆらと目の前で揺れて、俺を導いて行く。 周囲の赤や黄色、色とりどりの光に照らされたそれはまるで俺を惑わすかのように誘う。 湿った土の匂いが空気に混じり、身体に『これが祭りだ』と教え込んで来る。 「人いっぱーいっ」 そんな事を知ってか知らずか、嬉しそうな声を上げながら彼女は人の波をかき分けるように屋台の方へ歩いて行きちゃりちゃりと小銭を鳴らす。 やはり食い気か、祭りなんだし先に参拝してやろうぜ思い半ば呆れながら腕を引かれ、焼きヤツメウナギの屋台に到着すると一匹の妖怪が出迎えた。 「いらっしゃーい、妖怪と人間の取り合わせって珍しいね?」 「いよっとお二人さん、飲んでるかい? 素面じゃ酒の席はやってらんないよ?」 笑顔を浮かべる女将姿の少女と、その席で杯を煽りにし、と笑みを浮かべる二本の角が頭から突き出た少女。 「あいにく満席だけどね。食べ歩く?」 「うんっ、二本お願いー! あ、タレもたっぷりお願いねー!」 女将姿の妖怪にこいしが声をあげて 大分盛況のようで、辺りには酒瓶と突っ伏した白黒の服の魔女が転がっていた。 「……ぁー……久しぶりに飲んだぁ……ぐにゃ」 「……鬼に付き合って馬鹿みたいに飲むからよね、生身の人間が」 くい、と杯を傾けながら呟くのは青い服を着た金髪の少女。 「あなたも大変よね。相手が妖怪だと。潰されないようにしときなさいよ?」 「お気遣いどーも」 生返事を返しながら視線を移すと、その傍らにこれまた突っ伏した白髪の少女ととても淡麗な笑顔を浮かべながら皿を積み重ねている女性の姿があった。 「そこらの人間や半霊みたいにならないように」 「あらあら、この子はまだ半人前だからねぇ、食べる量も飲む量も」 白い髪の少女の頭を優しく撫でるその女性の様子と、既に意識を彼方へ吹き飛ばしたであろう銀髪少女の潰れ方の対比とが壮絶で、思わず反射的に目を逸らした。 「正解よ」 そんな声が聞こえたが、声を上げた金髪の少女にも顔を向けずこいしの方に視線を移す。 こちらを見ながら串を差し出して目をキラキラと輝かせながらただ笑顔を浮かべている様子を見て、何事かを理解し此処でそれをやれと言う羞恥プレイの酷さに軽く絶望した。 更にニヤニヤしながら此方を見ているであろう周囲の人妖どもに更に絶望し、こいしはまだしも俺の反応は酒のツマミじゃないと叫びたくもなった。 「はい、あーん」 目を細めてタレが落ちないように適度な高さに持ちあげるこいしの様子は確信犯にしか見えず、世の中一般で『はい、あーん』するものにしては随分とこってりとした味のついたものだなと何処か冷めた思考で考える。 これで無意識と言い切るあたり恐れ入ると言うかもうどうしようもない。 「ほら、早く口を開けてよー」 思わず二つの意味で閉口していた俺の唇を開けさせようとするその様子が、正直な所かなり憎らしい。 「冷めちゃうよ?」 「……お前な」 溜息を一つついてから、口を開けて食むと香ばしい味が味覚中枢を刺激する。 おぉ、とかひゅーひゅー、とか囃し立てる声は意識の外へと完全に追いやった。 「どう? 美味しい?」 「美味いが、強いて言うならそれをする食べ物じゃない」 先程から考えていた言葉を口にすると、こいしが少し膨れっ面になって残りをぱくぱくと一本丸々口の中に押し込んだ。 「ほふぁ、ほふはひほひひひほひ」 「はいはい何言ってるのか解らんから」 汗拭き代わりに持ってきていた手拭で口元を拭ってやると、途端に機嫌の良さそうな顔をして笑顔を浮かべる彼女の様子を見て、近くに居る誰かが呟いた。 「春ね。しかも重度の」 「あら、春告精の時期はまだ先よ?」 「春から溜まっているツケ、まだお支払して頂けないんですか?」 「まぁまぁ、野暮な事言いなさんなって。折角の祭りにこいしちゃんとその男の話って良いツマミさね」 鬼が言い放った最後の一言の鬼畜さに、熱気の所為もあってか軽く目の前がくらりと揺れた。 屋台で飲んで居た人妖達から離れて、またそぞろに歩き始める。 正直先程の連中のおかげで、もう巫女の顔を見るのも面倒になって来た。 屋台を出している妖怪が妙に多いのは気のせいでは無かろうが、それ以上に平素は閑古鳥すら来やしない程に閑散としている筈のこの神社にこれほどの人間が押し掛けると言うのは天変地異が起きなければ有り得そうもない。 人里での評価は大体は以下の通りであった。 酒屋の親父曰く、あそこの宴会の頻度は多いわ酒の量が壮絶だわで大量に入れる事が多い、良い客だ、と。 近所を遊び回る子供曰く、あそこの神社に近づいたら妖怪に襲われて食べられるか妖精に悪戯されて迷子になって帰れなくなる、だから行くなと親に言われた、と。 神社より多少マシな程度の客しか来ない古物店の店主曰く、あの巫女の性格故にひっきりなしに客に来られたら落ちつかない事請け合いだろう、と。 人里でそれ相応にマトモな尊敬を得ている寺子屋の教師曰く、奈何せんあの巫女とあの周囲にべったりの妖怪相手にわざわざ近づかせる事は無いだろうから少々誇張している、と。 頭から二本の角が飛び出た鬼曰く、お陰で私は昼寝し放題の場所が一つ増えた、と。 手癖の悪い魔法使い曰く、巫女さえいなければ諸々の神様由来の珍しいものが借り放題、と。 途中から聞く相手を間違えた気がして、他の連中に聞く気が失せたのをふと思い出して溜息を一つ付いた。 とは言え、大体の評価は以上の通りでやはりこれだけの人数が人里から押し寄せると言う珍しい現象は、何か妖怪か妖精の悪戯でもなければ有り得そうもない。 「なぁ、こいし」 視線をふと傍らのこいしに向けて、周囲を軽く見回す――と、見覚えのある浴衣の姿が近くに見えない。 何処に一人でふらふらと歩いて行ったのやらと思うと彼女の浴衣とお面を被った姿が見えて、軽く手を挙げてこいし、と声を掛けてやるとそのお面を被った人影が俺の方へと視線を向けた。 特徴のある、薄紫色とも桃色とも取れない癖っ毛が踊り、致命的な間違いをした事を、その瞬間理解した。 くすり、とお面の下の少女が笑う。 こいしにしては落ちつき払った珍しい様子だが、「彼女」であれば全く以ておかしい事では無い。 赤い紐で彼女と繋がった第三の瞳が俺をじ、と睨みつけた。 「あら――こんばんは」 「……古明地、さとり」 その名を呼び、一瞬だけ逃げ道を探そうかと迷い、首を横に振って無駄だと諦めたのは「覚」に伝わる伝承でも同様のものがあったからか。 ――そもそも、何故彼女の姿を見て反射的に逃げ出そうと思ってしまったのか。 「賢明ですね」 くすくす、と笑いながら彼女は俺から視線を逸らさないがその内心で、何をどう思っているのかまでは解らない。 「それにしても、酷い方。妹の想い人を嫉妬で虐めるような姉だとでも思いましたか?」 考えてみればその通り、それどころかさとりが何の理由も無く他人を傷つけようとしたと言う事はこいしからも聞いた事が無い。 緊張し、あまりにも礼を失していた事を考えていた事に我ながら軽い嫌悪を覚えつつ、一つ大きく息を吐き出した。 「……いや、すまない。一人で来たのか?」 「いえ。皆と来たのですがはぐれてしまって」 ああ、なるほど、迷子か。 「迷子ではありません」 一瞬納得しかけただけで鋭い反駁が帰って来て思わず口に苦笑が浮かぶ。 随分前にこいしに連れられて地霊殿に行った際も、思っただけで答えられてしまう事で戸惑った事もあった。 「それに、貴方もでしょう。こいしは……。何時もの事ながら、ご迷惑おかけしますね」 周囲を見回してこいしの姿が無い事に彼女が気付き、深い溜息をつきながら頭を下げた。 「慣れてる。折角だから一緒に探すか」 そう返すと、きょと、とした顔をしてさとりは目を瞬せる。 「確かに顔を知っている方と一緒の方が、効率が良さそうですけれど」 「なら決定。行こうぜ」 軽く指を何処とも知れず向けて、促すように先を歩くと後を追うようにぱたぱたとさとりは着いてくる。 こうして、地上では珍しい妖怪と祭りを歩く事になった。 「ああ、ならやっぱりこいしの奴、一旦地底に帰ってたのか今日」 「ええ。浴衣を着て行くんだ、って。着付けを手伝わされましたよ」 他愛も無い話をしながら、屋台の間を歩いて行く。 ふと気付けば、先程よりも参道を歩く人数が増えて来ていた。 「それにしても本当に困った子ね。こう言うお祭りくらいは落ちついて居ても良いと思うのに」 「こう言う祭りだからこそ、落ちつかずあちこち行き回ってるんじゃないかとな。何処行ったのかは見当も付かないが」 こいしの能力を考えると探そうとして見つかるものではないが、それでも探さなければ見つからないのも確かなのだ。 探すのを止めようとは思わないし、探さずに一人で祭りを回ろうとも思わないのは、あれだけ内心半ば憎らしく思っていてもこいしが居ないと落ちつかないからか。 「……ふふ」 さとりが笑いながら少し足早に歩いて一度振り返る。 「大切、なんですね」 どきり、と一瞬だけ鼓動の音が大きく聞こえたのは、図星を突かれて再認識させられたからに違いない。 「ああ」 一度頷くと、ふわり、と目を細めてさとりは微笑んで――。 「出来るだけ、末永くあの子と一緒にあげてくださいね」 そんな事を言いながら先を急ぐように前を向いた。 「それは妹を貰っても良いって言う宣言って事で良いのか?」 なるほど、「人間」は「覚妖怪」のことが苦手な訳だ、ここまで見透かされるのなら――。 「さぁ、それはこいしが決める事ですから?」 俺は、人間だ。 人間として生きて、人間として死んで行く。 それはつまり永劫に生きる存在では無い以上、別れが存在する事。 そして勿論、妖怪と共に生きようとすると、人間の方が先に逝く事。 全てを見透かした上で、彼女は永くこいしとともに居ろと言っているのだ。 「その通りだが一応姉のお墨付きをだな」 「きっと出さなくても、持って行くでしょう? ああ、それと」 くすくす、と笑いながらさとりは茶化し、何か言いかけたところで。 「さとりさまーぁ……」 遠くの方でふとさとりのことを呼ぶ声が聞こえて、視線を移す。 すると遠方から突っ走――と言うか空を羽を広げて飛んでくる人影を見、そのまま急降下爆撃のような体勢になっているソレを見て背筋が凍りついた。 「何考えてるんだあのトリ頭ぁ!?」 この無茶苦茶人が多い空間であんなものが空から飛び降りてきたらそれこそ大惨事を免れない。 「お空……!?」 そのまま加速し始めようとしたところで、後ろから浴衣を着た赤い髪の少女が抑え込むようにしてそれを止め、一安心する事が出来た。 彼女たちがふらふらと飛んできて、目の前で着地してから軽く手を上げる。 「よぉ、二人とも」 「久しいねお兄さん」 「うにゅ、この人誰?」 他人様の顔を完全に忘れていた霊烏寺空とか言うトリ頭の事は忘れて置き、俺をおにーさんと呼んだ妖怪、火猫焔燐に声を掛けた。 地底にこいしと共に行ったのは来て間もない頃の数度で、その後とんと行ってないものだから仕方がない。 「あなたたち、二人とも勝手な所に行っては――」 さとりが指を立ててぴし、と指摘するものの、二人とも解っているのだか解っていないのだか良く解らない様子で頷いて居た。 断言する、空は確実に理解していないと。 「ごめんなさいさとり様、…ところで」 燐が視線を俺の方に移す。 「迷子連れて来ただけのただの通りすがりって事にしといてくれ」 しれ、と手をひらひらとやって歩きだそうとすると、さとりが怒声を上げた。 「だからっ……!」 「ああ、それと何か言いかけてたな。アレ何だったんだ?」 我ながら酷い対応だとは思うが、真面目だからからかわれる要素が彼女には絶対にあると思う。 半ば憮然とした様子でさとりが腕を組み、指差した。 「……ここに里から来ている人間達の事です。『来よう』じゃなくて『いつの間にかに此処に来てるけどまぁ良いか』と思ってる人が半数以上、です。人妖は除きますが」 その瞬間、パズルのピースがかちり、と嵌ったように一つの結論が導き出された。 「ありがとな。大体それでからくりが解った」 本殿へと足を向けて歩き出す。 ほぼ確実に、こいしとその人物は居る筈だ。 「アホか」 この神社の巫女である、博麗霊夢の顔を見て開口一番俺は文句を投げつけた。 「また随分な物言いね」 こいしが赤ら顔をして乱れ掛けた浴衣で縁側で仰向けに寝息を立てているのを見て大体の状況は推測が付いた。 「この子が溜めこんでるあなたへの惚気を延々と聞かされた身にもなって欲しいわ」 しれっと視線を逸らしながらそんな事を嘯く巫女。 彼女の所に居るであろうことは気付くべき事だった。 「それとこれとは話が違う。大体だな」 己の頭をがしがしと軽く掻き、結論を導き出してやる。 「こいしの能力を使って何神社の祭りの宣伝してやがる」 そう、『いつの間にかに』来ていると言う事は、それは無意識の範疇であること。 つまり、こいしの能力が活用されて居た事も推測が付いた。 じゃあ誰がこの祭りで人を呼んで儲かるのか――考えるまでもなく、一人だけだった。 「あんたとはぐれた後にこの子が来たからついでにお願いしただけよ。その前は確かに人里歩きながら無意識に祭りに来るようには仕向けたけど」 謝る様子も悪いと思う様子も無く、心底面倒臭そうな様子で彼女は返答する。 「じゃああれか。こいしが待ち合わせに大層遅れたのもそれが理由か?」 軽く詰問するような口調で言ってやれば、やれやれと諦めるように霊夢は首を横に振った。 「全くもう男らしくないわねぇ、ネチネチと。だからまだ手ェ出せないんでしょ?」 そしてほくそ笑むように口元に手を当てながら、彼女は続ける。 「『本当につれないんだからあの人はぁー』とか『もっと色々して欲しいのになぁー』とか。私が知った事じゃないけれど」 「何話してやがんだ……」 額に手を当てて深い溜息を付けど、こいしは目を覚ます様子がない。 「くー……かぁ……」 浴衣でそんな格好をするものだから、裾からは白い足が覗いて鎖骨どころか肩くらいまで見えてしまうのではないかと言う程に肌蹴てしまっているこいしの姿を直視できず、視線を逸らした。 「ま、良い機会なんじゃないの。私はミスティアの屋台顔出して一杯やってくるから。3時間くらいは帰って来ないから詫び代わりに好きに使いなさい?」 霊夢が立ちあがりながらもう一度嘯き、くすりと笑う。 「あーあ、全く妬ましい羨ましい。何処かの橋姫じゃないけどそう思いたくもなるわ」 「おいコラまだ話は」 終わってない、と手を伸ばし腕を引っ掴もうとしたところで、甚平の裾にきゅ、と小さな指先がしがみついた。 視線をふと落とせばこいしがふやけた表情で瞳を閉じたまま掴んで居る。 「そうそう。寝具は使ったら持ち帰りなさい?」 巫女は話を聞いちゃ居ないどころか聞く気すら無い。 「じゃあ、留守番お願いねー」 「そのまま一遍死んでしまえ」 紛うことなき本音をその背中に投げつけて、俺は彼女を見送った。 「……んーんぅ」 縁側にただ何も無く寝転がってるだけだったので、起きた時に頭が痛そうだと思い軽く頭をもたげて俺の膝の上に載せてまくら代わりにしてやれば、嬉しそうにごろごろと頭を預けて来るこいし。 「ったく……」 浴衣の裾を直し、肌蹴たのをきちんと肩にかけてやって深く溜息。 全く、折角の祭りで浴衣もきちんと褒めてやろうとしてもこのザマでは話にもならない。 酒の所為で真っ赤になった頬と、幼い寝顔とのギャップが少しだけ艶めかしく見えて頭を抱えた。 「んふふぅー……」 大して酒に強くない俺は、こいしと一緒に飲めば確実に潰れる自信がある。 大方あの巫女はこいしと飲んで居たのだろう、少し朱に染まっていた様子もあった。 事実上二軒目か、良く呑む巫女だ。 ごろごろ、何が嬉しいのか頭を転がして甘えるようなこいしの様子に少しだけ心臓の音が高鳴る。 「こいし」 耳元にぽそり、と囁いてやるが目を覚ます様子は無い。 「起きないとキスすんぞ」 普段の俺だったら絶対にこんなセリフ吐けないな――と顔が赤くなるのを感じながらもう一度囁いた。 無論、反応が帰って来る訳でもなく口元からは良く解らない寝言だけが聞こえてくる。 「……良いんだな」 そ、と囁いて口元に口づけを落とし。 「……っ。……?」 「ん、……んんっ」 そっと離そうとすれば、俺の頭をがっしりとこいしが固定するように抱いて居た。 「……んーっ!?」 「……っ。んんっ」 うっすらとぼやけた焦点のあっていない瞳で、唇を合わさせられている俺を見るこいしが。 「……んぅ……っちゅ」 こつん。 額を軽く額と合わせて、啄ばむような口づけを返して来た。 「……っ」 ちゅ、と軽く返してやって頭を動かし、額と額を合わせたまま唇だけ離すと満面の笑みのこいしが視界いっぱいに飛び込んでくる。 「……えへー、大胆だねぇ」 真っ赤な頬と、異常なビートを刻む鼓動が煩わしい。 「……起きてたのかよ」 「眠り姫は王子様のキスで目覚めるの」 「我ながら随分と貧相な王子様だな」 こいしは頬に頬を寄せながら、軽く瞳を閉じた。 「……探しに来てくれた、王子様だよ。私の目には、キラキラ輝いているように見える」 照れ臭い言葉を臆面も無く言われるものだから、心臓の音が煩くなって仕方がない。 「ごめんね、はぐれちゃって」 瞳を閉じたままこいしが続けて、一瞬だけ胸が締め付けられるような感情を覚えた。 「これでも一応心配してんだぞ」 「ん」 暖かな身体を膝の上にもう一度預けながら、こいしは瞳を閉じた。 「キスだけ?」 くすり――笑みを浮かべて自分の唇を指して、彼女はうっすらと瞳を開く。 まるで大人の色香のような様子を醸し出しているその姿に見惚れ、唾を飲みそっと抱きあげた。 「それ以上のものが欲しいか?」 「あなたの大切なもの、全部。私の大切なもの、全部あげるから――」 ぎゅ、と胸元にしがみついてくるこいしをお姫様のように抱きあげながら。 「だから、ぎゅって、して?」 二人きりしかいない、理性が飛んでしまいそうな瞬間が今目の前に――。 (――おーおー、大胆だねぇ) (当てられちゃいそうね、アレは) (行きつく所まで行きつく前に見るの止めた方が良いと思うんですけれど……) (愛の巣ですねぇ、素敵……) 来たところで、この場所が『何処か』と言う事に気付いて額を抑えた。 「こいし、帰ってからな?」 「むー、つれないなぁ」 くすくす、そうこいしが笑いながらそっと畳の上に降り立つと、腕をぎゅ、と抱き締めて来る。 「見せもんにすんなよ……」 襖の奥の方に言いながら、立ち上がる。 こいしの第三の瞳が、宙をゆらゆらと揺れて居た。 ――静かな夜は、二人で共に居る事が唯一無二の幸せだから。 永久不変の時でなかったとしても、それを願う事くらいは――。 神へと祈り願う、祭りの夜に。 ───────────────────────────────────────────────────── 「ほへぇー……」 こいしがこの間の抜けた声を上げたのは、これでもう二十回目になるだろうか。 新宿から乗って、まだ品川にも着いてない頃であるにもかかわらずにその回数だけ関心したらしい。 渋谷でアフリカ系アメリカ人が乗って来て、その肌の色に目がくぎづけになってたが俺はもう気が気で無かった。 ガタイも良く身体にタトゥーが入っている男の姿は少なくとも俺に威圧感を受け付けるのには十分だった。 ジロジロと何度か此方の方を見たが、一駅で降りてくれて心底助かったと思う。 最初のうちはある程度反応を返して居たが、そろそろ返さなくて良くなってきたんじゃないかと思う。 「ね、アレ何?」 このやり取りも何度目か、新幹線高架が見えて来た当たりで視線をもう一度向け直す。 一々説明しているのも面倒になりながら、『凄く早く走る今乗ってる奴が走る所』と答えてやると顔を綻ばせた。 「そっかぁ」 言いながら、彼女はこてん、と頭を俺の肩に預けた。 周囲からじろじろと見られるのが、非常に落ち着かなくて困る。 『――次は品川、品川です』 アナウンスが聞こえ、電車の速度が少しだけ緩やかになって行った。 ごろごろと肩に頭を乗せているこいしの姿はまるで猫のように気楽で、軽く苦笑する。 正直な所、外の世界に戻りたいと思った事はこれまで皆無だった。 理由は単純で、幻想郷に弾き飛ばされたのは八雲紫に妖怪のエサ扱いして連れて来られたからだろう。 または、覚えている人間が誰ひとりとして居なくなったか。 正直な所、何故迷い込んだかに関しては記憶が曖昧な所があり、よく覚えていない。 その癖、幻想郷に迷い込むまでの記憶は覚えているものだから困ったものである。 『一度見てみたいの、あなたの生きて来た世界』 『つっても戻れるもんじゃ無いと思うんだが』 『じゃあお二人様ご案内、ね?』 こいしが行きたいと言って俺を困らせた時に笑っていた紫。 自分には策がある、と言った確信の表情。 朗らかな笑顔を浮かべて紫の手を握るこいし。 俺の目の前では、とてもいい茶番劇が繰り広げられていて呆れる事しかできない。 『確信犯だろお前ら』 そして、俺は考える事を完全に諦めた。 そろそろ到着するらしく、窓の外には数えるのが億劫になる程の線路が並んでいる。 「降りるぞ」 それをひーふーみ、と数えていたこいしの腕を一度引いて立ち上がる。 刹那、女性の機械的なアナウンスが響いた。 『急停車します』 「あ、うん――わ」 頷いて後を続くようにしたこいしが腰を上げた瞬間、急に身体に掛かる重力が進行方向に揺さぶられた。 ふらり、と揺らぎ掛けたこいしの身体を片手で抱きよせ、俺自身は吊革を必死で掴み取る。 きぃぃぃぃ、と耳障りな音が響き、客車が急停車して揺れが収まった。 「っと、大丈夫か?」 「うん」 呆けた様子でぎゅ、としがみついてるこいしの姿はまるで年相応の少女のものでしかなかった。 肩までの髪がふわりと揺れて、彼女のフローラルの香りが一瞬だけ漂い鼻を擽る。 『申し訳ございません、列車非常停止装置が押されましたため急停車致しました。安全の確認が出来るまで今しばらくお待ち下さい――』 定型文のアナウンスを男性の車掌が繰り返し、車内が一瞬だけざわついた。 「……だとさ」 肩を竦め、そのままこいしを椅子に下ろしてやり自分も座って一つ溜息。 人が多い時間帯ではあるが、扉の方へ歩き出さずに良かった。 「びっくりしたぁー……」 「こっちじゃ稀に良くある」 「どっち?」 「あまり無いものだし、あると面倒だからあって欲しくないけどあって欲しくない時に限ってある。……あー」 この表現を的確に言い表す言葉がふと頭に過り、ぽん、と手を打った。 「妖怪にとっての巫女と魔女」 「ぷっ」 こいしが思わず噴き出して笑いかけ、口元を押さえる。 「しかも何時現れるか解らないオマケ付きだ」 「あはははっ、それは本当に災難ねー」 『安全の確認がとれましたので、発車致します。吊革手すりにおつかまり下さい――』 笑いながらこいしが俺の顔を覗きこんだところで、ゆっくりと電車が動き始めた。 「あ、動いた」 「だな。大体は何も無い事の方が多いな」 軽く説明するが、何かあった場合は大体洒落になっていない事は黙っておく。 怖がられたり悪趣味と思われる事は無いから構わないが、興味を持たれても真面目に困る。 「稀に良くあるから?」 「ああ、稀に良くあるから」 どうもその言い回しが気に行ったのか、繰り返し使って彼女はもう一度笑うと再度ゆっくりと電車がホームの横で停止する。 ぷしゅ、と扉が開く音が聞こえて、ぞろぞろと人が降りて行くのが見えた。 「行くか」 「うんっ」 頷いて、彼女の手を取った。 宿は先に紫に確認し、用意の手筈を整えて置いた。 ビジネスホテルのツインを一室で、余計なモノが無い素泊まり用のプランだ。 『ねぇ。…本当にこんな安っぽい宿で良いのかしら?』 紫に真顔でそう聞かれた時にはどうしたものかと思ったが、正直な所高級ホテルなんて想像が付かない。 いや、逆にシングルは幻想郷の有力者のイメージを考えれば良いのかもしれないが、と少しだけ考え直し、部屋を確認し直す。 安い宿だが便利さと夜の静けさを兼ね備えた宿である為、落ちつけるが奈何せんビジネスホテルだ。 その時、どうやって紫が撮ってきたのかは知らないが、外の世界の高級ホテルの写真を見ていたこいしが呟いた。 『これだったら、私の部屋の方が落ち着きそうだなぁ』 結論を言えば、そのお姫様の一言で安宿に決定した訳だ。 「ふぁー、っ」 荷物を置いて寝転がるこいしのスカートが捲れ上がる。 「女の子がはしたないぞ」 「ぶー、もう兄妹旅行の振りは無しだって」 膨れたままこいしが身体を起こしてベッドに腰掛ける。 ホテルに入る時に兄と妹で同じ部屋を旅行で使う、と言う形でのチェックインを行った。 出来るだけ無意識を操る程度の能力を使わせないようにさせるためだったが、こいしは不満そうに唇を尖らせていた。 「ったく、仕方ないだろうが……」 割と冗談では無い、と言うか捕まった時に冗談抜きで言い訳が利かないし何より色々面倒臭い。 人間社会と言うものは面倒臭いものであることを久しぶりに認識し、大きく溜息をついた。 「あ、ここ結構高い?」 ひょこ、と8階の窓から見下ろして、こーなるんだぁと呑気な声を上げたこいしにもう一度溜息。 二連続の溜息なんて久しぶりに付いた、と三度目の溜息を嘆く。 「こんな良い景色なのに溜息ばっかりついてちゃ勿体無いよー」 「残念ながら俺が昔住んでいた家は此処よりもう少し高かったから見慣れてる」 団地の13階だかから見下ろす景色は此処よりも余程高かったが、余程味気無かった気がする。 けれど、その景色にすらノスタルジーを感じるのは気の所為なのだろうか。 夕焼けは沿線のビルをほの赤く、陽の色に染め上げながら夜の帳へと向かって行く。 「……良い景色だし、綺麗だけど、でも」 ――滅びていくものの、美しさなんだね。 こいしが呟いて、そっと肩を寄せて来た。 「滅びていくもの、の?」 問い返し、軽く抱きよせてやると彼女はこくり、と頷いて少し寂しげな笑顔を浮かべた。 「これが数百年経ったら、きっとここの景色はこんな景色じゃなくなってるかもしれない」 笑顔のまま、彼女は淡々と、それでいて残酷なまでの現実を語り続ける。 「少なくとも、幻想郷みたいに、何年見続けても変わらない、永遠じゃない。きっと、何世代も人の世代は経て、私が消えてしまうほどになってもあの里はあのままだし、人里に住む人は変わらないよ」 「きっと、永遠と言う言葉そのものが幻想入りしたんだろうよ」 彼女の言わんとしていることは解らないでは無い。 再開発、埋め立て、新道建設、新線開発、建て替えと――そもそも、世代を経て人がそこまで生き続けて居られるのか。 俺には解らない事で、解る必要も無い事で、解る筈も有り得ないただの空想の出来事。 けれど、彼女たちにとってはそれは全く別のシロモノに映ったのだろう。 脆い、弱い、崩れそうで、歪で愚かで弱弱しい人の象徴。 「無意識に、悲しくなってきちゃった」 呟いて、彼女は瞳を閉じ、帽子を真深に被り直す。 彼女の姿を一瞥だけして、俺は首を軽く横に振って立ち上がった。 「こいし、お前の言ってる事は正しいよ。ただ一つだけ間違ってるけどな」 そして、カーテンを閉める。 「さて、もう少ししたら夕飯を食いにでも行くか」 そう、彼女の言う事は正しくて、でも致命的なまでに一つだけ間違って居る。 彼女にはきちんとそれを教えてやらなければならないようだ。 「……うん」 俯きながらも彼女が頷いたのをきちんと見て、さっきのように軽く手を引いた。 「お腹一杯だねぇ、ふぁー……」 「大分食ってたからな。オムライスだけならまだしもアレにまだ頼むか普通?」 機嫌は良くなったらしいこいしが、少しだけ嬉しそうな口調で呟いて部屋の扉を開けた。 古ぼけた洋食屋での、安くても家庭的な味付けの料理を食べて来た所だ。 こちら側の食事はお姫様の気に召したようだが、酒に口を付けるのだけは遠慮して貰った。 そのままこいしはベッドに転がり、天井を見上げる。 「……妖怪が居ないからなのかなぁ。やっぱり何だか変な感じ」 溜息をついて、ベッドに沈むこいしの様子はやはり完全に何時もの通りとは言えないようであった。 「俺は踏み込んだ時は神様だの妖怪だのってのが居るって思ってなかったぞ」 「うん……」 ぽけ、と天井を見上げたままのこいしは、もう一度呟いた。 「そう言えば――何を間違ってるって言ってたの?」 何か喉元に魚の小骨が引っかかっていたような感じをきっと覚えて居たのかもしれない。 こいしは、ころんと転がって俺の顔をじ、と見つめると瞳を閉じた。 「全く」 ふぅ、と俺は一つ溜息をついて、お姫様抱っこのように彼女の体を抱き上げる。 「……ひゃ」 溜まらず目を開けて白黒させているこいしが可愛らしく見えて困った。 普段からきっと可愛らしいのかもしれないのだが普段はそれ以に上に憎らしく思える事の方が多いからだろうか。 「どうしたのー、もう」 ぷぅ、と頬を膨らませるこいしの身体を、もう少し抱きあげて窓の近くに下ろした。 「開けてみろ、俺の言ってた意味、解るだろうから」 カーテンを見て示すと、こいしが首を少し傾げて呆れたように呟いた。 「どーせ夜の景色なんて、見ても面白いものじゃないんじゃ――」 嘯きながら、しゃっ、と彼女はカーテンを開け放つ。 ――眩しかった。 俺にとっては久しぶりに、彼女にとっては初めてであろう『町全体が煌々と照っている』夜の姿だったから。 ビル窓からたくさんの光が漏れて、そこでまだ人が働いている事を如実に示している。 線路を挟んで反対側に立っているのはマンションだろうか、ところどころ暗闇が示しているものの、それの数倍の黄色や白の光が途切れること無く輝いている。 見下ろした所には、動く痛いほどの白さを持つ灯りとぽつぽつと点在している薄い黄色の灯りの数々。 動く灯りは、赤いラインをともに残しながら何処かへと消えて行く。 その数は全く数えきれないほどになっていて、幻想郷で人里を遠くから見た景色とは考えようも付かない。 こいしの瞳から涙が零れ落ちていた。 その理由すら解らないからこその無意識だと言う事を、彼女はきっと知っている。 「……これ、全部、人?」 「ばかりじゃないけれどな。働いてる奴も居るだろうし」 ふわり、少女が笑みを浮かべて一つ頷き、微かに首を傾げた。 「こんな夜中なのに?」 「ああ、こんな夜中でもな」 その中に居た自身を見直すと、少しずつ心が削れていくのを感じていた。 けれど、今は――。 「俺達一人一人の人間は、確かに妖怪程永く生きる事が出来ないけれどな。この光を継いで、生きてくんだ。だから、寂しくない」 人は、これまでも代を継ぎながら生きて来た。 「永遠じゃない。例え今は永遠じゃなくても、きっと次の代が、またはその次の代が俺達が成し遂げられなかったことを成し遂げる。だから、それでいい」 技術発展は、そのようにしてこれまで成り立ってきたものだ。 無論、俺達の中に脈々と流れている血も。 「……ん」 にこり、と今の俺にとって一番大事な存在が微笑んだ。 あの時の自分自身と、今の自分自身はきっと彼女の存在で隔たれているのだろう。 けれど、あの時の俺自身はあの灯りの一つ一つの何処かにまだ残っている。 少しずつ心を削られて、少しずつ心を苛まれながら。 「……ね」 こいしが、微笑みを浮かべたまま指を口元に当てて続ける。 「一つだけ、あなたのお願いごと、叶えてあげる。私に出来る範囲なら、だけど」 無意識を操る妖怪は、そう口にしながら微笑んで居る。 なら、人間である俺がこいしに乞い願い、請うことなんてただ一つなのだろう。 「なら。少しだけ、無意識に大切なものを、思い出せたら」 口元に笑みが浮かんだのを感じながら、こいしの肩にぽん、と手を置くと、こいしが瞳を閉じて顔を上げた。 「じゃ、お願いのキス、して?」 「ああ」 眼下の宝石箱を無造作に散らかしたような、輝きの世界。 部屋の電灯のスイッチを落とせば、外から漏れ入る光だけが俺とこいしを照らしだす。 俺達を今照らしている世界が、少しでも優しくなるように――そう思いながら。 暖かく、優しいキスをした。 ───────────────────── 目を覚ますと、こいしの寝顔が目の前にある日常。 今日もまた、平穏な秋の一日が始まった。 「……すー……」 たまにこいしが先に起きると、竈でご飯を炊いて居たりするが今日はそれは無いらしい。 最初はそれこそ水に入った生の米が出て来てお世辞にも食えたものでなかった気がするが、今となってはそのような事は無く安心して美味いご飯を食べることが出来るようになった。 「……んにゅ、ぁー」 俺の寝巻の裾を引っ掴んで寝言を言いながら幸せそうに眠るこいしはまぁ随分と気分良さそうなものである。 「朝だぞ」 頬をふに、と突いてやり、しばし反応を楽しみたくなり待ってみようと思った。 二度三度と、ふにふにとして張りのある肌の感覚を楽しんでいると、変化が起こる。 「……んんー……」 目を覚ますかと思い指を離してやると、彼女は寝返りを打ってもう一度寝息を立て始めた。 なるほど、こいしとしてはどうも秋の朝は早く起きたくないらしい。 毛布に布団を被っていて程良く温く、足元に至っては少ししっとりと汗ばんでいるからか。 いっそもう少し普段されているばかりでは溜まらないので悪戯してやるべきか。 この幻想郷では滅多な事が無ければ早々用事なんてものは出来るもので無いし、そもそも本日の予定は――。 来客が朝からある日だと言う事を思い出して覚醒し、こんな事やってる場合じゃないと布団から半ば飛びあがるように身体を起こした。 「なぁにー……寒い……」 布団が乱れてこいしが目を擦りながらとぼけたような声を漏らしてうっすらと目を開いたのを横目にしながら、俺は食事の準備に取り掛かった。 「……むぅー、もう少し寝させてくれてもいいじゃない」 「来客ある日だっての知って言ってっか?」 ぽり、とたくあんを噛むと塩の味が口の中に広がり、噛むのに心地よい堅さが脳を覚醒させて行く。 なめこの味噌汁と炊きあがったご飯が湯気を立てて、やはり朝はこれに限ると思いながら一つ溜め息を付いた。 「お仕事?」 あむあむ、とこいしが口元を動かしながら首を傾げた。 「その通り。白蓮が来るけど……多分誰かしら連れて来るんじゃないか」 イワナの天日干しに手を付けながら返すと、こいしは少し首を傾げて問い返す。 「あの子かなぁ?」 彼女はいつぞやの少女の事を思い出したらしい。 「どうだろうな。あと、慧音にも声を掛けてある」 元気にはしているようなので一安心ではあるが、今回打合せをする話の内容から考えたら連れて来るとは正直思えなかったが。 もう一名、話の筋を通しておく必要のある人物が来ることも伝えるとこいしが苦い薬を飲んだ後のような顔をした。 「う、またお説教されそう」 「そこまで酷く説教されることは無いだろ」 無意識下の事だったりすれば尚更――そう続けて、ふっくらしたご飯を口に運んだ。 人里に住む以上、上白沢慧音との付き合いは切っても切れないものになる。 直接世話になった事もあり、また他の里に住まう人間から慕われている立場と言う事もあれば味方につけない道理が無い。 多少打算的な話ではあるが、打算的であっても道理にかなう事であれば彼女は厭いはしないだろう。 「それに説教が本題じゃあない。仕事の話だ」 言い切ってお茶を一口、朝食の締め代わりにゆっくりと味わう。 こいしはまだ味噌汁を啜っていたが、この分ならば白蓮達が来るまでには余裕を持って洗いものまで終えることが出来る。 「はーいっ。いっそ無意識になってようかなぁ」 「説教聞く気が無くて聞いてないだけだろお前」 朝食の終わりは、何とも間の抜けた俺達らしい会話であった。 ふと、こんこんと扉を叩く音が聞こえて振り返る。 「はーい」 こいしが声をあげて、扉の方へと歩いて行く。 既に纏められた紙に筆を取り企画案を再検討していた所で、丁度来客があったようだ。 「お早う。ああ、そう言えばあなたもだったな、お早うだ、古明地こいし」 引き締まった声音と、銀白の髪がふわりと揺れて人里の守護者が顔を覗かせる。 彼女の真面目さ故か、堅い口調を崩す様子は全く見られない。 「おはよーございますっ」 にこっ、とこいしが笑顔を浮かべてぺこりと頭を下げた。 「慧音か、おはよう。適当に座って待っててくれ」 「ああ。しっかりと花嫁修業が身に付いているようだな」 くすくすと笑いながら慧音が玄関に腰掛けて靴を脱ぐと、へへ、とこいしが少しはにかんだような笑みを浮かべた。 「女の子ですからー」 「変わるものだな」 俺を見やり、慧音がにやりと笑みを浮かべる。 まるで何処か達観したようで、それでいて何処か苦笑したような表情で彼女は続けた。 「最初はそこまで愛想よく無かったけど、途中からそんなもんだぞ」 肩を竦めて溜息をつくと、慧音が少し驚いたような表情で俺の顔をまじまじと見つめる。 「この果報者、なかなかに鈍感のようだ。君も大変だな」 そしてこいしに視線を移し、一度苦笑するとこいしが同じような苦笑いを慧音に返した。 「ホントにねぇ。あ、お茶用意するから待っててー」 とたたた、と軽い足音を立てて板の間を駆けるように踏んで行くこいしの足を見ながら、何処で床板突き破るのかと皮肉めいたこと考えるのは俺自身の歪んだ性根故だろうか。 畳なんて言う豪華な物はこの家に一畳も存在しないし、何処かで床板が腐っててもおかしくは無い程度の家だった。 「……話を聞いた時にも思ったのだが、君自身が真っ先に婚儀を挙げた方が良いのではないだろうか」 慧音が呆れたような声で呟いて、俺はもう一度溜息を付くしかなかった。 現在、どうにも金が溜まらず、山から下りて来て食うや食わずで転がりこんだボロ家をもう少しマトモな家へと改善する必要があった。 手伝いがてらで引く事が出来た風呂だけがしっかりとした作り過ぎて泣けてくる程には。 そこで、冠婚葬祭を一手に引き受けてそのあたりの雑務だのを行おうと思った訳だ。 正直な所、この里で食っていく為の方法としては聊か卑怯な気はしないでもないが、少なくとも肉体労働よりは向いていた。 また、葬儀については各業務が完全に分業されている為、纏める人物が居ないことでの煩雑さや神式仏式の手順の違いなど、多岐に渡り手間を掛けているのが見えたからだ。 檀家が増えたであろう命蓮寺ではあるが、奈何せんこう言った事に慣れて居るのは白蓮一人と言う有り様であった。 考えてみれば御尤もである、水蜜はまだしも他の連中に関しては純粋培養の妖怪連中しか居ない。 流石は超人、不眠不休の覚悟で数日間を乗り切ってけろりとした様子ではあったが、傍から見ていてこんな状態では数件の用事が重なっただけで破綻する。 それに、この仕事に関しては俺にとっても余程油売りよりは向いていた。 寒い中菜種油を売りに行くのだけは正直もう勘弁して欲しい所だ。 それと共に、冠婚関連――要は、婚儀に関しても、余計な事かもしれないが一定の手順を整えて置いた方が良いのではないかと思った訳だ。 最も、そちらに関しては葬祭関連程話はスムーズに進まないのが問題ではあるが。 慧音はそこのところを突っついて来ている訳である。 「自分で自分の結婚演出してどうするんだよ一体」 「なるほど。婚儀を行いたくない訳では無いんだな?」 慧音が揚げ足を取るように俺をからかったところで、もう一度こんこん、と戸が鳴った。 「はーいっ」 こいしがお茶を淹れながら、玄関を見やるが手を止められる状態では無い。 代わりに声を上げて、扉越しに居るであろう人物に向かって声を投げかけた。。 「白蓮か? 入って良いぞ。すまんがこいしが手を離せる状況でない」 「はい、では失礼しますね」 がらり、と扉が開いてたおやかな笑みを浮かべながら現れる女性の姿。 それと、傍らには羽のような良く解らないものを付けた黒い少女が付き添っていた。 「おはようございます、上白沢さん」 「聖殿か。おはよう。それに君は――」 少女を見て、慧音が珍しいものを見たような顔をして首を傾げると、その少女はげ、と小さな呻き声を上げた。 「封獣ぬえ、か。君まで来るとは思わなかったが」 「……白蓮。帰っても良い?」 白蓮の服の裾を掴み逃げ出そうとでも言うかのようにしているぬえの様子は何処か滑稽で笑いを誘うが、彼女にしてみれば必死なのだろう。 「ふふ、ダメですよ」 そしてその希望をたおやかな笑顔とともに微塵と打ち砕く白蓮はまるで菩薩のようであったが、きっとぬえには修羅の如く見えたであろう。 「あ、ぬえも居るんだ。こっちまで来たのー?」 こいしが顔を覗かせて、こっちこっちと言う風に手を振ると気を取り直したぬえが、べ、と舌を出した。 以前、命蓮寺での事である。 白蓮に仕事の話をしに行った俺は、「あっちで遊んでろ」とこいしを放っておいた。 仕事内容を確認してから、先々人里でどういう形で企画を立てるか、というのが必要だったからだ。 その時のことである、確か一つ問題を潰し終わった所だったと記憶していた。 『こんのぉぉーーーーっ!』 と、突然の轟音と共に怒声が響き渡り、寺全体が振動で揺れた。 何だと思って立ち上がると、座ったままで白蓮が首を傾げた。 「あら、ぬえの声ですね。何かあったのでしょうか……」 動ずる様子も見せない白蓮に半ば呆れつつ、襖を開け放ち廓から空を見上げる。 そこで黄と緑の蝶が舞いながら弾幕をかわし笑顔を浮かべていた。 『あはは、私を意識してると当てられないわ、正体不明の妖怪さん?』 『うるさい、黙れ、死ねっ!その余裕が一番気に食わないのよ!』 笑顔のまま弾幕を撒いて両手を挙げるこいしと、完全に頭に血が昇ってしまった黒い少女、その弾幕戦が空中で繰り広げられている。 『そーれ、今度はこちらからよ!』 こいしが幾何学的な模様を宙に描いたかと思えば、それにUFOが突撃し対消滅、黒の少女も負けてはいない。 見とれる程の戦いに一瞬だけ目を奪われ、我を取り戻し大声で叫んだ。 「何やってるんだお前らーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」 弾幕勝負はそこでお開きとなり、降りて来て名乗った黒の少女、封獣ぬえから事情を聞けばこいしが喧嘩を売ったのが原因だと言う。 そこでこいし自身に聞いてみれば、 「そんなことはなかったんだけどなあ」 と、認識していない様子なものだから何を言ったか問い詰めて見たところの回答は以下の通りだった。 「あ、もしかして『寂しがりやさん?』とか『ぼっちさんじゃないよ、大好きな人と一緒に来てるもん』とか『天邪鬼だからだよー、もっと素直になればいいのに』とかそのあたり?」 以来、ぬえとこいしは弾幕を叩きつけ会う程に仲良くなったわけだ。 白蓮は『ぬえにも仲が良さそうな友達が出来て良かったわねぇ』と言うような、ダメな母親状態であった。 ついでにその時以来、こいしとぬえが出会った時に手の届かない所に放っておくつもりにもならなくなった。 「今日こそ決着を付けてあげるわ、こいし! 一週間前の恨みを晴らさずにおくべきかっ!」 古文書にも記載がある程の妖怪にしては随分安い恨みだなと密かに思いながら、こいしを見やる。 「うん、解った! 弾幕勝負なら負けないよ?」 こいしが笑顔で頷いたのをこほん、と咳払いをして抑止する存在が居た。 無論、常ににこにことした笑みを浮かべて居る白蓮でも、止めるのが無駄だと解りきって諦めている俺でもない。 「人里の中での弾幕勝負は禁止するぞ?」 にこり、と慧音が瞳の笑って居ない表情で笑い、俺は溜息をついて茶を啜り、白蓮はきちんと正座で座ってくすくすと笑みを浮かべる。 「……はーい」 「っ、解ってるわよっ……」 二人が頷いたのを見て、書類を床に広げる。 「とりあえず、今回の件の打合せ、始めても構わないか?」 ここまで行くとグダグダも良い所であるが、本題の打合せが始まった。 「この計画案そのものは良いと思うが、最初に掛かる費用はどうするんだ? 君の言う限りでは、この部分はどうやっても必須だろう」 「そうですね……それに、この人里で何処までこう言った事を求める人が居るか、と言う事でしょうか」 慧音と白蓮それぞれの視点からの駄目出しに、うぅむ、と首を捻る。 慧音が指しているのは根本的な運営資金、白蓮が指しているのは需要の面だ。 「費用的なことに関しては、それこそ少しずつ蓄えるしか無いだろうが…借りたいのは山々だが、相手が居ない」 「いいや、逆にこのような場合であれば一度多少借りて整えた方が良いだろう。少なくとも大店や旧家であれば話には乗ってくれる。稗田か、霧雨か」 びしり、と厳しい意見が飛んでくる当たりは流石慧音と言ったところか、良く現実を見定めて居る。 「そうですね。余裕がある方は勿論そうですし、お話は聞いてくれるかもしれません。ですが、それ以外の方は如何でしょうか」 反面、貧者へも施そうとする白蓮の考え方は里や人にとっては非常に理想的な考え方である。 目下の問題は、それが現実的かつ金銭的に行うことが出来るかどうか、と言う事だ。 「無論俺としては金銭的な余裕のない中での話も行うべきだと思う。慧音、実際の所、そのあたりはどうなんだ?」 「私としては難しいとは思う。だが、君の立場からしても聖殿の意見も無碍には出来るまい。私もそうするつもりはないが、ここに関しては正直難しいだろうな。何せこれまではそのまま埋めて居る者が殆どだ」 ふぅ、と溜息をついて慧音が火葬、と書かれた所を筆で指す。 「そうなるとやはり土葬なのか、この地域の風習は。現実的には火葬でないとどうやっても数が足りないだろうが」 思っていた以上に此方の話もとんとん拍子では進まない。 「戒名くらいは授けることは出来ると思いますけれど……それ以上は、特に敷地の問題も有りますから無限に受け入れる、と言う訳には」 「だろうな。そんなものがあるとは思っては居ないが、どうしたものか」 「否定だけしていて済まないな。確かにこれそのものは魅力ある事だと思うが……」 三人で深く息を付き、議題が丁度詰まった所で慧音が首を傾げた。 「そういえば、彼女たちは?」 こいしとぬえの姿が小さい家の中に見えない。 「先程、お二人が深く話しこんで居る間に外に出て行きましたけれど……何やら弾幕以外で勝負するとか」 白蓮が戸の方に視線を移して呟いた。 「……放っておいて良いのか?」 慧音が軽く俺を詰るような視線で見つめるが、ことここに至っては俺はこの言葉以外は口に出来ない。 「何も起きない事を祈ろう」 俺と慧音は、同時に深く深く溜息を付いた。 こいしとぬえが何処かに行っている事は死ぬほどさておきたくない事ではあるがさておいて、目の前の議題を考えなければまず話になるまい。 そう考えて、変わらず三名で額を付き合わせている。 「……うむむ」 とりあえず里で騒ぎになっている訳でもなく、慧音を呼びに駆けて来る人が居る訳でもないあたり本当に人里での弾幕勝負はしていないらしい。 それ以上に現状の行き詰っているプランが問題で、打破するための方策は上手く見つからない。 風習的な問題と、現実問題が折り合わないのが一番の原因なのだ。 「金銭的な要因がやはり大きいな。聖殿の考えに沿う形だと」 「一般的に一つの流れの葬儀を行うのは、一故人につき、ですからね。その為には、やはりそれ相応の費用が掛かるとは思いますけれど」 白蓮が呟いた言葉に、ふと顔を上げて俺は呟いた。 「……待った、一故人について、その葬儀の日数、だろ?」 つまり、『お一人様』について、一回の葬儀と言うプロセスそのものを取り払えば良い。 「え? あ、もしかして」 「そうなるだろうが、どうした? ――ああ」 これだけで察した白蓮と慧音、二人の勘はやはり常人にはまず無いであろう凄まじいものがある。 『一故人に付き一度の流れの葬儀』ではなく、『一故人でない複数の個人を悼む』葬儀。 つまりは合葬である。 これを行う事で、金額的な面についてはかなり削減する事が出来る。 裕福な家であればそれこそ大がかりな葬儀を平素から行えば良いし、逆に貧しければ最低限の処置の上葬れば良い。 ――けれど、これであればそれこそ裕福であろうが貧しかろうが、全て平等に扱う事が出来る。 死の前に人は平等であることを知って、生きて行く――。 これはどちらかと言うとキリスト教的な思想に近いだろうが、生きる限り当然の摂理でもあった。 「ああ、そう言う事だが、これは多分だけれども白蓮がかなり負担になると思うんだが……」 抱えていた懸念を口にすると、白蓮が胸のつかえがとれたような笑みを浮かべながら首を横に振った。 「お彼岸の時だけでしたら、そこまで酷い事にはならないでしょう。皆にも協力をお願いしますから」 それにお一人のお葬式が幾方も重なるのよりは余程やりやすいし楽ですものね、と白蓮は小さく舌を出す。 普段の落ち着いた様子からすると、全く別モノでありこれでは惹かれる男も多いのだろうなぁと苦笑した。 多分当人は全く意識をしていないのであろう、困ったものだ。 「私の方が里への周知に関しては私の方が上手く行く。命蓮寺での法会、と言う事を知っている里人はそう多く無いだろう」 真面目な回答を最後の最後まで返す慧音も、何処か表情が晴れやかだ。 解決の道が見えたが故に解決までの道筋が彼女の目にも見えて来たからに違いないだろう。 「……アレだな。寺で行われる訳だから、俺はそれまでに場を整えて後は何処まで便宜や手配を図ることが出来るか、かね。仏師はまだ良いが、石屋や専業の職人も含めてだな……いっそ俺が石屋兼業するか?」 三者三様、それぞれの行うべき仕事内容が見えて来た。 そこからは話がとんとんと進み、具体的な金銭プランまで見えて来ることとなり、話は一旦ここまでとなった。 「……ふぅ」 「良く、まあここまで纏まるものですねぇ」 一息ついて、出てったこいしがそのままにしていた急須から茶を注ぐ。 出涸らしだが、ここまで話を煮詰めて少し疲れているのもまた事実であった。 「ええ。そう言えばですがもう一つの方はどうなっているのですか? あなた方が行われるのが一番良いのではないかと思うのですが」 「それがだな聖殿、彼としてはまだなのだと。婚儀を挙げるのは」 「あらあら」 「茶の中に雑巾の絞り汁でも入れたろうか、お前ら」 人が折角茶を入れていると言うのに勝手な事をほざく女連中は、こいし一人の時よりも余程タチが悪いと非常に良く理解した瞬間である。 その口を叩いているのが真面目な表情だったりたおやかな笑顔だったりするものだからなお余計にタチが悪い。 「む。客をもてなす態度とは思えないな」 「なら家の主人を虐めるなと」 「まぁまぁ。虐めていた訳ではありませんし。こいしさんの様子も見れましたので安心出来ました」 その気の無い皮肉に真面目な口調で返す二人だが、片や厳しく片や柔らかくなのでこれまた対応に困る。 「花嫁修業も板に付いて来たんじゃないか、彼女も」 慧音がにやりと笑うと、白蓮もたおやかな笑みを浮かべながら話を回帰させる。 「いっそきちんと式を挙げてしまえば宜しいのに」 「そもそも婚約がまだなんだが」 しれ、と言い切って会話を打ち切ろうとすると呆れたような声が二人から帰って来る。 「事実婚と言うものもあるからな。要は内縁だが」 「あなた方の場合は認められてしまいそうですけれどね?」 「ああもう、この話は置いとくぞ! ったく、何が悲しくて煽られなきゃならん」 慧音が煽る、白蓮が頷く、俺がそれを茶碗を叩きつけるような勢いで置きながら必死こいて止める。 いい加減この構図に飽きて来た所に、こんこん、と戸を叩く音が聞こえて来た。 「はいよっと。ったく、勝手なこと言いすぎんなよ」 二人に再度釘を刺して置きながら扉を開けると、珍しい人物がそこに居た。 「あ、こんにちは。何だかとても人が多いですね……慧音さんと、白蓮さん? お二人が此処を知っているとは」 蛙と蛇の髪飾りに巫女服の現人神、東風谷早苗。 「君は山の巫女か。彼を知っていたのか?」 「あら、早苗さん。こんにちは」 守護者と尼僧はどちらも彼女の事を知っていたのか、むしろ俺が彼女の神社に居候していた事を知らないだけなのか。 彼女たちは珍しいモノを見る様子で、早苗に視線を注視していた。 早苗は早苗で、彼女たちの視線をしっかりと受け止めて微かな笑みを浮かべているあたり余程成長と言うか進化したのだろう。 「ええ。神奈子様、諏訪子様からの差し入れを。……それと」 きらん、と早苗の瞳が輝いた気がしたのは比喩では無い。 これは確実にこの話に巻き込む方向になるだろう、実際協力を依頼する事は検討されていた。 だが――。 「結婚式を挙げるとあってはいてもたってもいられません。とてもおめでたいなので私も是非神様方の力とともに尽力させて頂きます!」 俺は踏んではいけない人物の前で踏んではいけないスイッチを、盛大な音を立てて踏み抜いたような気がした。 次からは早苗を呼ぶことも話の中に絡めておきながら、これはまたややこしいことになってきたと思いつつ話を終わらせた。 多分テンションの上がりまくった早苗の状態では話にはならないだろう。 普段はお淑やかを地で行く性格にも関わらず、どうしていきなり興が乗った瞬間にそんな事になるのか。 落ちつかせなだめるのに十数分、何とか落ちついて貰って茶を飲ませ女性たちトーク、または信仰トークになってどれだけ時間が立ったほどか。 気が付いたら外は既に夕方を超えて、暗くなり始めていた。 「……と、こんな時間ですか、もう」 「ぬえも何処行っちゃったのでしょうね、もしかしたら戻っているかもしれないですけれど」 早苗と白蓮が立ち上がると、慧音も彼女たちに頷いて立ち上がった。 「そうだな。これ以上長居していても結論は変わらないだろうし、寺小屋に戻って纏めなければな」 彼女のこう言った几帳面さと真面目さは非常に助けになってくれている。 一人ではここまで纏まる事は無かったに違いない。 「では、私は失礼しますね」 「私も行こう。どちらにしても帰り道は途中まで変わらないだろう。またな」 「あら、でしたら私もご同行させて頂こうかと思います。それでは」 三者三様、早苗も慧音も白蓮も振り返り挨拶をする。 「ああ。お疲れ様」 全員を見送って、俺はこの先を思いやって安堵半分と先行き不安半分の息を深く深くついた。 夕焼けは少しずつ部屋の中を朱色に焼いて行く。 軽く筆を取って今日打ち合わせた事を軽く纏め始めると、部屋の中が薄暗く多少書き辛い。 「ったく。暗」 灯を付けようとして、ふと思いとどまって古い家の中を見回した。 影が闇となり、漏れた夕陽が障子格子の狭間から降って床を照らし上げる。 ふと思い出すのは、こんな夕暮れ時だ。 子供の頃迷子になって泣いていたこと、そして泣きながらも帰り付いた団地が暖かったこと。 その時に叱りながらも安堵した様子で受け入れてくれた、健在だった両親と親族の姿だが、戻った所でそんなものはとうに無い。 ああ、またどうしようもないノスタルジアに浸ってこいしを心配させるのかと軽く悪態を付く。 ち、と軽く舌を打って、冷めきった茶を煽って口元を拭った。 飲み干す前に見えた、茶に映った自分の顔は何処までも醒めている癖に泣きそうな、情けない顔。 何故こんなにも情けない顔なのかと溜息を付きながら、部屋の中を見て実感した。 俺は、一人でこの場所に居る――そう、孤独を感じた瞬間だった。 それでいて、何かを求めるでもなく何かと話したい訳でもなく、ただその孤独を味わっていたいとすら感じた。 きっと、それは人に囲まれ、人が居た場所に何にも囲まれず一人で居る為の孤独だった。 まるで、外の世界に居た時に一人忘れ物をして夕暮れ時に教室に戻ったかのような。 日常の中で感じる、静かで、心地よくて、何故か解らないが泣けて来るほどの孤独。 『ですから、白蓮さんも少しは神社に来て神奈子様達とお話して頂ければお考えも変わるかと――』 『いえいえ、今度伺わせて頂こうとは思いますけれど、山の妖怪にもお話は通して置きませんと』 『麓ほどやる気が無いのもどうかと思うが、ここまでやる気に満ち溢れているのも問題なのだな、巫女は』 先程まで話をしていた三人の幻視が一瞬見えた気がして、影にうっすらと消えて行った。 きっと彼女たちが先程まで居たからこそ、俺は今この瞬間に『一人』であることを感じるのかもしれない。 『お客さん一杯だと楽しいねー』 お茶を人数分淹れて、嬉しそうな様子で持って行くこいしの幻視が見えて、それもまた薄暗い中に消えて行く。 人と触れ合う彼女の様子が変わってきたように見えるのは気の所為ではないのだろうか、と言うことにふと思い当たる。 複数の人妖の中で、屈託と裏表の無い笑顔を見せるこいし。 何処か輪の中心のようにも見えて、けれど輪の中心になることはなくてあくまで流れるようにあちこちの人妖と触れ合っている。 言葉の端々の無意識を全て感じ取り、隔絶した笑みを浮かべて視線を逸らしていたこいしとは違っていた。 最初は、彼女が持っている特有の寂しさに惹かれていたのかもしれない。 何処か人と線を引いているにも関わらず、半ば一方的に懐いて来て目を離せない存在になっていたこいし。 けれど今は、無意識に人と線を引くこと無く分け隔てなく接して、幸せそうに笑顔を浮かべている。 改めてその笑顔に惹きつけられて、目が離せなくなっていた。 アイシテル、と言う五文字の言葉だけでは、とうに言い表すことの出来ない存在になっていたことに夕暮れ時に気付かされた。 手を伸ばし、口づけ、キスして、抱きしめたい――身体で感じることができるこいしの姿も。 話し、無意識に笑い、無意識に泣き、また笑う――心で感じることができるこいしの全ても。 既にこの掌では抱えきれないほど、どうしようもないくらいに愛してしまっていたのだったから。 それでいて、腕一杯でも抑えきれないこいしへの思いを、一つ一つ拾い集めては繋いで形にする。 結局不器用過ぎて、出来あがったものは不細工で無作法なものでしかなかった。 けれど、それを笑顔で嬉しそうに受け取っているこいしの笑顔が脳裏に過って、心が少しだけ高く弾んだ。 「……あー」 口元が中途半端に歪んだような笑いしか最早出て来そうもない。 自分の頭を軽くがしがしと掻いて、何処へこの感情をやろうか、と溜息を付きながら黄昏時に思い直す。 「また一人でたそがれてるー、もう夜になっちゃうよ?」 後ろからぽふ、と抱きかかるようにこいしがのしかかって来て、全てがどうでも良くなってしまい現金なものだと一人ごちた。 にしし、と笑いながら俺の首元に腕を回しているこいしの快活な様子が見えて、自然と口元に笑みが浮かぶ。 「ああ、お帰り」 その笑みを浮かべたまま呟けば、こいしが硬直したような様子で俺の顔を横から覗きこんでいた。 「……お説教の一つでも貰うかなって思ったのに。普段とは違う優しい顔してるし。何があったの?」 「何かがあった訳じゃないけどな」 ただ、嬉しい事があったとも言わない。 こいしが調子乗るのが目に見えていて、そのままだだ甘なセリフを延々とやりとりするだけで多分夜になっても止まらないだろうから。 「むぅ。まあ良いけど。あ、そだ、お土産」 こいしが訝しむような様子は変わらないが、思いだしたように何か取りだすと俺の首元に掛けた。 「浮気したら、無意識で解っちゃうよ?」 ふふ、と笑いながらこいしは笑い、その何かを掛けた俺の首元にしがみつく。 「しないっての。お前を好きになったのは俺くらいで、俺を好きになるのもこいしくらいだろ」 「外の世界では? ほらほら、正直に言わないと耳引っ張るよ?」 「そもそも色恋沙汰とは縁遠かったって――いってぇ!? って、これ」 耳をぐいい、と引っ張り続けるこいしが俺の首元に掛けていたのは、チョーカーと言えば良いのだろうか。 小さな閉じられた第三の瞳が、俺の首元で揺れていた。 「うん。作ったんだよ、装飾屋さんでぬえと」 少し驚いたような様子でこいしに視線を送れば、こくりと頷くこいしの笑顔。 「結構大変だったんだよ? ぬえはもっと大変だったみたいだけど、羽根作りながら怒ってたもん」 そして、何でまたこんなものを作るのに怒ったりしているのもいるのかと。 「ありがとな。けど、怒るって何でまた」 「『何だってこんな面倒な羽根してるのよ私』とか」 「それ、ただの自業自得だろ」 ぬえの事はこの際非常にどうでもいい事だった。 俺の胸の前にある、第三の閉じられた瞳――それは、こいしの象徴。 淡く目の前にふわり、ふわりと揺れる彼女の髪が視界に移り、何処か嬉しげな声が耳に響いてくる。 「あ、えとね。何か特殊な能力がある、だとかじゃないんだけど、髪の毛を一本だけ紐の中に仕込んであるの。多分解らないだろうけど」 手にとって触れてみれば、軽い肌触りと少しだけ湿った革の匂いが漂って来た。 「革製か?」 「うん。小さいけどね」 ぎゅ、とこいしが背から俺を抱き締める力が強くなる。 「……いっしょ、だよ」 ぽそぽそ、と耳元で呟く声が聞こえて、振り返るとこいしがぱっと離れて立ち上がっている所だった。 「さ、晩ご飯の支度しよ?」 頬が真っ赤に染まっているように見えるのは、きっと夕陽の所為だけではないだろう。 「ああ、そうだな。ところでこいし」 離れようとしているこいしの手をぱ、と掴み引き寄せる。 「わぁ!?」 倒れかかったこいしの身体を強く引き寄せるようにしながら、唇に触れるだけのキスを落とした。 「――んっ……!?」 ――数瞬だけ触れて、もう離れた時には夕陽は既に落ちきっていた。 「……うぅ」 夕食時、食事を口に運ぶこいしの様子が何処か恥ずかしがっているのか視線をご飯にだけ向けたままただ無心に食べ続けて居た。 会話の少ない食卓が進む。 献立は朝と同じご飯に漬物だが、猟師から買った鹿肉と野菜の炒めものに麩の味噌汁と言った朝よりも少しだけしっかりしたものだ。 久しぶりの肉は適度に脂が乗って美味かったが、それすらも会話を紡ぐことには繋がらない。 それでいて、何処か空気が優しいものに感じられて余計な言葉を交わす必要をあまり感じなかった。 「こいし、塩使うか?」 「……ふぁ!? あ、うん」 終始こんな様子で落ちつかなさそうに身体を微かに揺する姿は、普段の彼女からはきっと想像できないだろう。 ちら、と俺に一度視線を向けて塩を受け取ったこいしは、ふるふるっ、と首を横に小さく振ってから、何処か上気した表情のまま食べ物を口に運んでいた。 しかも、そんな事を何度も食事中にするものだから食べるペースが非常にゆっくりしたものになってしまっている。 既にこうやって待ち始めて味噌汁が冷めてしまいそうな時間は経った筈だ。 味わって食べてくれている考えれば嬉しいものではあるが。 箸を置いて、ごちそうさま、とこいしが手を合わせたのは、それから大分経ってから。 「ね」 囲炉裏に薪を放り、火がぱちり、と爆ぜた頃にこいしが何処か神妙にした様子で首を傾げた。 「何で、今日は優しいの?」 問いかけようか、問わないべきかを迷うような様子で口にしたこいしが言葉を続ける。 「普段は皮肉ばっかりだったり、怒ったり、呆れたりそんなのばっかなのに」 「あー」 否定のしようがない言葉を続けられて、軽く己の頭を掻く。 こいしの言わんとすることは大体解らないではないのだが、これに関しては俺も理由が解らないからそれこそ本当に仕方が無い。 「俺自身にそんなつもりは無いんだが、何となく。優しいかどうかの実感すら湧かないけどな」 ただ、何処か郷愁的な思いが彼女の言葉の端に皮肉を思おうとすることを否定しているだけである。 きっと無意識の行動なのだろうけれど、彼女にとってはきっとそれも無意識として感じ取っているのだろう。 「そ、っか」 少しはにかんだような笑みを浮かべたこいしが、くるっと振り返る。 「じゃあ、お風呂先に浴びちゃうね。覗いても良いよ?」 悪戯っ子の笑みを気取った、言葉に出来ないほどに柔らかな笑みで。 「覗かないっての。ゆっくり浸かって来いよ」 ――ああ、あの笑みは、俺だけが見ることが出来るものなんだな、と微かな優越感をそこに思える程だった。 風呂を浴びて布団に転がろうとしたところで、こいしの髪がまだ濡れて居るのに気付いた。 「まだ乾いて無いぞ」 「もう、大丈夫だよ。風邪も引かないんだから」 洗った綺麗な布でわしわしと拭ってやると、何処か擽ったそうに彼女は身体をよじらせる。 「駄目だ。大人しくしてろ」 そ、と濡れた髪に一度口づけると、滴が口に触れて淡い匂いが鼻腔を擽る。 「……いつもと全然ペース違うー」 普段がこいしに攻められて、振り回されるばかりでいるのでこう言う時くらいは俺がペースを握っても良いのではないのだろうか。 「いつも俺を振り回し過ぎだからだ」 念入りに頭を拭いてやると、こいしが心地よさそうに瞳を閉じて微かな欠伸を漏らす。 「ふぁ……」 濡れて居る様子は見当たらなくなったのでもう良いだろう、そう思いながらこいしの頭を軽く抱くと、布団の上に転がった。 こいしの髪の匂いに一瞬だけ包まれてから、掛け布団を被ると互いの体温が少しずつ互いの体を温め始める。 「んー……」 頭を俺の胸元に乗せて、全体重を俺の身体の上にこいしは預けている。 砂を火に掛けて消してしまえば、目の前にあるものの八割以上が閉ざされ切ってしまった暗闇。 窓から入る星月の灯りだけは、変わらずに淡く、優しく俺達を照らしていた。 「……ね」 こいしがふと俺へと視線を向ければ、碧の輝きが目を細めて笑う。 「おやすみの、キス」 彼女の甘えるような声は、淡く微かに。 彼女の唇に人差し指を当てる様子は、そこはかとない健全さと不健全さが合い混じった様子で。 こんなに落ち付いた、安らいだ心のままで、その全てを分かち合う為に――。 「……ん、っ」 深く、甘い口づけを交わし、ゆっくりと、眠りの深海へと静かに溺れて行った。 ────────────────────────────────────────── 丁度収支の計算をしている時に、とある事に気付いて筆を動かす手を止めた。 「あ」 最近の仕事だのの忙しさにかまけてすっかり忘れて居たものがあった。 何とはなしに今日のカレンダーを見てこいしが嬉しそうな表情をしていたのを忘れた訳ではない。 「どしたの?」 目を細めて何処か浮ついたような笑顔を浮かべたこいしがこちらを振り返った。 「いや」 己の口元に手を当て考え、やはりそれ以外無いと言う結論に達した俺は多分人間として問題しか無い気がする。 「こいし、今日クリスマスイブだっけか」 そんな所から、この話は始まった。 「ん、そだよー? 今頃再確認?」 訝しげに首を傾げて、こいしは不思議そうな顔をする。 「まさか今気付いたの? 折角カレンダーも外の世界準拠にしてるのに」 「あー……」 そう言えばそうだったか、と言うか今の今になるまで気付かないあたりどれだけ俺はダメ人間か。 そうだと言うのも格好が付かず、まるで彼女の姉のようにじとっとした視線を向けて来るこいしから視線を逸らす事しかできない。 「忘れてた?」 言い訳するなれば、外の世界のようにクリスマスムードで浮かれている様子が皆無の人里だから忘れてしまいこともさもありなんではある。 『ところで兄ちゃん、正月の頭ァここいら一帯の集めて一杯やるんだけどよ、どうだい?』と言う発言が昨日手伝いに行った大工から飛び出す程度には、だ。 やる仕事が地場密着型産業と言い換えれば良いが、寄合の会合はやはり外せないのが少しだけ辛い所である。 ちなみに大工には『行くのは良いけれどあんた方より強いうちの妖怪が顔見せることになるけど良いのか?』と返しておいた。 「面目ない」 そんな鬼が笑いそうな来年の事は今はどうでもいい。 実際に鬼を知っていて彼女たちが爆笑しそうなところを見ればその諺は外れて居るようには感じられないが。 とにもかくにも、不満そうな顔のこいしがこちらを睨んで居た。 「もー」 ぷくぅ、と膨れた表情は彼女がどれほどか怒っている事を示している。 まるで焼き餅みたいだな、と緊張感無い様子で連想すればこいしがもう一度唇を開いた。 「私、お姉ちゃんのところ行ってくる。プレゼント渡さないとダメだしね。って訳で、時間あげる」 ぴっ、と俺に指を差したこいしは、くすりと笑みを浮かべてからこう言った。 「戻ってくるまでに、きちんと考えておくこと」 相変わらずこの家に一人居残っていると少しだけ肌寒く感じる。 「さて、どうすっかねぇ」 彼女は先程の台詞を吐いた後、空に浮かび上がってぶんぶんと手を振って山の方に行ってしまった。 流石は無意識、行動が早いと言うか身勝手と言うか何と言うかいつものこいしである。 一人取り残された俺はクリスマスの出迎えとして、やはり彼女に何かしてやらなければダメな気がする。 しかし困ったことに全くイメージが浮かばないので、一人で考えて居ても仕方ないのではないかとも思い始めて来た。 「仕方無いか……」 立ちあがり、コートを羽織る。 友人連中ならきっと良い案が浮かぶかもしれない。 こう言う時に話を聞くべきはやはり外の世界と言う誼だろうなあ、と思いながらコートを手に取った。 少々面倒臭いが、やはりそこに行かなければならないだろう。 立ちあがり、扉を閉めれば外の風は肌寒く身体を突き刺して来た。 「止まりなさい」 山に入って早々、白狼天狗の少女に声を掛けられた。 以前神社に居た時もそうだが、非常に真面目な仕事振りである。 顔も互いに見知っているのもあり、彼女は一つ息をついて呆れたように言葉を口にした。 犬走椛、山の天狗である。 「……って、あなたは。行き先は神社ですか?」 「ああ。早苗に至急の用があるんでな」 「なら、神社までは同行します。余計な寄り道をされては困りますから」 ふ、と彼女は俺の少し前を歩き始め、道を先導するような素振りを見せる。 「それと、文さんがあなたが来たら神社まで誘導して欲しいと。根掘り葉掘り聞きたいそうですから」 「目的無ければ即座に帰りたい所だな」 だが、困った事ではあるがそれこそ協力して貰わないと困るものなのだ。 歩きながら椛の尾がふりふりと振れるのを見て、機嫌は悪く無いのだろうなと何とはなしに思った。 「ちなみに根掘り葉掘り聞かれる程の事は何もしていない」 「……里だろうが何処だろうが妖怪と一緒に歩いている時点で十分何もどころでは無いと思いますが。此処からでも十分見えますし」 だんだんと山を登りながらそんな事を嘯けば、ふと気付いたように椛が口を開いた。 「そう言えば彼女は? 珍しく一人みたいですが」 「地底に行ってると思うけど、顔見てないのか」 答えれば、椛がはぁっと一つ大きく息を付いて尻尾がしょげかえる。 「……またやられました」 懲戒天狗を務める彼女にとってはどうもこいしを捕まえられないのが非常に悔しいらしく、どうにかして捕まえようとしているらしいのだが相手はこいしの無意識である。 そんなもの、目の前に居ようが気付かず通り過ぎられる時点でもう最初から負けが決まってるとしか俺からは言えない。 「諦めなさんな。夢はきっと開ける」 「全くそう思っていない口調で言わないでくださいよぉ!?」 そんなやりとりをしながら、山を登って行った。 「よぉ。……って本当に待ちかまえていやがるのな」 「あ。こんにちは」 「こんにちはー、待っていましたよ? ……って何で椛しかいないんですか」 「何でって理由を聞かれても困ります……お一人だったんですから」 守矢神社に足を踏み入れた途端に飛んでくる天狗達の非常に間の抜けた会話を耳にしながら肩を竦める。 「もしかして、こいしさんと喧嘩でもされたんですか?」 早苗が首を傾げ、心配そうに見つめ邪推して来るのがまた困ったもので、ここで『はいちょっとクリスマスイブ忘れてて呆れられました』とでも言ってしまったら最後、女心が解って無い、だの男はかくあるべき、だの説教の嵐である。 正直彼女自身が説教される立場であるのにもかかわらずそんな事になったら確実に今晩食う飯が不味くなる。 なので、此処は無難な発言で抑えることにした。 「なぁ。女の子が好きそうなプレゼントって何だと思う?」 「はい?」 早苗が目を瞬かせ、微かに首を傾げて、言葉を紡ぎ出す。 「アロマですかねー……後はネックレスやリング何かも良いかもしれません。それに」 そう、煩悩と言うかある意味ではその世代の外の世界の少女らしくかといって此処でどうしろと言うような物を。 「お前それ自分の欲望入ってんだろ」 途中で言葉を切って溜息を付いて天狗の会話に耳を傾ける。 「ですからそこは椛の認識が欠けて居ますね」 「……そうは言っても文様ぁ」 未だ、上下関係の会話を続けて居る二人に視線を向けた。 そして、確信した。 「コイツ等に聞いても無駄か」 簡単かつ非常にどうしようもない結論だった。 「とりあえず。こいしさんに何かプレゼントにしても……遅過ぎませんか、流石に。そんな様子では愛想尽かされちゃいますよ」 「煩いな、案が無いか聞きに来ただけだっての」 剣呑な口調で返せば、早苗がむ、と眉を寄せる。 「文さん、椛さん。次の写真はこの人題材にしてあげてくださいな。きっと良い記事になります」 俺を売り飛ばすと言う最もえげつない手段を的確かつ真っ先に使うこの東風谷早苗と言う人物は、敵に回す訳にはいかない人物だと再確認させられた。 「あーあー解ったから待てコラ俺が悪うござんした」 半ば棒読みで謝ってから溜息を付いて、早苗を止めれば天狗組がこちらに視線を向けてその内の片方が此方に近寄ってくる。 無論、尻尾の生えている方では無い。 「ところでこいしさんとのその後の甘々新婚生活をさあ!」 「生活費が常に危ういのでもう少々お待ち下さい」 まるで生肉を放りこんだ所に食い付くピラニアのような勢いで此方に振ってくる天狗、射命丸文にしれ、と手を横に振った。 不満そうな顔をして唇を尖らせる彼女に対して言葉を続ける。 「ついでに宣伝広告入れさせて貰えるんなら多少は譲って話さないでは無い」 「ジャーナリズムに対する横暴です!」 鋭い反駁が帰って来た為、彼女と交渉する必要は無いな、と感じながら返答する。 「お前が今俺にやってるのは、ジャーナリズム精神では無くパパラッチ精神と外の世界では言うんだよ」 もう一つ溜息をつくと、緊張感の欠片も無い会話の山にそろそろ頭が痛くなってきた。 「それで、プレゼント探し、贈り物探しですか? 人里の方で何か買ってあげるのとかが良いとは思いますけれど」 「それは俺も考えたんだがなぁ」 文の発言に適当なものを考えようとはしたが、浮かばなかったため此方に来たと言うのもある。 我ながら発想が貧弱で困るが、貧弱な発想でもきちんと思ってやらなきゃ男としては十分以上に問題だ。 「じゃあ、こいしさんの趣味とか」 「死体飾りとか言ってた気がするが」 即答すると文が目を閉じてふーむ、と考え込むような表情をする。 最も、半分くらいは嘘である、と言うか正確には俺も詳しい事は知らないし多分であるがそこらへんの行動は無意識で行っているのだろう。 だから余計に困る訳だが、こう言う場合。 「じゃあ飾る為のパーツを」 「どうしてそうなったんですか、文様……」 「人里に住んで居る俺に人殺しをさせないで頂きたい」 文の回答に再度即答、これも当然の出来事である。 むしろ椛からも突っ込まれているあたり彼女もまた発想的にはそうアテに出来るとは思えなかった。 「ほらー、きちんと協力してあげたじゃないですか。だからこいしさんとの甘い甘いお話を――」 また騒がしくなり始めた文にいい加減頭を抱え始めた所で、明るい声が響き渡る。 「やー、何か騒がしいと思ったら。早苗、参拝客が来たら教えてくれれば良いのに」 童女のようにしか見えないその姿は、きっと神には見えないであろう、この神社に祀られた神様のうちの一柱。 「あ、諏訪子様」 「諏訪子様か。邪魔してるぜ」 「これはこれは。新年の参拝客を待てずに? ちょっと早過ぎる気がしますけれど」 「お早うございます」 ただでさえ人がそう多くないこの神社で四名も固まって居れば騒がしく聞こえるか。 のっけから神の精神を逆なでるような台詞を吐く文に呆れつつ、会釈をすればぴくり、と諏訪子様が身を硬直させた。 「ねぇ天狗、来年の事を言うと鬼が笑いながら戻ってくるんじゃないかい?」 にぃ、と破顔し帽子のつばを深く下げた諏訪子様を見て、天狗二人組がびくぅ、と背を固まらせるのを見ながら諏訪子様はくっくっ、と笑いながら続ける。 「そうだねぇ、あの一本角の星熊童子。良い飲みっぷりだったよ。どうかな、今度山の方で騒がしくやる時があるなら私から呼んでおこうか?」 地底の鬼の事を笑いながら語ると、それだけで震え始める天狗二人。 星熊童子とはこの場合勇儀の事だろうが、以前見た限り鬼と言っても決して悪い存在には見えない筈ではあるのだが。 最も、鬼である事そのものが悪いことではないか、と言われてしまえばそれで終いではある。 「いいえ遠慮して置きます!? 椛、失礼しますよっ」 「待ってください……って帰る時はきちんと来た道通って下さいね!?」 半ば逃げ出すように天狗二人が飛び去って行くのを見ながらこれで助かったと一つ溜息、全く騒がしかった。 「さて」 諏訪子様が一つ息を付く。 神様二柱だけはきちんと様付けをしているのは神社に居候していた時の癖でもある。 然し、何度見ても外見と内面のギャップが酷い存在だと思わせてくれるのが彼女であった。 「諏訪子様、良いんですか?」 「ああ、大丈夫大丈夫。それよかどーしたんだい、一人だけとはまた珍しいねぇ」 気軽な口調で話しかけて来る諏訪子様へと、どうしたものかなと迷いながら言葉を探す。 「いや、今日クリスマスイヴだからプレゼント買ってやろうと」 結局口に出て来たのは、それくらいだった。 そもそも早苗ですら気付いて居るのだから、諏訪子様が気付いて居ない訳もない。 「で、結局一人でうろうろしてるってことは『自分で考えて?』って言われた訳だ。やるねぇー、愛されてるねぇー」 言わないでもそこまで察してくれるのがありがたいのか、それとも逆に困るのかは解らない。 けれど、にししし、と口元を押さえながら諏訪子様が笑うのが、何処かこいしを彷彿とさせる。 彼女たちは妙な所で縁があるのか似ているのか、それとも存在として似た所が何処かにあるのか。 「全く、こいしさんも大変ですよね。この方いつも何処か煮え切らない人だから」 早苗が憮然としたような口調で唇を尖らせれば、諏訪子様が苦笑する。 「否定出来ないねぇ。鈍感、仏頂面、無愛想。子供の面倒見は良いのにねぇ」 口元からアンタこそ子供だろと言いかけて思いとどまり、ふぅと一つ深く息を付いた。 覚えたのは正直イジメも良い所の言葉の礫を乱打されたかのような感覚である。 「……そろそろ参考にならんのが解ったから帰って良いか?」 何か色々な物に打ちのめされた感が漂うが、それでも探してやらなきゃならない。 溜息をついて背を向けようと思った瞬間、声で引きとめられた。 「まあお待ちなさいな。一つだけヒントを上げようじゃない、迷える子羊の為に」 ちっちっち、と諏訪子様は指先を突いて舌でリズムを刻みながら、まるで何でも無い事のように言葉を続ける。 「そうだね。一つだけ勘違いしている事があるよ、君がね。凄い単純な事なんだけど」 はて、単純な事、と言われて考えてみたがどうにも思い当たる節が無い。 そんな俺に対して諏訪子様が一つ深く溜息をついて、言葉を続ける。 「そのプレゼントは、誰の為に渡すんだい? 渡したくて渡すのかい? それとも、渡さなきゃならないから渡すのかい?」 ――俯けて居た顔を上げて、その言葉を咀嚼して、一つの結論が見えた。 ああ、そうだ、完全に忘れて居たことは、『探さなきゃならない』と思っていた事。 つまり、心からの贈り物である前提条件を完全に失って、『クリスマスだからプレゼントを渡さなきゃならない』と言う強迫観念にとらわれていたと言う事。 形式ばったプレゼントには、形骸以上の意味は存在しないのだ。 「……ああ」 「お、気付いたかい、その表情は」 にぃ、と諏訪子様が破顔し、早苗もああ、と言ったように納得してぽんっと手を叩いた。 「なるほど、諏訪子様。それを気付かせたくて――」 「と言う訳で早苗。後は任せたよ」 早苗がにこにこ顔で続けようとした所で、諏訪子様が深く帽子を被り直した。 「え?」 言うが早いが諏訪子様の身体が土の中に沈んで行って、そのまま帽子だけがぴょこんと頭を出せば何処かへと帽子が動いて消え去って行く。 「え、あのー、諏訪子様ー……」 それが消えた所に、ごうっ、と一瞬だけ風が強く吹き荒れれば、そこに立っていたのはこの神社のもう一柱の神様。 八坂神奈子様が目の前で巨大な御柱を携え、少々剣呑な様子を微かに顕しながらそこに立っていた。 「全く、面倒事を作ってくれて……! 早苗。諏訪子を見なかったかい」 「え、えと。先程まで居られたのですが。神奈子様、何かあったのですか?」 早苗の回答にちっ、と舌打ちをしながら彼女は吐きだすように言ってやれやれと肩をすくめる。 「天狗の親分からこっちに過干渉だから少し控えろって言う苦情だよ、全く」 なるほど、先程文を追い払ったが為にどうも彼女たちの所でゴタゴタが出来てしまったらしい。 これ以上此処に居るとまた厄介事に巻き込まれるだろうと思い、こちらも軽く手を上げた。 「じゃあ俺はこれで。神奈子様、どうも」 「え、あ。また、よいお年を……」 まだ動転している早苗に背を向けて、石段を降り切ってから早苗の声が響いて来たのに振りかえることも無く足を進めた。 「って、せめて説明くらいして下さいよーっ!?」 人を煽るだけ煽った罪だ、俺は知らん。 そう思いながら石段を少しずつ降りて行った。 「で。僕の所かい。君は僕の店を銀細工店か何かと間違えていないかい?」 「間違っちゃいないが、此処以外外の世界のものが流れ着く場所も無いからな。どちらにしろ客なんか滅多に来やしないだろ?」 香霖堂店主の皮肉混じりの溜息にこちらも多分に皮肉を込めて返答すれば、はぁ、と一つ溜息が帰ってきた。 「せめてきちんと買った物には代金を払ってくれるだけ良いお客様だと思う事にするよ」 「そらどーも」 生返事しながらそれらしきものを見て探す。 少し褪せた色の銀のネックレスに、くすんだ金色の指輪、埃が被って磨かれていないエメラルドが嵌められたブローチ。 見事な女性向けと思えるものが揃っていたが、売れ残っているのが非常に怪しい。 「おい。これ売り物だよな?」 「一応ね」 肩を竦めた店主から商品の値札に視線を移せば、桁がおかしい金額になっていて半ば唖然としながらそこに戻す。 「……本当に売るつもりあるのか?」 「一応ね」 食えない、コイツは食えない奴だ。 幻想郷と言うものは人間にしろ妖怪にしろその精神をひん曲げる程度には歪んでいるのか。 「ったく」 「おや、買わないのかい。どうも御贔屓に」 交渉するのもアホらしくなり、店を出て行きながら人里の方にゆっくりと足を進める。 そろそろ日は暗くなり、夕暮れに差し掛かろうとしていた。 暮れて橙色の日差しが差し込んでいる人里の道へと通りかかる。 市の店主達は各々が各々の荷をしまい、中には帰ってしまって空間がぽっかり空いてしまっている所もあった。 それもそうか、時間が時間だし人間の時間はそろそろ終いだ。 結局何も探せていない現状であるが、少なくとも香霖堂にあったものを渡したいとは思わなかった。 値段的なものもあるのだが、それ以上に元は高かったであろう貴金属が完全に褪せたりした姿であると言うのが大きい。 以前は豪奢だったのに、今は寂れてしまったものと言うイメージ。 あれはきっと誰かが大事にしていて、それを忘れ去ってしまったが故に幻想郷に流れ着いたものなのだろう。 忘れ去られていたものを、再度綺麗にして渡してもこいしは喜んだのかもしれないが、俺が釈然としなかった。 プライドとも違うその何か釈然としないものは、きっと諏訪子様からの話を聞いたからなのだろう。 ――そのプレゼントは、誰の為に渡すんだい? 紛うことなく、こいしのために。 迷うことなく、ただ一人の為に。 こいしの笑顔が見たいから。 俺が与えられる物を、彼女に渡したいから。 本当に簡単な事を忘れているのに気付かされて、何処までも愚かな自分に溜息をついた。 そうしていても何も始まらないのだから、動かない限りどうしようもない。 焦燥感は全く感じないが、どうしたらいいのか解らないこの感情。 何を本当に渡したら良いんだろうか、とも思い、また一つため息。 「あっ」 どっ、と肩のあたりに身体がぶつかる感覚と、何かが往来にぶちまけられたような音が聞こえて我に返った。 「すみませんっ!?」 「すまない、大丈夫か?」 目の前に十代前半くらいと思しき少女が尻もちを突いていて、目を白黒させていたのに気付く。 彼女の周りに散らばっているのは、夕陽を浴びてキラキラ煌めいている何か小さなもの。 「すみません、すぐに片付けますから……!」 ぺこぺこ、と周囲の往来に頭を下げている彼女に釣られて、一つそれをとって見れば小さな薔薇を象った銀細工のブローチ。 「これは……」 「あ。えと、お一つ如何ですか? 私が作ったものなんですが……」 凄まじく間の抜けた商談と言うかやりとりが展開されて肩の力ががくりと抜ける。 他にも一つ一つ、あやめにさくら、または雪の結晶を象ったそれが少女の周りに転がっていた。 「……ああ、それは良いんだが」 とりあえず、周囲に散らばった物を片づける方が先だろうと思いながら、少女の手を取って立たせてやる。 「先に拾ってやらないと、踏まれたら大事だぞ」 「は、はいっ」 純朴そうと表現すれば良い表現だが、トロそうなのが幻想郷に居たと言う事に微かな安堵と本当にコイツは生きていけるのかと言う疑念を抱く。 必死扱いて、地面に散らばったのを渡してやりながら最後に手元に持っている薔薇を渡そうとしてふと気付いた。 手に持っている薔薇のブローチは、薔薇にしてはとても花弁が多く同じ花とは全く思えない。 「……これ、薔薇じゃないのか?」 彼女に問いかければ、はっと顔を上げたようにしてこくりと頷く。 「そう、ですね。薔薇じゃないんですけど、その。人里を歩いて居る子のスカートの柄に書かれてた、花のイメージが綺麗だったので……」 ――そんな奴、一人しか居ない。 俺は彼女の事を、とてもよく知っている、と口に出しかけて思いとどまり、何とか堪えるように絞り出す。 「そうか。これを貰えるか?」 そのブローチにはただ茫洋と歩いて居るだけのこいしが、描かれていた。 その姿は何処か寂しげにも見えて、手を伸ばしてしまいたくなる程。 絵画としてあるのよりも、余程鮮明に彼女の姿をイメージ出来るそのブローチからの鮮明なイメージに、青天に霹靂が走った。 そうか、これは、こいしの――。 「はい。……えーと」 金額の札をはい、と手渡すような様子の彼女に苦笑しつつ、そのブローチをもう一度見直す。 銀色の花弁は、落ちかけた橙色の夕陽に照らされて暗く鈍く、それでいて温もりを持って輝いていた。 値段も余程手頃で、きっと香霖堂で飾られていた細工に比べれば玩具のような値段である。 けれど、これが一番彼女に送りたいものだから。 「ありがとな」 「いえ、毎度ありがとうございます!」 元気な少女の声に、口元に笑みが零れる。 言うが早いが、往来を走り出して家へと、ただこいしの笑顔以外考えずに走り始める。 「こいしっ」 ぜ、は、と息を切らしながら日没寸前に家の前に辿りつけば、茫洋とした様子のまま落ちる日を眺め続けているこいしの姿。 屋根の上に乗って、何処か寂しげな様子に見えないでもない。 「あ、お帰りなさいー」 ぼう、としたまま彼女は俺に視線を向けて、また夕陽に視線を戻す。 「どうしたんだ?」 「ん、見てたかったから」 ぜ、はと荒い息を吐きながら、梯子を掛けて屋根の上に昇ろうとする。 「……もー、何で走ってきたりしちゃったの。風邪引いても知らないよ?」 「そんなの、早く帰って顔見たかったからに決まってるだろうが」 こいしの窘めるような発言に、梯子の最上段に手を掛けながら返せば、珍しく彼女は帽子を抱えて恥ずかしそうに口元に寄せた。 「だから何でこう言う時だけー……」 とっ、と梯子を登りきってからこいしの方に行けば、口元を帽子で覆いながら彼女は立っている俺を見上げた。 「照れてるのか?」 「そんな事聞くからデリカシー無いって言うの、もう」 瞳を閉じた彼女は、つん、と言うように俺の方から顔を背ける。 傍らに腰掛けて、夕陽が山の向こうに落ちて行く光景を眺めていれば、何もかもが陰りのある橙色に犯されて、それが少しずつ少しずつ影に塗りつぶされていく。 細い肩を腕を伸ばして抱き寄せてやれば、こいしの頭がこちらにこてん、と揺れた。 「……ごめんね、意地悪したりして」 「いや。何て言ったら解らんが、俺としては良かったと思う、今日の事は」 言うと、首をふるふると横に振って彼女は呟いた。 「一人きりの寂しさ、少しだけ再確認しておきたかったの。普段、一人じゃなくて、ずっと幸せだから」 そして顔を俯けて、俺の服の裾を彼女はきゅ、と掴む。 「やっぱり、寂しくて、胸がきゅっとした。慣れてる、耐えられるって思ったのに、あなたのお陰でやっぱりダメだった」 微かに彼女の肩が震えて、しゃくりあげるような声が聞こえ始める。 「……寂し、かった、よ……」 俯いて、そのまま身体を震えさせるこいしの髪にそっと触れた。 「馬鹿」 一度立ちあがり、座り静かに泣き続けるこいしの後ろからもたれかかるように抱き締める。 とくん、とくんと暖かい鼓動が伝わって、冷えた身体は少しずつ少しずつ、互いの温もりで暖められていく。 こいしから受け取っているものは、この暖かさ。 こいしに与えているものは、俺の暖かさ。 ならその一つに、華を添えて、そっと送ろう――。 ぱちん。 俯いたままのこいしの胸にあのブローチを嵌めてやると、ぱち、ぱち、と涙があふれる瞳がきょとんとした様子で俺の方を向く。 「自分で言った事、忘れたのかお前。プレゼント、きちんと探して来たぞ」 「……へへ、ありがと」 彼女は笑い、それでいて瞳から涙を溢れさせていた。 その涙が滴となり、もう地平線の彼方へと消え始めている橙色の光を吸ってキラキラと宝石のように輝く。 ブローチにその滴が落ちて、鈍い銀色が輝きを増して星のように瞬いた。 「ねぇ」 こいしが笑いながら、涙を流しながら瞳を閉じる。 もう、言葉は要らない。 今与えられる、一番大きな贈り物は、何でもないけれど、俺にしかきっと出来ない、きっとこいししか求めないもの。 その答えは、一つしかない、簡単なもの。 ――宵闇がゆるりと訪れる中、こいしの唇に口づける。 陽が落ちるまでの僅かな瞬間、寒空の中、それでも暖かな瞬間だけでも、今と言う永遠が続く事を信じて――。 ─────────────────────────────────────────────────────── 「毎度ありがとうございましたぁー」 屋台のおかみの声が響き渡る。 やつめうなぎの屋台の暖簾を潜ると、ひゅう、と吹いた冬の風と急激な寒さが身体を硬直させた。 「うぉ、やっぱり冷え込むな」 思わず口を突いて出た言葉に、俺より早く店を出ていた奴が振り返りにや、と笑みを浮かべた。 「こんなもんはまだまだ序の口だろ。ヤワだねお前さんも」 「うっせ。慣れてるから余裕って顔しやがって」 「実際慣れてるからな」 肩を竦める目の前の男に、首を横に振って一つ溜息。 ある程度気心の知れた友人ではあるが、こう言うところは全く解せない。 ただの人間が寒さに弱い存在だという事は自覚して頂きたいものである。 暖かいものを食べていた時にはそう寒くないと思えても、びゅう、と吹く外の風を身体で受けた瞬間身体を脳天から足下まで貫くように寒いと感じるのだ。 仕方ない事ではあるがどうしようも無い事だ。 「あふぁ。……さって、そろそろ帰るかね。お前さんもコレを待たせ過ぎんなよ」 目の前の輩が小指を立ててそうにやにやと笑ったのにはあ、と一つ息を吐くと白く濁って、うっすらと宵闇に溶けていった。 「今日は食ってくるつったから居ないかもな?」 そう、今日は外で食うから家で食事は取らないと言って出てきたのだ。 珍しく彼女は首を縦に振り、『男の人同士だもんねぇ。やっぱり語り合いたい事もあるよねぇ』と訳知り顔で仰いやがった。 「へーへー。どうせそう思ってないんだろお前さん」 「うっせ」 再度の煽りにすげなく返して、肩を竦めて里へと足を進める。 「里の近くまでは着いてってやるよ。その方が安全だしな」 俺の肩にぽん、と掌を置かれれば、その馬鹿が傍らを歩いて俺の首に腕を回す。 「え、何お前。そのケがあんの? 止してくれ、俺にはこいしがだな」 冗談以外入ってない言葉を返してすす、と微かに離れようとしてやると、奴は首を横に振って深く息を吐いてから返答する。 「バーロ、死なれても寝覚め悪いんだよタコ」 俺たちは間の抜けたアホ臭い会話をしながら、宵闇に落ちてしまった道を里の方へと騒ぎながら歩いていった。 自宅のボロ屋に辿り着いて、扉をあけると囲炉裏に火が灯っていた。 ほの暖かい部屋の空気を吸い込めば、んぅー、とか、うー、とかのどう考えても眠気に負けている声が聞こえてくる。 「……こいし?」 「お帰りぃー……」 囲炉裏の奥には布団が既に敷かれていて、ごろんと転がって寝間着を着ているこいしが此方を見た。 「何だ、珍しく早いな」 「もう食べちゃったしきちんと干したしお掃除もしたからねぇー……へへ」 ふにゃり、と表情を崩して枕に突っ伏すこいしの表情は安堵しきった、まるで抱きしめたくなるような笑顔。 こう言った表情は普段とは違って無意識で浮かべる分、余計に反則だと思う。 だがそんなことを気にするようなこいしかと言えば、そんな訳もなくおかまいなしに続けたのだ。 「最後にしてなかったのはー、布団を暖めることー……へへ。暖かいよ?」 あれ、何この可愛い生き物。 いやしかしあのこいしだぞ、と軽く首を横に振る。 ふわふわの髪も彼女がもぞもぞと布団の中で動くとゆらゆらと形を変える。 布団つむりと化した彼女は、身体を丸めて布団にすっぽりと包まれてから、頭だけを出して口を開いた。 「お風呂入って、出たら早く暖まろうよー」 「おい」 普通は風呂に入って暖まるだろう、と肩を竦めてから脱衣所に向かう。 俺が風呂から上がる時まで起きていればいいが、と微かな危惧だけ覚えたが寝ていたらその時はその時かとも思って一つ苦笑混じりの吐息を吐けば、家の中にも関わらずほう、と白く息が溶けた。 「くぅー……」 風呂から出るとやはりと言うか予想通りと言うか、枕に突っ伏したまま寝息を立てるこいしの姿がそこにあった。 布団を暖めるどころか自分がさっさと寝てしまうあたり彼女らしい。 らしいが、俺が潜り込むには少々狭い眠り方をされていた。 「ったく」 ぼやきながら頭の近くに座り込み、さわさわと髪に触れてやるが起きる様子は無さそうに頭を布団に預けて気持ち良さそうに彼女は眠っていた。 やれやれ、と立ち上がりもう一組の布団を広げようか、と思うとふいに布団から伸びてきた腕が俺の手を掴む。 「……もっと」 完全に寝ているように見えたこいしが、全く変わらず眠っているようにしか見えない様子で腕を伸ばしてきていた。 恐るべきは髪に触れている事に気付いた無意識か、それともこいし自身の演技力か。 「……ん、すぅー」 そのままさわさわと髪を撫でてやれば、まるで猫のように丸まったこいしがふにゃ、と溶けたような笑みを微かに浮かべた。 もう一度二度と撫で続けてやれば、頭を深く枕に預けるように撫でるテンポに合わせて深く深く彼女は眠りに誘われていく。 そして引き替えになるものがあった。 やはり温もりである、と言うか寒い。 裸足が板に付いている状態とか何かの修行としか思えない。 足の感覚が少しずつじんじんと痺れるようなそれに変わってきたのを感じて、流石に布団の中に潜らないと拙いと思い始めてきた。 「そろそろ俺の寝場所開けてくれって」 「むぅ」 軽く唸りながら、ころん、と転がってこいしは薄らと瞳を開く。 「とくべつ、なんだよ?」 呂律の回っていない子供のような口調で、彼女は呟いた。 何が特別なんだか解らんが、悠長な事をしていたお陰で足下から冷え始めてきていた俺は結構必死であった。 特別の寒がりと言う自覚はないが、それでも寒いものは寒いし暖かいものを求めたがる。 至極当然の反応と言えた。 「んじゃ、入るぞ」 「ん」 こくん、とこいしが頷いたのを見て、足を滑り込ませればこいしが閉じかけていた瞳を見開いた。 そして暖かい空気を裂くような、悲鳴に似た声を上げる。 「ひゃ、冷たっ」 構わず布団の中に身体を潜り込ませて毛布を被れば、心地よい温もりが全身を包む。 これは確かに眠気を誘う暖かさだな、と実感しながら目を覚ましてしまったこいしに呆れて返してやる。 元より甘えた言葉言って俺の身体冷ましたのは誰だと思っている。 「遊んでるからだっての」 元々一人で寝る為の布団なので、当然ながら二人が寝転がるには狭いものである。 自然、身体を寄せるようにすればこいしから不満そうな声が上がる。 「心が冷たいから足も冷たいんだよー、冷血漢だからー」 「おいコラ自分が原因っての忘れて何言ってやがる」 不適当な事を言うのに反駁すると、目の前の無意識はこう言い切りやがった。 「何の事ー?」 「んにゃろ、ならその暖かいのを寄越せ」 ぐい、と抱き寄せてこいしの足を絡めるように自分の足へと重ねれば、彼女は瞳を瞑りながら喘ぐような声を上げた。 「ひゃあっ、だから冷たいんだってばーっ……!」 軽く足でこいしの足の甲を擦るようにしながらすっぽりと包み込むと、笑い声が聞こえ始めた。 勿論出所は一人しか居ない。 「もー、擽ったい……!」 ころころと笑うと、こいしは俺の胸にぎゅ、としがみつくようにして瞳を閉じる。 「こーして動かないようにしてやるーっ……」 腕を俺の身体に回したこいしは、自分が動かないようぎゅ、と俺の身体にしがみついているのだが、如何せん体格差が有るものだから必死に抱きついているようにしか見えないのだ。 そんなこいしの頭へぽふ、と言う音とともに掌を乗せてやると、こいしの力が急にくったりと抜けた。 「ん……」 そのまま胸元で俺の寝間着に頬擦りながら彼女は瞳を閉じた。 「少しお酒の臭いする……」 「外で食ってくるって行ったろ。……嫌か?」 すると、ふるふるとこいしは首を横に振って呟いた。 「あなたは、暖かいから、何でも、良いよぉー……」 凄まじく人を人とも思っていない発言であったが、そろそろこれも無意識だから仕方ない、と思える程度には俺も達観している。 そも、こういう状態ではきっと彼女の眠りは遠くないのだろう。 「んぅ……」 こいしがもう一度呻くような声を上げると、呼吸が少しずつ落ち着いて一定のテンポを刻み始める。 寝付きが良すぎてまるで子供をあやしているようにも感じながら、彼女に恋してしまっている自分自身に微かに苦笑いが浮かんだ。 あどけない表情で、まるで天使のように静かに眠る、と言う陳腐でありきたりな表現でも、今の彼女にはぴったりと似合う。 その表情を見ていたら、何処か自分自身も温もりと微睡みの中に飲まれていくような気がしていた。 きっと俺は今から幸せに眠りに落ちていけるのだろう。 目の前の少女の髪にキスをすると、抜けてはいるのだろうが酒の所為もあってかどっと睡魔が襲いかかってきた。 「……おやす、み……」 口にした言葉を、無意識を操る妖怪は夢の中で聞いていたのだろうか? 黒に飲まれる意識の前に、ふと聞こえた言葉で、全てが解った気がした。 「おやす、み」 ――無意識に彼女は聞いていたのだ。 そして、無意識に今の言葉を返したのだ。 そんな事にふと気付かされながら、睡魔と言う闇は全てを飲んでいった――。 ──────────────────────────────────────── お昼を過ぎて暫し経った頃、私は守矢神社の社務所の前に辿り着いた。 今日は一人でここに来るって決めていた。 あの人がここまで来ることは多分きっとないだろう、何せ今日はお寺に行きっ放しの筈だ。 今日はお寺に着いてかないって行ったら訝しげな顔をしていた。 確かにお寺に行くときは大体私も一緒に行くけれど、今日は用事があるからそちらを優先しただけだったのだ。 「おはようございます、お邪魔しまーす」 戸の奥の方に声を投げかけると、がらりと音がして扉が開き、目玉のついた帽子とともにひょい、と諏訪子さんが顔を出す。 「おはよう、諏訪子さんっ」 ……顔を合わせる度毎度思うんだけれど、部屋の中で帽子取らないのかなぁ。 「や、おはよう。上がっといで?」 朗らかな笑みを浮かべながら、諏訪子さんは私を家の中へと通してくれた。 靴を脱ぐと、甘い匂いが玄関まで立ちこめて来ていた。 「最近は君も彼も健勝かい?」 諏訪子さんはそんなことを口にしながら此方を振り返る。 「相変わらず、ですねぇ。元気に皮肉ばっかり」 「やれやれ。成長しないと言うか、全く。もう少し優しくしてあげればいいのにね」 苦笑しながら諏訪子さんが先を導くように歩き始める。 ぎぃ、ぎし、と足で廊下を踏みしめながら歩き始めると、その甘い匂いが段々と濃くなっていく。 「早苗ー。来たよー」 そして台所の扉を開けると、竈の前で三角巾とエプロンをした早苗さんの姿が見える。 いつもの巫女服とは違う姿に少しだけどきっとする。 その様子はとても家庭的で、何時もの姿と比べて全然違うものと思えてしまったからだ。 ……たまに何にかぶれたのか、妖怪退治のことしか考えて無いことがあるからそう言うときは無意識を全力で弄るようにしているけど。 私の所に来られたら溜まったものじゃないし……。 「はーい。おはようございます、こいしさん」 ――そう、今日は早苗さんに手造りチョコレートの作り方を教えて貰いに、私一人だけでこの神社まで来たのだった。 外の世界のお話で、去年は聞いたばっかりだったけど色々お話を聞いて、手造りのチョコレートを渡すのが一番良いのだ、と言うのを目の前に居る早苗さんから教えて貰ったのだ。 「おはようございます、早苗さんっ」 私のイメージの中の家庭的な女性に、早苗さんがしっくり来すぎてしまい少しだけ嫉妬する。 やっぱりこう言う人の方が普通の男の人は好きになるのかな。 無言で早苗さんの胸元を見やり、自分の胸を見やり、一つ息を付く。 とてもじゃないが、同じエプロンをつける事すら出来そうになかった。 「さ。エプロンは持ってきましたよね。手早く終わらせちゃいましょう!」 「はーいっ」 早苗さんが明るく言ったのに私も一つ頷いた。 そして風呂敷包みを開いて今日持ってきたものを確認し、強く、ぐ、と拳を握る。 全てはこの為の準備なのだ。 今日は頑張ろう、と心に決めたのだった。 目の前にあるものを見て確認し、首を傾げる。 「チョコレートと、生クリーム……後はお酒……と、これは何?」 目の前にある焦げ茶色の粉からもなんだか香ばしい匂いがしてくるけれど、何に使うのか解らなかったのだ。 早苗さんはああ、と納得が行ったように頷いた。 「ココアパウダーですね。最後に使います。じゃあこいしさん、準備は良いですね?」 「はーいっ」 早苗さんはなんだか、こう言うことを教えてくれる先生みたいだ。 家庭科と言うかお料理と言うか、あんまりこう言う事は教わった事がないから、とても新鮮に感じる。 頭にはきちんと三角巾をして、エプロンの帯もきちんと締めた。 これで後はやることはただ一つ、目の前の食材を使ってお菓子を作ることだけだ。 「まずは、チョコレートを刻みましょうか」 言われた私はまな板とその上に置かれた紙、板のチョコレートを前に少し考える。 「……えと、どれくらいにするの?」 「出来るだけ。後で生クリームに溶かすんです」 出来るだけ、と言われて人差し指を立てられてちょっと戸惑う。 とりあえず出来るだけ刻むしかないかなー、と思いながらチョコレートに刃を通し始めようとする。 ……堅くて、紙を敷いてると言っても少し滑るものだから削るような形でしか切れない。 刻むと言うよりも、削る、の方が正しいのかも。 「さあ、そんなペースだと夕飯の時間になっちゃいますよ?」 早苗さんがにこ、と笑みを浮かべたのを見てこの人は妥協するつもりは無いんだろうな、と笑顔から無意識に気付いてしまった私なのだった。 そんな横で早苗さんは竈の火を吹いている。 チョコレートを溶かす、って言ってたから溶かすベースにするものを暖めるのだろう。 「じゃあこいしさん。これが沸騰するまでに刻み終えてくださいね」 そして鍋に入れた生クリームを火に掛けながら早苗さんが此方に視線を移す。 「は、はーい……!」 早苗さんがにこ、と笑いながら指示するのに私は頷く事しかできなかった。 ……やる気になったときの早苗さんは理不尽と言うか、容赦ないと言うか、実は聞く相手を間違えたのかも、とこっそりと思ったのは私だけの秘密。 とにもかくにも、私は必死で目の前のチョコレートを刻み続ける作業に暫し終始することとなった。 「……そう言えばなんですけど」 何とか刻み終わった時には、鍋の中の白い液体はぐらぐらと煮えていた。 多少余裕が出来たので、早苗さんに疑問に思っていた事を聞いてみることにする。 「はい?」 手慣れた様子で、ボウルを水で洗っている早苗さんが首を傾げた。 「この食材、何処から手に入れられたんですか?」 そもそも、ここに入る前からの疑問だった。 チョコレートって幻想郷に転がってるようなものじゃないけれど、何処から入ってきたんだろう、と。 すると早苗さんはふふん、と小さく笑みを浮かべてから教えてくれたのだった。 「チョコレートは八雲さんのところから。ですけど、生クリームは此方だけで入手出来ますよ」 にこにこ、と笑いながら早苗さんは続ける。 「牛乳は牛を飼ってる人から頂く事が出来ます。後は分離の方法ですけれど、密封容器に入れて風車と組み合わせ、風を起こす。すると生クリームだけ分離する、っていう寸法です」 早苗さんは、私ですら一瞬唖然とするほど豪快かつ他の人には出来ない方法で作っていた。 いくらクリームを作るためと言っても、普通は考えも付かない気がするけれど前早苗さんはこう言っていたような気がする。 『この幻想郷では、常識に囚われてはいけないのですね』と。 それにしても方法が方法じゃないかなあ、と思ってたら早苗さんが眉を顰めた。 「ほらこいしさん。早く溶かさないと冷めちゃいますよ」 ボウルをこちらに渡しながら言ってくる早苗さんに、なんだか色々な意味で勝てない気がした私であった。 きっとあの人も大変だったろうなあ。 「こいしさん!」 「ひゃいっ!?」 一瞬だけ気を抜くと飛んでくる鋭い指摘……うん、本当に勝てない気がする。 やっぱり、目の前の作業に集中しよう。 「えと、後は……」 氷水をそっと当てて冷やしながら、ゆっくりと混ぜ合わせる。 さっきチョコレートに少しだけ入れたお酒からは程良い良い匂いが漂ってきて、そのまま飲んでも美味しそうだった。 あんなお酒がある場所なんて、一カ所しか私には思い当たらない。 「……あ。さっきのお酒、紅魔館から貰ったんですか?」 ゆっくりと混ぜながら少しだけ首を傾げると、こくりと早苗さんが頷いた。 「ブランデーが欲しかったのですよね。西洋のお酒ならあそこで分けて貰えないかなぁ、と思って行ったのですが、目の前でブランデーが作られるとは思いませんでした」 早苗さんは笑いながら続けると、瓶から香りを嗅ぐようにする。 「メイド長さんのお陰ですよね。あまり飲めないのが悔しい所です」 何処か苦笑するような表情を早苗さんが浮かべると、台所の戸が開く。 「心配は要らないわよ、早苗。私が飲みきってしまうからね」 「あぁ、抜け駆けはいけないよ神奈子。私へのありがたい貢納品だよ」 神奈子さんと諏訪子さんが台所の戸の前で立ちながら、にらみ合うようにして話しているが私はそれどころではなかった。 「ん、むむっ」 何故なら、少しずつかき混ぜているスプーンが回らなくなってきたからだ。 力を入れすぎるとそもそも何か壊してしまうかもしれないし、かといって力を入れないでは全然回らない。 私はどうしたらいいのかが解らずそのまま回し続けていたのだった。 「お二方とも……って、あ、こいしさん、もういいんですって!」 「……あ、え、もう良かったの?」 スプーンを抜いて一つ息を付くと、ゆっくり、ゆっくりと溶けたチョコレートが混ぜた軌跡を覆っていった。 「……ふぅ。目を離しちゃいけませんよね。ごめんなさい」 早苗さんが深く溜息を付いて軽く瞑目する。 「ううん、大丈夫。……でも、思ってたのより余程大変なんですね」 はー、と深く息を付いて、最後のチョコレートをスプーンで掬い上げる。 まだ固まりきってないチョコレートを紙の上に置くと、早苗さんが大きく裏口の扉と窓を開け放った。 「後は私の仕事が半分くらい、ですね」 そして外から吹いてくる寒風、きっと早苗さんが吹かせているのだろう。 伴って、ひやり、と身体から体温が奪われるような感覚、水を被ったかのように意識が一瞬にして醒めてしまう。 ずっとチョコレートを暖めているのもあって、冬にしては台所は暑くて三角巾に汗が吸われているのに気付いた。 「そうですね、大変ですよ。一人でやった時には全然やり方が解らなくて、チョコレートをそのまま火に掛けてしまった事もあります」 そう言いながらもくすくす、と笑いながら早苗さんは続ける。 「むしろきっとこいしさんもやったんじゃないかな。教えてなかったら」 「……あー」 苦笑いを一つ浮かべて誤魔化すことにしようと思った。 多分早苗さんに言われるまでもなく、そうなっていたことは想像に難くない。 ご飯を炊いた時、一番最初はただのお湯と生米、次はご飯が原料の炭、最後にお粥を作ってやっと炊くことが出来るようになったのを覚えているからだ。 最初の二回についてはあの人が唖然としていたことは、良く覚えている。 それはそうだ、ご飯と言う代物どころか口に入れる事すら出来ないようなものだったのだから。 でも、きちんと出来た時にはあの仏頂面を綻ばせて、少し嬉しそうにご飯を食べてくれていた。 今回も、きっと食べて優しい表情を浮かべてくれるのかな、と少しだけ下心。 「それにほら。材料が沢山余ってていつでも買えるって訳じゃないんだし、材料の無駄は良くありませんから」 「そうですねー、ここまで失敗しなかったから後は大丈夫かな、って」 「最後まで気を抜いちゃダメですよ。最後の最後まで、渡す人の事を思って作らなきゃ。気を抜いちゃ、気を抜いたのがバレちゃうような出来にしかなりませんから」 一瞬だけ抜けかけた意識を、取り戻させるような早苗さんの言葉。 あの人のことを思って、あの人のことを思って最後まで。 ……とくん。 そう思った途端、なんだか少しだけ大きく脈打った鼓動が嬉しく思える。 こんな些細なことでも幸せって思える事が嬉しくて、人前だと言うのに口元がにやついてしまうのを隠せない。 「へへー……」 「本当に幸せそうな顔。私も恋の一つでも探そうかなぁ」 早苗さんが窓から、遠くの空を見るようにして笑みを浮かべた。 何処か寂しげにも見えて、何処か儚げにも見えるその表情は確かに人間のものだった。 「ふふーん、早苗さんでもあの人は渡さないよ」 余裕を持った口調で言ってあげれば、早苗さんは目を瞬かせる。 「あの皮肉屋さんはこいしさん以外は見る事が出来ない不器用さんですよ。ついでに浮気出来るような甲斐性も無いですし。せめてチョコレート渡せるくらいのいい男の人が居れば、ですねぇ」 「あはははっ、確かにあの人の甲斐性無しは否定出来ないかも!」 ころころと笑う早苗さんの様子を見ながら、ふと無意識に知ってしまったことがある。 隠している訳でもなければ、ただ言わないだけだろうとは思うのだ。 ――寂しい。 けれど、外の世界から来た「人間」は何処かにこの感情を持って、生きているのだと言う事を、無意識に知ってしまったのだ。 それは、外の世界から切り離されてしまった身を不幸と思っているからではなくて、ただの郷愁に近いものなのだろう。 だから、きっとお姉ちゃんでは「読めない」のだ。 何故かと言えば、心で思っているものではないのだから、意識しているのではないのだから。 「ほら、こいしさん。丁度良いくらいになってきましたから、丸めてココアパウダーを掛けましょう。後はラッピングですよ!」 「はーい!」 けれど、それは私にはどうしようも出来ない事だ、あの人も早苗さんも、自分が幻想郷にあるのを認め、立ち、歩いているのだから。 ――だから、きっと、それで良い。 「……よーしっ! 完成しましたーっ!」 「良くできましたーっ!」 きゅ、とリボンを締めて、その手で早苗さんとハイタッチ。 ぱちん、と乾いた良い音が台所に響いた頃には、太陽は橙色へと移り変わろうとしていた。 ……本当は早苗さんもこう言うテンションの上がり方をするのが好きなんじゃないか、とふと思う。 嬉々としながら妖怪退治を行ってテンションを上げているのは、霊夢や魔理沙とかと比べるとちょっと怖いところもある。 片や義務的に目の前に出てきたものを全て吹き飛ばす、片や興味だけで首を突っ込んで荒らし回る性質と言うのがあるのかもしれない。 そんなことはとにもかくにも、トリュフチョコレートは完成したのだ。 台所に残るのは、チョコレートの残滓のような甘い甘い匂い。 器具は片づけながらだったので、洗い物もなくなってしまっていた。 「ありがとうございました、早苗さん」 「どういたしまして。きっと喜んでくれると思いますよ」 役目が無事に終わった、とでも言うような表情で優しく早苗さんが笑みを浮かべている。 その表情は、何処か暖かくて安心出来る、まるでお姉ちゃんのようなもの。 私もふと、お姉ちゃん、と言う言葉を思うと胸がきゅっとしてなんだかいっぱいになるのと、早苗さんがさっき無意識に感じたものは似ているのかもしれない。 だから、この胸がきゅっとした気持ちも含めて、精一杯あの人に甘えてしまおう。 「……ちなみにあの人がまた皮肉を言ったりしたら」 ふと早苗さんがにこ、と深い笑みを浮かべて私の耳元に囁いた。 「……、………、……! ……、……を、………ですよ?」 「……ふぇ、あ。……うん、頑張ってみる……」 ……恥ずかしいことだから、これは私と早苗さんだけの秘密。 かぁっと真っ赤になった顔をぶんぶんと横に振り、早苗さんにもう一度頭を深く下げると、早苗さんは笑いながら返してくれた。 「さ。早く帰った方が良いですよ、あの人がきっと待ってますから」 「うん、ありがとうっ、またねっ!」 居ても立っても居られず、私は神社を飛び出すように人里へと向かって行った。 胸にチョコレートを抱いて、山を降りていく。 何処か暖かいものは、きっと私が名前をつけられないその思い。 こんなにあの人が恋しい日だから、名前をつけてお祝いしよう。 "あの人が大好きな記念日"って――。 ─────────────── 朝から彼女は本を読み更けっていた。 異様なまでの集中力で、飯を食ったら黙々とそれを読み始めたのだ。 『それ、何の本だ?』 問いかけたが返答が帰ってこず、まあ良いかと思い収支の確認へと視線を移す。 少なくとも俺の仕事の邪魔にならないのでそれで良いかと思っていた。 その筈だった。 「どうして、こうなった」 「どうしても、こうなった」 に、と笑いながらこいしが俺の身体の上に覆い被さっていた。 今は真っ昼間であり、遠くで子供の遊ぶ声が聞こえてくる。 「ねぇねぇ、試してみてよこういうの」 ずい、とこいしが差し出してくる書のタイトルを見て、見るべきではなかったと心の底から後悔した。 猛烈な勢いで視線を逸らすと、がっしり俺の頭をロックしたこいしがぐい、と正面に向かわせる。 そんな無駄な所で妖怪の底力を発揮しないで頂きたい、切に。 今日と言う日は、正面向いてこいしと顔を突き合わせる事から幕を開けた。 誰だ。 「キスの意味と作法について」とか言う本をこの無意識に貸し出した奴ァ――。 「ほらほら。こう言うの。だからキスしようよっ」 「お前今真っ昼間だって事解って言ってますか解って言ってるんですねコンチクショウ」 こいしが喜び勇んで本を見せようとしてくるがその頭をこっちに来ないようにぐいぐいと押すことしか俺には出来なかった。 息が掛かる距離で本を突き出さないで頂きたい。 顔面が本に直撃してるわ文字がでかすぎて読み辛いわ古本臭いわで俺にとって良いことが何一つ無い。 そもそも真っ昼間から何て体勢になっているんだ、と言うのもある。 吸血鬼ならまだしも俺は一般人だしこいしも覚りだしで夜とは縁遠い。 正直、非常に理性にとって危険であるのだが彼女はどうも解ってくれはしないようだ。 流石は無意識である、意識しろよマジで。 深く溜息を吐きながら、頭をぐい、と押さえつけるとこいしがむぅ、と小さなうなり声を上げた。 「せめてムードとかもう少し考えろと」 「あなたにだけは幻想郷中の誰もが言われたくないんじゃないかな」 ぽろっと落ちた本音に対して、とても良い笑顔を浮かべたこいしから手厳しい発言が返される。 我ながら鈍感を自覚しては居るのだが、こうも正面から言われると非常に困る所でもある。 祝、幻想郷一ムードを考えない男認定の俺。 溜息と阿呆臭さに彩られた幻想郷一は全く喜ばしい事では無く、やってられないと心の底から感じられる段階になってからこいしの肌の柔らかさを感じ取ってしまった。 「それにほら。あなたはキスをしたくなーるしたくなーる。でもそれ以上のことはしなーい」 第三の瞳を振り子のように揺らしながら更に抱き掛かってくるこいしの身体が非常に邪魔である、邪魔であるのだが――。 「いい加減ひっつくなっての」 心と身体とは全く因果なものである。 胸は小さいし身体は細いしで触り心地は決して良くはないし、普段は言うのが癪だからあまり褒めたりはしない。 だが、この身体は、こいしの物なのだ、と思うと得体のしれない感情が沸き上がってきて非常に困るのだ。 「大体そんな催眠術誰が掛かると」 「知ってる? 私もお姉ちゃんの妹なんだよ? ほらほら、想起催眠術ー」 言葉を遮るようにしてこいしが口にしたそのスペルカード名は、姉のものだった。 同時にゆらり、ゆらりと瞳が揺れる。 「ほら、キスをー。キスをあなたはー、したくなるー……」 どこかとろんとした瞳でこいしが此方を見やるのがどこか儚げにも見えて、仕方なく軽く身体を抱いてやって溜息を吐いたのだ。 本当にこいしには勝てそうにない。 抵抗するのを諦める事にすれば、こいしがにへらと笑みを浮かべた。 「それで?」 こうなったらある程度は任せて置いた方が精神的にも楽だ。 そう思い軽く問いかけてやる。 「へへ。こう言うの」 にたり、と笑みを深くしたこいしが人差し指を伸ばしてつぅ、と俺の唇をなぞる。 それを彼女は自分自身の口元に持って行って、あむ、と口に含んでどう? とでも言うように首を傾げた。 結局こいしからしているじゃないか、と言うか、実質間接キスじゃないか、と言うか何とも言い切れない。 「ったく、結局やってるこたぁ変わらんだろうが」 額に触れるだけのキスを落としてやると、こいしが目を瞬かせた。 「……あ、ん。んとね、それだったらこう言うのは、ダメ? んんっ」 こいしが顔を近づけて来て、頬をちろちろと舐めるように戯れる。 くすぐったいものだから振り解きたくもなるが、それでも健気な様子が愛しく感じられて心地良いからまた困る。 「嫌じゃない」 「っ、ん、ホント?」 偶にこう言う事を口にするととても嬉しそうな笑顔を浮かべるのも困り物だ。 天使のような、と言う比喩は決して間違っては居ないのだなぁ、とも思い自分の語彙力の無さに軽く絶望した。 あまりにはまってしまって他の表現が出来そうにない。 でも考えてみろ、これはあのこいしだ、天使とは程遠すぎるあのこいしだ。 「何か変な事考えてるでしょ!」 「痛ぇっ!?」 がり、と少し強く頬を噛まれ飛び上がり掛ければ、憤懣やるかたなしと言った様子のこいしの表情が飛び込んでくる。 本当に憎い奴である、一瞬前までにこにこと笑顔を浮かべていたのに急に機嫌を悪くしているのだから。 「……たく、噛むこた無いだろ」 耳たぶを甘く噛んで、そのまま舌先で弾いてやる。 「くすぐったいんだよねぇ、それ」 するところころと笑いながらこいしがいやいやと言う風に首を横に振るが、大体それが嫌でないことは解ってる。 だから、更に悪戯するように唇を髪に続けて落とすのだ。 「もう、やめてって」 少し髪に触れられるのは嫌なのか、軽く瞳を閉じたこいしがとっ、と頭を俺の胸に当てる。 「……何処に一番欲しいのか、解ってるんだよね?」 「解ってて素直にリクエストに答える人間だと思ってるのか、俺を?」 「この天邪鬼ー」 ぶぅ、とこいしがまた頬を膨らませる。 その頬が柔らかそうで、唇で啄むように食めば張りの良い肌が絹のようで、それでいて口に含んでいるものだからマシュマロのようにすら感じる。 ありきたりな表現ではあるのかもしれないが、それが最も的確な表現なものだから仕方が無い。 俺は詩人でも小説家でも無いただの平凡な表現しか出来ない人間である。 「……跡、残っちゃう」 「お前、さっき俺の頬噛んで置きながら言うかそれを?」 軽く睨んでやれば、相好を途端に崩してえへへ、と小さく笑うこいしがやっぱり憎らしい。 外に出かける予定の入って居ない日で良かったが、昼飯は嫌がおうでも家で食う羽目になるのを解っているのか解っていないのか。 さて、外で買い物しないで済む程度の食糧は残っていたかね。 「ん、ちゅっ」 思考を一瞬だけ明後日の方向にやった隙に、不意に唇が奪われる。 緩く食まれて、すぐに離すとこいしがにぱ、と笑みを浮かべた。 「何時までもしてくれないから、こっちから貰っちゃう」 そんな事を嘯きながら、猫がごろごろと甘えるように身体を擦り寄らせて来た身体を抱きかかえて聞いてやる。 「そんなに唇が好きか?」 「だってこれが一番してて心地良いんだもの。それに……んっ」 何かを言いかけた彼女の唇を、己の唇で塞いで一度艶やかな唇を食めば、こいしの唇からふ、と少しだけ暖かな吐息が漏れた。 「んん、っ……」 返すように重ね合わされた唇が先程のようにもう一度、唇を優しく食んで行けば彼女の方から唇を離す。 「へへ、これで、284回目」 「お前何数えてんだ」 人差し指を唇に当てたこいしが数字をふと口にして、溜息混じりに呟けば彼女は首を傾げる。 「キスの回数。そのくらいは私だって数えてるんだよ?」 「普通数えないだろそんなもん」 と言うか覚えてられる程一般人は頭が良くないし、更に言うならこいしが何処まで余裕があるのかも解らない。 ついでに寝ている時にしたキスをカウントは出来ない筈だ。 「……多分今の、他の人だったら絶対ふざけるなって怒ってるよ」 すると、こいしが真面目な表情でじ、と俺の瞳を見つめていた。 真剣な瞳に呑まれるように、意識が彼女のそれに集中して行く。 内に燃える翠の焔が、俺の瞳から脳髄を焼いて、痕を刻んで行くように。 「だって、キスの一つ一つが思い出だもの」 耳に言葉がす、と入り、それを咀嚼して頭に刻み込む。 「一つ一つの思い出を、数えない訳が無い。後からキスを思い出して反芻して、次もあんな風にしてくれるのかな、って思う事もある」 彼女は言いながら、俺の頬に手を添えてそ、っと顔を寄せて来た。 「それにね、あなたが人間で、私が妖怪だから」 こいしはそれだけ言って、唇を閉ざした。 そして――それだけで彼女の言いたい事を理解してしまった。 人間として生きて死ぬ自分、妖怪として取り残されてしまう彼女。 永遠では無い存在であるからこそ、永遠では無いものを見送る存在であることを知っているからこそ、一つ一つの思い出を大切にする。 後で喪ったそれを想うために、思い出を忘れない。 ……だからこそ彼女は今の発言を不快に抱き、本当に怒っているんだな、と理解した。 「……すまん」 理解してしまったが故に、口にした言葉はそれだった。 別に普段から詫びたり謝るようには見えないようでいて、けじめは付けなければならない。 するとこいしは、微かに笑みを浮かべたのだ。 「お詫びはキスで。一銭たりとも負けてあげないよ?」 「馬鹿、値切りするのは値段が噛み合って無い時だけだろ」 戯れるような言葉のやり取り。 触れあっては居ないけれど、まるで口づけ合うような心地よさを覚えながら頬に手を添えてやる。 先程唇で触れた肌触りが掌から伝わって来て、そっと顔を寄せるとこいしも瞳を閉じて、身体の力をすっかり抜いて居た。 そ、と唇に唇で触れて、食まずにゆっくりと、けれど少し強く押し付けるようにすれば返すように、一つになろうとでもするように互いの体を寄せ合う。 「ん、……っ、ん」 285回目のキスは、暖かく、互いの存在がここにあることを伝え合うかのようなそれだった。 ――後俺は、何回彼女と唇を重ねあえるのか。 多く見積もっても百万は有り得る数字ではないだろう、けれど。 「……っ」 きっとそれでも、この285回目は、節目の口づけなのだ。 これから先の期間、キス出来る瞬間を数えて行く節目の――。 何時か忘れているのかもしれないけど、そうしたらこいしに聞いて呆れられながらも笑い合おう。 そして、またそこから刻んでいけばいいのだ。 「……んんっ、……ん」 軽い息継ぎがあって、また唇を重ね合わせて。 思考が、段々と、キスを考える事だけに、焼き付いて行く――。 ――ふと、がらりと扉が開き、硬直する間も無い。 二度ある事は三度ある、と言う。 「こんにちはー、聖がお二人をお呼びになって……って昼間から何をしてるんですかぁあああああああああああああああああああああっ!!?」 「ご主人、ノックを忘れるからそうなるんだよ……」 その言葉の通り、星の絶叫が響き渡った。 ついでに、オチは無い。 慧音にまで話が言って「昼間から破廉恥な事をしていては云々」と説教食らう羽目になったが語る事ではないだろう。 どうして、こうなった。 ────────────── 雨の切れ間、日差しが覗いて強く照りつけたとき、こいしが何かに気づいたかのようにふと声を上げた。 「あ、あれ見て」 こっちの袖を、くいくい、と引きながら視線を彼方へやってその方を指さしている。 何事やら、と思って見やればその先には色が分かれた大きなアーチ。 巨大な虹である。 「……おぁ。すげえなありゃ」 「でしょ? 久しぶりに見たわ、あんな虹。まるで飴細工みたい」 嬉しそうな口調でこいしは嘯く。 飴細工と表現したのは彼女なりの理屈でもあるのだろうか。 「最近雨続きだからな。梅雨だから仕方ないっちゃ仕方ないんだが」 ロマンも幻想の欠片も無い返答をしながら肩を竦めれば、こいしが小さく唇を尖らせる。 「そこはせめて、飴より甘いものをあげるとか言ってくれるのが甲斐性っていうものじゃないの?」 時期に併せて涼しげな、淡い青のワンピースといつもの帽子。 ゆらゆらと揺れる帽子のリボンと、帽子の下にある何処と無く不満そうな表情に一つため息をついて、荷物を持ち替えながら一つ皮肉を返す。 「何処まで気障ったらしいキャラだ、それは」 「それも男の甲斐性なの」 返してやったが、困った事に皮肉を全く聞きゃしない。 それでいて、一緒に道を歩くだけなのに嬉しそうな表情を浮かべるのだ。 俺もこいしを連れて行くことそのものは別に嫌ではない。 半分くらいは一人で行っても仕方ないんで気を紛らわせるため。 もう半分くらいは、困った時の荷物持ち。 一緒に出かける話を聞いたこいしがデートだ、とか嬉しそうな表情を浮かべていたのも最初の頃だけ。 今となっては、『仕方ないなあ』と言いながら付いてくるようなものである。 「甲斐性とは何だったのか……」 こいしに返答せず、そんなことを呟いて荷物を持ち直せば腕に抱きついてくるこいしの体重が掛かって歩き辛い。 「こうやっても歩けることっ」 「それは甲斐性とは言わん。筋力だ」 甲斐性とは筋力である、と言うよく解らない等号式が頭の中で作られる。 つまり、筋力があれば甲斐性があるという事だ。 具体的には身長が高くて筋肉ダルマが笑顔を浮かべながら己のスイートハートが腕にしがみつくのをHAHAHAと笑いながら上げ下げするようなのが甲斐性があると言う事になる。 甲斐性とは本当に何だったのか。 「何か変な事考えてそうだけど、どうしたの?」 「いや、何でも」 怪訝な表情を浮かべたこいしが此方を覗き込んでいるのに気付くまでに数瞬の時間を要した。 「本当に? 甲斐性無いとか言われたからって浮気して甲斐性あるのアピールとか無しよ?」 「なら言うなと」 不穏当な事を言い始めたこいしの頭に、此方からこつん、と帽子越しに頭を緩くぶつけてやれば彼女は不満そうな表情を浮かべる。 「あなたがもう少し鈍感じゃなくなれば言わないの」 「へーへー、さよか」 最後まで責任はこちらにあるらしい。 我ながら、全く気の入っていない返事であった。 「よーし! 虹の足下まで競争だー!」 「待ってよぉっ!」 大声を上げながら子供たちが往来を走り抜けて行く。 ばたばたと大きい音を立てるので、解りやすいが些か五月蠅く感じた。 男の子が五人ほど、二人の女の子がそれに合わせわせるように駆けて、最後に一人女の子が必死に後を追う。 歩いてるのか走っているのか解らないくらいのスピードで、俺とこいしが歩くのと同じくらいのペースだ。 「置いてくぞー!」 遠くで男の子が大声を上げる。 子供は嫌いではないが時たま近くに寄られると鬱陶しく感じて追い払う事が多い。 その癖たまに妙に懐かれるから困ったものである。 そう言った場合、追い払っても無駄なので、相手をしないことにしていると悪戯して気を引いてくるからどうしようもない。 ……ああこれどっかのこいしじゃないか、つまりそのレベルかこいつ。 視線を少しだけやろうとする――前に、頬に痛みを感じ見やれば、こいしが俺の頬を抓り不満そうな表情を浮かべていた。 「絶対今変な事考えてた」 確信を抱いた口調で言うこいしのジト目から反射的に視線を逸らす。 「心読めないんじゃないのかお前」 「そう言う事言うから抓るの。あと、表情に出過ぎ」 そのまま抓られたままになるのも癪なもので、こいしの頬を引っ張りぐにぐにと遊んでやる。 「はなせー」 間の抜けた声と不満そうな顔が覗き、放してやればこいしも俺の頬を放していた。 「もー、最低。女の子なんだから」 「はいはいそうですね――ってぇ!?」 「気の無い返事禁止!」 むす、とした表情で今度は耳をぐい、と半ばツイストしながら引っ張られた。 流石にこれは痛いし、理不尽も良いところだ。 「解った解った解った、きちんと答えてやるから!?」 「解ってないからまだ止めないわ」 「いつになく酷いなお前!?」 ぐい、と更に耳が強く引っ張られたあたり、俺は苦情を申し立てたい。 耳を引っ張るのを止めてもらい、また歩き始める。 「ほんっとうにお前はトロいよなあ」 「早すぎるんだもん、待ってよぉ……」 遅れながら走っていた子の掌を、男の子が掴んで走って行った。 「外の世界じゃまずお目に掛かる事は出来ないな。ありゃ」 複数の意味で。 嗚呼懐かしき青春的な何かの記憶。 いや、あんな事やった事すら無いのであこがれる気すら起きないのだが。 「走りづらそうだよねぇ。人ばっかり多すぎて」 「多少はそれもあるたぁ思うが」 根本的にそう言う問題ではない。 「あんな無意識の中に誰もが抱くであろう光景を、外の世界では誰も考えやしないんだろう、ってな」 そう、外の世界のあり方において、あれはきっと誰もが忘れ去ってしまった光景だ。 子供たちでさえも。 「やっぱり歪んでない? 外の世界」 呆れるような口調のこいしが、はぁ、と深くため息のような何かをつく。 「そんなだからあなたみたいに性格ひん曲がるのかな?」 「誰が性格ひん曲がってると」 拳を額に当ててぐりぐりと押し込む。 「痛い痛い!?」 たまには反省していただこう。 少し強めにやったら涙目で見上げられたので、放したら足を踏まれたが割愛する。 痛かった。 遠く虹が見えて、その方に向かって歩いていく。 「しかし、さっきのガキどもは気付いてるのかね。虹は光の屈折の結果だから触れないと」 いつしか、無意識に子供たちは悟る。 あれは見えるけれど触る事の出来ない光の幻影なのだと。 「非幻想郷的な考え方だね。あまり好きじゃないわ、嫌いでもないけど」 影踏みもいつか行わなくなり、人は成長していく。 そう、成長していくにつれて人は幻想を忘れ、記憶の彼方へと忘却させゆく。 触る事の出来ない虹。 目に見えるけれども、手にとる事の出来ない何か。 "幻想上の友達"は、いつしか幻想の中に消えてしまう。 星灯りは、外の世界の常識ではもう何年も昔の光である。 けれど、幻想郷に来てから目にする満天の星は果たしてそうなのだろうか。 妖精の力だ、と聞いた覚えはあるが、俺はその妖精を見た覚えがないので解らない。 「あれも一種の幻想か」 ふと頭に浮かんだそれを口にすれば、こいしが首を小さく横に振りながら歌うように言葉を紡いだ。 「『幻想郷は全てを受け入れる。それはとてもとても残酷な話ですわ』って紫さんが言ってたよ」 「胡散臭ぇぇぇ……」 引用する相手が引用する相手である。 一番信用が置けて、一番信頼を置く事が出来ない相手を引き合いに出されてももうね。 「紫さんがそう言った真意は解らないけれど、何となくだけど『ああ、そうだなあ』くらいには思うけれど。外の世界ちらっとだけ見たから余計にそう思うかなぁ」 「ほー」 相変わらず、何も考えていないように見えて変な事を考えている奴だ。 紫には同じように言われた事があるが、少なくともあの言葉の意味を俺は理解しきれていない。 「そうだよ、残酷。忘却されたものが渡ってくるっていうのは綺麗だけれど、それが必要とされなかったのだから、とっても残酷」 「必要とされなかったから、か」 そこまで外の世界で無為に過ごしていたのか、とふと思い返す。 小学校の頃はしゃぐように遊び回った記憶。 受験のために必死扱いて勉強した記憶。 そして、苦痛だと言いながらも必死で社会に食らい付こうとしていたあの頃。 その場面で、俺は必要とされていなかったのだろうか。 「でも、あなたは外の世界にいる間はきっと気付かない。生きるのに必死だから」 ちら、と此方を見て微かに笑みを浮かべたこいしの、吸い込まれそうな翠の瞳から目を離せない。 「記憶は、思い出に純化されるから。無意識に、思い出したくないエピソードを封じ込めてしまう。または逆に、悪い、辛い記憶ばかりを思い出してしまう」 「前者は懐古的にすぎて、後者は自罰的にすぎるな」 自分が前者だという確信はあるが、それもきっと幻想郷に入ってから変わっただけなのだろう。 その皮肉を自分自身に向けながら呟けば、こいしが苦笑する。 「人間のあり方だから仕方ないんだよ、多分」 そしてこいしは先ほどのようにもう一度続けるのだ。 「昔を懐かしいと思うのも、自分が悪いと思い込むのも。または自信過剰になるのも、先へ進もうと思うのも。全部がきっと人間のあり方なんだよ」 「お前妖怪だろーが」 呆れながらため息とともに呟く。 「だって、妖怪でもここらへんは変わらないもの」 ふっふー、と嬉しそうにこいしは笑いながら答えを返す。 「同じ同じ。あなたと一緒なことが嬉しいなぁ」 幸せそうに続けるこいしのようすに、己の頬がふと緩むのを自覚する。 目を細めて柔らかい笑みを浮かべている彼女の様子は、何故かとても俺を安心させるのだ。 愛している、って言う理由がそれなのか。 それとも、それ以外のものも含めての「愛」なのか。 俺にはそれは解らないし、こいしに直接甘い言葉を囁くことも多くない。 「ほら。こうやって無意識に手を繋いでいるのも一緒」 そ、とこいしが握りしめている手を見えるようにすれば、小さな手を自分が握りしめているのに気付かされる。 見つけだすのはこいしで、気付かされるのは俺。 「随分小さな幸せだな」 「そうだよ。小さくて、何てことなくて、誰でも得られるような、幸せ」 するとぎゅっ、とこいしが手を強く握りしめて駆け始める。 「待て、おい」 歩幅が違うものだからこちらも駆ければすぐに追いつくのだが、体勢を崩した状態からなものだから少し手間取った。 そもそも普段走ったりなどしない人間に急に走らせないで欲しい。 「あははっ、ほら。幸せーっ!」 手を引いてやれば、くるくる、と回るようにしながらこいしは俺の方に身体を預けてくる。 少しだけ汗っぽくて、少しだけ花の香りが漂って、少しだけひやり、とした腕が俺の腕に絡み、少しだけ、けれど確かにその身体は暖かい。 「ね?」 「ね、じゃないだろお前。先言えよ」 ぺちん、と痛くない程度に額を弾いてやれば、何を考えているのか解らない、とでも言うように、こいしはもう一度目を瞬かせるのだ。 「ええー。幸せじゃなかった?」 「今のをどう幸せと言えと」 少なくとも手を引っ張られて身体を振り回されてただけである。 それを幸せかどうか、を問うなど――。 「私は、幸せだよ」 こいしの言葉が、耳から脳を灼く。 しあわせ、と言う四文字の言葉は、心の芯を貫いていた。 「虹は見えているのに、その足下まで走っていく子供たちみたいに。あの子たちは、虹を追っているのが楽しいから。きっと、無意識に幸せだって解ってるからそうしてる」 先ほどの子供たちの姿が、妙印象的に残ったのはそのためか。 「幸せって、何でも良いの。幸せだ、って当人たちが思えれば、それで良い」 こいしの理屈では、そもそも幸せとは何か、を定義する必要がない。 だから――。 「だから、あなたが側にいるから、ってだけじゃないけれど。ただ、今ここでこうしていることが、何となく幸せ。多分虹を追っているあの子たちが、それだけで幸せなのと同じだよ」 何も無くとも、それで幸せだ、と。 彼女は、そう言いきったのだ。 「お前、それ俺が横に居る時に良く吐ける台詞だなぁ、全く」 しれっとこっちを言葉で牽制してきたこいしに投げやりに返せば、面白そうな、それで居て何処か優越感を得たような満足そうな表情の彼女が唇をもう一度開く。 「あ、妬いた? 何に妬いたのかなぁ?」 「お前もう一度デコ貸せ」 言うが早いがぺしん、と額をさっきよりも少し強いくらいに弾けば、こいしが反射的に瞳を閉じてのけぞった。 「あぅ」 「あのガキどもと同じ、ってのも解らなくはないが、な」 肩を竦め、手を握りしめて引いてやる。 その繋いでいるのは、先ほど駆けていった子供たちと似ているのかもしれない。 けれど、あの子等の方が幸せに近いのだとしたら、きっと真似てみればもっと幸せになるのかもしれない。 「あの虹まで走ってみるか」 ふと口を突いて出た言葉は、いつもの自分とは考えようも付かないような、子供の真似をするようなもの。 目を一度丸くしたこいしが、柔和な笑みを浮かべる。 ああ、その答えを待ち望んでいた、とでも言うように。 「うん、いいよー! 二人で一緒にゴールしよっ!」 こいしの元気な声が帰ってきて、二人ペースを合わせるようにして、虹の掛かる彼方の方へと駆けて行った――。 結果。 少し頑張って走った結果、次の日に足腰が半分立たない状態で仕事出る羽目になったのは自業自得でしかなかったのだがそれは別のお話。 ─────────────────────────────── 空に上がった光筋は一瞬だけ光を見失い、宵闇に大輪の花を咲かせる。 一拍遅れて、どぉん! と言う清々しい音が湖の空に響き渡った。 「……すげぇなあありゃ」 傍らで草むらに座る彼女に語りかけるように呟く。 ――今日は、湖を使った花火大会だった。 幻想郷中での祭りと言う事もあり、湖の畔には沢山の人妖が集まっていた。 やはり、集まって酒を飲んで騒ぐのが好きな連中ばかりだ。 流石に今日は妖怪連中も人間を取って食おうとは思わないらしい。 尤も、じゃれるように人間に絡んで居るのが居たりするのは気のせいでは無い。 「うん。見事だねぇ……」 ぽけー、と見上げ続けるこいしは、珍しく浴衣姿。 こう言う時には風情が大事、と言いながらちゃっかり竹うちわなぞ持っていやがる。 紺色の布地に咲いた白い花と相まって、珍しく大人っぽく見えるのは気のせいではなかった。 光の筋が上がって行き、もう一度爆ぜる。 腹に響き身体の芯に訴えかけるような轟音と、色とりどりの火の花弁が散っていく。 明後日の方向に光筋が飛び交いながら、ぱらぱらぱら、と何かが落ちるような音が響くのだ。 「やっぱり凄いよねぇ、花火」 「まあ、派手よな。此処まで大きな花火大会はそうそうお目にゃ掛かれない」 空に瞬いた星々の灯りが、宵空に落とされたエッセンスのように空で存在を主張する。 こんな綺麗な夜の景色が空にあることは解っていて慣れて来た筈だったが、それでもまじまじと見るとやはり引きこまれてしまう。 引きこまれたところで、炎の花がぱぁ、と咲くのだから溜まらない。 一種の芸術が夜空に描かれるのを味わいながら、ほう、と息をつけばこいしがくすくすと笑みを浮かべた。 「弾幕勝負もあーなってること多かったりするけどね。今度やってみる? 当たっても良いよ?」 「死ぬわ阿呆」 しれっと恐ろしい事を抜かさないで頂きたいこいしさん。 あなた方がやっている弾幕勝負とか言うアレ、一般の人間食らったら相当痛いし当たりどころ悪ければ死にますよ、と。 「もー、つれないなぁ」 するとこいしは途端に唇を尖らせる。 根本的につれないとかそう言う話ではない。 二階の屋根から落ちても当たりどころ悪ければ死ぬ人間と、妖怪の遊びを同列に語られても困る。 尤も、退魔の術を学んだ人間や魔法使いであればそう言った事は無いのだろうが。 反駁しようと口を開こうとすれば、ひょこ、と地面から目玉付きの帽子が飛び出してきて反射的に飛びのきかけた。 「うおわ!?」 「や、楽しんでるかい?」 俺の驚きなど意に介さない様子で、その帽子の下から稲穂のような金色の髪をした飛び出して来た。 守矢神社の祭神の片割れ、諏訪子様。 人の不意を突いて驚かせるのが好きなのは解るのだが、せめてこう言う時はもう少し落ちついた登場をして頂きたいものだ。 「あ、諏訪子さん。こんばんはー。うん、楽しいよっ」 マイペースでこいしは諏訪子様に挨拶をする。 何と言うか、驚きもしないあたり実にこいしであった。 こちらもらしいと言えばらしく、俺一人が振り回されるような形になる。 「そうかいそうかい、そいつは良かった。私らも他の所に話を通した甲斐があるよ」 諏訪子様は、しっしっし、と企みが成功したかのような表情で笑みを浮かべる。 彼女の言葉を聞いて、ぴぃん、と思い当たるものが俺の中にあった。 「……ああ、じゃあ今回のこれ、アレか。諏訪の?」 そう、例年開催されている外の世界では定番になっていた花火大会。 彼女の名前の由来となっていた地名の場所でも、定期的に開催されていたのは覚えている。 「そう言う事。いやぁ、外の世界でもやってたんだけど久しぶりに見たくなってね。幸いなことに人里も寺も協力してくれたよ」 「また随分と大がかりだな」 「それだけじゃなくて悪魔の館や竹林の屋敷、挙句には旧都からもだ。驚きだろう?」 諏訪子様は嬉しそうに協力先の名前を上げる。 この分だと挨拶周りの途中で、俺とこいしを見かけたから浮上した、と言ったところだろうか。 「鬼が案外手先が器用でね。製造から打ち上げまで何でもござれで意気揚々とやってくれるからね」 「確かにそうかもしれないです。勇儀さんもそうでしたけど、他の鬼も苦手そうじゃなかったですしねー」 こいしが思い返すように宙に視線を彷徨わせれば、どぉん、とまた空で大きく花が咲いた。 黄色を中心とした様々な色光がこいしの白い肌を灼く。 諏訪子様はそんなこいしを見ながら嬉しそうに語り続けて居た。 「ああうん、そうそう。それを聞きつけた人里の花火師が鬼にゃ負けて居られない、と粉骨砕身さ。いやいや、やっぱり頑張って貰うと嬉しいもんだね」 「……何か焚きつけたりしたのか?」 諏訪子様は小さくぺろっと舌を出す。 まるで子供のような仕草もいい所であるが、彼女がやると妙に似合った仕草に思えるから不思議であるのだ。 「流石に読むのが上手いね。沢の水で作られた清酒五樽、勝ったところにゃ丸々くれてやる、って言った程度だよ」 「ねぇ。今すぐ花火師になって」 賞品の話を聞いた途端にこいしが第三の瞳ごと此方を向いた。 諏訪子様も非常に面倒な事を言ってくれたものである。 こいしは酒の話になった途端にこれであるから、本当にどうしようもない。 「お前ね……」 「だってそれだけあったら丸一年は飲めるよ!?」 こいしの力説が花火の音とともに耳を貫いた。 それだけあっても一ヶ月経たずにコイツは飲み干す。 ちなみに多分地底の方ではこいしの話を聞く限り、五樽あろうが一日で飲み干す。 地底の連中はこいしを含めてどうしてこうも酒飲みばかりなのか、と何度思った事か。 はいはいそうですね、と言うような白い目を向けてやると、こいしは視線をつい、と逸らす。 「お前、酒の事しか今頭になかったろ」 「そんな事無いよ? 無いよ?」 嘘だ。 口で言う前に頬をふに、と掴んでその餅のようなほっぺたを上下右左とぐにぐに動かしてやる。 眉を顰めたこいしの「あひふんほほー」と言う声が聞こえて来たが、そのまま遊んでいると諏訪子様が感心したような声を上げた。 「……いや驚いた。君は彼女の心を読めるのかい」 何が不思議だったのやら、自分としては全く解らない。 そもそも心を読んだ訳ではなくて、こいしの行動からあくまで推察したに過ぎない。 「へ……?」 こいしが吃驚したような表情をして目をぱちぱちと瞬かせる。 彼女自身、そんな事は考えすらしていなかったのかもしれない。 「いや、今のぐらいは読まなくても解るって」 「解らないよ。何せ、私ですらこいしの心は全く読み切れないからね」 諏訪子様は立ち上がり瞳を閉じると、どぉん、と、花火の音が聞こえた方を向いて口を開いた。 「ほら、私も目を閉じてしまえばあの花が開くのは見えない。ただ、光のようなものが目の裏を焼くばかりだよ」 に、とこちらを向いて諏訪子様は笑えば、座ったままの俺とこいしの頭に、ぽん、と手を置いて笑みを浮かべた。 「けれど、君たちは繋がっているのさ。厳密には読めるのとは違うかもしれないけれど、それは瞳を閉じていたとしても感じられる、確かな繋がりだよ。そして――」 そして二度三度掌で撫でるようにしてから、きょとん、としたままの俺とこいしの頭から掌を離した。 「その繋がりは、閉じず広がっていくのさ。私もだし、神奈子も早苗も、人里も。だから、もしかしたら私も何時かこいしの言わんとしてる事が解るかもね?」 くすくすと笑う諏訪子様は、とんっ、と地を蹴る。 「さ、私はまだまだ回らなきゃならない所があるんだ。お二人さん、ごゆっくり!」 「あ、ああ」 「はい、また……」 完全に諏訪子様に手玉に取られていた俺とこいしは、ただその背を見送るしかない。 比喩ではなく嵐のように現れては嵐のように諏訪子様は去って行ったのだった。 「……どう言う意味だと思う?」 こいしが空を舞う花火を眺めながら、ぽつり、と呟く。 さっきよりも少し距離が近く、俺が着る甚平の袖とこいしの浴衣の袖が触れあうくらいの距離だ。 「さてなぁ」 正直自分の中でも、どう考えたらいいものか解らない。 何せ、瞳を開いて居ると言ってもこいしの第三の瞳は閉じたままなのだから。 それが、きっと今、俺とこいしとの間にある掌一つ分の、距離。 「……あー」 「解ったの?」 今度は俺自身が間の抜けたような声を上げる。 全く、何処か間が抜けているのが二人付き合うと何とも言えない間の抜け方になるのだな、と理解した。 こいしはこいしで、きょとんとしたままである。 「こう言う事じゃねぇかな」 掌一つ分の距離を、ゼロにする。 こいしの掌の上に、そっと自分の掌を重ね合わせれば、彼女は一瞬きょとん、とした様子で此方を見て。 「……そう言う事」 に、と笑みを浮かべたのだった。 そして、掌を逆方向にすればぎゅ、と此方の掌を握って来る。 「簡単な事なんだねぇ、案外」 こいしが嬉しそうに呟けば、また一つ空で大輪が花開く。 宵の空は煙と光に焼けていて、まだまだ終わる気配を見せそうもない。 にこにこと笑みを浮かべるこいしの横顔がまた一度、花火の灯りに照らされた。 「世の中なべて事も無し、か」 「ほら。そう言う難しい事言って誤魔化そうとしてる」 思った事を呟けばからかうような台詞が飛び出して来るあたりこの世の中は世知辛い。 掌は少しだけしっとりと湿っていて、触れているだけで上質の絹のようで心地良い。 少しだけ俺の掌より冷たいのも、そんな彼女の掌に触れているのも、どちらも嬉しいものなのだ。 「ね。私が今一番欲しいもの、知ってる?」 こいしが瞳を閉じて、此方を見上げるようにしながら囁いた。 どぉん、と響く花火とともに、こいしの横顔が七色の灯りに照らされて。 「んっ――」 そ、とこいしの唇に、触れるようなキスを落とし、瞳を閉じた。 彼女と唇と掌で繋がりながら、確かに思うのだ。 光は確かに見えなくとも。 目には確かに見えなくても。 こいしとは、確かに自分は繋がっているのだ、と――。 Megalith 2011/09/18,2011/10/31,2011/11/23,2012/01/03,2012/01/30,2012/02/14,2012/03/29,2012/07/03,2012/08/02 ─────────────────────────────────────────────────────────────
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関連ブログ @wikiのwikiモードでは #bf(興味のある単語) と入力することで、あるキーワードに関連するブログ一覧を表示することができます 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/17_161_ja.html たとえば、#bf(ゲーム)と入力すると以下のように表示されます。 #bf
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作りかけ:埋められる方は埋めてください ※数値はLv99時点のもの クウ・リンファ ルウ・リンファ イーロゥ・レグナス ミラルダ・フィーノ セシリア・ミレイオ シビル・ハルシード イータス・フォーリィ ディボテ・アルセック ダウラー・ガレドス クラファ・クーリ ケイナス・フォーリィ エジャール・ヒートン オーカン・ミルカン ユーギル・ファルト ルエッジ・アルー ウィーズ・オルバート ジャック・ワイズ アリア・ショア サワジ・ハルドラント 旅人のベス ジェオン・ギャラン カジッショ・クニン 風見人シェリーン キト・エシマス ペグジェリアン・ミュエト イルドラウト・ユグ ガルーシュ・カロアー トニアス・ジール ソルアリウス・セイレム フォーツ・クォギル ミルメート・カルヴァリン ディスラス・ゴラン フレッド・マグナス キリル・ガルディ ハル・バルサルデ ロジオン・カールズ イスタシウス・ローヴェ ヴィネハシェイア・リノマ ロディ・ブレイク ウァタネイブ・ミツマ ヤサカニ・フクウ ユーリ・ヴェースプレリア カスミ・ゼラール ビドゥン・ゼラール 鋼刃のサキ 増幅者プラス [部分編集] クウ・リンファ HP EN 装甲 格闘 射撃 命中 回避 技量 SP 気力上限 7000 200 300 280 340 110 115 358 135 120 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 12 9 8 12 3 3 2 1 3 可 短剣、軽剣、長剣、突剣、長柄、拳具、槍、祭器、弩 所持SP/消費SP 的中/20 再動/70 貫通/15 堅牢/30 翻弄/45 集中/20 斬撃・力術メインの何でも屋。とにかくアクアクローザーを撃っていることも多い。 基本的にパーティメンバーの穴を埋めるように装備を整えてやるといいだろう。 力術に乏しい序盤は斬撃メインの軽装で、力術が充実し、また堅甲マスタリを習得する後半では力術メインの重装で、と時期によって装備をがらりと変えるのも悪くない。 SPはパンチ力不足だが、堅牢と翻弄の多重がけによる生存性能は群を抜く。基礎HPの低さには気を付けたい。 再動も見逃せず、ここぞというときに頼りになる他、クウとルウのみが出撃するパズル系イベントでは、ほぼ確実に再動の使用がカギとなることも覚えておきたい。 弩が扱えるが、無理に買う必要はないだろう。一応、後攻デメリットを2ターンに1ターン打ち消せるようにはなっている。 ルウ・リンファ HP EN 装甲 格闘 射撃 命中 回避 技量 SP 気力上限 7800 200 350 310 290 100 130 358 135 130 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 7 8 14 8 2 3 3 3 3 可 短剣、重剣、突剣、鈍器、斧、長柄、拳具、槍、長弓 所持SP/消費SP 的中/10 強打/15 奥義/30 大防御/30 疾駆/10 気合/40 ひたすら打撃に傾倒した瞬間最大風速的な大火力型。他の攻撃手段も取れないことはないが、ルウと言えば大火力打撃。 フルスイング、ミートチョッパー、ポテトマッシャー……と技が増えてゆくが、これらの系統は全て後攻属性を持っていることに注意が必要。ぶち当てればデカいが、先に一撃もらわないと当てられないデメリットがある。 後攻属性への対策として、大防御でダメージ半減させておく基本的なことの他に、サワジの「身代わり」をかけておくことが挙げられる。 強打や奥義の消費が安く、どこまでも攻撃に傾倒したキャラクター。防御SPが充実したクウとはある意味対称的である。 とにかく火力が全てのキャラなので、少しでも火力を高められる装備構成にしたいところ。 とはいえ、後攻属性のデメリットもあるので防具もしっかり整えてやりたい。 後半には堅甲マスタリーが手に入るので、早い段階から堅甲装備の重量に慣れておくことも重要。 地味に弓が扱える。長射程でデメリットも特にないため、一つ買い与えてやるとサブウェポンとして重宝する場面も出てくる。アジャトー町到達時点で購入可能な「ショートボウ」はとりあえずで買い与えるのに最適。火力も充分に出してくれる。 イーロゥ・レグナス HP EN 装甲 格闘 射撃 命中 回避 技量 SP 気力上限 8800 160 250 289 317 85 90 348 160 120 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 10 8 8 9 3 2 不可 不可 4 可 短剣、軽剣、祭器、弩 所持SP/消費SP 疾駆/10 集中/25 強打/15 的中/10 癒し/70 翻弄/30 特徴として、アクセサリの装備枠が1枠多い。レベルが上がると更にもう1枠追加される点が挙げられる。 これがイーロゥの数少ないアドバンテージであるが、アクセサリ1つで他のキャラクター性能の優位性を覆せるはずもなく、基本的には「仲間になるだけの一般人」枠である。 後方から「癒し」を飛ばして、撃ち漏らしたザコにトドメを刺す、といった運用がメインになると思われる。 一応、的中に翻弄と攻撃に参加するには十分なSPが揃っている。ただ、「癒し」より優先するべきかというと若干疑問。 メインストーリーの割と序盤で加入し、その後もいくつか強制出撃があるが、基本的には後ろに下げての運用となるはず。 アクセサリ数のおかげで他のキャラより耐性を上げる事が容易。力術を完全耐性まで上げ物理攻撃を盾で軽減するようにすればラスボスの攻撃すらほぼ無力化することも可能。 ミラルダ・フィーノ HP EN 装甲 格闘 射撃 命中 回避 技量 SP 気力上限 9400 200 250 302 355 80 100 368 109 125 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 0 0 10 14 3 0 不可 不可 2 不可 拳具、祭器 所持SP/消費SP 貫通/10 痛撃/15 気迫/40 突撃/10 再動/55 手加減/1 力術と拳の奏でるハーモニー。 専用の力術属性の攻撃は拳具を装備している必要があるため、基本的には拳具を装備することになる。 フロアメイカーという水上移動技能を持つが、早い段階で加入できればビューネラの社で便利かもしれないレベル。あまり役に立つシーンはない。せめて地形ダメージ無効化だったら違ったのだが…… やたらと攻撃的なSPに交じって、しれっと再動を持っているのは侮れない。ここぞというシーンに使えるだろう。ただ、ミラルダは本人もある程度戦えるので、SPに関してどちらに重きを置くかという点が悩ましいが…… ただ、戦闘に参加させるには防具マスタリが衣服しかない点が惜しまれる。その分火力マシマシになると考えればまだマシか……? 軽甲ならマスタリがなくてもペナルティが付かないので軽甲を装備させるのも悪くない。 セシリア・ミレイオ HP EN 装甲 格闘 射撃 命中 回避 技量 SP 気力上限 8600 180 250 302 361 95 110 372 120 125 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 7 10 0 10 3 2 不可 不可 4 不可 突剣、長柄、槍、祭器 所持SP/消費SP 鉄壁/20 強打/15 突撃/10 瞑想/40 挑発/8 覚醒/30 全体的に能力値は高くないが、取り回しはよく、コストの安い覚醒連打による超長距離移動や連続攻撃は便利。 ある程度ゲームが進行した状態で遺跡の都クイスグルクで話しかけると強化イベントが発生。お金はすぐに返ってくるので、遠慮なく貸してしまおう。 強化イベントにより、セシリア専用とも言うべき「万破の力術石」が手に入る。セシリアが装備したときのみ「デュアルインパクト」が使用可能なもので、非常に強力。 漫然と使っていると物理面も力術面も中途半端な存在になりがち。中盤まではともかく、それ以降はどちらかに絞って装備を偏らせるとよい。お勧めはデュアルインパクトのある力術面での強化。 軽甲のため不安は残るもののアクセサリを装甲で固めれば覚醒・鉄壁で敵陣の中に飛び込み攻撃を引き受けてもらう役もできる。その場合反撃の火力はあきらめよう。 シビル・ハルシード HP EN 装甲 格闘 射撃 命中 回避 技量 SP 気力上限 9200 220 300 339 288 85 125 389 130 125 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 9 11 0 6 2 2 不可 不可 3 不可 短剣、祭器、弩 所持SP/消費SP 隠密/5 神速/10 不意打ち/25 俊敏/10 貫通/20 先読み/10 攻撃力こそ大したことないものの、先制攻撃などで敵の攻撃力・命中率を下げることが可能。 スイングパイルやブレードロープは、敵から反撃を食らわないためガンガン攻めていける。設定上は「交戦する前から設置していた罠を発動させる」というもの。 レベルが上がると、ダメージ性能も高い「影隱れ」「ネックハント」を習得するのも見逃せない。 斬属性の罠は他のキャラクター同様レベルや武器で攻撃力が伸びる一方、スイングパイルなど刺属性の罠の攻撃力は全く変化しない。刺突攻撃力を直接上げるアクセサリで補強するしかない。 イータスとセシリアが近くにいると使える「管理局コンボ」も強力だが、条件が厳しい。 総じて、漫然と使っていては大して強くないが、位置取りや「先読み」の使用などで単騎で敵陣を撹乱する玄人向けのキャラ。 イータス・フォーリィ HP EN 装甲 格闘 射撃 命中 回避 技量 SP 気力上限 9600 220 300 323 311 105 100 374 120 120 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 8 10 0 6 0 2 3 不可 3 不可 突剣、長柄、槍、祭器 所持SP/消費SP 直撃/40 疾駆/10 集中/20 大防御/30 強打/25 奥義/50 普通に戦わせてもそこそこ強い。「奥義」も持っているため、なおさら力押しの運用をしたくなる。 しかし真価を発揮するのは状態異常付き力術を「直撃」をかけて使用した場合。 中でもブレイズウォールは敵の反撃自体を1ターン無効化する非常に強力な効果を持つ。対策してあるものもあるが、ボスモンスターですら一方試合にできるポテンシャルを秘めている。 ただし、「凍結」「睡眠」「行動不能」「混乱」「魅了」「麻痺」にすると与ダメージが半減する補正がかかるため注意が必要。 槍技で戦うときは、刺突技の追加効果に着目するとよい。「妖魔の爪」は引き寄せ効果、「精霊の針」は強制転移、「魔神の牙」はノックバック、「巨人の槍」はクリティカルダメージUP。 地味に突剣を装備すると技の並びが変わる。「時空乃勢」は反撃を食らわない非常に強力な技。 スファリエ町関連イベントで出撃回数が多いので、装備はしっかりと。初期装備でもなんとかなるが…… 最大火力は高いが消費SPが激しい。管理はしっかりと。 ディボテ・アルセック HP EN 装甲 格闘 射撃 命中 回避 技量 SP 気力上限 14000 220 350 348 311 115 70 381 125 150 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 0 7 11 10 3 1 2 不可 2 不可 重剣、突剣、鈍器、斧、長柄、槍、長弓 所持SP/消費SP 突撃/20 気合/40 疾駆/15 強打/20 制圧/20 幸運/25 防御SPを一切持たず高いHPで全ての攻撃を受け止める潔いスタイル。とはいえそんな運用させてたらあっという間に撃破されてしまうので、実際には慎重な運用が求められる。 交戦時に気力が大幅増加し、更に気力上限が150あるので気力をとっとと稼いで、気力に頼った高火力・高防御での戦いと行きたい。 地味な所で先制反撃できる「スパイクユニット」が強力な他、弓を持たせて使える「ディスタンス」「ディバインバスター」あたりは性能的にも申し分ない。 1ターンに何回でも武器を交換でき、交換した武器が属性付きの場合、攻撃手段として専用の力術が追加される。属性武器は主に天恩の町フリージェで購入できる。他に属性付き武器がない場合、初期装備のストームパルチザンのままで問題ない。いずれ属性武器や、属性を付与するアイテムが手に入る。風はグレイブディガーの装甲貫通、グラウンドケイジの防御力低下が魅力。フォーリングブラストとスターダストは制限が厳しい。 光はライトニングバープの装甲貫通、メルテッドグラベルの装甲劣化が便利だが、ボルトプールの衰弱効果は正直いまいち。プラズマスネイクは追加効果はおまけ程度と捉えればなかなか使いやすい。 火は特殊効果は一切ない純粋な火力型。攻撃力自体は控えめなものの最上位のヘルハウンドが移動後射程3あって利便性が高い。 水はアイスリベンジャーの先制反撃が光るが、フリーズレイド、クリスタルウォールともに状態異常に偏っており、ダメージに補正がかかるためいまひとつ。フリーズビーストの単純な攻撃特化型な点は使いやすい。 総じて、どの武器もそれなりに強力だが、上位技を考えると風から他の武器に乗り換えてしまいたいところ。 ダウラー・ガレドス HP EN 装甲 格闘 射撃 命中 回避 技量 SP 気力上限 14600 240 350 369 219 115 70 371 130 125 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 12 0 10 1 0 0 2 不可 不可 不可 短剣、軽剣、長剣、重剣、突剣 所持SP/消費SP 必中/20 強打/15 奥義/50 鉄壁/25 奮迅/30 制圧/10 我流剣術に対応した武器は数少なく、武器がほぼ固定される。 イギ・ロブフ、ギラ・ザゥムいずれもボスキラーとして非常に優秀で強力だが、放ったが最後、後が続かなくなるため注意が必要。 一撃の火力に特化というと、ルウという強力すぎるライバルがいるため正直分が悪い。ルウは最初から最後まで出ずっぱりなのでなおさら不遇な感がある。 ある程度レベルが上がると良燃費技が使えるようになる。ようやくそれなりに技を使いながら戦えるようになるライン。 運用していくつもりなら、協力技のルフ・ザゥムを活かして、クラファと組ませたい。 奮迅で前に出つつENが切れた後は鉄壁でひたすら防御に徹する強引な壁運用もできる。 クラファ・クーリ HP EN 装甲 格闘 射撃 命中 回避 技量 SP 気力上限 8000 200 250 279 371 80 120 369 115 125 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 0 0 8 9 3 0 不可 不可 2 不可 拳具、祭器、腕不可 所持SP/消費SP 不意打ち/20 見極め/10 翻弄/30 集中/20 俊敏/10 幸運/25 宝石の装備スロットが2つ多い。宝石自体は能力補正が小さいため、それだけだと大した効果ではない。 クラファの真価は「装備された宝石に応じて使用可能な攻撃手段が増える」ことにある。 必ずしも入手できるとは限らないが、反撃されないタンザナイト、射程に隙が無くダメージも高いオニキス、装甲を完全に無視する上に移動後長射程のアレキサンドライトあたりがお勧め。 新しい宝石が手に入ったら装備させて性能をチェックしよう。 クラファ本人の能力は範囲攻撃型。ダメージに補正が入るものの、反撃を受けずに複数の敵に一度に攻撃できるのは強力。 拳でも戦えはするが、本領は力術による範囲攻撃なので、なるべく後方に陣取らせたい。 変わった所ではルビー等の耐性宝石を多数装備して属性への完全耐性を得るといったことも。もっともそれだけ宝石が手に入ればの話だが… ケイナス・フォーリィ HP EN 装甲 格闘 射撃 命中 回避 技量 SP 気力上限 9800 200 300 321 308 120 70 384 140 120 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 0 11 0 8 0 3 不可 不可 4 不可 長弓 所持SP/消費SP 的中/10 助言/20 狙撃/15 連続攻撃/35 突撃/20 貫通/20 高い攻撃力と便利なSPを兼ね備えた最強の弓使い。刺属性が弱点のユニットにとっては天敵。 刺以外の攻撃は全くできない。状況に応じて力術石を装備させ、攻撃属性を補ってやるといい。 SPはとにかく攻撃特化。弓使いの特性を生かす狙撃、突撃と、対ボス火力にもなる連続攻撃、貫通。 反面防御系SPがなく装備も軽甲までだが、元々の長射程に加え、攻撃力が高い間属性攻撃が多いのでまず反撃を受けない。 ケイナスにとっては、長射程攻撃もしくは反撃を受けない間属性攻撃の使用自体が防御SPの代わりとなる。 エジャール・ヒートン HP EN 装甲 格闘 射撃 命中 回避 技量 SP 気力上限 13200 220 400 370 289 105 80 382 110 125 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 10 0 11 1 0 0 3 不可 2 不可 短剣、軽剣、長剣、重剣、突剣 所持SP/消費SP 的中/15 強打/25 疾駆/10 大防御/25 堅牢/40 鼓舞/50 序盤から加入するパワーアタッカー。 SPの揃いも悪くない。使いどころがほぼない「鼓舞」が余計か。 序盤から「ギロチンブレード」による大火力に加えて、レベルが上がると「ギガントブレード」「アクセルブレード」を修得する。 反撃を受けず、または先制攻撃可能な「戦靴蹴り」も無視できない。ちょっとしたダメージ不足、あと少しで倒せる敵から攻撃された場合などのシーンで有効。 打撃技の「アーマークラッシュ」による装甲劣化、「ボーンブレイク」による全ステータス低下も魅力的。特に「アーマークラッシュ」はエクストラボス相手に非常に有用。 オーカン、ユーギルらを率いた協力技が放てるが、使う機会はない。 オーカン・ミルカン HP EN 装甲 格闘 射撃 命中 回避 技量 SP 気力上限 8500 180 250 327 305 90 75 354 90 115 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 8 0 0 6 0 3 不可 不可 2 可 短剣、軽剣、祭器 所持SP/消費SP 不意打ち/15 大防御.10 勇気/50 遠当て/10 気合/20 挑発/7 基本的なステータスはかなり低く、晩成型というわけでもなく最後まで満遍なくステータスが低いまま。 SPは専用SP「勇気」が強力。それ以外は、基本的なところを一通り抑えているといったところか。 初期装備の「揺波の力術石」はオーカン以外が装備しても使えるが、オーカンが装備することで性能が強化され、また合体技2種が追加される。実質オーカン専用。 基本スペックが低いので、力術石の追加効果を頼りに小賢しく立ち回る必要がある点に注意。 ユーギルとの合体技が強力で、起用するならユーギルと併せた起用をしたいところ。 ユーギル・ファルト HP EN 装甲 格闘 射撃 命中 回避 技量 SP 気力上限 8900 180 250 305 347 75 90 353 180 115 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 8 0 0 6 0 3 不可 不可 3 可 短剣、軽剣、祭器 所持SP/消費SP 的中/10 渾身/35 突撃/15 隠れ身/35 献身/20 集中/10 オーカンとほぼ類似性能。 専用SP「隠れ身」が位置取りの際には有用。だが具体的な使用シーンはあまりないだろう。しいて言えば翻弄代わりに使うなどか。 初期装備の「熱光の力術石」についてもオーカンに同じ。実質ユーギル専用。 やはり使うならオーカンとセットで使いたい。 ルエッジ・アルー HP EN 装甲 格闘 射撃 命中 回避 技量 SP 気力上限 9899 240 350 322 233 115 85 392 125 120 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 12 11 9 0 0 2 3 1 不可 不可 短剣、軽剣、長剣、重剣、突剣 所持SP/消費SP 不意打ち/20 大防御/20 疾駆/10 一撃離脱/45 貫通/20 集中/15 攻撃属性が多彩な戦士。重装備ができ、硬い。 技は斬、刺、打いずれも使えるが、打は射程に難あり。威力の高い斬撃をメインに、サブウェポンとして刺突を選ぶといったところが現実的なラインだろう。 SPは隙なく揃っており、重ね掛けも有効。一撃離脱が特に役に立つ。敵装甲によって貫通を選べるのもよい。 ウィーズとの協力技がある。利用頻度はいまひとつだろうが、おまけ程度に覚えておいてもいいだろう。 序盤に加入するキャラの中ではクセが少なく、イベントでのパワーアップもあるためすんなり終盤まで使い続けることができる。 ウィーズ・オルバート HP EN 装甲 格闘 射撃 命中 回避 技量 SP 気力上限 11200 260 350 364 255 115 115 410 155 120 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 12 9 13 0 0 0 2 2 不可 可 短剣、軽剣、長剣、重剣、突剣、鈍器、斧、長柄、拳具、槍 所持SP/消費SP 不意打ち/20 一撃離脱/40 気迫/50 助言/20 侵攻/10 進軍/20 SPが小回りが利かない印象が強い。が、基本は一撃離脱があれば十分通用する。 重装備に強力な打撃技を持つ。斬撃は反撃時専用。刺突は制限が多い。そのため、おのずと打撃がメイン技になってくる。 イベントが進むことで最終装備候補の「サディシオン」が手に入る。純粋に武器として強力なだけでなく、装備時はたとえウィーズのレベルが不十分であっても上位技が解禁される。 サディシオンを手に入れた後も、初期装備の「ロードオブナイツ」は手元に残る。資金に余裕がない時期はフォーツ、ディスラスの乗換先装備として非常に優秀。 ジャック・ワイズ HP EN 装甲 格闘 射撃 命中 回避 技量 SP 気力上限 8699 180 300 294 239 80 125 379 130 120 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 0 8 6 0 3 0 不可 不可 不可 不可 拳具、祭器、弩 所持SP/消費SP 翻弄/25 技巧/20 守護/25 献身/25 縛鎖/30 脆弱化/65 味方でも有数の味方強化キャラクター。 攻撃技はおまけ程度に思っておいた方がいいだろう。 効果量は凄まじいが、数値はレベルが上がっても据え置きのため、パーティメンバー全体の能力が上がるにつれて相対的に効果が低くなってゆく。 スキル自体はいずれも強力。更に「守護」や「脆弱化」でそれ以外のサポートも万全。 アリア・ショア HP EN 装甲 格闘 射撃 命中 回避 技量 SP 気力上限 9300 220 300 335 249 100 95 377 135 120 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 10 8 6 0 なし なし 3 2 不可 可 刀剣 所持SP 必中 堅牢 貫通 集中 誘導 覚醒 重甲・堅甲マスタリ持ちで非常にタフ。HPは低い方だが、やはり防具による装甲上昇の恩恵は大きい。 高装甲に堅牢、貫通と純粋な殴り合いするのに十分なスペックを持つ。 それ以外にも攻撃力低下、防御力低下を狙え、装甲貫通技なども習得する。装甲劣化技がないことが残念である。 レベル40で援護防御を覚える。こうなると運用方法が変わってくる。防御の薄いキャラの隣に陣取らせよう。 初期装備の「黒のタリズマン」はアリアでもよいが、他のHPが低いキャラに装備させるとよい。 サワジ・ハルドラント 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 8 8 8 0 なし なし なし 3 不可 不可 長柄、弩 所持SP 身代わり 鉄壁 堅牢 守護 信念 献身 防御の神。 加入時点で1万を越える莫大なHPと堅甲マスタリを持ち、加入直後は鉄壁などかけなくとも全く落ちる気配がないほど。 真骨頂は「信念」をかけた上で「身代わり」連打だろう。有用でない場面を探す方が難しいくらい有用で、ラスボス後半戦に特に強烈。 基本的に、サワジが健在の間、SPさえ切れなければ味方は落ちないと思ってもよいくらい。 SP切れにだけは注意。なるべくSP回復アイテムはサワジに優先して回してやりたいところ。 半面、攻撃はからっきし。おそらくワーストの攻撃性能。 敵にとどめを刺す機会が限られるのでレベルが上がりにくい。宝珠は優先的に使おう。 旅人のベス HP EN 装甲 格闘 射撃 命中 回避 技量 SP 気力上限 10000 240 300 338 333 85 120 380 145 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 0 11 0 9 なし 1 なし なし 可 可 突剣、弩 所持SP 挑発/10 必中/15 奮迅/30 疾駆/10 翻弄/40 受け身/10 刺突と力術しか扱えないが、それだけで十分強い。 初期装備の力術石は、ベスと、なぜかセシリアが装備したときだけ性能が大幅強化される特性を持つ。どちらに持たせるかは自由。 距離に制約があるものの反撃を食らわない「クラッシュウォール」はやはり強力。 技も強力なものが揃っている。「細刃錬牙」「剛刃錬牙」いずれの方が有効になるかは相手次第で選択肢が増える。 終盤、イベントで専用装備ともいえる「フレイムソード」が手に入ると更に強くなる。「ファイアシールド」という、横凪ぎの範囲攻撃を修得する。 ジェオン・ギャラン 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 0 7 9 0 なし 3 1 なし 不可 不可 拳具 所持SP 必中 強打 突撃 疾駆 鉄壁 信念 2回攻撃。それがだいたい全て。 初期装備「デュアルクロー」および終盤に手に入る専用装備「フリズウィング」装備時のみ、一部除いた物理攻撃が2回攻撃となる。そのため、「フリズウィング」が手に入るまでは額面上は威力の低い「デュアルクロー」のままで問題ない。 拳打まで2回攻撃の対象となるため、宝箱破壊などに持ってこい。 「フリズウィング」装備後は「ブラスティングコフィン」という単発技も使えるようになる。装甲貫通効果付き。「ブラスティングシャワー」とどちらがよいかは敵の装甲によるだろう。 エベール地方の探索、フリーバトルで手に入る「熱意戦士の装束」セットを装備するとステータスが大幅に強化される。余ったフリズウィングはミラルダにでも回すとよい。 カジッショ・クニン 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 9 9 9 9 2 2 2 2 可 可 長柄 所持SP 的中 堅牢 集中 補給 誘導 受け身 なんでもできるがどれを取っても一流にはなれない器用貧乏タイプ。 斬、刺、打、力術いずれもそれなりに強いが、それなり止まり。ただし、逆に言えば何をやらせてもそれなりに強く、相手を選ばないとも言える。 初期装備の力術石は、カジッショ自身が装備してもよいが、他のキャラクターが装備しても有用。特に、「旋矢の力術石」の「風矢」は反撃を食らわず、「極雷の力術石」では「雷光弾」「極光並」いずれも装甲劣化効果があり有用。 終盤、イベントで専用武器ともいえる「エアヴォウジェ」を装備してからが本番。クリティカル補正が強烈な「放浪凶嵐」が使えるようになり、こうなるとダメージ面でも見劣りしなくなる。 「補給」が専用SPとして用意されており、味方のエネルギーを全快させる。とはいえそこまで困るシーンもなかなかないだろうが…… 風見人シェリーン 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 10 0 12 8 1 なし なし なし 不可 不可 砕具 所持SP 気合 疾駆 神速 乱戦 激闘 鉄壁 豆腐HP豪快人形。 大威力の斬撃、打撃、距離を選ばない力術とどれも強力。しいて上げるならば、打撃技で吹き飛ばしてノックバックダメージを得られるとなおよい。 強力な攻撃性能を誇り、射程が長く距離を選ばないシェリーンだが、HPはワーストクラスに低い。位置取りはしっかりと。 リトライト石で作られた装備品によってHPが上がる特性がある。HP補強をしたければ優先的に回してやろう。 その他、「シェリーンの紋章」装備時にもHPが大きく上がる。HP基礎値の不利を覆せるほどではないが、これといって使い道が決まっているわけではない場合、素直にシェリーンに装備させるべきだろう。 「シェリーンの紋章」では、HPだけでなく装甲、力術の威力も上がる。やはり持つべきは本人ということか。 キト・エシマス 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 14 11 12 0 なし なし 2 1 不可 不可 近接武器 所持SP 的中 強化 奥義 秘奥 大防御 鉄壁 加入時レベルが70もあり、装備も十分、そのままラスボス戦へ連れていっても活躍が見込める至れり尽くせりなキャラクター。 強力な技が揃い踏み。基本的にメインとなるのは斬属性。「デュエルジェイド」と「レイオンソード」にはお世話になるだろう。 中でも、前作ラスボスを滅ぼしたとされる「レイオンソード」は非常に強力。竜属性を持ち、終盤のボス相手に大ダメージを叩き出せる。 「レイオンソード」の使用には、初期装備の「英雄の指輪」を必要とする。特に強いこだわりがない限り、装備させたままにしておこう。 SPでは専用となる「秘奥」が強力。シンプルに2倍ダメージ。是非とも「レイオンソード」と組み合わせたい。 エネルギーとSPの最大値が高く、その分消費も大きい。このことからSP自然回復やアイテムでのリカバリーはやや困難。デカいのを一撃~二撃食らわせてあとは残った体力で戦うような運用になるだろう。 前作「黒い里」主人公。そのおかげか本作でも非常に強力なキャラクターに仕上がっている。ミュエトは若干不遇気味だが…… ペグジェリアン・ミュエト 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 10 8 6 12 3 なし なし なし 不可 不可 なし 所持SP 疾駆 突撃 不意打ち 連続攻撃 翻弄 幻惑 回避系の最上位キャラクター。「幻惑」で実質無敵になれる。ただし火力はさほどでもないため単騎で「幻惑」をかけて戦うシーンはあまりない。 どちらかというと「翻弄」をかけつつ、「連続攻撃」で着実に削っていくタイプ。 貴重な「魔」属性持ちで噛み合うシーンでの火力を期待してしまいがちだが、実際には「連続攻撃」と「ウィンドオブエア」の相性が悪く、せっかく捉えた敵を吹き飛ばして追撃が入れられなくなってしまう。 壁際や味方で出口を塞いだ状態で使うか、大人しくスクウィズなどで妥協しよう。 火力的には特筆すべき点はない。 前作「黒い里」ヒロイン。なのだがヒロイン補正はかかっていないようで、目覚ましい強さとは言いがたい。一応、初期レベルがかなり高めだが…… イルドラウト・ユグ 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 8 0 14 6 なし なし 2 なし 可 不可 砕具 所持SP 乱戦 鉄壁 突撃 奮迅 信念 睨み 重戦車のような戦闘スタイルのイルド。昔は弩メインで小賢しく立ち回っていたらしい。 高いHPと重装備を活かし、更に鉄壁乱戦をかけた状態で敵陣に放り込めば単騎で壊滅状態に追いやってくれることも。 「大車輪」「地獄の回転木馬」いずれも非常に強力だが、射程に難あり。「突撃」を併用してぶち当てていこう。 命中にも不安を抱えている。「睨み」を利かせるか、それでも当てられないなら素直に「正中打」で着実に削っていこう。 打撃レベルは最大値の14に達するのは見逃せない。 イベントを進めていくと最終装備候補の「アンバッサダー」が手に入る。別にイルド専用というわけではないが、イルドの能力とマッチしている。 ガルーシュ・カロアー 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 9 7 0 0 3 2 なし なし 不可 不可 短剣 所持SP 的中 突撃 隠密 神速 俊敏 翻弄 状態異常使いとしての側面と、くさび打ちからの打点崩壊としての側面が存在する。いずれの面から見ても強力。 状態異常使いとしては非常に強力かつオンリーワンな性能をしている。ただし、睡眠や麻痺はダメージに補正がかかってしまう。あくまでも足止めとして割り切ろう。 お勧めは、力術メインの敵に対する「反力術の水」。これでほぼ何もできないケースのままある。 火力の面から言うと、2ターンを要するものの「くさび打ち」からの「打点崩壊」が装甲完全無視かつ威力自体も非常に高いため強力。 低レベルプレイをしている場合などでは敵の装甲が高すぎてろくにダメージが通らないシーンが出てくる。そんなときはガルーシュに頼ろう。 打点崩壊の命中補正が劣悪なため、的中が必要になる点に注意が必要。 初期装備グピティー・アガの「短抜刀術」も火力もあり反撃を食らわないため重宝するシーンも多い。ザファー・タキエに乗り換えた後の「勝采抜剣」はより強力。 データ上ではさらに上の「クリス・ナーガ」による「竜嵌曲剣」という技が残っている。是非とも欲しかった…… と思いきや、現行版では王都サディシアでイベントを進めると「クリス・ナーガ」を買えるようになった。 基礎回避はミュエトに劣るものの俊敏が使えるため最終的な回避力はこちらが高くなる。回避特化にする場合は盗具含め火力はあきらめよう。 トニアス・ジール HP EN 装甲 格闘 射撃 命中 回避 技量 SP 気力上限 10800 260 300 233 385 105 75 394 150 125 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 0 0 7 12 3 0 不可 不可 2 不可 祭器 所持SP/消費SP 翻弄/40 必中/10 技巧/30 強打/20 先読み/5 激励/35 力術石の扱いが若干特殊で、最初からいくつもの力術石を装備している扱いとなっている。 普段使いするならばマテリアルスマッシュが便利。ニードルレイは地味に悪燃費なので注意が必要。移動後使用可能なラウンドクラッシャーは威力と消費のバランスがよく追加効果付き。 中でも装甲完全無視のイン・ヴェイン、能力低下のジ・オーリクは非常に便利。ただし燃費も悪いので状況見合いで。 翻弄があるため攻撃をしかけるには困らない。敵フェイズでの生存性能は、「先読み」とグリーミングトライを組み合わせることで、そもそも攻撃させずに落とすという荒業に持っていける。 技巧は、追加効果ありの力術を扱う際に重要となる。特にジ・オーリクの全能力低下は発生率が安定しないので併せて使うことが望ましい。 トニアス、ルエッジ、ウィーズ関連イベントを進めていくと最終装備候補「リングオブフォース」が手に入る。トニアスが装備している間だけ、貴重な「魔」属性かつ移動後射程2で燃費もよいという厚遇ぶり。 燃費がいまいちのトニアスにとってはうってつけの装備。特にこだわりがなければリングオブフォースのまま最終決戦まで臨みたい。 ソルアリウス・セイレム 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 10 9 0 0 なし 3 なし なし 不可 不可 片手剣 所持SP 痛撃 貫通 疾駆 一撃離脱 先読み 集中 単発のダメージの軽さをクリティカルダメージ補正で補うタイプ。 その性質上、「貫通」による装甲半減と「痛撃」による確定クリティカルが非常に噛み合う。 逆に言うと、「貫通」「痛撃」をかけないと真価は発揮されない。 特に最終技の「ブラディシャワー」は、クリティカル時ダメージ2倍だが、クリティカル率は安定しない。ここに「痛撃」を乗せられるか否かでダメージ能力は大きく変わってくる。 刺突技は毛色が違って、有射程での戦闘用のものが揃っている。特に移動後射程2の「スタブラプター」は使い勝手が良い。 武器は放っておいてもイベントで最終装備候補の「スモール・レイヴン」を手に入れてきてくれるのでお財布にも優しい。 なお、「スモール・レイヴン」は直訳で「小さい烏」つまり「小烏丸太刀(こがらすまるのたち)」を意味しているようだ。先端から中ほどまでが両刃になっており、刺突にも向く刀剣。ソルにぴったりの武器である。 HPは低く打たれ弱い、疾駆で前に出すぎないようにしよう。 フォーツ・クォギル 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 14 14 14 14 なし 3 1 1 不可 可 刀剣 所持SP 不意打ち 足かせ 装甲軟化 翻弄 激励 再動 成長性の塊ボーイであり、ある意味最強の支援役。 初期ステータスこそ低いものの、いざ育ててみると技能レベルがぐんぐん伸び、また終盤になるとその伸び方が加速してえらいことになる。 具体的には、斬撃、刺突、打撃全ての技能レベルが最高値である14に達し、おまけに特に意味はないが力術レベルまで14になる。 成長に従い技のラインナップが無遠慮に充実してゆく。基本的には「爪十本」あたりで十分戦えるのだが、最終的には「葬世剣・天崩地壊」を修得し、威力が楽しいことになる。消費も楽しいことになる。 真価は支援にあり、激励や再動が揃っている点も見逃せないが、注目すべきはフォーツ専用SPとなっている「装甲軟化」の存在。これをボスにかけて全員で袋叩きにすればあっという間に消費SPがペイできる。 特に味方の出撃数の多いシーンほど有効で、ラスボス戦などでは育ってなくともとりあえず出撃させて「装甲軟化」をかけるだけで仕事をしてくれる。 ミルメート・カルヴァリン 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 0 0 0 10 2 なし なし なし 不可 不可 祭器 所持SP 大防御 学習 不意打ち 信念 脱力 激励 将来性の塊ガール。 初期レベルは低いが「学習」でぐんぐん伸び、技能レベルもみるみる上がってゆく。 技能レベル上昇に合わせて、技もばんばん追加されてゆき、トラニヨンガードの防御性能も上がってゆく。 近接技も、遠距離技も、どちらの系統も強力。ただ、どちらかというと一方的に攻撃で物理耐性に引っかかることのない遠距離技の方が便利かもしれない。 最終的に修得する「バンドゥイチャクマキ」は射程6に達し、威力充分・装甲貫通効果まで持つ。2ターンに1回しか使えない点を含めても強力。仮に「バンドゥイチャクマキ」を撃ち終えたとしても、同じく射程6の「シャーイトゥファング」が控えている。 SP最大値こそ低いものの低消費でSPを使うことができ、実質毎ターン「大防御」が使える。 トラニヨンガードによるダメージ軽減は、大防御・防御のダメージ軽減された後に行われるので、大防御・防御と組み合わせると驚くほどの堅牢性能を発揮する。 HPも装甲も低いが、実質的な防御性能・耐久性能はかなり高いと見るべき。 低威力の状態付加攻撃にはめっぽう強い、ラスボス完封パーツの一つ。 ディスラス・ゴラン 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 9 8 7 8 2 2 なし なし 可 不可 近接武器、弩、祭器 所持SP 助言 守護 献身 激励 誘導 受け身 最大火力を出すのが苦手なアベレージ火力マン。 射程に穴が全くないため、どんなシーンでもとりあえずの火力は出せる。 「流星錘」による引き寄せや反撃封じは強力だし、同じことが移動後に「双飛爪」でもできる。消費も安い。 「強い」というよりは「便利」がしっくりくる。 SPも助言、守護、献身、激励、誘導、と6つ中5つが支援用。 「全暗器攻撃」は額面上は強力なのだが、敵の耐性に引っかかることも多く、最終的にそこまでダメージが出ないことも多い。 最大火力を補う意味でも、いずれは王都サディシアで売っている乾坤圏に乗り換えたい。ただし乾坤圏の固有技は7ターンに1回しか撃てない制約があるが。 フレッド・マグナス 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 0 0 9 8 なし 2 なし なし 可 不可 弩 所持SP 集中 強打 必中 鉄壁 通当て 覚醒 地味な弩使い。弩を専門に扱うキャラクターはフレッドのみ。 弩の弱点である「後攻になる」点は「太矢装填」で解消するが、通常2ターン中1ターンのみ有効なところ、フレッドは3ターン中2ターン有効になる。 重太矢などで戦ってもいいが、イベントを進めると錬成太矢が使えるようになり、更にレベルが上がれば錬成閃光矢が放てるようになり、攻撃の選択肢が広がる。 弩の反撃不可能な欠点は力術石を装備させることで補いたい。 覚醒のコストが安いので、刺突が通る場面ならばフレッドが一人であらかた片付けられる場面も出てくる。 ほぼフレッド専用となるが、ミマ村のラギアの遺産を見て回っても面白いかもしれない。 問題となるのが、フレッドの初期装備アーバレストが弩全体で見てもかなり優秀な性能をしている点。 買い替えるなら、属性付きのラギアの遺産よりは、無属性の王都サディシアで売っているオーバーローダあたりがよいかもしれない。 キリル・ガルディ 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 0 0 12 0 なし なし 2 なし 不可 不可 砕具 所持SP 強打 激闘 鉄壁 挑発 睨み 献身 射程は1のみだが、見た目に反して様々な技を覚える。 先制攻撃の「しゃらくさい!」や命中補正+99の「逃すものか!」、装甲劣化の「打ち砕く!」などなど…… SP献身持ちと意外に支援もできたりする。 惜しむべくは加入時期。聖地エベールからサディシア側に道が開通した後でないとキリル加入のイベントが発生しない。 ただし、「祝福」などを使って一気に成長させられるのであれば、打撃技のエースとして非常に頼れる存在になれる。 HPもトップクラスの高さ。鉄壁をかければそうそう落ちず、そもそも「しゃらくさい!」でダメージを食らう前に落とせることも多数。 ハル・バルサルデ 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 0 0 11 0 なし 1 1 なし 不可 不可 砕具、拳具 所持SP 渾身 気迫 鉄壁 学習 守護 気合 打撃オンリーの攻撃一辺倒キャラ。一方で「守護」で他者に大防御がかけられる支援的側面もある。 「学習」は「幸運」ほどではないが、有用。ハルが出撃しているときに自分よりレベルの高いユニークモンスターなどと遭遇したら、「学習」をかけたハルでとどめを刺せるようにしておこう。他に育てたいキャラがいて「祝福」「教導」があるのであれば別だが。 フランジド・メイスが強すぎて初期装備から外された逸話を持つ。是非とも王都サディシアでフランジド・メイスを買い与えてあげよう。幸い安価。 フランジド・メイスを装備すると使える「プレートブレイカー」だが、通常3ターンに1回しか使えないところを、ハルの場合は毎ターン使用できるという専用効果付き。 レベルが上がると「テレフォンスマッシュ」が使えるようになる。使用制限が厳しく後攻だが、装甲完全無視、装甲劣化、防御力DOWNという有用性を持つ。 拳具を装備させると専用の技になり、レベルが上がれば強力な技が並ぶが、いずれも射程の制限など問題があり、常用するには厳しい。 「テレフォンスマッシュ」もあり、やはり基本は砕具という形になる。 フランジド・メイス一本で終盤まで進めるポテンシャルを秘めている。 ロジオン・カールズ 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 0 12 0 0 なし 3 なし なし 不可 可 槍、弩 所持SP 不意打ち 大防御 連続攻撃 俊敏 侵攻 疾駆 軽薄そうで苦労人。縁の下の力持ちに徹する裏方根性。 初期装備のミリタリー・フォークのレストリクトが非常に便利。反撃を食らわないのは大きなアドバンテージ。しかもロジオンが装備したときだけレストリクトの性能が向上する。性に合った武器ということだろう。 レストリクトによる攻撃支援以外では、地味。ペネトレイトが移動後射程3あることくらいか。 Lv60で援護攻撃を、Lv80で援護防御を修得する。援護攻撃はペネトレイトが便利。援護防御はロジオン自信が耐久力が高いわけではないため注意が必要。 イスタシウス・ローヴェ 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 11 10 0 0 なし なし なし 1 不可 可 刀剣 所持SP 直撃 守護 助言 祝福 鼓舞 受け身 貴重な「魔」属性持ちの一人。 クライドの剣の力により、剣士というよりは砲台的な運用が主になるキャラクター。 斬撃レベルが上がると、クライドの剣の「力の解放」『不滅なる剣』の射程が強化され、使い勝手が非常によくなる。 初期装備が非常に豪華。イスタシウスは前線でガンガン殴り合うキャラクターでもないため、装備を剥いでしまっても構わない。 刺突技は凡庸。やはりクライドの剣の力を引き出した戦い方が似合っている。 黒のタルナーダはSP消費せずに地形無視移動できて便利程度で、実戦で使うシーンはあまりない。せっかく捕まえたのに。 彼の真価は育成に置いて発揮される。具体的には「祝福」。経験値獲得量6倍というすさまじい倍率がかかるため、経験値の多いボスをレベルの低いキャラが「祝福」をかけて撃破するだけで10レベル以上上がったりもする。 手広く育成するにせよ、絞って育成するにせよ、祝福の存在は非常に大きく、レベルを上げたいキャラクターがいる場合にはイスタシウスを常に出撃させておきたい。 ヴィネハシェイア・リノマ 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 10 0 13 0 なし なし 2 2 不可 不可 砕具 所持SP 強打 奥義 激闘 的中 気合 突撃 防御の神サワジよりも更に一回りHPが高い。 半面、防御系SPを一つも持っておらず、運用に際してはユーリや、それこそサワジなど守護・身代わり持ちを入れてやる必要がある。 とはいえクウやルウの4倍近くもある、有り余るHPを活かして、あえて防御系SPを使わずにボスと殴り合ってみるのも一興。 逆に守護などでダメージ軽減すると硬すぎて愉快なことになるので、それはそれで面白い。 攻撃面は、上位技が命中が極端に低く、射程に難あり。本人も的中と突撃はあるが消費が大きいためどの技で殴るかを考えなければならない。なかなか悩ましいものがある。 ティランエクスプロジオンは額面だけならルウのドリアンクラッシャーよりも遥かに高い。おまけにドリアンクラッシャーは実質2ターン必要。しかしドリアンクラッシャーのクリティカル2倍撃補正を考えると一撃のデカさという意味ではルウに軍配が上がるか。 短射程で殴る以外の運用ができないのも悩みどころ。多彩な役割をこなせるルウとは根本から違う。 おまけにSPは最大値こそ高いもののSP消費量もまた高い。回復アイテムをドカ食いする他、ターン毎の自然回復がまるで追い付かない。 運用するならとにかくルウにはないHPの高さを活かした壁役をさせてやろう。 まず味方に付けるのに苦労させられる。紅閃の力術石を精製し、クウに装備させて翻弄・堅牢を駆使して戦うとよい。できればシンプルウェポンを手に入れていればなおよい。 ロディ・ブレイク 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 0 12 0 0 なし 1 1 なし 不可 不可 槍 所持SP 強打 痛撃 貫通 大防御 鉄壁 気合 水中適応がAというささやかすぎる特徴がある。いつ活きるのだろう。 槍を持った素直な戦士然としたフラットな性能をしており、基本スペックは悪くない。 槍ゆえに全技の射程が移動後2あるのも嬉しいところ。 最大の特徴は、「網」を投げた後にのみ有効になる「グラディエイション」で、スペックは非常に高い。 半面、ガルーシュの打点崩壊と違い、そこまで高い性能をしているわけでもないので、2ターンかけてまで放つ技かというと際どいところ。網自体の効果として運動性・移動力ダウン+移動停止を補正値+300で撃てるのは利点だが。 可もなく不可もなく、全体的に地味な印象が拭えない。 ウァタネイブ・ミツマ 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 13 8 0 0 なし 2 なし なし 不可 不可 軽剣 所持SP 集中 疾駆 強打 気合 覚醒 俊敏 初動火力に全てを賭けすぎた男。額面火力は間違いなくぶっ壊れ。なのだが…… ダメージを負うと攻撃力が下がる、HPが一定以下(90%とか)になると技が使えなくなってゆく、など運用に際しては非常に悩ましい。 サワジなどを活用してあまりダメージを食らわないこと前提で話すならば、無足二段の愚者で攻めつつ幻影剣気で敵陣を一気に殲滅し、隣接した次のターンで遥かな蒼空に浮かぶ蜘蛛でフィニッシュ、と行きたいところ。 どうしてもダメージを負うならHP40%以上残っていれば使える「雪蛍」も十分強力なので。それよりHPが凹むようだと戦力外になってしまうが…… 加入タイミングも2周目かつ王立闘技場の上位クリアとこれまた非常に遅い。 ヤサカニ・フクウ 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 0 0 10 12 3 なし なし なし 不可 不可 祭器 所持SP 必中 翻弄 突撃 気合 信念 瞑想 虫の相手以外なら何をやらせても強い。本人の耐久力だけが弱点だが、サワジに身代わりさせるなり、いくらでもやりようはあるだろう。 バインディングという、いきなりアクアクローザーの互換技が扱える時点で既に強い。 技を一つ一つ見ていってもいろいろ強い。インフィニトホルドとか。射程含めて色々おかしい。 瀕死時限定でエンドオブワールドという強力な技が使えるが、味方を巻き込む都合上実用性は不明。一応、使うだけならエタニティマーブル連打して自らHPを削っていけばすぐに使えるようになるが…… ミツマの初期装備をフルセット着けると性能が変化する無駄な隠し要素付き。たぶんそんなことするより普通に戦った方が強い。 特筆すべきは「キェナ村で会話するだけ」で仲間になるというポイント。最強クラスのキャラクターがこんな序盤に加入したのでは敵もたまったものではない。ただし、2周目プレイ限定の話になるが…… ユーリ・ヴェースプレリア HP EN 装甲 格闘 射撃 命中 回避 技量 SP 気力上限 9000 220 300 346 328 105 110 387 160 120 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 0 12 0 4 0 2 2 不可 2 不可 突剣、長柄、槍、祭器、長弓 所持SP/消費SP 激励/40 誘導/20 発破/35 守護/30 助言/25 教導/30 本人が戦ってもそこそこ強いが、全てのSPが他者にかけられるという特性上、的中や大防御などが使えないもしくはSP節約したいキャラと併せて出撃させ支援するとよい。 特に「教導」は「祝福」ほどではないにせよレベルアップの時間を大幅短縮できる。また、基本的にどのSPを使っても他者の不足を補えると思っていい。 本人の性能としては、槍か突剣か弓かの三択となる。槍の場合、素直に強い。中でも隣接後限定で反撃を封じられる「槍身返し」の他、そこそこの確率で攻撃不能にする「絡め突き」も心強い。 突剣の場合、ほぼ槍と同じ性能だが、射程が短い分、威力が上乗せされている。 弓の場合、長射程になるだけでなく、火・水・風・光属性が付与された技となり、相手の弱点に応じて技が選べる。状態異常付き。 本人はLv40で「援護攻撃」を修得する。援護攻撃を活かすならば、射程の長い弓を選びたいところ。槍でも射程が3あるので十分機能する。 原作はArarat。信長の野望的戦略SRPG。原作ではかなりの脳筋ステータス。 カスミ・ゼラール 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 10 9 8 0 3 なし なし なし 不可 不可 近接武器 所持SP 幸運 翻弄 疾駆 強打 奮迅 奥義 序盤から加入する軽装型。回避技能と衣服マスタリが目に付くが、本作における回避型はあまりアテにならないので、回避には大して期待しないこと。しっかり翻弄をかけた上で交戦しよう。 序盤から加入する割には、Lvもそこそこ、装備も最初からセット装備効果が発動しているなど隙がない。特に防具はカスミを運用していく上で重要な「属性攻撃の攻撃力底上げ」をしてくれるので、下手にいじらないほうがいいかもしれない。 武器を無制限に変更でき、武器種別によって使える技と属性が大きく異なる。が、基本的に軽剣装備時の「鸞鳳双剣」系列が強力なので、特に何もなければ軽剣を装備させておこう。 もちろん、属性を戦闘途中で変更可能なことは大きなアドバンテージなので、敵の弱点に応じてどんどん武器変更していくべき。 カスミの装備武器 系列 属性 特徴 軽剣・短剣 鸞鳳双剣 火 安定して火力が高い。武器が多少劣っていても強い射程3技、殺属性(とどめ時のみ有効)技など最後まで技が増えてゆくので成長性も◎ 長剣・重剣・槍 飛燕剣 風 全体的に鸞鳳双剣の上位技がなくなったような感覚上位技が出揃った頃には普段使いにはイマイチ 突剣・槍・長柄 蛇咬鞭 水 長射程の技が揃っている。威力はそこまで高くない 重剣・砕具・斧・長柄 鉄牛斧 なし 射程は短いが威力は高い鸞鳳双剣の技が出そろっておらず火力が欲しいならこれ 拳具 戦闘用アイテム なし 固定ダメージ、味方のENやSP回復などネタの領域を出ない感覚がある 槍の場合、飛燕剣と蛇咬鞭系列の技が使える。重剣の場合、飛燕剣と鉄牛斧の技が使える。などの系列の重複がある。 他に特筆すべき点として「幸運」持ちであることが挙げられる。序盤から加入することもあり育成していく必要があるが、ボス戦で出撃させ、ボスを「幸運」をかけて撃破すれば、簡単にレベルが上がっていく。 命中系SPを持っていないため軽装にしがちだが、衣服マスタリが育ちきるまではある程度装甲にも気を配ろう。 原作はライフジョーカー。現在公開停止中。形態が複数ある主人公で、ビドゥンとは敵対していた。 ビドゥン・ゼラール 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 11 0 10 12 なし なし なし 3 可 不可 刀剣 所持SP 鼓舞 信念 必中 鉄壁 乱戦 通当て パっとするような特殊能力は備えていないが、その分全体的なスペックがワンランク高めのものになっている。 装備した武器の属性によって使用可能な力術が変わる。まずは装備を変更してみてどう変わってゆくか確かめてみよう。 武器属性 特徴 光 最も攻撃手段が豊富な属性。状態異常として痺と脱を持つ初期装備の覇王の閃光剣が光属性なこともあって最も基本的なスタイル 火 意外と火力型ではない固定ダメージ攻撃などもあり、補助的に役に立つ 水 範囲攻撃と凍結・装甲劣化が使えるエクストラボスに挑むときには重宝するかもしれない 風 移動後攻撃範囲や先制攻撃が光る取り回しは悪くない なし 固定ダメージ術や基本的な射程攻撃が使えるが選択肢は狭い 運用していく上で、やはり攻撃手段が幅広い光属性が便利。「覇王の閃光剣」を持たせたままにしてもいいだろう。 基本スペックが隙なく高いため、高HPと鉄壁信念を活かして前線に放り込むだけで敵を削っていく荒っぽいスタイルが通用する。 専用力術と遠当ての組み合わせによっては一方的な長距離狙撃を実現できる。 原作はライフジョーカー。現在公開停止中。カスミとは敵対し、強力な後半の山場を作るボスキャラクターだった。 鋼刃のサキ 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 12 0 0 0 3 なし なし なし 不可 不可 軽剣 所持SP 強打 受け身 貫通 気合 覚醒 激闘 武器は実質「黒鉄の超硬剣」固定。 特に初期装備に拘る必要はないが、耐性周りが優秀なため、そのまま装備し続けてもよい。 防具マスタリが衣服だが、本人のHPがかなり高いため、ちょっとやそっとの被弾では致命傷とならない。大胆に使っていける。 「超加速」をすることで様々な技の使用が解禁される。範囲攻撃が3種類ある。 ただ、「刹那一閃」は「二刀瞬斬」の使用にも関わる使用ターン制限がかかるため、使いどころは考える必要がある。 「刹那一閃」の攻撃力が凄まじく高いが、範囲攻撃ゆえそこまで壊れたダメージにはならない点は少し残念である。 基本的に覚醒をかけ続けて、本人の耐久力を頼りにガンガン攻撃を仕掛けていくタイプのアタッカー。 攻撃属性と射程が限られている点は注意。通用しない場面では機動力を囮に使うなどを考えよう。 回避アビリティは斬撃レベルとともに成長する。十分に育った後半は移動力で前面に出ることを前提とした回避運用も可能。 原作はBraveEdge。単騎殲滅可能なアタッカータイプ。 増幅者プラス 斬撃 刺突 打撃 力術 衣服 軽甲 重甲 堅甲 力術石装備 盾装備 装備可能武器 9 0 10 10 なし なし 3 なし 不可 不可 砕具 所持SP 翻弄 不意打ち 強打 鉄壁 堅牢 縛鎖 ストーリーをしっかり進めていれば、騎士はがね精製所到達時点ですぐに仲間にすることが可能。 初期Lv33とストーリーを追っている状態では若干高めの加入。 武器は実質「空陰の斧」と「陰天の大使斧」の2つに固定されると思ってよい。 重装備で防御力があり、HPもかなり高いためちょっとやそっとでは沈まない。ここに翻弄、堅牢があるのだから撃破の心配はそれほど必要ない。逆にプラスが撃破されるようなことがあればそれはそれで危うい。 目玉は、加入時点では長射程良燃費のmodeC、範囲攻撃のmodeG、そして長射程大火力のmodeC最大出力。いずれも力術属性のため刺さる場面ではとことん刺さる。 レベルが上がってくると、最上位技として装甲貫通属性を備えた近接技のウィンクルソウルが使えるようになる。 武器が「陰天の大使斧」になると射程の穴が補われるため、ウィンクルソウル未修得時点でも近接射程に対応できるようになる。 ただでさえ強力なプラスだが、「陰天の大使斧」による強化幅が大きいため、手が付けられない強さになる。条件を満たし次第、とっととブリューの家に足を運ぼう。具体的には、以下のいずれかの条件を満たしてブリューの家に出入りすることで院天の大使斧が手に入る。プラスがLv50以上かつ聖地エベールに進入可能 海の空が出現している 原作はBraveEdge。既プレイ者には加入時期がサキより早いことに驚くかもしれない。
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「うー……暑い、皐月に入ったばかりなにこの暑さは……」 「まぁまぁ落ちついて、家としては大助かりじゃないか」 店頭でレティが暑さに参っていた。 しかしまぁおかげでアイスが売れるわけだしな。 それにしても確かに暑い。 もう夏になったんじゃないかというくらいの暑さである。 あれか、俺が早く夏来ないかな~なんて思ったからか。 ……それはないか。 「むぅ……かくなる上は」 「え」 まさか、と思うが俺には止める事ができない。 彼女が何をしようと考えているのかはわかる、毎度の「ちょっと気温、冷やそうか……」だろう。 そして二人で巫女(最近W巫女になった、あの緑巫女、客で来ている癖に容赦ないところは霊夢とそっくりだった)や黒白にやられるだろう。 だがしかし彼女が立ち上がるのとたまたま客で来ていた紅白巫女がこちらを見るのはほぼ同時だった…… しぶしぶとレティは椅子に座り直す。 「まぁとりあえずこれでも飲んで頑張って耐えてくれ」 レティにアイスハーブティ―を出す。 ありがとう、とレティが美味しそうに飲んでくれた。 そして不図この時期によく見る物を思い出した。 確か八雲紫に押しつけられたまま押入れに仕舞いこんであったな…… 「レティ、ちょっと店を頼む」 「?いいけど……どうかしたの?」 「ちょっとした客引きを持ってくるだけさ」 俺は住居側に戻り、押し入れに入った。 八雲紫に半ば強引に押し付けられたガラクタが色々と眠っているこのある意味禁断の場所である。 その中から目的の木箱を見つけ、外に出す。 蓋を開けると仕舞ったままの状態で静かに出番を待っている「それ」を見つけた。 場所は……前に新作発表に使ったポールでいいだろう。 「少し遅いがまぁ許容範囲だろう。押し入れで眠ったままでさぞ窮屈だったろ。 思いっきり羽を伸ばしてくれ、ってもお前には羽はないか」 一人で何を言ってるんだ、と我に返ると気恥ずかしい。 「とりあえずやるか……」 俺は「それ」を持って店の横に行くとした。 「うーむ、こんなもんかね」 矢車も問題なし。 いい感じにポールにロープを取り付け、なびかせる事ができた。 風に乗って泳ぐその姿はいつぞやに来た竜宮の使いを何故か思い出させる。 「○○、これは何よ?」 レティが不思議そうにそれを眺める。 あぁ、初めて見るのか。 「ん?これは鯉のぼりって言ってな。この時期の風物詩ってやつかな。 家族を表す、みたいなものだと思ってくれ」 本来は立身出世の意味合いだったらしいが。 何時の間にか家族を表すようなものとなったらしい。 とりあえず子はいないので2匹、なびかせている。 無論真鯉と緋鯉である。 あれ?ってことはだ…… 「……」 レティもそれに気付いたのか顔が赤くなっていた。 「あー……その、なんだ、え、えーと……」 無論そんな意味合いなんて全く考えていなかった。 軽い客引きの意味で鯉のぼりを出してきたわけだが…… 何だろうか、変に意識してしまって居心地が悪い。 お互い無言で鯉のぼりを見上げる。 何か客の視線を感じるが気のせいにしておきたい。 …………うん。 「レティ」 「な、何?」 少し慌てた素振りでこちらを向くレティ。 その手の指にはあの日から付け続けてくれている指輪がある。 「その、1年後にはちゃんとした意味でこの鯉のぼりをなびかせる。だから、まだ少し、待っててくれ」 「……うん。待ってる。待たせてばかりだったもの、たまには待つのも悪くないわ」 そして再び俺とレティは鯉のぼりを見上げる。 周りの連中も同じように見上げている、そんな気がした。 何時の間にか暑さなんか全く気にしなくなっていた。 今だけは、この力強く風に乗る鯉のぼりをレティと眺めていたいと思ったから。 新ロダ2-123 ─────────────────────────────────────────────────────────── 春が終わりを迎え、いよいよ夏の赴きが幻想郷にやってきた。 つまりアイス屋としての本領発揮というわけだ、レティは機嫌が悪くなる時が多いが。 「ん?」 そんな繁盛日和の最中、住居側に戻ってみると何やら怪しげな紙が2枚、縁側に置かれていた。 こういう場合、まず2名の輩が容疑者として候補に挙がる。 一人目は困った友人、もう片方は困った新聞屋だ。 「なになに?【嫁、恋人に抱きつかれたい時、抱きしめたい時ってどんな時ですか?】?」 ……どうやら後者のようである。 おまけに2枚という事は必然的に自分の分とレティの分、ということになる。 また面倒な物を置いていったものだあの烏天狗は。 「まったく、こんなアンケートに参加する理由なぞ持ち合わせていな「ふぅむ、面白そうね」……ぬ?」 気がつけば座っていた俺の背後から一枚アンケート用紙を持っていく者が一人。 振り向くと何時の間にかレティがいた、いったいいつの間に…… 「匿名で載せるそうだし、暑さの気晴らしに付き合ってあげるだけよ。 それと……ちょっとした自慢、かしらね」 そう言って少し頬を赤くして寝室に彼女は逃げてしまった。 と、なるとだ。 「俺も必然的に書かないと駄目って事だよなぁ……」 仕方ない、と腹を括りペンを持ち、内容に着いて考える。 「抱きつかれたい、抱きしめたいのとねぇ……」 嫁、恋人に関しては何も問題は無い、レティ以外に誰がいようというのか。 しかし抱きつかれたい、抱きしめたいという問いに関しては直ぐに答えが出るような物ではなかった。 いや、後者に関しては実際問題答えは出ている。 「そりゃ、なぁ、好きな女は常に抱きしめたいものだろう……」 だがそんな事書けるわけもない。 いや、匿名だから俺だと世間にわかるわけじゃないだろうし世間のバカップルどもならそんな事を容易く書くかもしれない。 つまりは……そんな事を書くのがとてつもなく恥ずかしいのだ。 「ぐぐぐぐ……考えてみれば凄い恥ずかしい事を答えなくちゃいけないんじゃないかこれは……」 頭を抱えたくなってきた。 自分の顔が暑さ以外で赤く熱くなっているのがわかる。 ………………………あぁ、もう。 「抱きつかれたい時、彼女が辛くなった時。 抱きしめたい時、上に同じ、と」 ……あー、本当にもう。これ匿名じゃなかったら怒るぞ本当に。 「うーん、とは言ったもの、の……」 何を書けばいいのかしらね…… 抱きつかれたい時、抱きしめたい時。 そんなのいつもされたいし、したい。 彼に抱きつかれ、抱き締められるだけで私は幸せになれる。 彼を抱き締める事がどれだけ幸せか。 しかしそれを書くにはあまりにも恥ずかし過ぎる。 不図鏡で自分の顔を見た。 少し頬の赤い熱っぽいような表情。 彼を思うだけで私は知らず知らずにこんな顔をしていたのか。 本当に罪な人よ、私をここまで駄目にして、愛してくれてるんだから。 「抱きつかれたい時、彼が辛くなった時。 抱きしめたい時、上に同じ、と」 書き終えて部屋を出ると○○もどうやら書き終えていたようだ。 二人で縁側に紙を置いておく、その内烏天狗かその使い辺りが回収するでしょう」 そして○○の手を引っ張り、寝室まで連れ込む。 「んっ……」 「んむっ!?」 そして彼に不意打ちのように抱きつき、キスを交わす。 彼は驚いたけど直ぐに私を抱き締めてくれる。 「むぅ……どうかした?」 彼は困ったような顔をして私を見る。 「その……ちょっとだけ、抑えられなくなったから」 ○○の顔が一気に赤くなった、そしてそれはたぶん私も。 そしてお互い顔を真っ赤にして俯く。 しばらくして彼の顔に向き直すのと彼が私を見るのは同時だった。 自然とお互いの距離がどんどんと近くなっていく。 そして再び口付けを交わしあえば最早止まらない、止められないだろう。 「こんちにわー文々。新聞でーす!」 「「!?」」 お互いに一瞬にして離れた。 あの烏天狗……! しかし思えばまだ昼間の休憩時間、人が何時来るかわかったもんじゃない。 そういう意味では感謝するべきなのだろう、でも後で凍らせる。 「あー、その、まぁ、なんだ」 「○○」 「な、なんだ?」 「続きは、後でね?」 彼の耳元で囁く。 そして一度深呼吸をして不法侵入しているであろう烏天狗の所に行くとした。 後ろからは顔を真っ赤にした○○がかなわんなぁ……とか言っているのが聞こえた。 たまにはこういう恥ずかしいのも、いいのかもしれないわね。 新ろだ2-164 ─────────────────────────────────────────────────────────── それは朝起きた瞬間から感じた違和感。 「む……?」 どうにも体の節々が微妙に痛い。 筋肉痛にでもなるような事は昨日はしていないはずなのだが。 「むぅ……」 おまけに体がダルい。 あれか、5月病にでもこの年でなったか……? 隣を見ると既にそこはもぬけの殻。 どうやら今日は彼女の方が早く起きたようだ。 彼女の寝顔を見て仕事への意欲も上がるというものなのだがまぁ仕方あるまい。 尤も、時折抱きつかれており、起きても起きられない状況になったりするのだが。 「んんん……いつつ」 おまけに頭まで痛んできた。 これは昨日の今年何回目かわからない花見と称した宴会で酒が残ってる可能性がある。 幻想郷の一人身カップル夫婦何でもありな宴会、羽目を外す輩など指では数え切れない。 一つの杯を二人で飲むなど当たり前、場合によっては口付けで飲ませ合うなんて芸当すらする。 無論俺とレティはそんな連中に付き合うつもりは毛頭なく、静かに風情を楽しみ、静かなグループと近況を話しあう。 ただしそういうグループは酔っ払いの奇襲をされるのが必定なわけで…… 「八雲紫め、気付かれないように鬼のグループに巻き込みおって……」 酒を飲み慣れているとはいえ相手は常勝の鬼、しかも2匹。 おまけに天狗やら神やらも増援に入り、さすがの俺も帰りはきつかった。 ちなみにレティは俺の犠牲により、安全に離脱してくれたのは幸いである。 ともなればこの体の不調はやはり二日酔いだろう。 そうなれば解決策は 「レティの朝食かね」 味噌汁でも飲んで気分を新たに今日一日を頑張るとするか。 そう思いベッドから立ち上がり、一歩を進めようとすると…… 「…………あれ?」 眩暈に襲われ、俺の意識は寝る前と同じ暗闇へと戻っていくのであった。 「さーて、こんなものかしら」 試しに味見をしてみるが問題は無いだろう。 今朝は私の方が先に起きたから朝食は私の番。 でも実は時折彼に抱きついて2度寝を決め込んでいるのを果たして彼は知っているだろうか?……たぶん知らないでしょうね。 そう。 私は時折、彼が横で寝ている事に心の底から安堵する時がある。 それは昔、時々見る事があった悪夢が故に。 もう感じるはずもないのに、もう待たせることなんてないのに。 しかし、それでも、彼がいなくなってしまう、そんな不安に襲われてしまう時があるのだ。 そんな時はいつも彼の暖かさと心の動きを感じる為に抱きつき、二度寝をする。 そうすれば不安も一瞬にして消えてしまうから。 「……大丈夫なのに、駄目ね私」 彼は人間を止めると言った、彼は私に婚約指輪を送った。 それで何を不安と思うのだろうか?こんなにも私は幸せなのに。 幸せすぎて怖いのだろうか?もしもこの幸せが壊れるなんて事があったら、なんて心のどこかで思ってしまっているのだろうか? 「……っと、朝から何を考えているのかしらね」 嫌な方向に進む自分の思考を振り払うべく首を何度か横に振る。 私の事なら何でもわかってしまう○○の事だ、考え過ぎて顔に出ていれば何かあったのかと心配をさせてしまう。 これは私の心の贅沢、そう見切りをつけて朝食を並べて行く。 私のと彼の分を並べ終えた時点で気がつく、彼がまだ起きて来ない事に。 いつもならばとっくに起きて朝食はなんだろうねぇ、と楽しげに待っているはずなのに。 「まだ寝てるのかしらねぇ……」 可能性は否定できない。 昨日は私を大酒飲み連中から逃がす為に限界くらいまで飲んでいたはずだ。 その結果○○は完全に酔っ払いとなってしまい、昨日は帰ってからとても燃えあが……朝から何を考えているのか私は。 自分の頬が赤くなっていくのがわかる。 そうなると今の自分がまるで彼の妻みたいね、なんていらない事まで考え出してくる。 再び首を何度か横に振り、何とか今の恥ずかしさを消す。 とその刹那、寝室から床に何かが倒れるような大きな音がした。 「?何か倒したみたいな感じだけど……」 あるいはベッドから落ちた、なんていう喜劇でも起きたのかもしれない。 とりあえずどうしたのかと寝室に戻ってみたほうがいいかしら。 「○○~?大丈夫~?」 返事は無い。 気になって部屋のドアを開けると、そこには、 うつ伏せになって身動き一つしない○○が横たわっていた。 「○○!?」 急いで彼に駆け寄り、彼を起こすと彼の息使いの荒さに只事ではないとわかる。 額に手を当てると物凄い熱かった。 「大変、熱が出ているのね……薬は……あぁ、常備薬なんてなかったわ」 今まで体調を互いに崩したことなんて一度もない。 怪我ならば何度もしているので絆創膏などの類はあるのだけど…… とりあえず辛そうな○○をベッドに寝かせる。 「こういう時どうしたら……永遠亭の位置はわからないし……」 となれば誰かに教えてもらうしかない、近場で考えれば妖怪の山か人里。 妖怪の山で聞くよりかは人里の方がいいのは確実ではある。 妖怪である私だけどあそこはそこを守護するハクタクの教育のおかげと、 ○○の家の特殊な成り立ちにより私だけがいっても問題は無い、らしい。 なんでも、バックに八雲紫やら風見幽香やらがいるとかなんとか。 後で幽香に聞いてみようかしら。 「んっ……ぐっ……」 苦しそうに呻く○○を再び見る。 私には彼がどんな状態なのかすらわからない。 ……迷ってる暇は無いわね。 「待ってて、必ずなんとかしてみせるから」 私は家を出て急ぎ人里へと飛ぶ。 逸る心を抑え、冷静に、冷静に。 それでもなお彼の身の心配だけで心は埋め尽くされる。 だってしょうがないじゃないの。 私は、彼を愛してるんだから…… 「ここね、えーと……誰かいないかしらー?」 人里に着いてから数十分経ったくらいか。 ○○の顔馴染みの果物屋の店主に会えてよかった、彼とは何度か面識があった。 おかげでこうして無事ハクタクの家を見つけられたのだから。 「慧音なら今は留守だよ」 しかし代わりに出てきたのは蓬莱人だった。 そういえばハクタクは人里で教師をしていると○○から聞いた事があった。 あら?でも…… 「ねぇあなた、永遠亭の場所、わかるわよね?」 露骨に嫌そうな顔をされた。やっぱり知っている。 それならば話は早い。 「何だ、永遠亭に用があるのか。 でもあんたアイス屋の○○の嫁さんだろ?病気になるとは思えないんだが」 嫁、という言葉に一瞬頬が赤くなるのを感じた。 しかし今は非常時、浮ついてる場合じゃないわ。 「○○が倒れちゃったのよ、だから永遠亭の医者に診てもらおうと思ったのだけど場所が分からなくってね。 こうして○○の知人のハクタクの家を探して来たって事」 私の言葉に全てを納得したようで蓬莱人はよいしょっと言いながら縁側から立ち上がった。 「行きは一緒に行ってやるよ、帰りはたぶん八意永琳か兎が送るだろう。 ○○には多少世話になった事だしな」 知らない話だ。 道中聞かせてもらおうかしら。 しかし今は○○が最重要、永遠亭に連れて行ってくれるならそれに越した事は無い。 「ありがとう、お願いするわ」 「あいよ、さぁていっちょいくかいねっと」 (……ん?なんだ?何か意識が定まらない) 「疲労が原因ね、今までの疲れが抜けてなかったんじゃないかしら」 (この声は……八意永琳か) 「……よかった、変な病気とかじゃないのね」 (……体がだるい、だが起きなくては。客が来てるなら何かしなくては……) 俺はともすればまた落ちそうな意識をなんとか現実に戻すべく勢いよく体を起こした。 ガンッ! 「「いった……」」 するとレティと頭をぶつけてしまった。 どうやら俺はベッドに寝ており、それをレティが覗きこむようにベッドの上に座っていたようだ。 ぐぐぐ……痛い…… 「あら、起きたのね」 平然と、いや、若干呆れた顔で八意永琳が立っていた。 この状況、ひょっとして…… 「そうか、俺は倒れて」 いきなり意識が真っ黒な世界に誘われ、それを見つけたレティにベッドに寝かされているのだろう。 迷惑をかけてしまったな。 「そうよ、それであなたの彼女が藤原妹紅連れて血相を変えて私の所に来てあなたが倒れたって言って連れて来られたのよ。 まったく何事かと思ったわ」 「いたた……べ、別にそんな事無いわよ!」 額を抑えながら顔を真っ赤にするレティに内心迷惑をかけてしまったなぁと反省。 まぁ俺も逆の立場だったら間違いなく血相を変えて永遠亭に飛び込みそうだが。 「どこか体に不自然な感じはある?」 「少し頭が痛いのと体がだるいくらいだな」 「疲労が積み重なった結果でしょうね、今日一日休めば大丈夫だと思うわ。 念の為薬は出しておくわ」 はい、とレティに袋を渡された。 「疲労か……そんなに働き詰めだった覚えは無いんだがな」 「人間だもの、ストレス、疲労、知らず知らずに溜まっていくものよ」 そういうものか。 とりあえず今日は店は休みにしないといけないってことか。 「それじゃあ私は帰るわね、お大事に。 あぁそれとお二人さん」 「「?」」 二人で訝しげな表情で八意永琳を見る。 何かあるのだろうか? 「今日は激しい運動は控えるように」 「「いらん世話だ(よ)!!!」」 くっくっくっ、と意地の悪い顔で八意永琳が部屋を出て行き、 俺と同じように顔を赤くしたレティがその後を出て行った。 ったく、そんな事はまったく……うん、たぶんまったく考えているはずないだろうに…… 「世話になったわね薬屋」 玄関まで薬屋を送る。 ○○の為とはいえ急いで来てもらったわけだしね。 「いいのよ、私もここのお得意様だしね、持ちつ持たれずよ」 確かにこの薬屋はお得意様である。 医療に使うとかでよく○○のところに買いに来ているのを見ている。 「……そうね、また何かあったら頼むわ」 「えぇ、それじゃあお大事に」 薬屋は悠々と空を飛んで帰っていった。 見えなくなるくらいまで見送り、少しだけ急いで家の中に戻る。 自然と○○のいる寝室に向かう足が早足なのは気のせいじゃないと思う。 それほどまでに心がざわめくのは仕方ない。 大した事が無かったとはいえ、愛する人の無事な姿を見たいのは誰にだってあるはずだから。 「すまないなレティ、迷惑をかけて」 部屋に戻って開口一番彼は私に謝罪した。 すまなそうに寝ながら笑う姿にようやく私は心の中で安堵できた。 「迷惑だなんて思ってないわよ。 今日はゆっくり休んで頂戴、そして元気になってくれればそれでいいんだから」 ちょいちょいと○○が手招きをする。 何事かと思って近づくと…… 「んむっ!?」 唐突に口付けをされた。 いつもなら私がする側なのに……ずるいわ。 「んっ、ありがとうなレティ」 ぽりぽりと自分でやっておきながら頬を赤くする○○。 「もう……馬鹿」 私もたぶん熱でもあるかのように真っ赤になってるとは思う。 でも、おかげで本当に安心できた。 そう、大丈夫……何にも、不安なことなんてないんだから。 「ん……もう夕方か」 レティのおかゆを食べて一眠りしたせいか体調はすこぶる好調になっていた。 ふと見るとレティがベッドにもたれかかって寝ていた。 おそらく俺が寝た後もずっと俺に付き添っていたのだろう。 本当に迷惑をかけてしまったな。 「ん……んんっ……」 そんな折、彼女の顔が徐々に何かに苦しむような表情に変わっていった。 何かしら悪夢でも見ているのかもしれないと思い、彼女の頭を優しく撫でてみた。 夢の中まではわからない、しかしこれで彼女が安らいでくれるのならば…… その願いが届いたのか、彼女の顔がやすらかなものに戻っていく。 「ありがとうレティ、こんな不甲斐ない俺を愛してくれて」 再び彼女の頭を優しく撫でる。 彼女が起きるまでした後、真っ赤な顔でお返しに口付けをされたのは俺とレティだけの秘密、ということにしておく。 新ろだ2-174 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「……」 「……」 互いに何も語らずにただ縁側に座り外の景色を眺める。 この時期であれば特に珍しい景色でもなく、1年見てもこんなのはよくある事である。 だがしかし、時にはこういう憂いの時もあるのではないだろうか。 見ているのは過去か今か。 レティの目を盗み見してもそのどちらなのかは窺い知れない。 そんな折、彼女がこちらを見た、まるで俺が見ているのに気付いたかのように。 「どうか、した?」 「いや、あまりに暇だっただけだ」 一応アイス屋は開店中である。 しかしこんな雨の中、誰がわざわざ来るだろうか? 妖怪の山と人里の丁度真ん中辺り、左をいけば魔法の森、右をいけば紅魔館へと続く場所。 立地条件としては中々の物だが足を伸ばす必要があるのは明らかである。 故に開店中ではあるが実質今日は休みと思っていいだろう。 「そうねぇ、こんな雨じゃ外に出る気分でもないし」 そう言って立ち上がり、んー、と伸びるレティ。 今日はノースリーブのタイネックにロングスカートという出で立ちであり、 胸やら白い陶磁器のような肌やらに多少ドギマギとしてしまう。 本当に何を着ても似合うのはある意味才能じゃないかなぁ。 「いっその事この雨模様を雪景色に変えて見せるのも面白いかもね」 「今日辺りは襲われずに済むかもしれないな」 雨が降ろうが雪が降ろうがあまり風情を楽しまない者ならば忌々しい事に変わりは無い。 いや、むしろ雪ならば犯人がいる分鬱憤を晴らせるか。 そんな事はさすがにさせないし、彼女に雪を降らさせるつもりもない。 しかし結局暇である事に変わりは無い。 さて、どうしたものか…… 「いっその事昼寝でもする?」 唐突なるレティの提案。 昼寝、かぁ……それもありか。 「二人で昼寝なんて久しぶりだなぁ」 とりあえず準備中の札を店側に置いておく。 寝室に入ってみると既にレティが布団の中に入って待っていた。 横に入ると彼女に横から抱きしめられた。 「んー、こんな憂鬱な天候でもこうしていると紛らわせるわね」 「……そりゃどうも、っていってもお互い様か」 彼女の温もりを感じると雨音も何も聞こえなくなっていくような気さえしてくる。 感じるのは彼女の温もりと彼女の鼓動。 ぎゅっと彼女が俺を抱き締めていくうちに何時の間にか俺の意識は眠りの世界へと誘われていった。 ……夢を見ている。 なぜそれがわかるのかと聞かれれば目の前にいる後ろ姿はどう見ても私だ。 そう、これは夢だっていうのはわかってる。 たぶんまた同じような夢だろう。 私がずっと恐れている不安。 何度も何度も悩まされ、そして振り切っても尚見続ける悪夢。 冬の景色を『夢の』私は楽しんでいた、そして待っている、あの人を。 私を愛して、そして私自身も愛してしまった人を。 しかし、いくら待ってもあの人は来ない。 彼の家へと戻ってみても彼の姿は無く、庭は枯れ果て、家は荒れ果てていた。 そして地下へと入ってみてようやく彼を見つける、動かなくなった『彼だったものを』 絶望のあまり膝から崩れるように座り込む私の姿を見たのはこれで何度目か。 彼が人である限り、私が妖怪である限りこれは夢ではない、残酷であり、当たり前の未来。 彼が人を止めると言っても、この不安は恐らく消えはしないだろう。 それ程に、私は弱くなっているから。 もちろん彼を信じている、方法はなんであれ、彼は私と一緒の道をずっと生き続けてくれるだろう。 ならば何故不安なのか?心から彼を信じているのに何故こんな夢を見ているのか? だって本当は、これは悪夢じゃないから…… 悪夢のような光景が光と共に消え、新しい光景に代わる。 夢の私は何時の間にか彼に抱かれ、嬉しくて嬉しくて涙を流している。 きっと彼が人を止めてしまった時は私も同じように泣いてしまうだろう。 外の世界を捨て、人の輪の中の世界も捨て、そして人としての世界も彼は捨ててしまう。 そうさせてしまったのは私である事は誰にも否定させない事実。 初めの内は冬にしか会う事ができなかった、彼と一緒の世界を見る事が出来なかった。 そんな彼を愛する自分がほとんど彼に返していない事を悩む時もあった。 どうにかして1年を彼と過ごせないかと思い悩んだ時もあった。 今なら少しくらいは彼に返せているのだろうと思いたい。 彼に今幸せ?と尋ねると恥ずかしそうに幸せだと答えてくれた時の彼の心に嘘偽りは無いと信じてるから…… 「ん……」 不図目が覚めた。 そして状況を確認して一瞬だけびっくりした。 何時の間にか、○○に抱かれているという状況になっている事に、だ。 きっと私が夢に少しだけ魘されていたのを感じたのかもしれない。 もしかしたら夢が最終的に悪夢にならないのは○○がいつもこうしてくれていたのかもしれない。 彼の胸の中で彼の生きている証である鼓動を聞く。 あぁ、彼はこうして生きている。私と一緒に、何時までも、どこまでも。 彼に抱かれるままに私は瞳を閉じた。 こうしてくれているならば、今日は幸せな夢しか見れないのがわかるから…… 新ろだ2-211 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「へいらっしゃいらっしゃい!全部当てる事が出来たら景品が出るよ!」 「河童特性キューカンパージュース!美味しいよ!」 「凄い人と妖怪の数ね」 「久しぶりの全体で行う祭り事だからなぁ……仕方ないだろ」 夏真っ盛りの中、妖怪の山と人里を結ぶ街道で俺とレティは二人で店の前に二つの出店を出していた。 俺はクレープ屋、レティはかき氷屋だ。 自分の家の前なのに出店を出すのはなんだか違和感しか残らないが規定ならば仕方がない。 今日は幻想郷夏祭り、当日だ。 人妖問わず出店を出し、夜の盆踊りを楽しみ、花火を見る。 決して互いに危害を加えない事、それが博麗の巫女と八雲紫によって定められた決まり。 それを破った者は……いや、考える事ではない。 現に前を見れば人が、妖怪が、祭りを楽しんでいるのだから。 「しかし……レティも屋台巡りに行けばよかったじゃないか。何も手伝わずとむっ」 いきなり人の口の中にかき氷はどうかと思うんだが。 しかしじと目でこちらを見るレティに俺は何も言えなかった。 「それは本心かしら?場合によっては頭を冷やしてもらうわよ?」 「……聞かなかった事にしてくれ」 つまりは二人で回れなきゃ意味がない、そう言いたいのだろう。 まったく、とじと目を止めてくれたレティの肩に手を置く。 「後で少しだけ回ろうか」 お返しとばかりにクレープを彼女の顔の前に差し出す。 「……許してあげる。はむっ、うん、美味しいわ」 どうやらこのまま食わせろ、という事のようだ。 やれやれ、お嬢様の機嫌が直ってくれてなによ…… 「あぁ熱い熱い、夏の暑いじゃなくてここだけ「熱い」わぁ」 何時の間にか扇子で自身にパタパタと風を送る風見幽香の姿が俺達の屋台の前にあった。 「「!?」」 慌ててクレープを彼女に渡し、距離を取る。 店先でべたべたしてたのは迂闊だが彼女が来るとは思わなかった。 見れば風見幽香は紅を基調とした浴衣を着ており、花の髪飾りを身につけ普段の活発さとは違い、妖艶さを醸し出していた。 「どう?似合うかしら?」 くるりと回転して見せてきた。 うむ、似合っている。だが褒めない。横が怒るから。 「馬子にも衣装かしら」 「馬子にも衣装だな」 「あんたら後でアメリカイヌホオズキ送ってやるわ……」 幻想郷に咲いてるのかそんなもの……とは心の中で思っておく。 今のところはお互い笑いながらではあるがこちらのお嬢さんの顔色はまだ少し赤い。 とりあえず何を頼むんだと聞くとかき氷の蜂蜜とチョコメロンクレープを頼んできた。 まさかと思うが二つ同時に食べるのか? 「てっきりあなたも浴衣だと思ったのに、違うのね」 「仕事するのには動き辛いもの」 ふーん、と気の無い返事で風見幽香はかき氷を受け取る。 不図、横目でこちらを見た後、意地の悪そうな顔をし、 「でもあるんでしょ?誰にも見せていない、○○にだけ見せたいと思ってる程のとっておきのが」 瞬間、んなっ!とレティは顔を真っ赤にして言葉を失った。 図星、なのか? 「やっぱり」 「べ、別にそんなの用意してないわよ!」 何もかもわかったような顔と反して家のお嬢さんの顔はどんどん真っ赤に染まっていく。 むっ、客が来た。ミカンとバナナチョコだな。少しだけ待ってくれ。 「どうせ祭りの終わり際にでも、とか言い出せないでいるんでしょ? あーやだやだ、何時からあんたはそんな風になっちゃったのかしらねぇ」 「う、うるさいわね!営業妨害になる前に帰らないと氷像にして川に捨てるわよ!」 はいお釣り。ん?アイスはやってないのかって? 隣のかき氷で……いや、セットの中にアイス入れてるのならばあるが。 まぁ明日来てくれるならばいつも通りアイス屋として販売しているが……追加注文?アイス入りも?今作るから待っててくれ。 「○○!何関わっちゃいけないみたいに接客してるのよ!このどうしょうもない花妖怪追い出すの手伝ってよ!」 「はいバナナチョコアイス入り、と。 いやレティ、客が来てるならそっち優先じゃないとだな…… ていうかそこな花妖怪、家のお嬢さん虐めるついでにこっちの計画もぶち壊すような事しないでくれ」 やれやれ、と隣の喧嘩を仲裁する。 俺達は恥ずかしがり屋なのは向こうもわかっている。 故に昔からの知り合いとして弄りたいのもわかる。 だがあまり弄られ過ぎると拗ねてしまうから勘弁してほしいものだ。 「なんだ、○○はちゃんとわかってるじゃない。よかったわねレティ」 「うるさい黙れさっさと向こうにいけ後で家に行くから首を洗っておきなさい」 あら怖い、と風見幽香は悠々とクレープとかき氷を持って人混みに……人混みが避けていった道を歩いていった。 相変わらずというか何というか、だ。 「○○」 「……花火までもう少し、着替えてくるといい」 「いいの?」 是非もない。 「俺だってまぁ祭りはレティと楽しみたいと思ってたから、な」 ぽりぽりと痒くもない頬をかく。 「うん!」 レティは勢いよく俺の横から抱きついて頬に口付けをしていった後、家へと戻っていった。 ……くそう、今日の夜は本当に暑いな。 「やはり着付けに手間取ってるか……?」 俺も事前に出店の荷物と一緒に用意しておいた浴衣に着替えておく。 群青に淡い水色の縞が少し入った清涼感というよりは落ち着きを感じさせる色彩の浴衣だ、中々の物だと思う。 そして視線は自然と家の玄関に。 情けない、待つ事を焦る様になるとは。 待つ事には慣れている、だがしかし、この場合はちょっと違う。 彼女がどう綺麗に、可愛く、そして俺の心臓の鼓動を早めるのか。 確実に言えるのは今心を落ちつけたとしても彼女が登場したらどうしょうもないということだ。 「だーれだ」 「うおっ!?」 そんな思考の深みに落ちているといきなり後ろから視界を塞がれた。 声に聞き覚えがある、いや覚えどころじゃない。 しかし、何時の間に…… 「いったい何時の間に背後に回ってたんだレティ」 「さて、何時かしらね」 視界を遮っていた彼女の手が離れた。 つまり背後には着替えたレティがいる、というわけだ。 無駄だとは思うが一度心を落ち着かせる為に生唾を飲み、意を決して振り返る。 彼女は恥ずかしそうに頬を少し染めて立っていた。 少し口紅を塗り、髪には雪の結晶のような小さな髪飾り。 そして浴衣は蒼に白を少し混ぜ、さらに花を少し入れた清楚感を感じさせる大人の色気。 俺は言葉を失い、ただただ見入っていた。 どうして何を着ても彼女は俺をこうも狂わせてくれるのか。 どうしてこうも彼女は美しいのか。 しかし、それだけではお嬢さんは満足できないようで。 「も、もう……どうなのか、言葉ではっきり言ってよ」 さらに頬を真っ赤に染めて要求してくるのであった。 俺が呆けて見入っているのはわかっているのに、だ。 ……かなわんなぁ。 「……綺麗だ」 言えたのはこれだけだった。 相当に参ってしまっている自分にとってはこれだけでも十分に発言できたと思っている。 しかし、彼女はそれだけでは満足せず、 「じゃあ次は……態度で示して」 そしてこちらに抱きつき、見上げ、目を閉じたのだ。 瞬間、さらに俺に心は慌てふためき、自分の頬が赤くなるのと体温が急激に上がったのがわかった。 お、落ち着け、まずは…… 俺は彼女の肩を掴み、位置をくるりと入れ変える。 さすがにあのままだと通り側に見えてしまう。 そして意を決して彼女の求めに応える。 強く求めてくる気配がある彼女ではあるが俺はあくまで軽く行う。 理性は最早粉微塵であれど、この後の事は考えておかなきゃならないから。 そしてお互いの顔が離れ、不満そうなレティの顔が見える。 「……駄目ね私、どんどん理性が保てなくなる」 「恥ずかしがり屋の俺達にとってはいいのか悪いのか、わからんな」 「それでも○○が正しいわ。見られる趣味は無いし、お祭りが終わっちゃうもの」 そして彼女は抱きつきを解除すると俺の手を取る。 彼女の左指の指輪を見、そして少しだけ強く握る。 「それでも……ぎりぎりだったよ。 ただ先の事を考え続けるだけで持ち堪えた。 そうじゃなきゃ……溺れていただろうな」 その言葉に嬉しそうに笑い、手どころか腕毎抱き締める形に変えてくる。 俺はそんな彼女を嬉しく思い、通りに出て出店を二人で眺めて行く事にした。 内心では、ちょっと乗ってしまった方がよかったと後悔していたが忘却の彼方に消し飛ばす事にする。 どーん、と大きな音と共に花火が咲き、そして散る。 盆踊りを二人で眺め、そして今度は河原で花火を見る。 周囲には俺達と同じように互いに寄り添い、花火を見る恋人、夫婦達の姿があった。 「綺麗、ね」 レティが花火を見ながら声をかけてくる。 「あぁ、一瞬が故の美しさだな」 咲くも散るも一瞬。 一刹那のこの美しさは心に染み入るものがある。 「ねぇ○○、今さら言うのもあれな話なんだけど」 「どうした?」 そして一瞬悲しげな顔をして。 「妖怪の私にとってあなたの寿命は一瞬。 それをよしとしないあなたを止めないし、嬉しいわ。 でも、無茶だけはしないでね?……………いえ、ごめんなさい。忘れて」 「レティ……」 「ちょっと感傷的になっちゃっただけだから、忘れて?お願い」 そう言われては何も言えない。 だが寄りそう彼女を強く抱き締める。 驚いたような顔をしたレティであったが直ぐに俺の肩に手を置き、空を眺める。 きっと、これが人の身で見れる最後の花火。 信じているからこそ不安も付きまとってくる。 彼女を待たせている身としては心苦しいなれど、焦る事はしない。 最後の花火が打ちあがり、咲いた。 夏の終わりは……もうすぐだ。 新ろだ2-318 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「さて、今日来た理由はわかるわね?」 秋も深まる中、八雲紫がやってきた。珍しく真剣な表情で。 ちょうど休日であり、たまたまレティが外出中にである、明らかに狙って来たとしか思えない。 それだけならば普通だが今回はしっかり呼び鈴を鳴らし、玄関から入ってきた。 その手にあるのは一枚の紙、神無月間近となれば内容は一つ。 「…お前の企みを察しろっていうのはどだい無理な話じゃないか?」 渡された紙は予測していた通りの物。 紙にどでかく書かれた神無月旅行の文字。 今年で3年目となる外の世界への旅行。 それへの誘いだと言うのならば1年目の話。 今さら八雲紫が誘いに来るのは些か信じ難い。 だがかといって何を企んでいるのかもわからない。 本当に厄介な友人だな…… 「知ってるのよ、今年で、最後だってことを」 その言葉に俺は渡された紙を落としかけた。 「何故知っている、ってのは聞くだけ無駄そうだな。 ……レティと出会って、彼女を愛して、その時から、決めた事だ」 俯く八雲紫。 彼女は止めるのだろうか、それとも黙って背中を押すのだろうか。 目を瞑り、何かを考える彼女からは何も察する事が出来ない。 「いつか、こうなると思ってたわ。 幽々子が西行妖を悲しげに眺めた時も、彼が私を好きだと言ってくれた時も。 そしてあなたがレティ・ホワイトロックを愛すると決めた時から、こうなると思ってた」 本当に頭がいいのも考え物ね、と八雲紫は薄く笑う。 そして真剣な目で。 「約束よ、絶対に私の友人であり続けなさい。 私の友人として好きな○○であり続けなさい、そうならなかったら許さないわ」 と告げ、一瞬にしてスキマで去っていくのだった。 顔を見られたくなかったから逃げたか、と心の中で苦笑する。 冗談じゃない、誰が止めてやるものか。 「お前こそ、飽きたから友人を止めるとか言い出すなよ。 そんな事言いだしたら許してやらんからな」 どっかで聞いているであろう八雲紫に聞こえるように言う。 全く、おせっかいな妖怪だ。 ……少しだけ、目が潤んだのは内緒だ。 「ただいま」 「おかえり」 幽香の所へ夏祭りの喧嘩の決着をつけて家へと帰ると○○は既に夕食の準備を始めていた。 匂いから察するに今日は肉じゃがかしら。 不図、テーブルの上に置かれた一枚の紙を見る。 【今年もやってきた!外の世界への神無月旅行!愛しのあの人と一緒にランデブー!】 どんどん内容が下世話になってきている気がするんだけど気のせいかしら…? そういえば、と今さらながらに思い出す。 最近は夏と秋の季節変わりだけが原因とは思えない程の暑さ寒さのばらつきに忘れていた。 既にもう秋真っ只中であり、もうすぐ神無月すら迎えるのだという事を。 「今年も、行くのね?」 「レティが嫌じゃなければな」 私が嫌なら本当に行かないでしょうね。 でも、何となくだけど、今年も行かなきゃいけない気がする。 1年目も2年目も私にとっては大事な、大事過ぎる程の旅だった。 何より、横目で見た彼の顔が決意に満ちた顔に見えたから。 料理している彼の背後から抱きつく。 おっと、と言いつつも私のされるがままの状態で私の手に手の平を重ねた。 「今年も、いい旅にしましょうね」 「あぁ、今年もいい旅にしような」 今からでも楽しみだけど、今はこうして彼と触れ合っている時間を感じよう。 そう思った私は彼の背中により一層抱きついた。 私達は本当に今、幸せだ。 新ろだ2-336 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「はい到着と、1年振りとはいえなーんも変わらんなぁ」 「そんな直ぐに色々と変わるものじゃないわよ」 前もこんな事を言っていたな、とホームに移りながら思う。 今年で3年目となる神無月旅行。 まず初めに向かうとすればそれはお決まりの場所。 俺の故郷の港町、今まさに3回目の帰郷を果たした。 くすり、と少し微笑むレティと共に駅からタクシー乗り場へ。 そのままそれこそお決まりの場所へとまずは向かう。 途中、花屋へ寄り、【例の花】を買っておくのを忘れない。 「あぁそうだレティ、いい忘れたが今年はそれぞれ別れて報告しないか」 「?いいけど……どうかしたの?」 理由という名の言い訳を考えたが全く浮かばない自分が情けない。 ちょっとな、と返すのが精一杯だった。 それだけで彼女は何かしらを察したのだろう、わかったわ、と了承してくれた。 心の中で彼女にすまない、と謝る。 今年で3度目、か…… 今年で、俺は…… 「お久しぶり。 また今年も、報告に来たわ」 彼が入り口で待つ私を呼びに来たのは彼が墓地に入って30分後だった。 供えられたブローディアの花、掃除も少ししたようだ。 今年で3度目となる死者への、彼の祖母への報告。 「彼は何をあなたに報告したのか… 大体の予想はついています、彼の事は、何でもわかってしまうから。 こういう時、こちらからしか語れないのが悔しい」 合わせる手に力が籠る、その歯がゆさに。 「あなたが生きていれば、あなたの言葉を聞けた。 彼がこれからする事を、私に責めてくれたかどうかはわからない。 それでも、聞きたかった。どうしょうもない事だけど、聞きたかった」 私と彼が会う前に死んでいた人物との会話など無理な事はわかっている。 それでも今だけは、今だからこそ、話してみたかった。 「きっと、2年前のあの時、あなたに告げた時からずっと、決意した裏で、悩んでいたと思う。 彼は強い、そして私は……なんて弱い。 彼をずっと信じているのに、いつも不安に思ってしまう」 独りだったら、こんな私にはならなかった。 でも、それは寂しい事なんだと、今だからわかる。 そして、彼への心配、不安も、杞憂に過ぎないんだと、それもわかっている。 信じて、不安になって、信じて、不安になって、その繰り返し。 でも、それも今年できっと終わる。 だから、私も。 「ごめんなさいね、弱音を置いていって。 『あっち』じゃ、誰に聞かれてるかわかったものじゃないから。 もし、来年もこんな機会があったら、少し変わってしまった彼と一緒に来ます。 でも、少し変わるだけだと私は信じています、彼の友人たちもそう思ってると思います」 少しだけ、変わろうと思う。 弱くなって、そして強くなったのだと。 立ち上がり、少しだけ墓を眺め、そして彼の待つ場所へ。 不図、何時までもあの子をお願いします、なんて都合のいい幻聴が聞こえた気がした。 本当に都合のいい幻聴だと、そう思う。 それでも、私は、 ありがとう、と 言わなければいけない気がした。 「噂通り、いいスポットだな、これは」 墓地での件からレティが少しだけ、明るくなったような気がした。 何かふっ切れたのか何なのかはわからないがよかった、と思う。 彼女には俺の事で迷惑をかけにかけてるし。 そんな彼女を連れ、街並みを少し回り、食事をホテルで取り、 俺が知らない間に有名なデートスポットになった小高い丘に二人で来てみた。 星空と、そして街並みの全てが一望できるこの光景はなるほど、確かにいいものだ。 ベンチに二人で腰かけ、星空を見る。 不図、レティがこちらを見ている事に気がついた。 「ん?どうかしたか?」 「いえ、墓地から戻ってから少し明るくなったような気がしたから」 むっ、と俺は唸る。 まさか俺が彼女に思った事を彼女が俺に思っていたとは。 「レティこそ」 少し恥ずかしい気持ちになった俺は少し目を背けながら返す。 するとレティはくすりと笑い、そうかも、と返してきた。 「明日から、また色々と回ろうね、○○」 「……あぁ、旅はまだ始まったばかりだからな」 今年はどこへ行こうか、何を見ようか。 彼女とならどこへでも、どこにでも行ける。 彼女が笑顔であるならば、それだけで、俺は幸せだから。 「すまん、ちょっと行っておきたい場所があるから付き合ってくれないか」 彼は最終日、帰る直前にそう言ってきた。 無論私は断る理由もなく、いいわよ、と返す。 彼とは今年はいろんな場所へ行った。 前は街並みを見るだけ、買い物をするだけで済ました。 けれど今年は遊園地に行った、水族館へ行った、博物館へ行った、映画館へ行った。 それこそ数え切れない程色んな場所へ行った。 今まで互いにそういう場所へ行く事を考えていなかった。 ただ二人で、どこかを歩くのが楽しいと、幸せだから、と。 だけど思い出は、いっぱい、色々とあった方がいいと、わかったから。 「あぁ、ここで少し待ってもらっていいですか? はい、すいません」 彼が家がいっぱいある場所、住宅街というらしい、そこで止めてくれるように運転手に頼んだ。 彼が降りるのを確認し、私も降りる。 そして少し住宅街の中を着いて行くと、彼がある場所で立ち止まった。 何やら看板が立っている古い家、売地、と看板には書かれている。 「ここが、俺とばぁちゃんが暮らしていた家だ。 今までどうにも来る踏ん切りがつかなかったが今年だけは、見ておきたかったんだ」 彼は憂いを含んだ目で、その家を見ていた。 きっとこの家で暮らしていた時の事を思い出しているのだろう。 その思い出には私は入れない、入ってはいけない。 きっと彼が今日ここに寄ったのは、 「……じゃあな」 この場所に別れを言いたかったから。 もう、帰らないんだと、そう言いたかったんだと、思う。 「行こうかレティ、幻想郷で俺達を待ってる客がいる」 差しのべられた手をぎゅっと掴む。 きっと彼はそうして欲しいと思ったから。 手で止めずに彼の腕に抱きつく。 「……すまんな」 「いいのよ、こうしたいのは私もだから」 きっと戻ればいつも通りの彼になる。 今だけは、浸らせてあげたい。 弱い彼を、見守りたい。 冬は、もう、そこまでやってきている。 全ての始まりであり、そして、一つの終わりを告げる冬は、もう、すぐそこまで…… Megalith 2010/10/27 ─────────────────────────────────────────────────────────── レティと二人で夕飯を終え、互いに風呂も済まして縁側で二人、秋の夜空を眺めながらの一杯。 そろそろ寝るか、と二人で片付けに入る前の一杯を飲もうとしたその時であった。 「おはこんばんちわー!!!」 高らかに背後から厄介な来客の声。 またスキマから勝手に入ってきたのかと飲みながら振り返り、 「どう?似合う?」 博麗の巫女のコスプレした八雲紫に思いっきり酒を噴いた。 「……で、何の用よ」 俺の背中を擦りながらレティが帰って欲しい客に尋ねる。 久しぶりに驚かされたぞ、まさかこんな手を使ってまで驚かしに来るとは… 「そろそろハロウィンじゃない? 今年は仮装パーティじゃなくて知り合いに仮装するパーティにしようと決めたのよ。 というわけで私は霊夢になってみたわけよ、どう?」 「あー落ちついた、ありがとうレティ。 ろくな事考えない奴だな、本当に」 大体博麗の巫女は未だ少女だろうに。 少しは立場と年相応の振る舞いをし…… 「あら手が滑ったわ」 「危ないからやめろ」 針はやめろ針は。 次は絶対当ててやるんだからと目で威嚇してくるな。 「というわけで、あなた達も参加しない? 服もサイズもニーズに合わせて用意してあるわよ」 スキマから出された服は幻想郷の住人達がよく来ている服達。 これは白黒魔法使い、こっちは地霊殿の主、こいつは紅魔館の門番のか…… サイズも小さい奴から大きめまで、こういうところは手抜きをしない奴だ。 「私は○○が参加するならするけど…」 レティがこちらを見る。 その瞳は少し面白そうだ、という感じがする。 ん?しかしだ。 「ていうか男はどうするんだ、これだと女装だぞ」 さすがにそれは勘弁してほしい。 前回の紅魔館の執事がナース服やってた時のような事を自分でやるのは嫌だ。 そういう趣味はないし、恥ずかしすぎる。 すると八雲紫がチッチッチッと言いながら人差し指を左右に振る。 「もちろん男物もしっかり用意してあるわよ。 おそらくお互いの格好をしたいなんてバカップルも出ると思ってね」 新たなスキマから取り出されたのは確かに見覚えのある服ばかり。 ……仕方ない。 「あぁわかったわかった参加する」 「よろしい、後でまた来るからその時までに何を着たいか決めておきなさいね」 八雲紫はじゃあねーと手を振りながらスキマで帰っていった。 いやはや、妙な事にならなければいいが。 「いいの?乗り気じゃなければ私は別に……」 「いいや、たまには少し変わったお互いを見るのもいいだろう?」 なんだかんだで誰にレティが仮装するのか楽しみになっていた。 レティは少し顔を赤らめてありがとう、と返してきた。 やっぱり女性は色々な服を着てみたいんだろうな。 しかし忘れていた。 レティが誰かの仮装をするならば誰かがその逆をする事もありえることを。 「あらレティ、やっぱり私の仮装にしたのね」 「あら幽香、やっぱり私の仮装にしたのね」 博麗神社で風見幽香を見つけたらこうなるのは必然だった。 仲は本来いいんだがな、仲は。 好敵手と言った方が正しいのかどうかは俺にもわからん。 ついでに俺は迷った結果コックとした。 無難過ぎてつまらないと八雲紫に言われた、余計なお世話だ。 「私に憧れていたなんて知らなかったわ、どう?いい服でしょ?八雲紫が用意した物だけど」 「嫌だわ幽香、逆でしょ?あなたが私に憧れてたんでしょ?ありがとうね、そんな風に思っていてくれたなんて」 笑顔で言葉のボディーブロー。 完全にこの一角は浮いてしまった。 俺は何時飲み比べか弾幕勝負に発展するかを待ちながら周囲を見渡す。 八雲藍と橙はお互いの仮装をしている。何か後ろで旦那が釣られてるけど見なかった事にする。 紅魔館の主とその妹もお互いの仮装、髪の色が一緒だったらどっちがどっちかわからないかもしれない。 メイド長は永遠亭の薬屋だった、中々に新鮮だ。 と、そんな裏でついに彼女達は上空で弾幕ごっこを始めた。 ご丁寧に弾幕も仮装らしくお互いのを真似て撃っている。 付き合いの長い彼女達だからこそできる芸当なのかもしれない。 こら囃し立てるな外野、詐欺兎、賭けを始めるな。 ドタバタとしながらハロウィンパーティは進んでいく。 俺は勝負がつかずに飲み比べで勝敗をつけにくるであろう彼女らの為に酒を集める事にした。 「うーん……」 「はしゃぎ過ぎだぞ」 神社の裏手にて彼女を膝枕しながら介抱する。 隣では風見幽香が沈んでおり、枕として座布団を丸めて置かせてもらった。 結果は引き分け、珍しく二人ともはしゃいだ結果酔いが早く回ってしまったようだ。 「なんでかしらね、普段と違う自分て思うと色々とはしゃぎたくなっちゃったわ。 たぶん、幽香もだと思うけど」 あはは、と少し困ったように笑うレティ。 そして少し間をおいて「ねぇ」と尋ねてくる。 「今の私、どうかしら?」 服は風見幽香がよく着ているチェックの服、そしてスカート。 普段どちらかというと大人しさを印象的にさせるレティの服装とは真逆に活発的な印象を少し受ける。 それは普段の風見幽香の名残か、それとも彼女の本質か、どちらにしろ…… 「可愛い、とは言っておく」 「あら、じゃあ時折着ようかしら」 それは勘弁してくれ、と返しておく。 店先で今日みたいな事をされても困る。 それに、だ。 「別に仮装しなくったってレティは俺にとって一番だし、な」 少し顔を背ける、ちと恥ずかしいからな。 そんな俺に彼女は嬉しそうにありがとう、と返してきた。 ……あぁ、どうにもなれんな、こういうのは。 そして再び「ねぇ」という問い。 「トリックオアトリート、っていうんでしょ?」 何が、とは言わない。 確かにハロウィンとは本来そういう物だ。 まぁあの連中にとっちゃ騒げる口実なだけでいいのかもしれないが。 「むぅ、さすがにそういうのはないなぁ」 表に戻ればあるのだが今は持っていない。 「じゃあいたずら、と思ったけど代わりの物を貰うわね」 「代わり?それはいったいな…んむっ!?」 起き上がったレティから俺の疑問への返答は速かった。 肩に手を置き、さもすれば俺を押し倒す勢い。 それに応えるべく彼女の腰に手を回し、彼女の求めに答える。 ひょっとしたら隣の風見幽香が起きてしまうんじゃないかとすら思える程に情熱的に。 彼女は満足したのか、唇を離した。 「んっ…続きは帰ってから、さすがにここで、隣に幽香がいて、この服では絶対駄目だから、ね」 「だったら危ない事はしないほうがいいと思うがな」 お互いに顔は酒だけではない赤を色濃く残している。 それでも彼女はしばらく俺にしなだれかかるように抱き締めてくるのであった。 ついでにやっぱり風見幽香は途中から起きていた。 そして俺とレティは散々にからかわれ爆発したレティが再び彼女と弾幕ごっこを始めるのであった。 まぁ、こういう日もたまには、しょうがないのかもしれないな… Megalith 10/11/11 ─────────────────────────────────────────────────────────── 雪を降らせましょう 今日という日が幸せである事を願って 雪を降らせよう 銀世界となった幻想郷を見れば皆が美しいと思うはずだから そして何よりも 彼と過ごすクリスマスの為に そして何よりも 彼女が笑顔でクリスマスを楽しむ為に 互いの手を握り、小高い丘から冬の夜に彩られ、銀世界となった幻想郷を見渡す。 私と○○の幻想郷へのクリスマスプレゼント。 聖夜はやっぱり、ホワイトクリスマスで無ければ味気ない。 ……いえ、違うわね。 つまるところ結局これは私の我儘。 それにかこつけて、冬を、雪を、○○と慈しみたいという私の我儘。 私が雪を降らせ、彼と一緒にこの光景を見る為の。 それに御誂え向きで、誰も文句を言わないのが今日。 こうして彼と一緒に白き世界を見るのがどれ程に幸せか。 この手にある暖かさは私だけの物。 周囲に誰もいないが故にこの世界は二人だけしかいないような錯覚さえ覚えてしまう。 不図、○○の温もりが手から離れた。 何かしら、と彼が私の後ろに下がっていくのを見る。 彼は真面目な顔を一瞬したかと思うと直ぐに頬を掻き、目を逸らした。 「……どうかしたの?」 「いや、な。やっぱりレティは綺麗だな、と再確認したかっただけだ」 彼の言葉に私は自分の頬が赤くなっていくのがわかった。 嬉しい、だけれども、やっぱり恥ずかしい。 いつまでも二人は恥ずかしがり屋、もう何年こうしているかわからないのにいつもこう。 お互いに思った事を口走って相手をドキリとさせて、結局言った自分までも真っ赤になってしまう。 ○○も少し頬を赤くしているのだ、きっと立場が逆でも同じ事。 ○○とこうしている事が幸せなのよと言ったら彼は真っ赤になって言った私も赤くなる。 だけど、それが嫌ってわけじゃない。 これが私達だから。 「寒く、ないか?」 彼が何を言いたいのか直ぐに分かった。 彼の方へ歩み寄り、 「暖めてくれる?」 「喜んで」 彼が私を大事そうに、優しく抱きしめてくれる。 彼の鼓動が聞こえる、少しだけ早い鼓動の音。 きっと私の鼓動も少し早くなってるに違いない。 自然と彼を見上げ、そして彼もまた私を見つめていた。 そこからの行動は必然。 彼と口付けを交わす。 優しく、それでいて情熱的に。 そして名残惜しくも顔を離し、互いに言っておくべき事を言う。 「メリークリスマス、○○」 「メリークリスマス、レティ」 しばらく互いを見つめ、そして抱き締め合いながらこの二人だけの幻想郷の世界を楽しむ事とした。 Megalith 10/12/22 ─────────────────────────────────────────────────────────── ―――幻想郷に冬がやってきた。 ―――俺が、幻想郷に来た、レティと出会った、レティと互いを愛する事を誓った、俺達の季節。 ―――私が、幻想郷で彼と出会って、罪を背負って、彼と愛し合う様になった、始まりの季節。 ―――俺が幻想郷に来てからもうすぐ10年目だ。 ―――彼が幻想郷に来てもうすぐ10年目だったはず。 ―――そしてそれは……遂に俺の決断の日が来たということだ。 ―――そしてそれは……きっと彼の決意と決断に、私が応えなくてはいけないということだと、そう思った。 ○○サイド 「こんにちは」 「むっ来たか、生憎と家には緑茶しかないが勘弁してくれ」 お邪魔します、と靴を脱いで上白沢家に入る。 事前に尋ねる事は伝えてある為こうして寺小屋が休みの日に彼女の家にやってきた。 しかし、彼女だけかと思ったその家にはもう一人客が来ていた。 「稗田のお嬢さんまでいるとは予想外だな」 「慧音さんに今日あなたがこちらに来ると教えてもらったので」 稗田阿求が縁側でニコニコとしながら座っていた。 その隣には紙が何枚か置いてあり、あぁ、なるほど、と彼女の用件を理解した。 「ちなみにだが八雲紫か?」 「ご名答です。彼女からの直々の依頼です」 あいつも覚えてたんだな……むしろだからといって勘が鋭すぎるだろ。 ともあれ、これは確かに避けては通れぬ道。 この幻想郷において【特別である】者はこの幻想郷絵巻に記される。 記録される事はある種暗黙の了解であり、当人が拒否しようともこの幻想郷という世界で特別であれば、記録される。 それは幻想郷に迷い、八雲家で暮らし、大きな事件を経験し、そして人里から離れ店を出している俺が記録されるのは必然だった。 尤も、その事件は上白沢慧音により【なかった】事になっている為稗田阿求はそれを残していない。 俺が記録されている理由はここに来た状況、人里外で暮らし、人妖との境界線に中立である事、交友関係、そしてレティと同棲している事等等。 そういった諸々の事情により俺は幻想郷絵巻に普通の人間として珍しく記録されている。 「済んだ後にはあなたとレティさんの内容を修正しなくてはいけません。 ですから、必ず済んだら直ぐに私の所へ来てくださいよ? あぁでも結婚式の後でもいいですね、写真付きだとさらに」 そいつは勘弁してくれ……というか。 「あのでしゃばりスキマ妖怪め……どこまで喋ってるんだか」 「いいえ、彼女は何も。 ですがあなたが何かをする、幻想郷絵巻の更新の準備をしておいたほうがいいから里の守護者の所で待っているといい、とだけ。 結婚式はそこから導き出した結論の一つなだけですよ」 その返しに俺は苦笑した。 稗田阿求が何事か、と訝しげな顔をしたがなんでもない、と言っておく。 そこまで言うなら最後まで言えばいいのに、とは思うが一応心の中で感謝しておく。 「とりあえず了解した。全てが済んだらレティと二人で屋敷にお邪魔するよ」 さて、と気を取り直し、ずっと待っていてくれた上白沢慧音に体を向ける。 彼女は茶を飲みながらじっとこちらを見ていた。 「それでその何かに私が関係あるから尋ねてきたのか?」 「いえ、そちらが直接どうこう、というわけじゃない。 ただ、どうしても今の内に言っておきたかった事があるんだ」 それは何か、と目で先を促される。 今だからこそ、改めて、彼女に言わなければならない。 「本当にありがとうございました。 あなたがいなければ俺とレティは共に生きる事はできなかった。 俺達の罪の為に協力していただいた事は本当に感謝してもしきれません。 ……ただそれだけを、今の内に言っておきたかった」 話の内容を知らない稗田阿求は何の話だろうかと疑問を秘めた目でこちらを見るが何も言わなかった。 おそらく大体の予想はついているのだろう、それ故に何も言わず、知らぬ顔で表に向きなおした。 そして上白沢慧音は一度目を深く瞑り、こちらを穏やかな目で見た。 「成程、ならば私が言う事は一つだ。 決して罪に埋もれるな、彼女と共に幸せでいてくれ。 それが無理矢理ながら手伝った私の、改めての、言葉だ」 俺は頭を下げ、ありがとう、と返した。 「久しぶりだな」 「お久しぶりです、この前のハロウィン以来ですね」 あれ以降宴会事もなく、外で会うような事も無かった。 とはいえ、彼女に用件があるわけではなく、そしてその事を彼女も理解しており…… 「咲夜さんなら自室にいると思うのでご案内しますね」 門番である彼女の手によって紅魔館の門は開かれた。 周囲の妖精メイドに軽く会釈をしておく。 願うならば今日は互いにとっての厄介者がここに現れないでいてほしいものだ。 あの黒白のせいで話を聞けないではここまで来た意味がない。 尤も、実際には霧雨魔理沙とも話をしてみたいといえばしてみたいのだが、な。 「いらっしゃい。美鈴、御苦労様、後でクッキーを持っていくわ」 取りとめのない話をしながら紅魔館の中を案内されて行くと、少し前のドアが開き、紅魔館メイド長が顔を出した。 今回紅魔館に来たのは彼女に聞いておきたい事があったからだ。 「ありがとうございます!それでは○○さん、ごゆっくりー」 「はいよ。……さて、仕事中にすまないな」 案内された彼女の部屋の椅子に座る。 対面に彼女も座ったかと思うと何時の間にか紅茶のセットが。 慣れたとはいえやはり少し驚いてしまうな。 一口、口に入れる。 「いいのよ、あなたには世話になってるしね。……それで、私に何を聞きたいの?」 「……先に言っておく、失礼は承知の上だ。答えたくなかったら答えないでくれて結構」 おそらく、彼女にこんな事を聞いた事があるとすれば一人くらいだ。 それは他人の俺がおいそれと聞いていい事ではないのはわかっている。 「……察しはついたわ」 さすが瀟洒と名高い紅魔館メイド長か。 話が早そうで助かる。 「それで、お前さんはどんな決意をしているんだ?」 「私の答えは一つ。私は人のままお嬢様に仕え、人のまま生き、人のまま老いていくわ。 たとえお嬢様や妹様から誘われたとしても、ね。 別れの時はいつか来るでしょう、それでも……残せる物があると思うから」 彼女の目はおだやかで、そして決意に満ち溢れていた。 俺とは真逆の位置にやはり彼女は立っていた、それがある意味嬉しかった。 俺はありがとう、と答え、席を立つ。 「迷ってるの?」 「いや、迷いを探しに来た、というべきかな?」 なにそれ、と十六夜咲夜が口元に手を当てながら笑った。 まぁ俺自身も何をしてるんだかな、とは思うんだ。 でもまぁ、きっと無駄にならない、そうだと思ってる。 「ついでに、紅茶の味のご感想は?」 「美味かった、いつも俺が出してるのと同じ物使ったろ?」 「そりゃ勿論、どこかの誰かが私に出すのと同じくらいの物を出さなきゃ私のプライドが許さない」 主従揃って負けず嫌いだな、と苦笑しながら返し、俺は彼女の部屋を後にした。 「意外に短いな」 「馬鹿言え、本来こういうのはご法度なんだよ。色々と調整済みさね」 生きる者がこの渡し船に乗ってはいけないというのは聞いた事があるが本当だったのか。 紅魔館を後にし、彼岸を訪れ、会う約束をしていた幻想郷の閻魔、四季映姫ヤマザナドゥのいる裁判所へ。 彼女も忙しい身である事は十分に承知していたがなんとかこうしてアポを取る事が出来た。 ついでにこの船を動かしている死神が最近店の近くでサボっている事も密告しておこうとも思っているが。 とりとめの無い雑談でも交わして三途の川を渡るか、と思ったが直ぐに向こう岸に到着してしまった。 ありがとう、と礼を言い、さて、と裁判所に入ろうとする。 「あぁ、そうだ。あたいから一言」 「ん?」 死神が言葉をかけてきた。 「いつかあんた達を渡してやる時は二人一緒に渡してやるよ」 そうか、と俺は向き直り、手を振って三途の川を後にする。 そいつは……願ったり叶ったりな事だ。 「さて、○○さん」 「あぁ」 彼女の執務室で向かい合う形で座る。 四季映姫ヤマザナドゥは何時か、そうだ、初めて会った時のような真剣な表情と眼差しを俺に真っすぐ向けてこちらに語りかけてきた。 「あなたがどういった理由で私を訪ねてきたのか、そしてこの先何をするかもわかっています。 しかし、あなたも珍しい人です。わざわざこうして閻魔に説教をされにくるなんて」 「これはケジメだ。新たなスタートを切る為の、単なる自己満足に過ぎないケジメ」 えぇ、そうですね、と返される。 しかしそれをわかっていて彼女はこうして俺と会ってくれた。 「今のあなたの決意を迷わす事はもう誰にもできないでしょう。 この地での数多の出会いと、そして彼女との時間があなたの決意の源。 閻魔として言うならば後で二人とも説教をしてあげますから覚悟しなさい。 私個人として言うならば二人のアイスクリーム、また食べに行きますからね、とでも言っておきましょう」 ありがとう、と俺は感謝を込めて頭を下げる。 少し穏やかな表情をしていた彼女はさて、と小さく咳をし、また厳格な閻魔としての四季映姫ヤマザナドゥがそこにいた。 「では始めましょう、今日一日でまとめられる量にしておきました」 「あぁ始めてくれ、新たな旅立ちに残す物が無いように」 そして俺は閻魔からのある意味最後となる説教を受ける。 全てを逃さず、受け入れ、そして昇華する。 己の罪全てを背負う為に、これからもそれを忘れぬ為に…… 「……」 そっと花束を置く。 誰もいない、何もない夜の草原に俺は一人立っていた。 いや、正確にはここには何も「なかった」場所。 おそらく取りこぼしはどこにもあるまい、それ故にここを知る者は少ない。 俺の今日最後に訪れるべき場所、ここが全ての始まりの場所。 不図何かが視界に入った。 見れば雪が降ってきていた。 あまりにタイミングがよすぎるそれはつまり、 「やっぱりここにいた」 そう、俺の愛しい彼女のささやかな舞台演出。 そしてやっぱり彼女には何もかもお見通しなのだとわかった。 俺の横に並び、俺の花束の横に花屋辺りから買って持ってきたのであろう花束を置く。 「ここにならば何かしら迷いがあるかと思った」 「……」 彼女は答えない。 「しかし何も無かった、ここに合ったのは過去すらなかったんだ。 罪の残滓も既に色褪せる程にここには何も無くなっていたんだ」 ぎゅっと彼女が俺の左手を握る。 見える光景はどこまでも降り注ぐ雪と草原が広がっている、それだけ。 俺と彼女の罪はどこにも無い、何も残っていない。 「レティ、俺は、人間をやめる」 「知ってる」 「そして君に頼みたい、俺を君と同じ妖怪にしてくれ」 「…………死ぬかも知れないわよ?」 構わない、と俺は返す。 それは傍から見れば何と酷い言葉である事か。 彼女に俺を殺してしまうかもしれない事をやらせようとしているのだから。 彼女は俺の手を離し、少し離れ、向き合う形にになる。 「約束して、必ずあなたのままでいてくれるって」 「約束する」 彼女がその手に光のような物を作る。 それはおそらく俺を変えてしまう【何か】 一歩彼女が俺に歩を進める。 「約束して、ずっと一緒にいてくれるって」 「約束する」 ここまで何年も何年もかけた。 この地に、幻想郷に来て今日で10年。 一歩彼女が俺に歩を進める。 「約束して、私を愛してくれるって」 「約束する」 この瞬間の為に俺は長い歳月をかけた。 彼女の力に慣れる為に、彼女を必ず受け入れられるようになる為に。 一歩彼女が俺に歩を進める。 もう俺と彼女は触れる位置にまで来ている。 「……約束して、終わったら、私を抱き締めて、キスをして」 「……約束する、それじゃあ、頼むよレティ」 そして彼女は俺にその手の何かを俺の胸に当てる。 それはすぐさま俺の中に入り込んでいく。 自分の体の内から自分が変わっていく激しい痛みと、凍りつくほどの寒さを体全身に感じる。 倒れる俺をレティが抱き締めるのがわかったのと意識を失ったのは同時だった。 「……うっ」 自分の顔を何かが照らし、物凄い眩しさを感じる。 何か柔らかな暖かい物が頭の下にある、とても気持ちがいい。 気がつけば夜の世界は朝陽によって終わりを迎えさせられていた。 そして日の光を遮ったのは…… 「大丈夫?」 心配そうなレティの顔だった。 俺は大丈夫だと言わんばかりに名残惜しいが彼女の膝枕から立ち上がる。 指を動かし、軽く体を捻ったりしてみるが何も違和感は無い。 これで本当に変わったのかと、あまりにも変わらない自分に驚く。 いや、今になって気付いた。 冬の朝だというのにまるで寒くないことに。 それこそ俺が普通の人間で無くなっているという真実。 そしてレティを見る、彼女は不安そうな表情をしていた。 そんな彼女に俺は一気に近づいて抱き締めた。 「っ…!?」 「次は……キスだったな」 驚く彼女の唇を奪う。 そして彼女の目が理解を示し、瞼が閉じられた。 互いを求める交わりはそれこそ果てしなく、冬をも感じさせない熱を帯びて。 彼女も熱意を持って俺に応えてくる、自分はここにいるのだと、俺を愛してくれているのだとそれを感じさせてくれる。 いつまでも続くかとすら思えた交わりはしかし、己の息の限界によって解かれ、再び彼女の目が開かれる。 その目には涙が溢れ始めていた。 「レティ……これからもよろしくな」 「えぇ、ずっと一緒よ?それこそ冬が終わっても、ずっと、ずっとよ?」 彼女の涙を指で拭う。 これでもう彼女を悲しませる事は無い。不安にさせることも無い。 俺はずっと、彼女と一緒にいる事が出来る。 「レティ、愛している」 「私もあなたを、愛しています」 再び口付けを、今度は永遠の誓いのキス。 晴れた空から雪が降り始めた、まるで俺達を祝福するかのように。 もう俺達は離れない、離れてなど、やるものか。 俺は彼女を愛し、彼女と共に生きる。 そう、決めたのだから――― レティサイド 「ふぅ……」 一人、縁側で溜息をつく。 この家に一人でいるとどうしても心が寂しさを感じてしまう。 それはこの家が彼と私の家だから、それは幸せな事なのに、ね。 いえ、これは私の心の弱さ。 何より、今日だと、わかってしまったから。 「レティ、ちょっと出かけてくる。 遅くなると思うからご飯とかは先に済ませてくれ」 朝に出て行った彼の顔を見て私は気付いてしまった。 時折見せる決意の眼差し、それが今日は一段と強く、私に向けられていた。 つまり……私も自分の心に決着をつけなくてはいけなくなった。 「あらレティ、今日は店は休みなの?」 そんな折、こういう事を唯一言える奴が現れた。 彼の差し金かと一瞬思ってしまうほどにタイミングが良すぎるのが気になるけど。 「えぇ、彼はちょっと出かけてるわ。 ちょうどいい所に来たわね幽香、あなたと話したかったところよ」 しかし一人でこのまま抱え込んでおくにはあまりに、辛かった。 「その様子だと……遂にって事なのかしらね?」 家に上げて紅茶を持って行き、カップをテーブルの上に置くと幽香は真剣に私を見てきた。 その言葉に私はビクリと反応し、カップを持つ手が震え、カップが揺れる。 危うくこぼしかけたが何とか体勢を立て直し、彼女の正面に座る。 察しのいい奴よね本当に……長年の付き合いはこういう時に厄介ね。 「たぶん、ね。今○○はきっと色んなところを訪れてると思う。 最後にどうしてもやっておきたい事の為に、未練を無くす為に、行ったんだと思う」 「最後、か……死ぬわけでもないっていうのにね」 涼しげに紅茶を飲む幽香を睨む。わかっている癖に、こういう心にもない事を言うのだこの女は。 怖い怖い、と片手をひらひらさせてくる様子に先程の真剣さは見えない。 「何が不安なのよ?信じ切れてないの?」 「信じてるわ、誰よりも。 だからこそ、不安にもなるのよ」 色々と考えた結果、たぶん彼が考えている方法はこれしかないと私は考えた。 自惚れを感じていないわけではないし、そうしてくれるんだろうという期待も含んでいる。 彼は必ず「それ」を私に頼むだろう……だから、不安になる。 もしも、と思うと心が割れてしまいそうになるほど痛くなる。 私を信じてくれている彼を裏切らないかと、怖くなる。 重症ね、と幽香が溜息をついた。 「あいつは自分の決断を遂に行動に移した。 まぁ決断してからある意味ずっと行動をしてたんでしょうけど。 誰の為?……自分の為?確かにそうでしょうね、でも、それ以上にあんたの為でしょ。 だったらあいつは大丈夫よ、今までそうしてきたんだから。そうじゃなかったらあの世まで行ってぶっとばすわ」 「……幽香」 「なんて顔してるのよ。 一番あいつが信じてほしい相手はわかってるでしょ?それに応えられない程に落ちぶれたわけ?」 そう、彼は今まで私の為に色々と頑張ってきた。 私の為に、それこそ命を投げ出すような事さえしてくれた。 そんな彼が私に、頼むのだ。 だったら不安に思っている場合じゃない。 彼が決めた、ならば私も決めなくちゃいけない。 待っていたんだから、ずっと、ずっと待っていたんだから。 不安と信じる心が鬩ぎ合いながらこの時をずっと待っていた。 「そうね、彼に応えられなきゃ、彼を愛する資格なんて無いものね」 私の言葉に幽香は笑みを浮かべた。 まるで安心したかのように。 「その息よ、下手な事したら私が殺してあげるから安心しなさい」 「ありえないから安心しなさい………………幽香、ありがとう」 最後に小声で礼を言う、聞こえてるかどうかは……やっぱり聞こえていた。 目を丸くするな笑うな凍らせるわよまったくもう。 さっきまで私の心を占めていた不安はもうどこにもなかった。 この女に助けられたのは癪だけど、それでも、私は心の中で再び礼を言う。 そしていつかこの女に出会いが会った時、同じように苦しんだ時、必ず助け舟を出そうと誓った。 まぁそんな彼みたいな奇特な人間、早々現れるとは思わないけど、ね。 「こんにちは、薬屋いるかしら?」 「こんにちは、師匠に何か御用ですか?」 幽香と少し言葉を交わし、お互いにいつもの表へ出ろからの弾幕ごっこを終え、私は永遠亭にやってきた。 受付には月兎、他には誰もいないところを見ると運良く直ぐに会えるかしら。 「えぇ、今いる?」 「自室にいると思いますよ、私がご案内しますね」 月兎の案内の下、永遠亭の中を進んでいく。 しかし数えることしか来た事無かったけどどれ程兎がいるのだろうか。 進めば進むほど人間サイズから普通の兎まで、それこそたくさんの兎と出くわしている。 兎屋敷と言われてるのは本当なのねーと思っていると月兎が止まった。 「こちらです。師匠ー○○さんのところの冬妖怪さんが用があるそうですがー」 「入ってもらってー」 どうぞ、と月兎が襖を開けると丁度書類を書き終えたのか、くるりと椅子ごとこちらに向き直った薬屋がいた。 では私はこれで、と月兎は私が部屋に入ると襖を閉めて去って行った。 「はいこれこの前のお礼」 途中で寄った人里で買った酒まんじゅうを渡す。 この前○○が風邪をひいて随分と世話になった、そのお礼。 最初受け取るのを躊躇したが私が寒中見舞いのついでよ、と言うとしぶしぶ受け取ってくれた、 無論、それだけで私がここに来たわけでは無いのは彼女には気づかれている。 それが彼絡みだということも薄々検討がついているだろう。 故に 「ねぇ薬屋、話したく無ければ構わない。あなたにとってはとても重要な事だというのは重々承知。 でもよければ先人として教えて、人を人以外の者にしてしまう事に後悔は無かったのかを」 瞬間、日頃そんなに表情を変えない薬屋の顔が驚愕に染まった。 さすがにこんな質問をした奴は今までいなかったのだろう。 だがしかし、私はその禁断の域に踏み込む。 私は、自分の覚悟を試したいのだ。 そして何故そんな質問を私がしたのかを彼女はその理由に気がついたのだろう。 一度ため息をつき、仕方ないわね、と呟いた。 「……そう、そういう事。でも残念ね、私と姫とじゃあなた達の参考にはならないわ。 私はただ頼まれるがままに彼女の為に薬を作り、何も考えずに彼女に渡したわ。 死ぬほど後悔したわ、彼女の苦悩を知る度に、自分の浅はかさに嫌悪だってした。 藤原妹紅の存在で輝夜は救われた、それでも私の罪と自責の念は何時までも私に重く圧し掛かるでしょうね」 苦々しく吐き出すように語る薬屋はいつもの彼女とは比べられない程に悲しげで小さく見えた。 でも、と顔を上げ、真剣な眼差しでこちらを見る。 「あなた達はお互い覚悟の上なのでしょう?それだけで十分に違うわ。 覚悟を決めたのなら貫き通しなさい、後悔を乗り越えなさい、それが私からの助言。 尤も、その目だといらない老婆心に過ぎないのでしょうけどね」 苦笑する薬屋。 お見通しか、と内心で私も苦笑する。 ならば。 「……そうね、ありがとう。 何時かあなたにも現れるといいわね、あなたの全てを包み込んであなたの荷物を持ってくれる覚悟を持った人に」 「それこそ余計なお世話ね。 全く、勝ち組が悩みを相談に来たかと思ったら喧嘩売られただなんてね」 クスリと笑う薬屋は既にいつも通りスキマのような胡散臭さと落ち着きを持っていた。 襖を開け、廊下に出る。 「次来る時はおめでたか結婚祝いかしら?」 「それこそ余計なお世話よ」 先程の彼女の言葉を返すようにして私は薬屋の部屋を後にした。 「わかり辛いわね本当に」 名前の通りというべきかしらね、この場合。 彼ならば直ぐに来れるんでしょうけど私にはまだなんとなく、でしか来れない。 結界が理由なのかはたまた術式か、とにもかくにもなんとか目的地には辿り着いた。 そしてそれは向こうにもわかっていたらしく、 「こんにちは、いい天気ね」 八雲紫直々に玄関の前で私を待っていた。 いつも通りの胡散臭そうな笑みはこういう時だとむしろ安心するかもしれない。 何もかも知っているような雰囲気が今の私には少しだけありがたかった。 「初めに言っておくわ。謝罪なんていらないし、したら許さない」 「むしろあなたに謝る理由がわからないわ」 よろしい、と今度は満足そうに微笑んだ。 八雲紫の案内の下彼女の家に入り、テーブルを挟んで対面に座る。 何時の間にやら湯呑みが置かれ、緑茶の香りがする。 「さて、何を聞きに来たのかしら」 「あなたならやり方くらい知ってるんじゃないかと思ってね」 何の、とは返してこなかった。 この女は全てを気付いている。 きっと彼の決意の中にはこの女が少なからず後押しをしたと私は考えている。 だからこそ、全てを知っていて、彼が友人だというこの女に私は尋ねる。 彼を、人で無くす方法を。 「知らなかったの?」 「私に近寄ってくる人間がいたと思う?」 それもそうね、と八雲紫が苦笑した。 まぁ目の前の大妖怪もほとんどその頃の私と変わらないと思うけれど、いたとして当時の博麗の巫女くらいかしらね。 「……無駄な事を聞くけどどうしても言葉で聞きたいの。 あなたは彼を変える事を決意するのにどれ程悩んだのかしら?」 「後悔して、今がどれだけ貴重なのかを改めて知って、そして彼へのこの心がぶれない事を知るまでかしらね。 私はもう彼から離れられないし、離れるつもりもない。彼が私を必要としている限りずっと傍にいたいから」 私の言葉に八雲紫は満足したのか彼女はスキマで庭に出た。 どれだけ物臭なのかと思いながらそれにならって私も庭に出る。 「あなたがよく地下の部屋を冷やしている結晶を作るのに使ってる力を彼の体に直接入れるだけよ。 ただし、そこから彼が変われるかどうかは彼とあなた次第。 勿論私は成功を信じてるし、もしも失敗したら二人ともスキマの中に永遠に放り込んでやるわ」 「それはますます失敗できないわね、あぁでも彼と二人で永遠にそのスキマの中にいるのも悪くないかしら」 傘を差し始めた八雲紫の冗談の部分に冗談で返す。 「時々、思う事があるの」 八雲紫がこちらに背を向け小さく語り始めた。 「彼と出会った後、お互いに出会いが無かったらもしかしたら……いえ、つまらない事だったわね。 さぁ、やり方は教えた、後は当人次第。私は自分の幸せを感じながら他人の幸せを見るのが好きなの。 だからこれを持ってさっさとあなた達の決意の結果を見せて頂戴」 スキマから花束が落とされて来た。 私はそれをキャッチし、未だ背を向けたままの八雲紫を見る。 もしも彼が八雲家を出ず、私と出会わなかったら。 もしも八雲紫に彼以外の異性の出会いが無かったら。 家族であり、友人である彼と八雲紫の間にはさすがに入り込む事はしないしできない。 もしもの話は結局そうはならなかった一つの可能性の話。 ならばそれに答える事はこの場において互いに意味をなさない。 故に私は一礼だけをして、この渡された花束を送るべき場所へと向かう。 きっと彼は既にそこにいる、そしてきっと私を待っているから。 空を飛び、一つ山を越え、辿り着いた懐かしい場所。 いえ、懐かしく、そして私達の原点であり、傷痕となっている場所。 しかし私と彼の過去などまるで本当に幻想となったかのようにその場所は私の記憶からかけ離れていた。 人も家もなく、ただ広い草原が広がっているその場所は本当に人里などありはしなかったとすら思える場所。 己の罪を見定める物は既に無く、懺悔の感傷すら許さなくなったその場所にはやはり先客がいた。 彼、○○は花束を置き、憂いの表情を浮かべながら草原に立っていた。 「……」 きっと彼は、己の未練が、罪が、そこに残っているのではないかとそう思ったのだろう。 私はあの日以来ここには訪れていない、そしておそらく、彼もだろう。 ここには彼を責め立てる物も、彼を過去の懺悔をさせる物も、何も無い。 だったら、ここは新たな出発点とすればいい。 私は寒気を操り、雪を降らせる。 雪に気付いた彼はやはり、私にも気付いた。 「やっぱりここにいた」 私はそっと彼の後ろに降り立ち、彼の横を通り過ぎて花束を彼が持ってきた花束の上に重ねる。 死人などおらず、今もおそらくどこかで生きているであろう彼らへ送るというのも変な話だ。 けれどきっと、これが最後の未練の証なのかもしれない。 「ここにならば何かしら迷いがあるかと思った」 「……」 私は彼の語りに答えない。 既に互いに、わかっているから。 「しかし何も無かった、ここに合ったのは過去すらなかったんだ。 罪の残滓も既に色褪せる程にここには何も無くなっていたんだ」 ぎゅっと彼が私の左手を握る。 彼が握るその手は一瞬少しだけ震えたが直ぐに力強く私の手を握った。 あぁ、ついに、なのね。 「レティ、俺は、人間をやめる」 「知ってる」 「そして君に頼みたい、俺を君と同じ妖怪にしてくれ」 「…………死ぬかも知れないわよ?」 構わない、と彼は返してきた。 全てを私に委ねた彼の言葉に私は応えるべく、彼から数歩距離をとる。 改めて、互いに、己の決意を受け取り合う為に。 「約束して、必ずあなたのままでいてくれるって」 「約束する」 何度もやった力を使い、手に止める。 これが彼の中に入ったその瞬間彼は人から妖怪へと変わるかの試練が始まる。 「約束して、ずっと一緒にいてくれるって」 「約束する」 彼は何年もかけて私の為だけに、私の力を受け止めようと努力してきた。 そんな私は彼から故郷を奪い、人の輪の中で生きることを奪い、そして、彼の人としての生も、奪ってしまう。 「約束して、私を愛してくれるって」 「約束する」 過去の罪の上に私はさらに罪を重ねる。 だけど私は彼がいる限りそれに押し潰されることなんて無い。彼がそれを望まないから。 彼が愛してくれているのと同じように私も彼を、途方も無く愛しているのだから。 「……約束して、終わったら、私を抱き締めて、キスをして」 「……約束する、それじゃあ、頼むよレティ」 彼の体に私の力の結晶を入れる。 途端に苦しみだし、こちらに倒れてきた。 私はぎゅっと倒れてくる彼を抱き締めた。 でも必ず、彼は目を開けてくれる。 そう信じて私は気を失った彼の頭を膝に乗せて座り、彼の帰還を待つのだった。 何時の間にか朝陽が私達を照らしていた。 夜の帳は役目を終え、既にどこかへ帰ろうとしている。 膝の上の彼はまだ起きない。 その無表情な顔はまるで永遠に眠っていそうな綺麗な物だった。 しかし彼は必ずその永遠を幻想としてこの世界に帰ってきてくれると信じている。 彼は待たせる事はあっても、約束を破った事は無いから。 「……うっ」 「……!?」 彼が眩しそうに表情を歪めた。 瞬間私は彼の頭を覗きこむようにして何も見逃す事が無いように彼の顔を凝視する。 ゆっくりと彼の瞼が開かれていった。 「大丈夫?」 きっと今の私は心配そうな顔をしているんだと自覚している。 彼はそれに答えるかの如くスッと立ち上がり、体に何か異常が無いか確かめる。 どくん、どくんと私の心臓が緊張のあまり高なっていくのがわかる。 しかし、私の緊張を察したのか、それともそんな事などお構いなしだったのか。 彼は一瞬にして私に近づくと私を抱き締めてきた。 突然の事に私は全く反応が出来ず、彼によって自由を奪われる。 「っ…!?」 「次は……キスだったな」 驚く私にさらに彼はキスをしてきた。 その瞬間、私は全てを理解した。あぁ、彼はやっぱり約束を破らない。 瞳を閉じて彼が求めるように私も彼を求める、冬の間にしか会えなかった頃、再開した時のような熱く、甘い交わり。 彼が私を愛してくれているのがわかるように私も彼を愛しているのだと伝えたい、そんな交わり。 そして永遠とすら思えたそれは一度彼に寄って断ち切られる、再び見る彼に何も昔と変わっているところなんて無い。 「レティ……これからもよろしくな」 「えぇ、ずっと一緒よ?それこそ冬が終わっても、ずっと、ずっとよ?」 何時の間にか私は涙を流していた。 それをそっと彼が指で拭ってくれた。 とにかく嬉しくて、嬉しくて、本当に何もかも溜まらなくなっていた。 「レティ、愛している」 「私もあなたを、愛しています」 再び彼とキスを交わす。 今度は先程のような熱く求めるような物ではなく、軽いキス。それは私と彼の誓いのキス。 永遠の愛をお互いにこの場で誓い合う極めて重要な、かけがえの無い物。 不図空から私達を祝福するように雪が降ってきた。 そう、そういうことね。冬が私達の愛の誓いの立会人てこと。 冬の妖怪の私達にはそれが一番相応しいわね。 ありがとう、と心の中で呟き私は彼の胸に頭を埋め、温もりを感じながらこれからの幸せを思い描く。 あぁ本当に、幸せすぎて、幸せすぎて、どうにかなってしまいそうだわ。 Megalith 2011/02/16 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「……」 どうしてこうなった。 いやそもそも何で【これ】なんだ。 あぁそうか、これはあれだな?幻想郷のドッキリだな? その辺で新聞屋とか黒白魔法使いとか八雲紫がいたりするんだろ?そうなんだろ? 「うーん……○○……」 ベッドで一緒に寝ているレティは今の所【それ】に気付いている様子も無く、幸せそうに寝ている。 互いに服が乱れているのはこの際何ら問題を無さないと思っておく、その、なんだ、愛し合う者同士、そういうもんだろ? ていうか早く出て来いよ仕掛け人共、もう満足だろ?偽物なんだろ?【これ】 一向に出てくる気配の無いいるであろう野次馬共はどこかと視線を窓の外やらドアの隙間やらに目を配るが残念だがそこにはいない。 起きて確認できればいいのだが生憎と俺の右腕はがっちりレティに掴まれている。 俺が人間だった頃からよくある事だったが今回はそれがかなり厄介な事になっている。 しかし、何時までも状況が進まないとおそらく野次馬共も出てこないだろうと思い深呼吸をして覚悟を決める。 そっと、そっと【それ】を握る。 「ひゃんっ!?」 握った刹那レティから可愛い反応が、返ってきてしまった。 何て事だ……作りものなんかじゃない、これは本物だ…… そう、なぜかレティの頭に兎の耳がついていたのである。 どうして、いったい、なんで、こうなった…… 「……ごちそうさま」 「……あぁ、お粗末様」 気まずい朝食を二人で終える。 自然と視線はぴくぴくと動いたりへにょりと曲がったりする彼女の頭の兎の耳を見てしまう。 その度にレティからうーと唸りながらのジト目を受けるのだが。 「ここまで待って誰も出て来ないって事は複数犯による愉快ないたずらというわけじゃなさそうだな…… いや、まさか、昨日の時点で何か……?」 「昨日はお店が終わった後に八雲紫主催の宴会に出て、永遠亭の連中と飲んでた記憶しかないわね……」 二人で昨日の記憶を思い返していくとなるほど、予測はついた。 しかし彼女の動きに合わせて動く兎の耳がどうしても気になってしまうのは男の性なのか。 普段とは違うレティの可愛い姿、おまけに本人はとてつもなく恥ずかしがっている姿を見るとこう、なんというか、愛でたくなるというか…… 「?どうかしたの?」 原因を考えていたおかげでレティの羞恥は今は薄くなっているが……首を傾げながらこちらを見てくるその姿が何時にも増して可愛く見える。 兎耳一つでここまで落ちついていられなくなるものか、と内心動揺をしつつ、何でも無い、と彼女に返す。 しかし、これ以上このままだと非常によろしくない未来が待っている気がする。 誰か客が来る前に残念ではあるが彼女の兎耳をなんとかしなくていけない。 残念と思ってる時点で俺が既に堕ちているという点は知らない事とする。 危険な賭けだが……いや、奴ならば必ずアクションを起こすはず。 一度深呼吸をし、誰もいないはずの庭を見る。 そしてメモとペンを取って立ち上がる。 「出てくるなら今の内だからな、今の内に出て来ないとこの紙に1年同じ屋根の下で暮らしてた俺だからわかるお前の秘密をここに書き記すぞ」 一つ屋根の下で暮らしていた時があった俺だからこそ暴露できる事もある。 それをこの紙に記して新聞屋に渡せば後はどうなる事やら。 そして一文字目を書こうとした瞬間俺の手を引っ張る誰かの手、当然レティではない。 「ここは平和に話し合いましょう?ね?落ちついた方がいいわ○○」 「俺は至って冷静だ。お前の過去を達筆でスラスラと暴露本でも書けるくらい冷静だ」 良い笑顔で八雲紫がスキマから手を伸ばして俺の腕を力強く握っていた。 おそらく俺もいい笑顔で対応しているのであろうという事は自分でも理解している。 レティが呆れたようにはぁっ、と溜息をつき、その兎耳が少し揺れた。 「今年兎年じゃない?という事で何かやろうって事で薬師にちょろちょろっと」 「昨日永遠亭の特に薬屋が絡んできたのはやっぱりそういう事かこの大迷惑妖怪め」 レティと二人、この困ったスキマ妖怪に詰め寄ってみると簡単に自白した。 ……何かまだあるなと思うのは幻想郷にいれば誰もが思う事。 いや、まさか…… 「もしかしてだけど、あの時宴会にいた連中のほとんども私のように……」 「えぇ、女性のほとんどはあなたと同じように兎耳生えてると思うわよ」 なにしてんのこのスキマとあの薬屋。 今頃各地で凄い騒ぎとなっているんだろうなぁ……と考えていると頭が痛んだ、何でこんな困った奴なんだこいつは。 「いいじゃない、私も最終的には生やしてみるつもりだし。 いつもと違う恋人にもう我慢の限界、くらいじゃないの?」 「どんな獣だそれは」 はいレティさん赤い顔でこっち見ないでね、お願いだから見ないでね、意識しないようにしてるんだから見ないように! 俺が内心とてもいっぱいいっぱいなのを気付いているであろう目の前の困った友人はニヤニヤと笑いだしている。 「せっかくのバレンタインデーだもの、サプライズは満足していただきませんとね。 それじゃ後はお二人の世界、恋人達は皆同じようにしている事でしょうし、私も同じ立場になりにいきますわ~」 待て、と言う前に八雲紫はスキマで逃げて行った。 残されたのはもじもじと真っ赤な顔で顔を伏せ始めているが兎耳はぴょこぴょこと忙しなく動いているレティと なんとかそんな彼女を意識しないようにこれからの事を考えて意識を保とうとする俺だけが残された。 「えーと、と、とりあえず本日休業の看板を出してくるわ」 「う、うん……」 と立ち上がろうとするとレティに腕を掴まれた。 何だ?という意味を込めてレティに振り返る。 「そ、その……今の私は、ど、どうなの?」 「っ……!」 そういう事を上目使いで頬を赤らめて不安そうに言うか……! 兎耳も何か落ち込んでいるみたいに下がってるし。 俺は彼女に完全に振り向いて彼女を力いっぱい抱き締める。 「えっ!?ちょ、どうしたの!?」 「…………俺にとって可愛くないレティがいるはずないだろ」 耳元でボソッと彼女に言い、今度こそ店側に向かう。 一度だけ振り向くと彼女は真っ赤な顔で固まっていた。 今の俺もそれに匹敵するほど顔を真っ赤にしているんだろうと自覚し、かなわんなぁ……と本気で思っている事を口に出していた。 「……」 「……」 本日休業の看板を出して戻って来ると彼女に目いっぱい抱きつかれてそのままソファーに拘束された。 先程よりは、ではあるが彼女の頬は赤く、しかし幸せそうな笑みで俺の胸に抱きついている。 兎耳もぴょこぴょこ動いている辺り、どうやらふっ切れたようだ、というか振り切れた? 愛する女が兎耳で幸せそうに抱きついてきてるこの状況、俺の理性の限界は近い、これが夜だと大変な事になっていたかもしれない。 不図何かに気付いたように彼女が顔を上げた。 「そうだ、バレンタインデーのチョコ、ちゃんと用意してあるわ」 「あ、あぁ。嬉しいよレティ」 レティが立ち上がり、寝室に向かう。 3日前くらいからそういえばバレンタインデーが近いな、とか考えていたが今朝の出来事ですっかり忘れていた。 八雲紫が言わなければお互いに気付かなかったかもしれない。 戻ってきたレティの手には赤い小さな箱。 再び俺の胸に抱きついてきたレティの手からそっとそれを渡された。 開けてみるとハート型の小さなチョコが複数入っていた。 「ありがとうレティ」 心の底から嬉しい。 2度目とはいえこの嬉しさは1度目と同じかそれ以上か。 一つ口にしてみるとしつこくない程に抑えられた甘さが口の中に広がった。 「美味い……とても美味いな」 「嬉しいわ、でも、ね」 彼女はチョコを一つ取ると自分の口元に近づけた。 「誰にも邪魔されない内に、全部こうして、食べましょ?」 そう言ってハートの下の部分を咥え、目を瞑り、俺に顔を近づけた。 これはあれか、やれというのか…… 「んっ」 さらにレティの顔と咥えられたチョコが近づく。 念の為周囲を確認し、出刃亀がいない事を確認してチョコを食べていく。 あと少しで無くなる、といったところでさらにレティの顔が近づき、口付けを交わすようになっていた。 おまけに何時の間にか彼女の手は俺の首の後ろに回っており脱出は不可能。 一頻り互いを味わうと再び彼女はチョコを咥え、顔を近づけてくる。 今度は一気に食べて先程の奇襲をやり返すように彼女の唇を求めた。 「んちゅ…んんっ、ちゅっ、ぷはっ、ちゅぱっ、んむっ……」 情欲に既に支配された俺達がチョコが無くなるまでそ、うやって食べ合うのは最早必然。 そして……終わっても尚、上目使いで何かを求めるような上気したレティの表情に俺の理性は忘却の彼方に消えていた。 「ふぅ……これで明日には元通りね」 「あぁ……ある意味大変な一日だった……」 ベッドで抱き合う様にして横になる。 今日は一日中彼女とべったりというぐらいにくっついていた。 羞恥に負けていたレティは何時の間にか平然と、むしろ今の状況を利用して俺を翻弄していた。 女は強い、というのを本当に思い知らされる。 未だぴょこぴょこと嬉しそうに兎耳は動いている。 「月の兎の耳でも貰ってこようかしら」 「怖い事を言うのはやめろ……それに毎日見てればさすがの俺も免疫がつく」 と、思いたい。 それに、だ。 「ありのままの君がいいんだ。変に飾らなくていい、ありのままで俺は……」 ぎゅっとさらに彼女が俺に抱きついてきた。 その肩を抱くと嬉しそうに軽く口付けをしてくる。 「ありがとう、愛してるわ○○」 「あぁ、俺も愛しているよレティ、どんな君になってもだ」 再び軽い口付けを交わす。 八雲紫の言葉通りなら明日からは普段のレティに戻っている。 そっと彼女の兎耳を撫で、俺達は眠りについた。 一日限りの夢みたいな物。 きっと明日には元通りだが、今だけはそんな彼女を十分に感じよう。 Megalith 2011/04/05 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「お前らな、確かに外じゃ11月11日はポッキーの日とか言われてたよ? だからまぁこうしてアイスにおまけでつけてだしてるわけだが、だからってポッキーゲーム始めるなって言ってるだろうが!」 はぁっ、と大きく溜め息をつく。 どうして来るカップル来るカップルポッキーゲームを始めるんだ、お前らここ外だぞ、羞恥心はないのか全く。 いや、誰がやり始めたかわからんが自分達だけがやってるわけじゃないとか負けられないとかそういう心理でやってるのかもしれない。 こっちとしては軽く営業妨害で訴えたい気分だ、一般の客が来ないだろ…… 「おまけに……」 横を見ると顔を真っ赤にして目の前でポッキーゲームで濃密な空気を出しているカップルを注視しているレティがいる。 小声で羨ましいわねぇとか言っている気がするが気のせいにしたい。 「しかし……今日は本当にカップルが多い……何か裏があるような気がしてならん」 まさか、な。 と思っていると空から新たな客……いや迷惑な奴が降りてきた。 「こんにちはー文々。新聞で「新聞ならいらないから帰れ」……最近酷くないですか? 」 自分の胸に手を当てて考えてみろと言ったら触ってみます?とか言い出した、達が悪い。 「しかし今は特に何があった、というのはないはずだが」 「あぁ、いえ今こんな感じで売り上げに貢献してあげてますのでお礼なんか貰いたいなーみたいな」 そして号外を渡された、何時の間にかレティが「戻ってきた」ようで後ろから内容を見ているのがわかる。 どれどれ………おい、訴えていいかこの烏天狗。 「おい、なんでポッキーおまけにつけただけでこんな恥ずかしイベントみたいな事おっぱじめた挙句、家を巻き込むんだ」 内容を見て愕然とした俺は号外を烏天狗に叩きつけるように渡す。 『今日は外の世界曰く、ポッキーの日だそうです。外の世界で作られる棒状のお菓子ポッキーをカップルで端と端から食べ合い、愛を深めるそうです。 さて、幻想郷の数多のカップルさん、ここはお互いの愛を世に見せつけるチャンスだと思いませんか?ポッキーゲームで幻想郷ナンバー1カップルとして胸を張りたくないですか? なんと今日限定で冬のカップルこと○○さんのアイス屋でアイスを頼むとポッキーがおまけしてもらえるとの事、つまりチャンス到来です。さぁ、レッツポッキーゲーム!』 なんでこうなった、どうしてこうなった。 ていうかなんでこんなのであいつらは参加というか店に来るんだ、自分たちの家でポッキー買ってやってくれ。 「いやぁなんかこう、テンションが上がっちゃいまして」 「お前、次の宴会の時覚えておけよ……で、レティさん、そのポッキーは何かな?」 気がつくと真っ赤な顔で期待の眼差しでこちらを見るレティ。 言いたい事はわかる、わかるけど、いや、その、ね? 「おーこれはいい写真が撮れそうです」 いい笑顔でカメラを構える烏天狗、未だイチャつくカップル、当てられてしまったレティ、さすがの俺も限界だった。 「………今日はもう店じまいだああああああああああああああああああああああ!!!」 大空に向けて高らかに俺は叫んだ、ちょっとだけ泣きたかった。 「まったく、あんなに怒らなくても」 「いやなぁ、耐えられなかったんだよ、色々と」 縁側でぐったりと横になる。 本気で店じまいにして烏天狗諸々を追いだした。 ちょっと在庫に悩んだのは内緒だ、まぁ処理できない数ではないが。 ともあれ、だ今日はこの後どうすか、と思いながらレティの方を向くとその手にはやはりポッキーの箱。 何だかちゅっとだけ見ているだけで嫌になりそうだ、あの箱。 「ねぇ、○○」 「ん?」 レティが少しだけ頬を染めて尋ねてきた。 「今なら誰も、見ていないわよ?」 「うっ……」 見透かされている。 別にするのが嫌なわけではないことを。 レティが箱からポッキーを一本取り出した。 「そうね……○○、私のこの他のカップルへの羨望と嫉妬を消して」 そう言って彼女はポッキーを咥えた。 ……俺は立ち上がって彼女の肩を正面から抱いた。 そしてレティが咥えているポッキーを咥えて……一気に彼女の咥えている部分の少し前まで食べる。 「……」 期待の眼差しは終わらない。 それどころかさらに強くこの先を求めてきていた。 そしてその期待に俺は答える為に彼女との距離を零にした。 「んっ……」 互いにポッキーを食べさせ合いながら舌と舌が絡み合った。 くぐもった彼女の息と、赤く染まった彼女の頬が俺の理性を削ぎ取っていく。 たまらず俺は彼女をソファーに押し倒して濃密な口付けを続けた。 「んんっ、んちゅ、ん、ん……」 気がつけば砕かれて混ざり合ったポッキーは全て彼女の口に移していた。 そして完全に彼女が飲みこんだのを確認して俺はレティから口を離した。 互いに少し息を整えるのに時間がかかったのは仕方がない事だった。 「これで、満足して貰えたろうか?」 「駄目、まだ駄目、そんな事言えないくらいに、もっと」 再びレティがポッキーを咥えた。 既に止められるはずがなく、再び俺もポッキーの端を咥え、そして食べ始める。 いったいこの後どれ程やるのだろうか、と自分の理性はどこまで砕かれるのか、と思いながら。 Megalith 2011/11/15 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「今年はお役目、無かったわね」 「まぁそれでもいいと思うよ、少なくともこうしていられるわけだし」 今日はクリスマス、本来ならば幻想郷に住まう者達の為にという『名目』でホワイトクリスマスを演出するのだが…… どうやら幻想郷の気まぐれな神は今年は自らの手でもってその演出を先にしてくれたようだ。 世は既に銀世界、自分達が何もしなくてもホワイトクリスマスは完成されていた。 「さて、どうしたものか」 一応店は開店中という事にしてある、が、客がこの状態で来るのかは甚だ疑問だ。 まぁ開店休業中でも問題あるまい、どうせ人は来ない。 「というわけで今日はどうするかレティ」 「そうね……久しぶりにケーキを作ってみようかしら」 そいつはいい、と振り向くと既に家庭用のエプロンをつけていた、もう開店休業中にしろと言っているようなものである。 とりあえず御用の方は叫んでくれとでも看板を置いておくとしよう。 「二人で作るか」 「いいの?」 「何、こんな日だしな……どいつも家か里でのんびりだろうよ」 俺も店用から家用のエプロンに付け替える。 「そうね……そうであると、いいわね」 微笑を浮かべ心なしか先ほどよりも機嫌がよくなったように思えるレティの後を追い、 さて、ケーキの作り方とはどんなもんだったかと作り方を必死に思い出している自分がいた。 「スポンジはまぁこんなもんか」 「そうね、もう少しでクリームも終わるわよ」 二人で立つには多少手狭な台所での調理。 改築も検討したのだがレティはこのままでいい、と言ってきたのでずっとこの状態。 もう少し広いほうがいいのではないかと言ってみたが 「こうして触れ合うか触れ合わないかが丁度いいわ、二人で並んで台所に立つのなら、ね」 そう言われては俺には返しようがなかった。 確かにお互いが触れ合うか否かの距離は心地よさを感じる。 二人きりの家で二人きりで家事をする、その実感を特に持たせてくれる。 ……何を考えてるんだかね、俺は。 「?どうかした?」 不意にレティに顔を見られ、なんでもない、と後ずさり。 しかしそれがよくなかった。 「あっ、まずっ!?」 「えっ?きゃっ!?」 足が絡まってしまい倒れそうになるのを堪えようとして逆に失敗してレティ側に倒れる形になってしまう。 当然レティは反応できず、俺に倒されるような形になる、危うくその手から離れたボウルが落ちそうになるがなんとかキャッチする。 しかし倒れるのはなんともできず、片手にボウルを持ったまま倒れてしまった。 「……」 「……」 そして俺は倒れたレティの上に倒れた、倒れてしまった。 互いの距離はほぼ0に等しい、なんとか押し潰さないようにボウルを持ってない手を床に立てられただけ奇跡である。 それでも互いの顔から目を背けることができなかった。 「……ね、ねぇ」 「な、なんだ?」 真っ赤な顔をしてレティが尋ねてくる。 「クリーム、できたはずだから……味見がしたいの」 「そ、そうか……じゃあ何か取るものを……」 しかし彼女はそれを許さなかった。 ボウルを床に置かせて持っていた手を掴んだ。 「ここに、あるじゃない」 彼女の手に誘導されるがまま人差し指にクリームをつけられた。 そして彼女はその俺の人差し指を自分の正面に持ってきて……口に含んだ。 「んっ……ちゅっ……」 「うっ……いや、レティ、ちょっと待てって!」 茶目っ気に溢れた瞳でこちらを一瞥すると目を閉じてそのまま俺の指を舐め始めた。 否が応にも彼女に舐められている指に感覚がいってしまう、彼女の舌を感じてしまう。 丁寧に楽しんでいるかのように動く彼女の舐め方に俺の頭が真っ白になっていくのがわかる。 こんな状況で何も考えるなとか何も感じるなというのがどだい無理な話だ。 「んっ……うん、いい出来ね」 ようやく開放された指の事なんて既に頭から消えていた。 ただただ吸い寄せられるように、彼女に口付けをしていた…… 「……」 「……」 あの後きっちりと意識を回復させた頃には夕方になっていた。 危うくクリームを台無しにしてしまうところだったが何とか大丈夫で、無事定番のいちごショートのクリスマスケーキは完成。 料理もお互い真っ赤になりながら無言で揃え、こうしてテーブルを挟んで夕食の準備を終えた。 しかし何も口に出せないのは仕方がないと思うんだ…… 「……ごめんなさい、ちょっと、我慢できなかったわ」 「……俺も悪い、俺が我慢できていれば」 レティが首を振った。 「いいの、誘ったのは私。だからあなたは悪くないわ、むしろ我慢されたら私、どうしてた事か」 なんとも怖いことをいってくるがおかげで苦笑して普通の空気に戻すことが出来た、こういう所も適わん。 シャンパンをお互いのグラスに入れて互いにそのグラスを持つ。 「メリークリスマスレティ」 「えぇ、メリークリスマス、○○」 キンッとグラスを合わせて鳴らし、二人だけのクリスマスディナーが始まった。 「なんというか、今年もこんな終わり方か」 「あら?もっと刺激が必要?」 互いに向かい合ってベッドの中に入る。 今年も二人でこうして抱き合いながらクリスマスは終わる。 変わり様がない、いや、変えてはいけないそんな終わり。 自然と彼女を抱き締めていた。 「んっ…暖かいわよねやっぱり」 「そうだな……なんとも、心地がいい」 ここにある彼女の温もり、それが感じられるだけで心地いい。 彼女がぎゅっと俺の服を握ったのを感じて先ほどよりも少し強く抱き締める。 見上げる彼女に軽く口付けをして互いに眠りに入る。 夢の中でもお互いの夢を見るであろう、と思いながら俺の意識は彼女の温もりの中へ消えていった。 Megalith 2011/12/31 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「今年は何がいいかしら・・・・・・」 迫る2月14日こそ今の私の一番の悩み。 彼に心からのチョコレートを渡す日、それはいい。 2年前はチョコレートケーキ、前年はノーマルなハート型のチョコレート、前の年はおまけに兎化までさせられたけど気のせいにしておく。 今年はどうやって送ろうか、そればかりが頭の中を占めていた。 バレンタインフェアと彼が当日サービスをすると定めた、つまりその日忘れてはいない。 自惚れた話だけどつまりそれは彼が私からのチョコを待っていてくれている、という事になる。 彼は全くその辺のことを話題にしない、期待してくれているからだと思う。 それがプレッシャーになるか、と聞かれればそれはない、むしろ嬉しいくらい。 「けれど、どういう風にって決まってないのが厄介な話よね・・・・・・」 こういう時世間の情報が欲しいけど生憎中々そうはいかない。 人里は行き辛いし、幽香はこういう事は全くあてにならないし・・・・・・ 「・・・・・・こういう時あいつがいれば」 「呼ばれて飛び出てなんとやらー!こんにちはー!ってね」 ・・・・・・何故か庭のほうから声が聞こえたけど気のせいにしておきましょう。 はぁっ、どうしたものかしら。 「夫婦揃ってこういう無視はどうかと思うわ」 「はぁっ・・・・・・お茶?紅茶?○○のようには出せないわよ」 「紅茶で。お邪魔しますわ」 一応きちんと靴を脱いで彼の困った友人の八雲紫が縁側から上がってきた。 いったい何時の間に、とは思うけど悩みに没頭してて気配を感じなかった私の落ち度なので聞かないことにする。 「はいこれ」 「?これは・・・・・・バレンタイン特集?」 八雲紫から渡されたのは外の世界の雑誌だった。 なるほど、これならば何かいいアイディアが載っているかもしれない。 「それで、用向きは何?」 「人の親切に対してそれはないんじゃないかしら・・・・・・?」 何いってんのよ、これでも優しいほうよ?と返すと八雲紫の苦笑が深くなった、いつもの自分の行動を顧みなさいよね。 しかし・・・・・なるほど、外の世界は凄いわね、こんなに色々な物があって方法もあるんだから。 「○○もこうして色々と調べてたのを思い出すわ」 「あら、ホワイトデーの事?」 そう、と八雲紫が答えた。 そういえば2年前はかなり悩んでくれていたようだけど・・・・・・彼に今の自分のような助け舟を出してくれたわけね。 「本当に似たもの夫婦よ、あなた達は」 「・・・・・・そうかもしれないわね」 お互いの事を解り合おうとした結果がそうなっているのだと思うけど、と心の中で返しておく。 こうして自分のように彼も悩んでいたのだろう、と思うと自然と笑みが零れてしまいそうになる。 そんな折、これならできそう、というものが見つかった。 「これ借りるわよ、それとこの材料、仕入れてくれないかしら」 「どれどれ・・・・・・なるほど、わかったわ。それとこれ、○○に渡しておいて」 頭上に開いたスキマから渡されたのは包装された箱。 これってもしかして・・・・・・ 「義理チョコ、あなたから渡しておいてくれると何事も無く渡せそうだしね」 「普段のあなたからとは思えない発言ね」 「本当は手渡ししたいけどねぇ、今年は波風立てないでおくわ、今年は」 つまり来年から立てるのか、注意しないといけないわね。 とはいえ、乗れる所は乗ってしまおうとは思うけど、慌てる彼なんてそう見れないだろうし。 「さて、私も自分の恋人にあげる用意しておかないと」 「あら、そっちだけ作ってないの?」 「やっぱり本命は凝りたいのよ、別に○○の物が手抜きってわけじゃないけどね」 と言って開いたスキマに消えていってしまった。 再び八雲紫から渡された箱を見る、包装は中々に立派な物に見える。 義理は義理でも特別な家族への義理チョコ、それならばこうもなる、かしらね。 彼はこれを受け取った時どんな微妙な顔をするか楽しみね、と思いながら自分が出来る準備を始めるべくキッチンへと向かった。 「ふぅ、しばらくカップル客は見たくないな」 バレンタインフェアなんぞするんじゃなかった、人妖問わず熱々な恋愛模様を見せ付けてきやがる。 レティが今日手伝いをしていたら当てられてしまっていたかもしれないほどの光景はしばらくご遠慮願いたいものだ。 とはいえこの手の行事が幻想郷でも浸透したということはアイス屋としては働き時なわけだが。 「・・・・・・まぁ、バレンタインを待っていたのはそういう事だけではないが」 仕事を終えて戻るとレティが椅子に座って何かを持って待っていてくれた。 俺に気付くと少し照れくさそうに頬を染めて俯いた。 「はい、どうぞ」 「あぁ、ありがとう」 渡された綺麗な包装に包まれた小さな四角い箱。 出来うる限り丁寧に包装を解いていき、箱を上げると棒状のチョコが入っていた。 これは、どっかで見たことあるな・・・・・・確か・・・・・・ 「今回は外の世界の物に挑戦してみたの」 「あぁ、そうか・・・・・・道理で見覚えが」 ポッキーとは違う正真正銘のチョコだけの棒。 一つ摘んで見ると中にチョコ以外の何かが入っているのがわかった。 果物系だろうか? 「食べても、いいか?」 「・・・・・・どうぞ」 緊張した面持ちでこちらを見上げるレティを見つつ、摘んだチョコを食べてみる。 口に広がったのはチョコの味と甘いオレンジの味・・・・・・あぁ、なるほど、オレンジピールチョコか。 「ど、どう?初めての事だったけど味見して大丈夫だと思ったんだけど」 俺が食べ終わると不安そうな表情を浮かべるレティ。 俺は答える代わりに彼女を抱き締めた。 「凄く美味しいよ」 「よかった・・・・・・ねぇ?次のからは私が食べさせてあげる」 えっ?と顔を合わせようとした時には手にあったチョコの箱はレティに奪われていた。 この流れ、凄く既知感を覚えるんだが・・・・・・ 「んっ」 レティは箱からチョコを一つ取り出して口で咥えて俺を見た。 それはあれか、何時ぞやのポッキーの時のようにしろ、という事か? 顔を上げて少し頬を赤くしたレティの行動に俺は念の為周囲を見る。 自分の家なのに周囲を見なきゃいけないのが幻想郷での辛さだ。 「・・・・・・よし」 俺は咥えられたチョコの反対側から少しずつ食べ始めていく。 そして彼女との距離が零に近くなるかどうかでレティが思わぬ行動に出た。 「!?」 「ちゅっ、ん・・・」 向こうからチョコを押し付けるようにしてキスをしてきたのだ。 少しだけ残ったチョコは当然俺の口の中、おまけにそれをしっかりと受け取らせるように舌も入ってくる。 ここまで積極的なレティは中々見れない、何かがあったのだろう、とは思うが彼女の求めにしっかりと応える。 「ちゅっ、ん、ん、うむっ・・・」 「むっ、今日は、激しい、ん、だな」 口を離すとなぜかレティが若干不満そうな顔をして離れ、チョコをテーブルに置いて寝室へ入っていってしまった。 何かまずかったか、と思う間も無く彼女は戻ってきた、が、その手には2つ小さな箱があった、あ、嫌な予感。 「これ、八雲紫や幽香からよ」 「なんで今年に限って奴らから義理チョコが・・・・・・」 初めての年もその次の年も渡してこなかったろうに・・・・・・なんだって今回は。 ていうかレティに渡したのはある意味気が利いていてある意味最悪だ。 「私に直接渡してきたのは私に対するちょっとしたからかいと嫌味がありそうだけど・・・・・・これ、今日は駄目だから」 「・・・・・・言いたいことはよくわかった、しかしなぁレティ」 テーブルの上のチョコを再び摘んで彼女に渡す。 「君のチョコだけで今日の分は満足だ」 俯いた彼女の表情は見えない。 「・・・・・・そう言ってくれると思った」 笑顔でぎゅっとこっちに抱きついてくるレティ。 今までの雰囲気は一瞬にして消えていた、これ謀られたな。 再びチョコを咥えてこちらを見上げてくるレティの目は全部こうして食べると宣告していた。 何時ぞやの日よりも積極的なレティを視覚でも触覚でも堪能できるのはいいが・・・・・・まったく、適わんなぁ・・・・・・ 俺は観念して再び反対側のチョコを咥えるのであった。 ちなみに八雲紫や幽香のチョコを食べていいと言われたのは三日後だった。 二人に感想を聞かれたのは次の日だった、危なかった・・・・・・ Megalith 2012/02/17 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「○○は何時結婚するのよ」 「あ?」 珍しく店側の客として来ている風見幽香の唐突の言葉からこの日は始まった。 いきなり何を言い出すんだこいつは、という目をしてやったが向こうは素知らぬ顔である、いい根性してるな本当に。 レティが丁度出かけているのは本当に幸いだった、いたらたまったものではない。 「そうよねぇ……婚約指輪送って、さらには恋人と同じ妖怪になって、それでまだ?って感じよね」 同じく客として来ている天人が乗っかってくる。 ってまて、まだ一月も経ってないぞ俺が妖怪になってから。 「結婚報告と同じだと信じてたのに裏切られました」 なんで攻めるような目で俺を見るんだ稗田阿求。 屋敷に二人で行ったのは幻想郷絵巻についてだけしか本当に考えてなかったわ。 「好き放題言うな、こっちにはこっちの予定があるんだよ」 「とか何とか言って言いだせないんじゃないの」 おいこらそこの蛍、家の地下に放り込むぞ。 「いやいや、実は既に日和決めてるって事かもしれないよ?」 「そ、そうなんですか!?」 そこの土蜘蛛、純粋なつるべ落としに何言ってるか。 はぁっ、と溜め息が自然と出てしまう。 やはり種族とかなんとかあっても他人の色恋には女ってのは敏感って事か。 しかし幽香め、こんなタイミングでいらん火種投げやがって、ここに烏天狗がいなくてよかった。 「それで真偽の程は如何なんでしょうか!?結婚式は是非守矢神社で!」 「やめい、そんな興奮した顔で近づいて来るな」 ずいっと期待の表情を真っ赤な顔で詰め寄ってくる守矢のお嬢さんを手で制する。 ったく、だがここまで情報が漏れてないって事はあいつらは上手くやってくれてるって事か。 後は…… 「俺次第、か」 「?何か言った?」 「何も………………って、風見幽香、何堂々と俺の横でアイス2杯目取ろうとしてんだお前は……ちゃんと金払って俺に注文しろ」 「ちっ」 レティ、お前の友人は本当に性質悪いな…… ってこら、だから取ろうとすんな金を先に払え。 この後お嬢さん方にとにかく詰め寄られたがのらりくらりと答えをはぐらかせてもらった。 ・・・・・・・・・・・・さすがに言えるか。 「…………ふぅ」 お風呂から上がって彼を縁側で見つけると溜め息をついて月を見ていた。 どうやらまた何か考えていたり悩んでいるみたい。 何年も一緒の時を過ごしていれば、彼をずっと見ていれば、このくらい直ぐにわかってしまう。 この場合私が聞くと二通りの答えが返ってくる。私に相談してくれるか、自分だけで解決しようとするか。 彼は結構頑固なところがある、後者だったら聞き出すのは無理でしょうね、と思いながら彼の隣に座る。 彼は無言でグラスに麦茶を入れて私に手渡した、となると後者、かしら。 「なぁレティ……あぁ…・・・いや………………なんでもない…………」 「わかってるわ」 彼は苦々しい顔で頷いた。 何故相談できないのかわからないけど、それはきっと私が関係していることなのだろうというのは予想できた。 良く冷えた麦茶を一口飲み、私は彼に寄り添った。 彼は少し驚いたがやがて私の肩に手を置いて抱き寄せてくれた。 「……すまん、また気を使わせてしまった」 「いいの、何を悩んでるかわからないけどきっと大事な事。それに・・・・・・必ずいつかは話してくれるのでしょ?」 彼は頬を掻きながら小声で本当に敵わないと呟いた。 でもそれはお互い様。 私だって彼に内緒でどうしても自分で解決しないといけない時はある。 それは時にはバレンタインデーだったり、あの冬の、彼の決意への答えだったり。 そんな思いつめている私をわかるのか彼はそっと抱き締めてくれたり色々としてくれる。 彼の事を私がわかるように私の事も○○はわかってしまう。 だからお互い様、お互いの事はどうしてもわかってしまう。 だってお互いに愛し合っているのだから…… 「うーむ……」 「……」 「うぅぅぅぅぅむ……」 「……」 「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅむ……………………よし、これにしよう、店主、これにしてくれ」 「了解、1時間ってところかな」 何がだ、と聞こうと思ったがおそらく悩んでいた時間だろう。 そんなに悩んでいたのかと思ったが森近店主が言うのだからおそらく間違いないだろう。 店を休みにしてレティに出かけてくると言って向かった先は香霖堂。 八雲家にいる時には時折訳も紫に拉致されたのだが久々に来てもほとんどここは変わっていなかった。 入ってみればいつも通り何かの本を読んでいる森近霖之助の姿。 どこから拾ってくるのか誰かが持ってくるのかわからない俺の世界にあった物、もしくは本当にどこの世界から来たのかわからない品物達。 初めて来た時となんら変わらないこの光景は俺を安心させるのには十分だった。 久しぶりの挨拶を交わし、今探している『とある物』を見せてもらい、悩みに悩んでいた。 そして今なんとかこれだ、という物を決めて森近店主に箱に入れてもらった。 「それにしても……遂にか。文々。新聞で何度か君たちの記事を見て元気そうだとは思ったけど」 「あの烏天狗は本当に困ったもんだ……今回の件はまだ隠し通せているが何時気付かれるか」 自然とこの『物』についての話と今まで会わなかった間の話になる。 もちろん彼はこの『物』に関して、どういった意味のある品かわかっている。 送る相手も、その意味もわかっている。 「君が人をやめたと知った時からいつかは来るだろう、と半ば確信みたいなものはあったよ。 君ならここに来て、その類を買うだろう、というものをね」 「買う時はここで、というのは決めていたよ。 男としては二度と味わえない緊張と苦悩を十分に堪能させてもらった、とでも言っておこう」 小さな箱二つに分けられて目の前に置かれる。 これで一つ、後一つが終われば後は俺のこの緊張は一つの山を越えてくれる。 しかし、あー……考えただけでも頭が真っ白になる。 一度似た事をやっているがこうしてまた再びするとなるとどうにも何を言えばいいのかわからなくなる。 それは彼女を待たせ続けているから故に、というのが尤もな理由。 「百面相になってるよ?」 「っと、いかんいかん。どうにも最近考え過ぎて顔に出るな」 頬を少し叩き、一度考えを仕舞っておく。 森近店主は苦笑していた。 「いやはや、まさか君のそんな顔が見れるとは思わなかったよ」 楽しげに笑う店主に放っておけ、と返しておく。 とはいえ確かに、昔を考えればそりゃそうか、とも思う。 「来てくれるか?」 「招待状がちゃんと届いてくれればね」 嫌な返しだ、と心の中で苦笑する。 店主に背を向け、手を上げて帰る意思を伝える。 するとスキマが目の前に開いてもう一つの件の責任者が現れた。 「はぁい、ごめんあそばせ」 「おやいらっしゃい、本来なら入口からちゃんと入って欲しいものだけど」 ごめんなさいね、と八雲紫が形式的に謝罪する。 顔はもちろんこちらに向いたまま。言いたい事は全て分かっている。 森近店主もこいつが俺に用があるのを空気で判断したようだ。 「出来たわよ、ここにいるって事はどうやらこれで準備は整った、と見ていいのかしら?」 「あぁ、ありがとよ、へべれけ鬼達にも礼を言っておいてくれ」 そう、これでもう俺は踏み止まれない。 いや、違うな。進む事が出来る、というべきだ。 後は俺が彼女に告げるだけ。そう、単純だけど一番難しい事。 「承りましたわ。それにしても…………さすがにここまでしたのは見た事がないわね」 「そりゃそうだ。だからお前はやってくれた、だろ?」 「そうね、面白そうだからっていうのが一つ、そして何より……見たかったから」 クスリと笑う八雲紫。 何を、とは聞かない。きっとお互い立場が逆ならば俺も同じ事を言うだろうから。 思えば、本当に長かった。 八雲家から出てまさかこんな人生になるとは思いもしなかった。 こいつのおかげで俺は、自分を必要としてくれる者を、自分が必要だと思う者を、手に入れる事が出来た。 「……紫、ありがとうな」 初めて名前だけを呼ぶ。 いつもはこいつとかおまえとかでしか呼ばなかった。 向こうはそれをどう思っていたのかまではわからない。 だが今だけは彼女の名前で礼を言いたかった。 紫は珍しく驚いた表情をした後、自分の後ろにスキマを開けた。 「こちらこそ。いつかは、と思っていた事が叶ったわ。 ○○、これからはたまには私をそう呼んで。たまには家族だった事を思い出させて」 そう言って紫はスキマの中へと消えていった。 残されたのは頭を下げた俺と、今まで黙って俺達を見ていてくれた森近店主。 頭を上げた俺は最初通り彼に手を上げて帰る意思を伝える。 「うん、それじゃあまた。楽しみに準備させてもらうよ」 「あぁ、そうしてくれ」 外へ出る。春が迫りつつある幻想郷。 冬の終わりは近い、だがその前にやっておかなくてはならない。 「桜が咲き乱れる季節も、蝉が鳴き続ける暑い季節も、黄金の銀杏を眺める季節も、確かに美しい。 だが俺達にとっては銀色と白い世界の季節こそが一番なんだよな、なにせその季節こそ・・・」 俺達の季節だからな。 「ただいま」 「お帰り」 帰ってくるとレティは既に夕飯の支度をしていた。 俺の顔を見るとにこりと笑い、解決したようね、と言って来た。 「あぁ、随分と時間をかけてしまったが」 「とりあえずおめでとう、かしら?どんな事だったのか食事の時にでも聞かせてね?」 もしかしてこの袋の中身まで知ってるんじゃないかとすら思ったがどうやらそうではなさそうだ。 心の中で安堵する、一世一代の言葉を無かったことにされるのは堪える。 尤も、その辺は彼女が知っていてわざと知らない振りをしている可能性も無いわけでは無いのだが。 「もう少しでできるわ」 「あぁ、楽しみに待たせてもらおうかな」 彼女に渡す物を見る。 あー・・・・・・とてつもなく緊張する。 晩酌の時に渡すべきか、と思い部屋に置いてくることにした。 問題は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・未だに言葉が思いつかない事だ。 そういうのに詳しそうな奴にでも聞いておけばよかったぜ・・・・・・ 「あー・・・・・・やはり酔えないな、さすがに」 普段は開けない強めの奴を選んでみたがやはり酔えない。 隣に置いた箱をみるが苦笑しかできないのも最早仕方ない話だ・ 酔いに任せてみたかったのが元々強かったのと妖怪化したせいか全く効果が無い。 食事の時も少し心配そうにされて晩酌の時に話すとしたのだが、あぁまったく、情けない話だ。 「さて、それじゃあ話して頂戴な?」 「あー・・・・・・まぁ、その、なんだろうな」 彼女が遂に縁側に来て俺の隣に座った。 ままならない、が、ここで逃げるのはレティに失礼であり、男じゃない。 「解決したのにまた何か別に考えることができたのかしら?」 「まぁ、一番重要な事を悩んでたってところだな、結局どうにもならなそうだ」 ははは、と苦笑をする。 彼女のお猪口に酒を入れると彼女はちょびちょびと飲み始めた。 「珍しくかなり強いのを出してきたみたいだけど・・・・・・」 「残念ながら酒の力には頼れなかったみたいだ」 そう、とレティは正面を向いた。 俺もそれに倣って彼女の向いている先を見る。 その視線の先は夜空、今宵は満月が俺達を照らしていた。 どのくらいそれを二人で見ていたか、俺は意を決して置いておいた箱を取り、一度深呼吸をして開けた。 彼女はこちらに気付き、とても驚いた顔をしたがそれは一瞬で、直ぐに笑顔になってくれた。 そっと彼女の指にはめられている婚約指輪に手を伸ばす。 何年、彼女を待たせてしまった事か。 「随分と、待たせてしまった」 「そうでもないわ、私が待たせていた時間を考えれば、このくらい」 自然とお互い向き合っていた。 そして彼女の目尻には涙が溜まり始めていた。 あぁ、本当に、待たせてしまった。 「ずっと悩んでいた、何て言って渡せばいいのか、どうすればいいのか。 だが全く浮かばなかったんだ、すまない、気の利いた事は言えそうに無い」 「十分よ、あなたらしい言葉を頂戴?」 彼女の右手を、薬指を、手に取る。 結婚指輪を彼女の右手薬指の爪辺りにまではめ、 「レティ、俺と結婚してくれ」 彼女の右手薬指にしっかりとはめた。 「はい、私を妻にしてください。これからもずっと一緒にいさせてください」 レティが涙を流しながら俺を抱き締めた。 俺はレティを抱き締め返し、互いの顔を見、深く口付けを交わした。 俺はこの夜を決して忘れることは無いだろう。 後は・・・・・・最後の締めだ。 「しかしまた大層な物を用意させたようだね」 「なに、先人は後人に残すものだ、道標となればそれでいい」 妖怪の山と家の間に新しい建物ができた。 八雲紫に頼み、鬼達の協力によってできた教会だ。 なぜ、そんな物を作ってもらったのか、教会ですることなどこの幻想郷において一つしかあるまい。 俺達のように人と妖怪が互いを思い、こうなる事はこの先いくらでも起きることだろう。 ならば彼ら彼女らを祝福する場所があってもいいじゃないか、という事で建ててもらった。 彼ら彼女らの恋物語が決して悲恋で終わらせない為に、彼ら彼女らの幸せを願える為に、その先人となろう。 互いを愛する者達への、道標となろう。 「しかし、中々似合うね」 「どうも着慣れないが・・・・・・まぁそんなもんか」 森近店主のほうが似合いそうな気がするんだが、まぁ今回ばかりはそうもいってられんしな。 タキシードなんていつぞやの旅行の時以来だ。 「○○、レティの準備ができたわよ」 「あぁ、そう・・・・・・」 か、と八雲紫に答えながら振り向こうとして時が止まった。 「ではその時までごゆっくり~」 「それじゃまた後で」 森近店主と八雲紫の言葉が聞こえた気がしたが俺にはよくわからなかった。 二人が出て行った事すら我に返った時にようやく気付いたのだから。 「変じゃない?」 「・・・・・・とても綺麗だ、見惚れてしまった」 今まで色んな彼女の姿を見てきた。どれもとても綺麗だった、可愛かった。 しかし、今日だけしか見られないであろうこの姿に俺はどこまでも見惚れるしかなかった。 彼女の純白のウェディングドレス姿は、それ程に、清楚で、美しかった。 「何だか凄く自分にはもったいないと思えてきた」 「あら、私の相手はあなたしかいないのに?」 彼女が笑顔で俺の手を握る。 薄い化粧をした彼女の顔が俺の眼前にあり、どうにもこうにも参ったとしか言い様が無かった。 「これでもやっぱり不安だったのよ?大丈夫かどうか」 「むしろ今この時が永遠であればいいとか思いもするな」 それは困るわね、と彼女の返し。 「だって、ずっとあなたと一緒なのだから。 この先も続く長い時間を、景色の流れを、変わり行く物全てを、あなたの隣で楽しみたいじゃない?」 あぁ、まったく・・・・・・レティには本当に敵わないなぁ。 思わず俺は彼女を抱き締めてしまった。 彼女は一瞬驚いたが直ぐに微笑を浮かべて俺を抱き締め返した。 八雲紫が戻ってくるまで俺達はそうしていた、今この時を忘れないように。 一歩、二人で足を進める。 「なんでうちでやらないのよ・・・・・・まぁおめでとうとは言っておくわ」 博麗の巫女の言葉に心の中で苦笑した。 また一歩、足を進める。 「これで幻想郷絵巻が更新できます、ふふふ、冬のカップルから冬の夫婦に昇格ですね」 碑田阿求の言葉に後でちゃんと確認したほうがいいな、と思っておく。 さらに一歩、足を進める。 「・・・・・・お似合いよ、凄く。少しだけ妬けちゃうわね」 風見幽香の言葉にありがとう、と心の中で礼をする。 その場所に着く最後の一歩を進める。 「幸せになりなさい、私が羨む程に、いつまでも、ずっと」 八雲紫の言葉に少しだけ涙が出かけたのを我慢した。 「それではこれより、○○とレティ・ホワイトロックの婚儀をを始めます、一同は着席をお願いします」 閻魔の言葉で招待した連中が着席した。 さすが分屋だ、こういう時だけは役に立つ。 俺はベールで顔が見えないがレティのほうを一度見、そして閻魔のほうへ顔を向き直した。 「新郎○○、汝は新婦レティ・ホワイトロックが何時如何なる時も、病めるときも、健やかなる時も、愛を持って生涯支えあう事を誓いますか?」 「誓います」 「新婦レティ・ホワイトロック、汝は新郎○○が何時如何なる時も、病めるときも、健やかなる時も、愛を持って生涯支えあう事を誓いますか?」 「誓います」 「それでは互いに指輪の交換を」 昨日彼女につけた結婚指輪は今閻魔の手にある。 それを取り、レティも用意していたもう一つの結婚指輪を取る。 彼女の顔を一度見て、互いに互いの左手薬指に指輪をはめる。 「次に、誓いのキスを」 彼女のベールをあげる。 言葉はことここにきてはもう告げるものは無い。 レティが目を閉じ顔を上げた、その口紅を付けた唇に吸い込まれそうな錯覚すら覚えた。 心の中では緊張でいっぱいいっぱいになりながらも彼女の肩を抱いてそっと彼女の唇にキスをした。 「四季映姫・ヤマザナドゥの名の下に、ここに二人の結婚を認めます。 参列者の方々は二人に拍手をお願いします」 皆の祝福の拍手を受けながら、こうして俺達は夫婦になった。 これで何かが変わるとか、そういうのはおそらくないだろう。 しかし、俺達にとって今日は忘れられない一日となっただろう。 「レティ、何時までも愛してる」 「えぇ、私もよ。何時までも、あなたを愛してる」 祝福の拍手を聞きながら俺達は互いの手を取り、幸せを噛み締めるのであった。 Megalith 2012/05/21 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「あの時は大変だったものだ、紫様と○○が取っ組み合いになったからなぁ…… 私と橙が止めようにも全く聞いてくれないし、どうしたもんかと頭を抱えたものだ」 「大変でしたよねー」 「ふふっ、見てみたかったわ」 「俺は悪くない、こいつが悪い」 「私は悪くないわ、そっちが居候らしく譲るべきだったのよ」 さて、仕事も終わり、ご飯でも食べますか、と思ったら突然の八雲紫の強襲。 そのままなし崩しに八雲家女性陣が集まり、こうして宴会となった、まぁたまにあることである。 「よくいうな、大人気無かったのはそっちだろ」 「あらぁ?そっちだと思うけど?」 こいつ、年考えろよ、と思ったら扇子で殴られかけたのでガード。 どうして幻想郷の女性ってのはこうも感が鋭いのか。 そして笑顔で行われる言葉のドッジボールを目の前のスキマとしていると唐突にその言葉を八雲藍からかけられた。 「……はぁっ……ところで二人共、新婚旅行の予定は?」 「えっ?」 「はっ?」 俺とレティは予想外な言葉に目を丸くした。 新婚旅行……えっ、完全に意識していなかったぞ。 「あら、やっぱり考えてもいなかったわね」 「あぁ……全く考えに無かった」 こうしてレティと結婚して、その幸せを噛み締めていた。 恋人、事実婚から夫婦になった、それだけといえばそれだけで特に状況が変わるというのはなかった。 ただ、なんとなくではあるが……彼女への愛おしさと彼女との繋がりはさらに強くなったような、そんな感じはある。 これが夫婦になった、という意味なのだろうか、よくわからんものだ。 「新婚旅行って何ですか?」 「新婚さんが愛を深める為に結婚して直ぐに行く旅行の事よ」 まぁ、間違っちゃいない、いないけどよ……そういう言い方はどうよ? 「旅行って言ってもなぁ……どこに行くってのがちょっと思いつかん」 「あら?外じゃダメなの?」 ……外、か。 「まぁ、な」 未練なんて既に無い。 ならば行った所で問題は無い、普通はな。 3度外の世界へ行き、全ての未練を、思い出を、俺はその3回で捨ててきた。 最早戻ることは無い、これは自分なりのけじめなのだ。 「私のときは外だったが・・・・・・幻想郷内となると難しいな・・・・・・旅行、というには」 「行こうと思えば簡単に辿りつけちゃうものねぇ・・・・・・どこかに泊まるっていうくらいが妥当かしら?」 既にレティは出かける気満々であった。 新婚、という言葉に惹かれたのか旅行なのか、ともあれ彼女がその気ならば乗らないわけにはいくまい。 しかしこの幻想郷内でそういう場所は……あ、そういえばあったな。 「地下の温泉街はどうだろうか?レティ」 前に宴会で会った地霊殿の居候から聞いた話だが地下には温泉街があって普通に泊まれる宿が結構あるそうだ。 プチ旅行と考えればそこに行くのが一番合っている様な気がする。 しばらく温泉には入っていないし、ゆっくりできるだろうしな。 「いいわねそれ、地底には一度は行こうって言ってたしね」 「そして夫婦風呂でうんぬん、かしら?」 ピーナッツを手のひらに乗せて馬鹿に向けて指で弾く、食われた、ちっ。 何言い出してんですかこのスキマは。 「紫様、それを言うのは無粋かと」 「そうですよー」 「ったく・・・・・・」 一気に酒を呷る。 とはいえ、だ、そんな状況になったら我慢出来そうにないのはここだけの話ではある。 「……………………………………それもいいかしらね」 「…………」 責任取れよ紫。 小声でそっち方面まで乗り気になりつつあるレティに心の中で目の前のスキマを恨んだ。 「確かこの辺と・・・・・・あぁ、あったあった」 地底への入り口、と書かれた洞窟。 ここから下がっていけば旧都に辿り着く、らしい。 如何せん行った事はないのでこの先がどうなっているのかはわからない。 なので道案内を頼んだのだが、さて、そろそろだろうか? 「あら、着たみたいよ」 見れば洞窟から誰かが出てきた。 地霊殿の主のペットかはたまた居候か、と思って見ればその主本人、古明地さとりがこちらに向かって来ていた。 予想外だ、まさか彼女が来るとはな・・・・・・ 「てっきり居候が来ると思ったんだがな」 「そうね、私もそう思ってたわ」 「こんにちは・・・・・・よく言いますね、からかいがいがあるのはどっちもだが、とか思ってるのに」 半分冗談だ、と思っておく。何故かさらにレティを半目で睨む古明地さとり。 何をレティが考えたのか、は予想がつくが触れないでおこう。 「まったく、この夫婦は・・・・・・とりあえずご案内します、地下の温泉街でよろしかったでしょうか?」 「あー……その前に一応挨拶を、な」 「ここに私がいるのにですか?」 「まぁ、土産もあるからな」 わかりました、と背を向け、地下へと進む古明地さとり。 さて、道中どんな風にからかってやるか、と思うとじと目で振り返ってきた。 「夫婦揃って何を言ってるんですか、もう」 レティと顔を見合し、やっぱり同じ事を考えていたのか、と二人で苦笑した。 「奴は元気か?」 「えぇ、おかげ様で」 「順調そうで何よりね」 「……ですからそういうことは考えないでください」 何をだ、というのは最早気にしない。 二人で地霊殿の主をからかいながら進むとどうやら噂の旧都に辿り着いたようだ。 見渡せば雪の降る世界の中に古き家々が建ち並び、妖怪達が賑わいを見せていた。 「……ようこそ地底へ。地霊殿主としてお二人を歓迎いたします」 こちらへ振り向き、儀礼的な一礼。 こちらも礼を返し、不図気になって天井の見えない頭上を見上げた。。 空無き世界で如何にしてこうして雪が降るのか、と。 「あいつ、相変わらずというか何というか、尻に敷かれてるねぇまったく」 「そういうことは言わぬが華、でしょ?」 地霊殿に案内してもらい、主のいい人兼居候に『あなたもできる!亭主関白のひ・み・つ 著者R.M』なる物を渡し、(当然俺は読んでいない) 主に脇腹を捻りあげられ、ペットたちになんだなんだとたかられる姿は実に面白かった。 その後、解放された居候に案内されて温泉宿に入り、そして……なぜか用意されていた二人で入るにちょうどいいサイズ、曰く夫婦風呂にレティと入っている。 ……なんか背後にあの困った友人の影が見えるような気はするがまぁ気にしないようにしよう。 「しかしなんだなぁ、空が見えないのにこうして雪が降っているのを見るのは何だか新鮮だな」 上を見上げ、振り続ける雪を見てさっきも思った事を口に出す。 一応天気というものは地底にも存在する、と地霊殿の主から聞いた。 そういうものか、と思うが俺からすれば違和感しかない。 「なんだったら、やってみる?」 「地霊殿から苦情がきそうだからやめておこう」 地獄鴉にこられたら困る。メガフレアだ!薙ぎ払え!とかされそうだ。 ……地霊殿、か。 最後に見た地霊殿の主と、その居候と、ペットたちの暖かい光景を思い返す。 なんとも幸せそうで………………なんとも羨ましい光景だった。 「私とだけじゃ不満?」 「……そんな事はもちろんないさ。ていうかよくわかったな」 「そりゃわかるわよ、だって夫婦だもの」 にこり、と寄り添ってくるレティに敵わんなぁ…と心から思う。 とはいえ、だ。 俺はレティを横から抱き寄せた。 「愛してる、レティ」 そっと、彼女の唇を奪う。 彼女の答えを聞くべくそっと直ぐに離れる。 「えぇ、私も。ずっと、ずっとあなたを愛しています」 彼女と共に二人で、もしかしたら増えるかもしれないが、今はこの新婚生活を楽しもう。 彼女との長い長い時間はまだまだ続く、その幸せを思い描きながら再び彼女と口づけを交わした。 うpろだ0013 ──────────────────────────────────────────────────────
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